情報処理学会60年のあゆみ
第1編―学会60年のあゆみ
第2章 学会活動10年間のあゆみ

本章では,創立50周年を迎えた2010年度以降現在(2020年3月末時点)に至る10年間の情報処理学会(以下,本会と記す)の運営や事業活動の成果を示す.

2.9 国際活動

本会の国際活動は,2011年度までは国際担当理事の下に国際業務委員会とIFIP委員会を置く体制であったが,2012年度以降は調査研究担当理事の所管としその下にIFIP委員会を置く体制に改められた.表2.9.1にこれら国際委員会の歴代委員長を示す.国際活動の内容は国際団体であるIFIPの会員としての活動と海外の個別協会との協力活動に分けられる.

表2.9.1 国際関係委員長

2.9.1 IFIP

IFIP(International Federation of Information Processing:情報処理国際連合)は,1960年にユネスコの支援の下で結成された情報通信技術(ICT)分野の国際組織である.全世界から40を超える国/地域の情報関連学協会が参加し,会員数の総計は50万人以上である.そもそも本会はIFIPの設立準備過程でIFIPに参加することを目的の1つとして設立された経緯があり,IFIPの設立から現在に至るまで,日本を代表する組織として参加している.

IFIP日本代表は2005年度から2013年度までは齊藤忠夫が,2014年度から2019年度までは村山優子が務めた.村山はさらに2014年にIFIPの副会長(Vice President)に就任している1)

IFIPはその傘下に13のTC(Technical Committee)と100を超えるワーキンググループを持ち,研究,標準化ならびに情報共有の活動を行っている.日本からは,2013年にセキュリティとプライバシ保護を主領域とするTC11の委員長に村山が就いたのをはじめ,多くのTCに委員が参画している.IFIPでは2~3年おきに開催されているWCC(World Computer Congress:世界コンピュータ会議)のほかTCのいくつかが国際会議を開催しており,そのうち教育分野を主領域とするTC3が運営主体であるWCCE(World Conference on Computers in Education)は2021年に広島で開催されることが内定している2)

情報処理技術者の資格を認定するIP3(International Professional Practice Partnership)は,各国のITプロフェッショナル認証制度を尊重しつつ,国際的な通用性を確保するために認証制度要件の標準化を行っているもので,2003年よりIFIPのなかのタスクフォースとして活動を開始し,2015年にはTC同様のIFIP本体事業として位置付けられた.本会も,認定情報技術者(CITP)制度の国際通用性の確保に向けて2009年より参加し,ボードメンバとして活動に参画している.CITP制度は2018年にIP3認定を取得した3)

それ以外のIFIP関連の活動の詳細については,毎年会誌にIFIP日本代表による活動報告が掲載されているので参照されたい4)

2.9.2 海外学会との協力活動

本会は以下の学協会と協定(MoU)を締結している.

米国:Association for Computing Machinery(ACM)

   The Institute of Electrical and Electronics Engineers(IEEE)

   IEEE Computer Society(IEEE-CS)

韓国:The Korean Institute of Information Scientists and Engineers(KIISE)

中国:China Computer Federation(CCF:中国計算机学会)

インド:Computer Society of India(CSI)

このうちIEEE,IEEE-CS,ACM,CSIとは正会員会費が相互に割引になる協定を結んでいる.

IEEE-CSとは,全国大会における歴代の会長(President)の招待講演を定期的に行い,本会からも先方のBoG(Board of Governors)会議に出席するなど,緊密な交流が継続的に行われている.また,後述する両学会が共催していた国際会議SAINTとそれを引き継いだCOMPSACでも,本会として活動している.さらに,IEEE-CSの2017年度次期会長(President-elect),2018年度会長(President)を務めた笠原博徳の尽力により,情報学の分野において研究発表や論文,プログラミングなどの顕著な成果をあげ,今後も発展,成果が期待される若手研究者を情報処理学会とIEEE-CSが共同で表彰する,“IPSJ/IEEE-CS Young Computer Researcher Award”が2018年に創設された.2018年の授賞式は東京で開催されたCOMPSAC2018のバンケットにおいて,また2019年の授賞式は米国マイアミ近郊において開催されたIEEE-CS Award Dinnerにおいて行われた5)

ACMとは,情報学の分野において国際的な研究による成果をあげ今後の発展および国際的な活躍が期待される若手研究者に対する情報処理学会とACMとの共同表彰として,“IPSJ/ACM Award for Early Career Contributions to Global Research”が創設された.同賞の授与は本会の全国大会で行われ,さらに受賞者はTuring賞の授与が行われるACM Award Banquetに招待される.

KIISEとは,毎年両学会の会長・副会長が相互に本会の全国大会およびKIISEの全国大会であるKSC(Korea Software Congress)に参加し講演等を行う交流が続いている.

CCFとは,同会のCEOであるZide Du氏が喜連川優会長(当時)の招きで2015年3月に第77回全国大会(京都)に参加し招待講演を行って以来関係を深め,両学会の会長・副会長が本会の全国大会およびCCFの全国大会に相当するCNCC(China National Computer Congress:中国計算机大会)に参加する交流が続いている.なお,CCFと本会の連携の強化への貢献に対して,本会の喜連川優・元会長ならびに下間芳樹・前事務局長に,2020年1月,CCF栄誉会員の称号が贈呈された.

毎年10月のCNCC,12月のKSC,3月の本会全国大会の年3回,CCF,KIISEならびに本会の3学会の会長・副会長が参集するのに合わせて定例の打合せを行い,日中韓の連携を深めている.また2018年から,3学会による活動として,CNCCにおいて日中韓合同技術フォーラム(CJK Joint Technical Forum)と題する合同セッションを日中韓からそれぞれチェアとスピーカを指名して開催している.2018年(杭州)では「スマートシティ」をテーマとし慶應義塾大学の西宏章教授が,2019年(蘇州)では「ロボティクス」をテーマとし千葉工業大学の王志東教授と大阪大学の小川浩平准教授が講演を行った.

このほか,ACS(Australian Computer Society)とは,協定関係はないものの,2018年以降,同学会の年次イベントであるReimaginationへの招待に応じて副会長らが参加し,同学会および同学会が主導しているSEARCC(South East Asia Regional Computer Confederation;本会は2007年に退会)との連携に関する協議を行っている.

2.9.3 国際会議

本会が主催・共催する国際会議には,本会が単独で主催するものと,本会と他学会の共同主催とがある.2010年1月から2019年12月までに本会が主催(sponsored)した国際会議は9回,他学会と共同主催(co-sponsoredないしtechnically co-sponsored)した国際会議はSAINTの3回ならびにCOMPSACの7回を含め37回である.詳細は学会Webの国際会議のページを参照されたい.

SAINT(IEEE/IPSJ International Symposium on Applications and the Internet)は,インターネットのアプリケーションとインフラに関する国際会議として本会とIEEE-CSが対等な立場で2001年から共催していた国際会議である.SAINTは,2008年以降,IEEE-CSがSignature Conferenceとして主催する歴史ある国際会議COMPSAC(IEEE Computer Software and Applications Conference)と同時開催(co-located with)されてきたが7),さらなる連携強化のために両会議をCOMPSACに統合し,本会は共同主催(technical co-sponsored)として財務負担のない形で関与する新たな形でスタートした.その第1回となるCOMPSAC 2013は本会協力のもと京都で開催され,またCOMPSAC 2018は東京で開催された.COMPSACは,元々はソフトウェア工学を主たる領域としていたが,SAINTの統合を経てIEEE-CSのより広い領域をカバーするよう“IEEE Computers, Software and Applications Conference”と名称を微修正した.なかでも旧SAINTが対象としていたインターネット関連の分野は引き続き重視され,同分野を中心に投稿数,参加者数ともにつねに上位に位置している.毎年,General Chair,Program Chair in Chief(PCIC),Workshop ChairをはじめOrganizing Committeeの中核に日本から多くのメンバが参画し,同会議を支えている.

SAINTならびにそれを統合した新しいCOMPSACの運営への長年の貢献に対し,IEEE-CSの元会長(President)であるCarl K. Chang博士に,2019年6月,本会の名誉会員の称号を贈呈した.

[参考文献]

1)村山優子:IFIP―情報処理国際連合―近況報告,情報処理,Vol.56, No.3, pp.288–295(2015).
2)斎藤俊則:会議レポート IFIP WCCE2017から得られたもの―そしてWCEE2021 in Hiroshimaに向けて,情報処理,Vol.58, No.11, pp.1040–1041(2017).
3)旭 寛治:特別寄稿 CITP制度のIFIP IP3認定について,平成29年度CITPフォーラム/JUASアドバンスド研究会活動報告書,pp.1–4(2018).
4)村山優子:IFIP―情報処理国際連合―近況報告,情報処理,Vol.60, No.3, pp.255–263(2019).
5)岡部寿男,湊 真一:2019年 IPSJ/IEEE-CS Young Computer Researcher Award紹介,情報処理,Vol.60, No.10, pp.1002–1004(2019).
6)岡部寿男:2019年 IPSJ/ACM Award for Early Career Contributions to Global Research紹介,情報処理,Vol.60, No.10, pp.1005–1006(2019).
7)中村素典:国際会議SAINTの運営―SAINT2011の開催に向けて,情報処理,Vol.52, No.2, pp.225–230(2011).

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