情報処理学会60年のあゆみ
第1編―学会60年のあゆみ
第1章 60年の軌跡

 

1.2 2010~2019年の学会の発展の流れ

2010年から2019年に至る近年10年間の歴史は,第1編第2章に,会員,学会運営,調査研究活動,人材育成,学術講習会,会誌刊行,論文誌・学術図書,国際活動,の各活動の詳細状況を記載しているので参照頂きたい.本節では学会全体を通しての近年10年間の概況,グローバル化,政策提言,など横断的な活動について学会の発展の流れを記す.

1.2.1 概況

本会は2008年12月に施行された公益法人改革への対応として一般社団法人への移行の方針を打ち出し,2009年1月に認可の申請を行い,2010年7月1日に移行が完了した.すなわち創立50周年であった2010年は一般社団法人情報処理学会として新たな発展を目指しての出発点の年と位置付けられた.

2011年3月の東日本大震災では我が国に未曽有の被害がもたらされた.本会でも事務所に被害があったが,学会主催イベントについては全国大会(3月2~4日・東工大大岡山キャンパス)の終了後であり,研究会やシンポジウム等の多くは開催地や時期の変更等で対応した.機関紙等発行物の発送や編集業務への影響も最小限に抑えることができた.また被災者に対する会費減免措置を即時に決定するとともに,震災復興支援運営委員会を設け,各種イベントにおける特別講演の実施,会誌・論文誌での特集等の掲載を行うなど震災復興支援を推進した.震災から2年後の2013年3月には被災地宮城県の東北大学で全国大会を開催し,被災地の訪問を含むワークショップ,震災関連のシンポジウムなどにより改めて震災の記憶を新たにし,情報処理技術による防災,減災,復興支援を考える機会とした.2013年9月には2020年のオリンピック・パラリンピックの開催都市が東京に決定し,「復興五輪」を旗印として情報処理技術を筆頭にさまざまな分野で研究開発がこれをターゲットと定めてスタートした.

ICTの急激な進化が社会に大きなインパクトを与え本会の果たすべき役割が年々大きくなっている一方,少子高齢化,情報処理技術のコモディティ化,グローバル競争の激化などの流れにおいて,正会員数や収入の継続的減少には歯止めをかけられていない.そこで従前から推進してきた学会の抜本的改革を継続しつつ,長期的視点に立って安定した学会運営を実現するための施策の検討に取り組み,将来の会員獲得や学会価値向上に結び付くと期待されるジュニア会員制度(2015年度より)や認定情報技術者制度(CITP)(2014年6月運用開始)を立ち上げた.他方,増税等の影響も考慮し,継続的な学会運営と財務基盤の安定ならび新たな戦略投資のために,27年間据え置かれてきた正会員年会費の2017年度からの改訂を断行した.

1.2.2 グローバル化

学会のグローバル化に向けては,英文論文誌Journal of Information Processing(JIP)のインパクトファクタ取得を目標に,掲載料無料キャンペーンや海外投稿支援,査読システムPRMSの英語強化や国際商用査読管理システムScholar One Manuscriptsの導入,トランザクションとの連携,招待論文や英文論文のみの特集号の企画などさまざまな施策を取り,掲載数の大幅増を実現したが,インパクトファクタの取得には至っていない.一方最近はインパクトファクタ偏重に批判が集まるようになっている状況もある.

IEEEやACMのような国際学会が存在する中で,日本の情報処理学会のアイデンティティをどのように考えるのかという観点から,調査研究運営委員会や若手研究者の会などにおいて学会のグローバル運営戦略の議論を継続的に行ってきている.IEEE Computer Societyとは毎年意見交換や相互訪問を行っているほか,2012年までのSAINT国際会議の共催,2013年からのCOMPSAC国際会議の共同主催(technical co-sponsor),2018年のIPSJ/IEEE-CS Young Computer Researcher Awardの創設など,関係を強化してきている.ACMともIPSJ/ACM Award for Early Career Contributions to Global Researchを2018年に創設した.このほか両学会とは研究会活動を中心に,本会が主催,共催あるいは協賛する国際会議やワークショップを多く開催している.アジアの関連学会である中国CCF(China Computer Federation),韓国KIISE(Korean Institute of Information Scientists and Engineers)とは継続的に意見交換や相互訪問を行う関係にあり,それぞれの国で母国語で研究や教育について議論できる研究コミュニティの必要性,重要性と国際的な情報発信を行ううえでの課題について意識を共有している.

1.2.3 政策提言

IoT(Internet of Things),ビッグデータ,人工知能(AI)が社会の注目を集め,Society 5.0に向けてこれからの未来を大きく変えようとする現在,社会に対して本会の果たすべき役割は今後もますます大きくなると自認し,2012年に政策提言委員会を設け,各委員会や研究会などの協力を得て,長期的な研究のロードマップ作成による学会の方向性の形成,国の政策および方針に関する積極的提言,情報系・情報処理教育系の各種パブコメへの積極的対応などを通じて,国および関連機関から「頼られ&相談される学会」を目指して政策提言体制の強化を図ってきた.国および政策に関する具体的な提言,声明の発表,パブコメへの対応の主なものは表1.1.1のとおりである.

表1.1.1 本会からの政策提言等(2010年度~2019年度)

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