Design and Implementation of Participatory Crowdsensing Platform for Efficient Information Gathering for Smart Cities

(邦訳:スマートシティに向けた効率的な情報収集のための
参加型センシングプラットフォームデザイン及び構築)
 
坂村 美奈
(独)日本学術振興会 特別研究員(PD) /慶應義塾大学 特別研究員
 
キーワード
スマートシティ 参加型センシング ソーシャルコンピューティング

[背景]携帯端末を通した人々からの情報収集(参加型センシング)機会の増加

[問題]参加型センシングの実都市空間応用時における情報収集機会の損失
[貢献]参加型センシング手法の体系化による定性的都市時空間情報の収集


 本論文では,数字では表せない物事の質的(定性的)な情報を人々が携帯端末を通して収集する参加型センシングを取り上げる.本研究では,参加型センシングを都市への適用の観点から設計・実装することでスマートシティの構築を加速化させるプラットフォームの研究を行った.

 参加型センシングは,センシングを行いたい主体がセンシング対象の情報を含むタスクを定め(タスク設定者),携帯端末を持つ人々がそのタスクへの参加を意識して該当する情報を投稿する(タスク実行者)ことで達成されるセンシング手法である.参加型センシングを都市に適用する上では,誰が誰にタスクを設定するのかという実社会におけるタスク設定者と実行者の多様な実体に応じてプラットフォームを適切に設計する必要がある.また,スマートシティに向けタスクの設定や実行機能を提供し情報収集を実現するプラットフォーム所持者が存在する.そのため,これまでの参加型センシングの研究において行われてきた情報収集時や活用時におけるインセンティブ付与手法やプライバシ保護手法などのアプローチの延長のみでは実都市空間での複雑な問題に対して解決しきれず,本来集められるべき情報の損失が発生していた.

 本研究で設計した参加型センシングプラットフォームは,情報流通・保存機能を有する共通部と情報収集・活用機能を有する個別部で構成される.共通部では,既存の参加型センシングプラットフォームでは実現できていなかったセンサデータの動的な利活用を実現するため,タスク定義が内包されたPubSubベースの情報流通基盤のスキーマおよびライブラリを実装した.個別部では,プラットフォーム所持者を主体としてタスク設定者・実行者との関係性を整理することでプラットフォームの要件を整理し3つのモデルを提案した.提案モデルに対し各プラットフォームを実装,実環境に構築し,都市規模での実証実験や実運用を行うことでスマートシティ構築に向けた情報収集の活性化に寄与することを確認した.また,得られた情報の都市運営における活用可能性を示した.

 本研究により,今後参加型センシングの都市への導入が加速することが期待される.その結果,これまでその取得が困難であった,広範囲の時空間情報と紐づいた多様な都市情報が得られる.また,これらの情報を解析することで混沌化した都市の事象に対する動的対応,状況把握の自動化,未来予測など,効率かつ有効的な都市運営に貢献できる.また,人々が自発的にセンシングに参加し,自らが主体となって都市運営の役割を担うようになることで,市民参加型の魅力的なまちづくりが実現されることが期待される.本研究は,情報科学のみならず都市計画やまちづくり,社会学など多くの分野にも影響を与え,学術的・社会的に大きなインパクトを与えることが期待される.
 

 


 
 https://www.sfc.keio.ac.jp/gsmg/education/gstudent-research/ci_sakamura.html
 https://sfcclip.net/2016/12/32640/

 

(2019年6月6日受付)
 
取得年月日:2019年3月
学位種別:博士(政策・メディア)
大学:慶應義塾大学



推薦文
:(ユビキタスコンピューティングシステム研究会)


本論文では,人々から定性・定量的な情報を集約する参加型センシングを都市規模の観点で設計し,複数の実証実験からその高い有効性を示している.市民,自治体職員,タスク依頼者の3点の関係性に着目した上で,仮想キャラクタを媒介とした動機づけや匿名化に基づくセンシング手法など,斬新なアイディアを実現している.


研究生活


博士の学位を取得した研究室には,学部入学時より修士,博士と約9年間お世話になりました.研究生活では,特に博士課程において,研究のみならずさまざまな困難や苦境の中で支えてくださった教員,スタッフ,学生の皆様に大変感謝しております.また,情報処理学会UBI研究会の愉快な研究者の皆様にはたくさんの有益なフィードバックと評価をいただきました.

博士課程の研究を通して,研究室の枠組みを超えて,他大学や企業,市の職員の方々とさまざまなシステムの実証実験や実運用を行う貴重な経験ができました.そして,論文執筆や論理的思考能力だけでなく強靭な精神力を手に入れました.博士課程は楽な道のりとは言えませんが,取得過程で得ることのできる経験や能力,学位については博士を取得した後により一層その価値を感じることができます.

今後,情報科学分野における博士課程進学者,特に女性が増加していくことを切に願うとともに,私自身も研究の社会展開,教育に携わり情報科学の分野を盛り上げていきます.