触覚情報を付与したインタラクティブサーフェスに関する研究

 
中島 康祐
三菱電機(株)

[背景]コンピュータの操作方法と人の触れ合い方との乖離
[問題]人同士の触れ合い方に学んだコンピュータとのインタラクションの実現
[貢献]毛髪や皮膚を模した感触を備えたインタラクティブサーフェスの提案と評価
 
 コンピュータと人とのインタラクションは,コンピュータが理解しやすい表現を使ったインタラクションから,人が慣れ親しんできた表現を使ったインタラクションへと拡張されてきた.かつては専門的な学習を経なければコンピュータは扱えなかったが,今日では,多くの人々がコンピュータを通じてさまざまなサービスを享受している.この背景には,コンピュータのインタフェースがコマンド入力に基づくものから,実世界のメタファを導入したグラフィカルなインタフェース,さらには画面に直接触れて操作できるインタラクティブサーフェスへと発展し,人にとって理解しやすい方法で人とコンピュータがインタラクションできるようになってきた歴史がある.

 しかし,人が人とコミュニケーションをしたり周囲の物体を操作したりする場合に比べると,人とコンピュータとのインタラクションに用いられる動作はまだ非常に限られている.人と人とのコミュニケーションにおいて,人が意図や感情を対象に表現する場合には,握手や抱擁,殴打のような身体的な接触(タッチインタラクション)が用いられる.こうしたタッチインタラクションをコンピュータに対して入力できるインタフェースとして,タッチスクリーンに代表されるインタラクティブサーフェスがあるが,触れる圧力や面積といった,握手や抱擁などのコミュニケーションにおいて重要な要素は考慮されない.また,多くのタッチスクリーンは入出力面が硬い平面であるために,人がコミュニケーションをする方法でインタラクションできるものではない.

 人と人とのコミュニケーションで用いられるタッチインタラクションをコンピュータとのインタラクションに利用するためには,接触対象の形状や触覚的な特性を,人や動物の表面,すなわち,皮膚や毛髪などに近付けていくことが有効であると考えられる.

 そこで,本研究では,人と人のコミュニケーションに学んだ方法によるコンピュータとのインタラクションの実現を目指し,触覚情報を付与したインタラクティブサーフェスを提案する.触覚情報として,特に人や動物の皮膚,および毛髪の感触に着目し,これらの物理的な特性を備えたインタラクティブサーフェスを提案する.これにより,人と人とのコミュニケーションで用いられるタッチインタラクションに学んだ操作方法をユーザに提供でき,ユーザはより直感的に意図や感情を入力できるようになると期待される.

 まず,毛髪を介した触れ合い方によるインタラクションの実現に向けて,毛状物体の表面にマルチタッチ検出と視覚フィードバック提示の機能を統合した毛状マルチタッチディスプレイを提案する.これにより,ユーザは毛髪を触れたり撫でたりする動作で表示された情報と触れ合える.

 続いて,握手や抱擁,殴打などといった,皮膚を介したタッチインタラクションを入力できるインタラクティブサーフェスの実現に向けて,弾性体を利用したタッチインタラクション識別手法を提案し,これを適用した風船型インタフェースを実現する.提案する識別手法に基づいて柔らかなインタラクティブサーフェスを実装し,そのタッチインタラクション識別性能を評価している.

 これらの成果により,本研究では,人とコンピュータとのインタラクションの様式を人と人のコミュニケーションの様式に近づけるために必要な,さまざまなタッチインタラクションを認識できる柔らかなインタラクティブサーフェスを実現した.
 


(2014年5月31日受付)
取得年月日:2014年3月
学位種別:博士(情報科学)
大学:大阪大学



推薦文
:(エンタテインメントコンピューティング研究会)


スマートフォンの普及に伴い,インタラクティブサーフェスは広く一般に利用されるようになった.本推薦論文では,人が触れ合う際の境界として作用する皮膚と毛に注目し,これらの特徴をサーフェスに採り入れることで新たなインタラクション経験を創出しており,人とコンピュータとの新たな関係性を生むことが期待される.


著者からの一言


研究指導のみならずさまざまな成長機会を与えてくださった指導教員の先生方に,この場をお借りして,改めて心より感謝を申し上げたいと思います.今後は,博士課程で積んだ経験を活かし,企業の研究所で成果を挙げられるよう努める所存です.