組込みシステムは、常に自然環境や人間社会と密接な関係を持って動作している。この性質から組込みシステムには常に高い信頼性が期待され、その期待はますます大きくなっている。
本セミナーでは、このような高い信頼性に対する期待に応えるために重要なV&V(正当性検証と妥当性確認)とその関連技術について解説する。まずセッション1で、主に開発管理の側面から組込みソフトウェアの信頼性を高める技術について解説する。続くセッション2では、車載組込みソフトウェアの高信頼化事例を中心に、開発現場や研究開発の動向について紹介する。さらにセッション3とセッション4では、V&V技術をそれぞれテストと形式手法(モデル検査)の観点から、組込みソフトウェアへの適用事例を交えて解説する。
開催日時:2009年11月11日(水) 9:30~16:50
開催会場:東京電機大学 神田キャンパス7号館1F 丹羽ホール
コーディネータ:沢田 篤史 (南山大学 情報理工学部ソフトウェア工学科 教授)
【略歴】1995年京都大学大学院工学研究科情報工学専攻博士後期課程研究指導認定退学、同年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科助手、その後、京都大学大学院工学研究科助手、同大学大型計算機センター助教授、同大学学術情報メディアセンター助教授、南山大学数理情報学部教授を経て、2009年より現職。博士(工学)。ソフトウェア工学、組込みシステム工学の研究に従事。
プログラム
Session1 9:30~11:00
「ソフトウェア品質の管理技術:プロセスの測定と改善」
野中 誠 (東洋大学 経営学部経営学科 准教授)
【講演概要】ソフトウェア品質の向上、特にソフトウェア高信頼化の達成には、開発技術と管理技術の両面からの取り組みが必要である。すなわち、欠陥(バグ)の発見・除去・回避につながる要素技術の適用に加えて、測定と予測モデルに基づいたプロジェクトおよびプロセスの管理・改善が求められる。本講演では、これらのうち後者で示したソフトウェア品質の管理技術について概説する。最初に、ソフトウェア品質およびそのマネジメントの基本概念を整理する。その上で、欠陥に着目して評価・検証プロセスの有効性および効率性を評価する方法と、特にレビュープロセスの効率性を向上させる具体的な方法を紹介する。続いて、より広義のソフトウェア品質(ISO/IEC 9126や機能安全など)におけるソフトウェア品質の管理技術として、品質要求定義とそのメトリクスについて、例を交えて説明する。
【略歴】1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒業、1997年同大学院理工学研究科修了、2000年同博士後期課程単位取得退学。早稲田大学理工学部経営システム工学科助手を経て、2003年東洋大学経営学部専任講師、2006年より現職。2006年Ecole de Technologie Superieure(カナダ)およびNational ICT Australia(オーストラリア)客員研究員。ソフトウェア開発マネジメントに関する研究に従事。情報処理学会ソフトウェア工学研究会幹事、日科技連ソフトウェア品質管理研究会(SQiP)副委員長など、各種委員を担当。
Session2 11:10~12:40
「車載ソフトウェアの開発技術-研究開発への取組みと課題-」
佐野 範佳 (株式会社豊田中央研究所 情報・エレクトロニクス研究部数理情報研究室 室長)
【講演概要】クルマの安全性、環境性能、便利・快適性を実現する上で、車載電子システムが大きな役割を担っており、100以上ものECUが搭載されているクルマもある。渋滞時自動追従など、複数ECU が協調し動作する複雑なシステムも増えつつある。これらに組み込まれるソフトウェアには、当然ながら高い信頼性が求められる。本講演では、信頼性確保の取組みとして、開発段階で効率的にかつ漏れなく動作確認する検証法、障害許容性を持つソフトウェア設計法、の2つをねらいとした研究開発の事例を紹介する。開発した技術だけでなく、事例を通して分かったこととして、形式手法の適用課題等、組込みシステム特に車載ソフトウェアの特徴を踏まえた、技術課題について述べる。(ECU:Electronic Control Unit)
【略歴】1984年名古屋大学大学院情報工学研究科前期課程修了。同年、株式会社豊田中央研究所入社、現在に至る。組込みシステム、特にクルマの電子制御システム、ソフトウェアの高信頼化技術、設計・検証技術の研究開発に従事。
お昼休憩 12:40-13:40
Session3 13:40~15:10
「ソフトウェアのテスト技術 -組込みシステムにおける品質確保のためのポイント-」
片山 徹郎 (宮崎大学 工学部情報システム工学科 准教授)
【講演概要】組込みソフトウェアの開発規模や複雑度が増すにつれ、ソフトウェアの十分な品質の確保が重要となってきており、品質確保のための一手段であるテストの重要性は日々増大してきている。加えて、組込みシステムのようにハードウェアという実体を持つドメインでは、不具合による瑕疵責任の問題を防ぐという意味においても、テストによる充分な品質の確保が求められる。本講演では、最初に、テストの目的と役割について説明する。続いて、各種テスト技法を取り上げて、その内容と特徴、理解しておくべき点などについて具体例を挙げて説明していく。また、組込みソフトウェアの品質確保のために、テスト作業において何を考慮して取り組む必要があるのかについて説明する。
【略歴】1996年九州大学大学院工学研究科情報工学専攻博士後期課程修了。同年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科助手、2000年宮崎大学工学部情報システム工学科助教授、現在准教授。博士(工学)。NPO法人ソフトウェアテスト技術振興協会(ASTER)副理事長。テスト技術者資格認定(JSTQB)技術委員会委員。九州地域組込みシステム協議会(ES-Kyushu)幹事会幹事。並行処理プログラムや組込みシステムを対象としたテスト手法についての研究に従事。
Session4 15:20~16:50
「形式手法、モデル検査法:その原理と適用の現実」
中島 震 (情報・システム研究機構 国立情報学研究所 教授)
【講演概要】ソフトウェアの信頼性を確保する技術への関心が高まり、形式手法、形式検証が注目を集めている。その中で、自動検証の技術として重要なモデル検査法は、基本的な考え方が難しくないことから、実用化への期待が大きい。一方、ソフトウェア開発プロセスでの役割・効果的な適用の方法は、論じられることが少ない。適用経験に基づくノウハウとして理解されている。本講演では、形式手法全般を概観し、モデル検査法の特徴ならびに基本原理を紹介する。次いで、産学共同プロジェクトでの経験をもとに、現状の技術水準および実適用に際しての要点を整理する。
【略歴】1981年東京大学大学院修士課程修了。2004年より現職。この間、科学技術振興機構さきがけ研究員、北陸先端科学技術大学院大学客員教授、などを歴任。2005年より総合研究大学院大学教授(併任)。学術博士(東京大学)。ディペンダブル・ソフトウェア工学、形式手法、モデル検査法の研究に従事。