Compiler Optimizations for Energy-Efficiency of Heterogeneous Computing Systems

(邦訳:ヘテロジニアス計算機システムの電力効率向上のためのコンパイラ最適化手法)
 
薦田 登志矢
(株)ディー・エヌ・エー ソフトウェアエンジニア

[背景]大規模計算機への性能要求の高まり
[問題]計算機の大規模化を可能にするためのシステムの電力効率改善
[貢献]ヘテロジニアス構成の計算機を対象としたソフトウェア最適化による電力効率改善手法の創出


 科学技術計算など大量のデータの解析に利用されるコンピュータへの性能要求は年々上昇を続けており,2018年には一秒間に100京(10億の10億倍)の計算回数のコンピュータシステムが必要とされる,と言われています.

 このような大規模な計算機を開発における最も重要な技術的課題の1つとしてコンピュータが消費する電力をいかに小さく抑えることができるか,という課題が知られています.たとえば,2013年11月現在で世界最高の性能を持つコンピュータシステムは18メガワットもの電力を消費するものとなっています.このような大電力をまかなうためには,巨大な電力供給システム・空冷システムが必要となり,これがシステム全体を大規模化し性能を向上する上での大きな障害となっています.

 このような状況の中,異なる種類の計算回路(プロセッサ)を組み合わせて計算機を構築するヘテロジニアス構成の計算機システムへの期待が高まっています. ヘテロジニアスシステムでは, さまざまな処理の特性に適した異なる種類のプロセッサを使い分けることができます.このため,  単一種類のプロセッサを用いてシステムを構築する従来の方式よりも,より少ない電力で高い性能を実現できる可能性があります. 特に, GPUと呼ばれる並列処理に特化した専用プロセッサを搭載するCPU-GPUヘテロジニアスシステムは大きな可能性を秘めています.

 しかし, CPU-GPUヘテロジニアスシステムの利用シーンはまだ限定的なのが現状です. これは, CPU-GPUヘテロジニアスシステムに最適化されたシステムソフトウェア技術が確立されていないためです.ハードウェアの性能がいくら高くても,アプリケーション側からこれを効率よく使いこなせない場合,実際に実行した場合の性能は高くないものとなってしまいます.この問題を解決するためには,CPU-GPUヘテロジニアスシステムのハードウェアが持つ性能を効率よく引き出すことができる,システムソフトウェア技術の開発が必要となっています.

 そこで本博士論文では,特にコンパイラと呼ばれるシステムソフトウェアにおけるCPU-GPUヘテロジニアスシステム向けの新しい最適化手法を提案し,この問題の解決に取り組みました.具体的には,以下に示す3つの最適化手法を提案しています.
  1. 電力効率を考慮したCPUとGPUの間でのタスクスケジューリング手法.
  2. 複数のGPUを利用するアプリケーション最適化を半自動化する並列化手法.
  3. プロセッサの待機電力を削減するバイナリコード生成手法.
 それぞれの手法は,独立にCPU-GPUヘテロジニアスシステム上で動作するアプリケーションの性能および電力効率を改善することが可能です. 論文中では,各手法が最適化の中で用いるアルゴリズムや性能・電力モデルについて論じています.また,提案手法を実機上で動作するシステム内に構築し実機を用いた性能・電力評価を通じ手法の有効性を検討しています.評価の結果,各提案手法によってCPU-GPUヘテロジニアスシステム上で動作するアプリケーションの性能および電力効率を,大きく向上できることが分かりました.
 

 

電力効率を向上するコンパイラ最適化技術の概要

 (2014年6月22日受付)
取得年月日:2014年3月
学位種別:博士(情報理工学)
大学:東京大学



推薦文
:(計算機アーキテクチャ研究会)


マルチコアが一般化し,電力比性能を一層改善するためにヘテロジニアス構成のシステムが注目されている.本論文はCPUとGPUで構成されるシステム向けにGPUの使用率を向上させて電力比性能を改善できるコンパイラを構築している.国際会議でも好評で,計算機アーキテクチャ分野への貢献が大きい.


著者からの一言


中村教授そして研究室内外の多くの方々のご協力を得て博士論文をまとめることができました.この場を借りて御礼を言わせていただきます.国内外の多くの研究者と深い議論ができた経験は自分の視野を大きく広げてくれました.世界に通じるようなソフトウェア技術を創出できるよう日々精進していきたいと思います.