スマートホーム向け有線/無線相互補完通信に関する研究

 
遊佐 直樹
(株)メガチップス 画像処理技術開発

[背景]センサネットワークによる情報の利活用
[問題]センサネットワーク構築のハードルが高い
[貢献]安価に安定したセンサネットワーク構築が可能


 近年のセンサの小型化に伴い,無線ネットワークに接続された人感や温度センサなどから構成されるセンサネットワークに対する注目が集まっている.センサネットワークからの情報を活用することで,室温等の見える化や,空き部屋の空調などの電力ムダを削減することが可能である.

 センサネットワークには無線通信が多く使われている.安価にネットワークを構築することができる一方,天井や壁などの障害物の影響を受けやすい.特にビルのような大きい建物において,センサからの情報を安定して収集することが難しく,センサネットワークによる効果を得ることが難しい.一方,光ファイバなどの信号線を使うことで安定したネットワークを構築できるが,通信インフラの整備されていない建築物の場合,その設置コストが増大してしまう.通信インフラの構築が不要な通信として電力線通信がある.電力線は電気を使用する建物ではすでに敷設されているため,低コストで敷設することができる.しかし,電力線通信には家電などからのノイズ等に通信が阻害されてしまう.

 本研究では,センサネットワークの安定性の向上に向けた,無線通信と電力線通信を組み合わせた相互補完ネットワーク(MCCP)構築の検討を行っている.これらの通信にはそれぞれ通信を阻害する要因が存在するが,互いの不得手とする通信環境をカバーし合うことで安定した通信を実現している.MCCPがセンサからの情報を中継することでセンサネットワーク全体の安定性を向上させる.

 まず,MCCPの経路決定には過酷な環境向けプロトコル(RPL)で使用されているDODAGルーティングを使用している.これは端末間の通信品質だけでなく,目的の端末までの品質全体を考慮した経路選択ができる.一方,複数の通信方法を持つセンサネットワークでは,どちらの通信を使用するか決定する必要がある.無線,有線通信ともに通信品質を示す指標はあるが,信号強度やエラー率など異なる指標のため,単純に比較することが難しく,そのままでは経路決定に使用できない.そこで,複数の通信媒体を持つ端末向けの指標を開発した.

 さらに,無線,有線通信ともに人やモノの影響を受けやすく,通信状況の変化の激しい通信方法のため,適切な経路が変化しやすい.頻繁な経路変更は,更新のための通信が増えてしまうため,通信の衝突などを引き起こしやすい.そこで,通信環境の変化を監視,検出することで必要なときには早急な経路変更を実現した.

 MCCPの性能を確認するため無線とプロトタイプデバイスを開発し,上記の手法を適用し,校舎での評価を実施した.校舎は無線の届きづらい場所や,人の出入り,ノートPCなどの利用など,無線,電力線とも,通信を阻害する要因が多く,従来のセンサネットワークを構築することが難しい環境である.結果として本研究の手法を用いることで,約62%であったセンサネットワークの到達率が約86%まで向上し,より安定した情報の収集ができることが確認できた.
 
 
(2018年5月31日受付)
取得年月日:2017年9月
学位種別:博士(情報学)
大学:静岡大学



推薦文
:(コンシューマ・デバイス&システム研究会)


本研究は,電力線通信と無線通信といった異なる通信品質を持つ通信路を組み合わせた相互補完通信を用いてスマートホーム向け有線/無線相互補完通信を実現する手法を研究し,約62%であった実環境における通信到達率を約86%まで向上できることを示し,多様なIoTシステムにおける効果的な通信手法として期待できる.


研究生活


本研究の遂行に当たり,ご指導いただいた峰野博史先生を始め,ご指導およびご協力いただいた研究室内外の皆様に感謝いたします.検討していたアイディアが期待より悪い結果だったりと困難も多くありましたが,国内外での発表など充実した気持ちで研究に取り組めました.この経験をもとに,今後もセンサネットワークの普及に貢献できるよう精進していきます.