Light Transport Acquisition via Selective Light Path Measurement

  コンピュータビジョンにおけるアクティブ計測とは，シーンに対して照明を与えながら撮影を行った画像を用いて何らかの計測を行う技術であり，プロジェクタを用いてパターン光を投影し奥行きを計算するアクティブステレオ法に代表されるように，古くから数多くの研究がなされてきた分野である．実物体のアクティブ計測を行うためにはそこで起こる光の振る舞いに注意する必要がある．たとえば，物体の間で起こる相互反射や半透明物体内で起こる散乱などは計測結果を破綻させる原因になり得るが，撮影された画像から影響を後処理で取り除くのは困難である．

 本研究では画像がカメラで記録される前の光線に注目し，必要な情報を含む光線の光伝播のみを記録する手法の研究に取り組んだ．必要な光線のみを選択的に計測するために，特定の経路を通る光線のみを取り入れる光学系を設計し，制御することにより光を使って物体内部を計測する．本稿では光学トモグラフィ（図・下段左）とプロジェクタ・カメラ系における光伝播計測（図・下段右）について紹介する．

 光学トモグラフィの研究では，ブドウのように光を拡散する表皮と透明な内部を持つ物体を対象に，物体断面の推定に取り組んだ．断面を推定するためには物体中の光伝播の経路を特定し，光路ごとの透過量を計測する必要があるが，従来のX線CTのようにX線の直進性を前提とするモデルは光には適応できない．本研究では，物体中を光が最短距離を通るという光路モデル，光路を限定して計測できる計測手法，および，計測データから内部断面を推定する数値計算アルゴリズムを提案した．シミュレーションや実物体を用いた実験により，提案手法が正しく物体断面を復元できることを確認した．

 次に，プロジェクタ・カメラ系における光伝播計測に取り組んだ．プロジェクタ・カメラ間の光伝播は，プロジェクタ，カメラがそれぞれ2次元の光源の配列，2次元のセンサの配列であるため，合わせて4次元の関数となり，大量の組合せが存在する．計測を効率的に行うため，入射点と出射点の距離である伝播距離が光学現象を特徴付け，伝播距離ごとに光伝播を計測することでシーン解析や質感の獲得に役立つことに着目する．たとえば，入射点と出射点が一致する拡散反射の伝播距離は0，拡散面間の相互反射および表面下散乱では伝播距離は短く，離れた鏡面間の相互反射では伝播距離が長い．本研究ではラスタスキャン型プロジェクタとローリングシャッタ式カメラを用い，縦方向のスキャンと露光行を一定のずれを保ちながら同期させることにより，特定の伝播距離の光伝播を画像として計測する．実験では，肉眼では区別しにくい牛乳，歯磨き粉といった白い液体を光伝播の違いを使って区別できることや，皮膚と静脈からの光の反射を分離することで皮膚下の静脈を強調して可視化できることを応用として示した．