ソーシャルメディアの地理情報との紐付けと行動支援への活用に関する研究

 
落合 桂一
(株)NTTドコモ

[背景]スマートフォンの普及で外出時の周辺情報検索が増加
[問題]速報性の高い周辺情報の検索や推薦などの行動支援技術の確立
[貢献]SNSと地理情報の紐付けとSNSデータを利用した検索や推薦手法の提案

 スマートフォンの普及に伴い位置情報サービスが注目され,外出先で周辺の施設を検索して目的地を決めたり移動経路の情報を得るなど行動の意思決定を行う機会が増えている.このような状況下ではユーザが得る情報の特性として以下の2点が重要であると考えられる.
 要件1. 速報性の高い周辺情報が得られること
 要件2. ユーザ嗜好に基づき目的地の候補が少ない操作で得られること

 要件1に対しソーシャルメディア(SNS)には実世界のリアルタイムな話題が投稿されていることに着目した.ユーザがいる周辺の施設(Point-of-Interest, POI)に言及している投稿から最新の周辺情報が得られるため,ユーザの位置情報に基づいてSNSの時空間検索手法を提案する.位置情報に基づく検索ではk近傍検索と呼ばれる距離順に検索を行う手法があるが,特定のPOIの投稿が多い場合,検索結果が特定のPOIに関する投稿のみになるという課題がある.そこで,頻繁に検索される場所で多様なPOIに関する最新の投稿が得られる検索範囲をあらかじめ探索しておき,ユーザが周辺投稿を検索する際にそれを活用することでユーザの現在地に近い多様な施設に関する投稿を高速に検索する手法を提案した.k近傍検索との比較評価を行い多様性が向上することを確認した.

 要件2に対しては,SNSに蓄積されたユーザのチェックイン情報からPOIを推薦する手法を提案する.位置情報サービスは現地に行くことで初めて利用できるという特性に注目し,ユーザが利用している位置情報サービスによってチェックイン場所に偏りがあるという仮説を立て,利用している位置情報サービスを考慮したPOI推薦手法を提案した.協調フィルタリングを利用した推薦手法と比較し有効性を確認した.

 行動支援にSNSを活用するためには,SNSの情報を実世界の地理情報と紐付ける必要がある.SNSの情報を地理情報と紐付ける方法は (1)ジオタグ付き投稿を利用する,(2)投稿文章中の地名や施設名を利用する,(3)ユーザのプロフィール情報を利用するという3通りがある.ジオタグ付き投稿はすでに場所と紐づけられているがジオタグ付きの投稿は少ないため,方法2と3について検討する.

 方法2の場合,地名や施設名には同名が複数存在したり地名以外の意味でも使われる単語もあり,地名の曖昧性が課題となる.そこで,SNSの投稿にはその場所特有のトピックが存在することが多いと考え,地名ごとにその場所特有の単語(特徴語)を利用することで地名の曖昧性解消を行う手法を提案した.従来の地名の共起による曖昧性解消手法と比較を行い有効性を確認した.

 方法3について,施設の公式アカウントであればPOIデータベースを用いてユーザ名とPOI名を突合することで場所を特定できる.しかし,名称一致だけでは一般ユーザも含まれるため,本研究ではSNSの投稿文章とプロフィール情報に基づき,機械学習によりPOI公式アカウントを判定する方法を提案した.従来研究で用いられていたBag-of-Wordsに加え,POI固有特徴量(場所情報,営業時間など),知名度に関する特徴量(フォロワ数など),プロフィール画像特徴量を利用する.Bag-of-Wordsを利用した手法と比較し有効性を確認した.

 本研究では,収集フェーズにおけるSNSと地理情報との紐付けから活用フェーズにおける情報検索や施設推薦などの行動支援を実現する方法論を提案した.
 


 
 (2018年5月28日受付)
取得年月日:2017年9月
学位種別:博士(工学)
大学:東京大学



推薦文
:(モバイルコンピューティングとパーベイシブシステム研究会)


本論文では,ユーザの行動支援を目的として,マイクロブログの投稿に対して位置情報を紐付けるための手法,Twitterの時空間検索を高速に行う手法,ならびにユーザの興味に応じたスポット情報推薦手法を提案しており,本研究会の研究内容を反映した実用性・将来性の高い研究として推薦する. 


研究生活


入学当初,業務でTwitterのデータ分析や新サービスへの応用を行っており業務に近いということで研究テーマを設定しました.社会人博士は研究時間の確保が大変という話はよく聞きますが,その通りでした.加えて,入学当初は研究内容と業務が近かったのですが,卒業時点では業務がシフトしていて学業と業務の両立も大変でした.ただ,指導教員の松尾先生や副査の先生方の的確な助言や,私の周りでは社会人博士経験者が職場に複数在籍していて周囲からの理解が得やすい環境で,その点は恵まれていました.研究生活では,所属していた研究室では現在ほど深層学習が注目される以前から研究が盛んに行われており,研究室メンバの発表を聞いて基礎的な知識を得ることができ,現在の研究に役立っています.今後は,博士論文で取り組んだ自然言語処理や位置情報解析に加えて,スマートフォンなどで得られるセンサ情報も活用して人々の日常生活を支援する行動支援技術を実現していきたいと思います.