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最終更新日:2006年5月29日

第1回「CIOを取り巻く環境」

 

開催日時: 平成18年6月9日(金) 9:30-17:20
開催会場: 東京電機大学 神田キャンパス7号館1F 丹羽ホール(東京都千代田区神田錦町2-2)

【セミナー概要】
連続セミナーの第1回は,CIOあるいは企業の情報システムを取り巻く環境変化がテーマである.情報システムのプラットフォームとしてのハードウェア,ソフトウェア, ネットワークの各分野では次々と新しい技術が登場する一方,企業の情報システムは巨大化・複雑化が進んでいる.CIOは戦略的な情報化投資を求められているが,実際にシステム開発を担う日本の情報サービス産業は,インド,中国へのオフショアリングが進む中,全体として十分な技術力を蓄積できないでいる.こうしたCIOを取り巻く環境変化の現状を様々な角度から掘り下げ,解決すべき課題とその方向を明らかにする.

コーディネータ:前川 徹((株)富士通総研 経済研究所 主任研究員)
【略歴】1978年 3月、名古屋工業大学情報工学科卒、同年に通産省に入省、機械情報産業局情報政策企画室長、JETRO New York センター産業用電子機器部長、情報処理振興事業協会(IPA)セキュリティセンター所長、早稲田大学 大学院 国際情報通信研究科客員教授などを経て2003年9月から株式会社 富士通総研 経済研究所主任研究員。おもな著書として『ソフトウェア最前線』((株)アスペクト)などがある。


【プログラム】

9:30-10:00
セッション1 「連続セミナーの開催にあたって」
繁野 高仁(KDDI(株)執行役員 情報システム本部長)
【講演資料(PDFファイル】
【講演概要】
昨年から今年にかけて発生した東京証券取引所における一連のシステム障害は,現在の日本の情報システム部門が直面している深刻な状況を,象徴的にあらわしているように思う.多くの日本企業において日々奮闘されている情報システム部門の方々には,決して他人事とは思えないのではないだろうか.パソコンやインターネットの普及に伴って,企業活動は日増しに情報システムへの依存度を高めている.システム化要求が増加する一方で,開発期間の短縮とコスト削減要求は厳しさを増している.情報セキュリティ,日本版SOX法,BCPなど,新しい課題が次々と発生し,情報システム部門はその対応に追われている.本セミナーでは,場当り的な対応が問題を深刻化しているとの認識から,情報システムの本質に立ち戻りながら,良い情報システムにするための原理原則を学んで行きたいと考えている.
【略歴】北海道大学工学部電気工学科卒業(1977).日本NCRを経て第二電電(現KDDI)とDDIポケット(現ウイルコム)の創業に参画し,情報システム部門の責任者として社内システム全般を統括.2000年からは,DDIとKDD,IDOの合併に伴うシステム構造改革を推進し,2004年度の日経コンピュータ誌「情報システム大賞」グランプリを受賞.2003年4月より現職.情報処理学会,経営情報学会会員
10:00-11:10

セッション2 「日本の情報サービス産業の現状と課題」
田原 幸朗((社)情報サービス産業協会 調査企画部 部長)

【講演資料(PDFファイル)】
【講演概要】
経済産業省の平成16年特定サービス産業実態調査によれば,情報サービス産業は年間売上高14兆5271億円,従業員数56万9542人,事業所数7110の産業規模に達している.業界の売上は企業等(ユーザ)の情報化投資動向にほぼリンクしており,基幹業務システムの再構築や新たな経営情報システムの構築ニーズに応え,システムインテグレーションサービス,ソフトウェア開発,システム運用管理等のサービス提供が主な業務となる.本セミナーでは,業界における取引構造や技術者の状況に関する統計データを紹介する.その上で,人材不足,国際競争力,品質・信頼性,セキュリティ,取引の透明性等,ユーザの信頼を得るための業界の取り組み課題と対応策について参加者の皆様と考えたい.
【略歴】電子部品メーカの情報システム部門で受注,生産計画,購買,原価管理等の生産管理システム開発に従事.その後,1988年に社団法人情報サービス産業協会調査企画部.2000年より現職.
11:20-12:30
セッション3 「情報技術の変遷」
上原 三八((株)富士通研究所 取締役)
【講演資料(PDFファイル)】
【講演概要】
情報技術の中でもとりわけソフトウェア技術の進歩は理解することが難しいと言われる.多くの抽象的あるいは難解な言葉が氾濫していることが一因である.本講演ではソフトウェア技術について,特にシステム構築・運用における重要な技術の変遷について述べ,その技術と発展の方向性の理解を深める.すなわち,(1)システムの構築基盤である分散ミドルウェア,(2)システムの実行基盤としてまた分散コンピューティングの基盤技術である「仮想」と「自律」,(3)開発環境とくに自動化とテストの技術,そして(4)セキュリティの技術の変遷についてとりあげる.これらの技術が変化してきた背景と,今後我々がこれらをどう利用することが望ましいかについて議論したい.
【略歴】1978年ワシントン大学大学院computer science学科留学.1980年東京工業大学情報科学修士卒,同年,富士通研究所入社.ソフトウェア工学を中心とする研究開発および製品開発に従事.現在,富士通研究所取締役,ITコア研究所所長.1997〜2001年情報処理学会ソフトウェア工学研究会幹事,2002〜2003年情報処理学会理事.情報処理学会,電子情報通信学会,IEEE,ACM各会員.
12:30-13:30
お昼休み
13:30-14:40
セッション4 「情報システムの巨大化・複雑化とソフトウェア工学の役割」
鶴保 征城((独)情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター所長) 
 
【講演資料(PDFファイル)】
【講演概要】
情報システムは,時が過ぎるにつれ社会に浸透し,ますます重要になっていく一方である.今日,ソフトウェア・システムは,日本の産業全体の競争力強化に必要なだけでなく,社会のインフラとして組込み機器や社内情報システムという範疇を超え,個人と企業や企業同士が生活しビジネスを営む社会にとって必須の機能を提供するようになった.裏を返せば,そのような状況はソフトウェア開発への大きな期待と負担となっているとも言える.付加価値としてのソフトウェア機能への期待,競争激化に伴う製品サイクルの投入期間の短期化,社内システムに限らずハイテク機器やインターネットなどの利用に慣れたユーザからの要求の高度化/多様化などの要因がソフトウェアの規模や複雑さを押し上げている.また,開発者の努力の結果提供される新たなソフトウェアは新たな要求を生み出すサイクルを作り,状況はより早く進行していくばかりである.本発表では,このような現状や課題を説明するとともに,ソフトウェア工学の果たしていく役割を述べる.
【略歴】1942年,大阪府出身,工学博士.1966年,大阪大学大学院工学研究科電子工学専攻修士課程修了後,同年4月,日本電信電話公社(現NTT)入社.1989年11月,NTT ソフトウェア研究所長,1993年6月,NTTデータ通信株式会社取締役開発本部長,1995年6月,同社常務取締役技術開発本部長を歴任し,1997年6月,NTTソフトウェア株式会社代表取締役社長に就任.2004年6月,独立行政法人 情報処理推進機構 参与.同年10月,ソフトウェア・エンジニアリング・センター所長に就任. 高知工科大学工学部情報システム工学科教授(2003年〜),奈良先端科学技術大学院大学客員教授(2003年〜),和歌山大学システム情報学センター客員教授(2005年〜),独立行政法人日本学術振興会「基盤的ソフトウェア技術開拓」に関する研究開発専門委員会委員(2003年〜),独立行政法人科学技術振興機構学技術振興調整費審査ワーキンググループ委員(2005年〜),日本郵政公社アドバイザリーグループメンバー(2005年〜),独立行政法人科学技術振興機構大学発ベンチャー創出推進事業評価委員会委員(2005年〜),経済産業省産業構造審議会臨時委員(2005年〜),社団法人情報処理学会会長(2001年〜2002年),XMLコンソーシアム会長(2001年〜),日本BPM協会副会長(2006年〜) , 社団法人電気情報通信学会フェロー,社団法人情報処理学会フェロー.
14:50-16:00
セッション5 「情報システム部門の役割」
細川 泰秀((社)日本情報システム・ユーザー協会 専務理事)
 
【講演資料(PDFファイル)】
【講演概要】
新しい業務が生じた場合は,人を雇うか?ITを活用するのか?の選択を迫られる.またIT活用は非常に幅広い分野に浸透し,その結果信頼性・安定性の確保を求められている.このように非常に重要なIT活用を支えてきた情報システム部門は今どのような状態におかれているのか?1980年代から,企業の情報システム部門の子会社化が進んだが,これは日本独特の現象のように言われている.IT化の進展が何故このような現象になってあらわれたのか?さらに今どのような事態に発展しているのか?本来企業の経営者,利用者は情報システム部門関係者に何を期待しているのか?情報システム部門に働いている方々の人材育成はどのようにあるべきか?上記の課題と期待について,皆様と一緒に考えてみたい.
【略歴】1960年富士製鉄広畑工場勤務 厚板工場,生産管理部を経て情報システム開発に従事.1966年名古屋製鉄所 情報システム部勤務,海外指導を経験.1980年本社情報システム開発センター所長.1988年NS&Iシステムサービス,エニコム,新日鉄EI事業部勤務にてソリューションベンダーを経験.2002年日本情報システムユーザー協会(JUAS) 現在,専務理事.
16:10-17:20
セッション6 「ソフトウェアの生産性向上の鍵を考える」
前川 徹((株)富士通総研 経済研究所 主任研究員) 
【講演資料(PDFファイル)】
【講演概要】
ソフトウェア開発は大規模になればなるほど失敗が多いと言われている。その原因はどこにあるのか。貧弱なプロジェクト管理、見積もりの甘さ、不十分なリスク管理、あいまいな要求仕様、非現実的な目標の設定などさまざまな要因が指摘されている。 ここではまず、最も一般的な開発プロセスであるウォーターフォール・モデルを取り上げ、W. Royceが1970年に提案した本来のモデルと現実に使われているモデルとのの乖離を明らかにする。 また、新しいアジャイルソフトウェア開発などの反復型開発についてもその長所短所を考えてみたいと思う。後半では、日本の情報サービス産業・企業が陥っている優秀な人材不足と就労環境の悪化という悪循環を解決する方策について検討し、日本のソフトウェアの生産性と品質を向上させるには、ソフトウェア開発に根本的なパラダイム・シフトが必要であることを示したいと思う。
【略歴】1978年 3月、名古屋工業大学情報工学科卒、同年に通産省に入省、機械情報産業局情報政策企画室長、JETRO New York センター産業用電子機器部長、情報処理振興事業協会(IPA)セキュリティセンター所長、早稲田大学 大学院 国際情報通信研究科客員教授などを経て2003年9月から株式会社 富士通総研 経済研究所主任研究員。おもな著書として『ソフトウェア最前線』((株)アスペクト)などがある。