本章では,創立50周年を迎えた2010年度以降現在(2020年3月末時点)に至る10年間の情報処理学会(以下,本会と記す)の運営や事業活動の成果を示す.
本会が主催・共催する研究成果の口頭での発表大会には,全国大会,情報科学技術フォーラム(FIT)および電気・情報関連学会連合大会の3つがある.このうち全国大会は本会創立の1960年から毎年開催されている旗艦イベントである.2001年までは春と秋の年2回開催されてきたが,2002年秋から,秋の全国大会は次項に述べるFITに置き換わり,春の大会1回の開催になっている.これを機に,本会の全国大会は一般社会に向けての貢献という性格を打ち出していくことになった.表2.6.1は過去10年間の大会の開催状況および責任者を示す.各回の論文投稿数は1,000件内外,参加登録者数は2,000人内外である.2010年は学会50周年記念大会として,全国大会サテライトイベントを併設し,のべ参加人数7,150名と盛況であった.
全国大会を魅力あるものにしようという努力は絶え間なく続けられてきており,研究会の協力によるシンポジウムの企画(1995年),論文集のCD-ROM化(1996年),公開パネル討論の開催(1997年),e-Japanタウンミーティングの開催(2001年),招待講演等のインターネット配信(2001年),学生セッションの復活およびWebからの参加登録(2002年),若手IT研究者,技術者を紹介するIPSJ-ONE(2015年)など,研究者・技術者向きの企画を進めてきた.また,土曜日を入れた開催日にすることでITに関するジュニア会員からの発表を受け付けるジュニア会員特別企画(2016年),情報分野での学習成果に関する中高生情報学研究コンテスト(2018年),最先端技術を企業が紹介するランチョンセミナーセッション,国際人工知能プログラミングコンテストSamuraiCoding(詳細は2.6.4項参照)の決勝を行うなど,ジュニア会員および学生会員向けの企画も順次進めてきている.
2020年は学会60周年記念大会として「サステイナブルな情報社会」をスローガンとした特別講演や,「初音ミク ファン メイド ミニライブ IPSJ-39」などのイベント準備を進めていたが,新型コロナウイルス感染症への対策として,現地開催を急遽中止し,一般・学生セッションについては同期間にオンライン開催を行った.
若手の研究者,技術者の活躍および業績の見える化を図るため,新世代企画理事を中心に,全国大会にて「IPSJ-ONE」と題して,若手の研究者,技術者の紹介を行う企画セッションを2015年から毎年開催している.表2.6.2は「IPSJ-ONE」の企画担当および紹介された若手研究者・技術者の人数を示す.情報学全体を広く覆う優れた若手研究者をこの5年間で86名以上紹介している.
「IPSJ-ONE」では,多数の研究会がある本会の強みを活かし,多様な研究分野を垣根なく俯瞰するため,各研究会に対し,優れた研究を遂行しておりプレゼン力も高い,若手を中心とした研究者を推薦する形式で募集している.また,講演内容も,専門家のみならず,高校生,学部生,他分野の聴衆が理解しやすいよう配慮し,異分野交流など研究の発展に向けたコラボレーションや展開を作り出していく場の構築を目指している.また,講演の動画配信を積極的に進め,広くさまざまな分野へアウトリーチを図っている.
他国に比べて学会の数が多い我が国において,学会間の連合連携は大きな課題になっている.この一環として,活動分野が類似して共通の会員が多い,本会と電子情報通信学会の情報・システムソサイエティ(ISS),ヒューマンコミュニケーショングループ(HCG)との間で協力関係を強化し,情報技術に関する我が国最大の大会を目指し,2002年9月から毎年,情報科学技術フォーラム(Forum on Information Technology,略称FIT)が開催されている.また,FITの開催にともない,電気・情報関連学会連合大会は各支部で支部大会が開催されている.FITの開催状況と歴代の委員長をそれぞれ表2.6.3にまとめて示す.委員長は本会とISSが交互に務めている.FITでは我が国の情報技術の展開を加速しようと,一部査読付き論文を導入し,論文の質の保証を行うようにする(15回まで),情報技術が多様化するなか,多岐の分野のトップコンファレンスに採択された論文を著者自らが紹介する(17回から),研究会と同時開催することで,他分野との交流を推進する(17回から),等の新たな試みを進めている.また,最新の情報処理技術に関するイベント企画を,研究会提案型,現地提案型,推進委員会提案型の3本柱のもとに行っており,FITの多様かつ意欲的なプログラム編成に対しては研究会の貢献が大きい.
情報処理技術を学び,今後研究者,技術者を目指す学生への興味をかきたて,最先端の情報処理技術への利用,工夫を提示できる場を模索している.昨今の高度技能を持つエンジニアの質と量の確保がますます重要となるなか,若い世代から世界を舞台に活躍できるIT人材を育てることを目的とし,2012年度から国際人工知能プログラミングコンテスト(IPSJ International AI Programming Contest“SamurAI Coding”)を開催している.当初は単独開催であったが,2014年からは決勝戦を年度末の全国大会と一緒に開催し,成果の見える化に力を入れている.表2.6.4に開催状況を示す.
情報処理技術のグローバル化を背景に,本コンテストでは,世界各国で25歳以下のエンジニアの応募を募り世界5地域(EU-America,Asia-Pacific,JAPAN)で順次予選を開催,ゲームをテーマにしたプログラミングスキルを競い,残ったチームで決勝を行う形としている.我が国の学生だけでなく,世界各国の参加者にとってはそれぞれの能力が世界で通用するか本コンテストを通じて試すことのできる仕組みを提供している.決勝に選ばれたチームは,初年度から日本だけでなく,EU-America地域,Asia-Pacific地域から参加しており,若い情報技術者の技術力と知恵と工夫を熱く競っている.
1959年からの文部省の研究助成を受けて行われた事業「数理科学総合研究」をきっかけに生まれたプログラミング・シンポジウムは,少人数による「夏のプログラミング・シンポジウム」および大学院生による「情報科学若手の会」と相補って,1990年以降も毎年開催されている.表2.6.5に開催状況を示す.参加者数は毎年ほぼ一定の規模を保っている.
全国大会に対して設けられた賞は次の2つである.
(1)大会奨励賞
(2)大会優秀賞
大会奨励賞は全国大会での優れた若手発表者に授与する.歴代の受賞者を資料2.6.1に示す.船井ベストペーパー賞はFITで新しく始められた査読付き論文の中の優秀な論文10件程度のうち特に優秀な3件に授与されるものであり,FIT論文賞は残りの優秀論文に授与される賞である.FITヤングリサーチャー賞は33歳未満の優秀な発表者に授与される賞である.これらも件数が多いため氏名だけを資料2.6.2に示す.
情報技術の普及啓発と財務環境改善を目的として1991年に新イベントとして発足した「連続セミナー」は,セミナー推進委員会の下,表2.6.6に示すとおり2010年代も毎年6回シリーズとして安定的に開催されており,当初の狙いどおり本会の収入増にも貢献している.2010年代前半はビッグデータ,後半はAIをテーマとした回は特に盛況となる傾向があった.なお,年度および各回のテーマは担当理事およびセミナー推進委員会主体で策定し,各回のプログラムは当該領域の専門家がコーディネータとして講演者および講演内容の詳細を調整する,という体制をとっている.当日の運営面では,東京の本会場,大阪のリモート会場に加え,2018年度からは東北会場での中継を開始し,幅広い層からの参加を推進している.また,Webベースの質疑応答システムを採用し,議論の活性化を促している.
通年でテーマを設定し幅広く産業界にアプローチする連続セミナーを補完する形で,フォーカスしたトピックで1~2日程度の啓発の場として短期集中セミナーがある.時事性が高く,社会的関心度の高いテーマを選定し,年に数件の頻度で開催している.
本会の楕円形運営の一方の焦点をなす実務家向け活動を推進するため,2004年から技術応用運営委員会を中心に,実務家が学会活動に積極的に参加できるようイベント「ソフトウエアジャパン」およびコミュニティ「ITフォーラム」を運営している.これらの近年の活動状況を表2.6.7に示す.
ITフォーラムは個別のテーマごとに実務家が集まって意見交換を行う場である.2018年度末時点では表2.6.8に示す4つのフォーラムが活動しており,デジタルプラクティスや会誌でも論文や記事といった形で成果を発信している.なお,2013年発足のビッグデータ活用実務フォーラムは2018年度から「ビッグデータ解析のビジネス実務利活用(PBD)研究グループ」として活動を継続しており,ソフトウエアジャパン2019では特別セッションを開催した.
ソフトウエアジャパンは実務家のためのシンポジウムとして2018年度まで開催し,前述のITフォーラム主体のセッションを併設して専門課題を議論する場も提供した.また,2006年からは日本発の優れたソフトウェア開発者に授与するソフトウエアジャパンアワードを設けている.イベントについては2019年度からITフォーラムのセッションのみの開催としている.
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