ベンダー非依存型EMSにおける水平分離アーキテクチャの研究

 
村上 隆史
パナソニック(株)主幹

[背景]EMSを構築することで高効率なエネルギー利用が重要
[問題]従来の垂直統合型のEMSでは他社機器/サービスとの連携が困難
[貢献]水平分離型EMSによりさまざまな事業者/技術者が参画可能


 機器の製造ベンダーに依存することなく,IoT化した機器(コントローラ,省エネ機器,創エネ機器,蓄エネ機器)同士を連携することによって,エネルギーの有効的な活用を実現するエネルギーマネジメントシステム(EMS)の普及に向け,「ベンダー非依存型EMSにおける水平分離アーキテクチャの研究」を実施した.

 従来,特に業務用においては,特定のベンダーの機器やサービスで構成する垂直統合型のシステム構築が一般的であったことに対し,さまざまなベンダーが事業参画可能な水平分離型のアーキテクチャを提案するとともに,このアーキテクチャを支える技術を確立した.

 一点目は,コントローラや創・蓄・省エネ機器などのIP化・IoT化を容易に実現する機能を定義した「IoT通信技術(ISO/IEC 14543-4-3,ECHONET Lite)」を策定し,標準化提案のための仕様書を作成した.その仕様を元に標準化(国際標準化含む)を推進し,開発する技術者やベンダーの増加を実現した.二点目は,業務用のシステム機器のIoT化対応を可能とする「システム機器グループ管理技術(IEC 62394 Ed.3,機器オブジェクト詳細規定)」の研究開発を実施した.その結果についても仕様書を作成して標準化(国際標準化含む)を推進し,制御対象となるシステム機器の増加を実現した.これらの成果を活用し,水平分離アーキテクチャに基づいたベンダー非依存型エネルギーマネジメントシステム(Vender-Independent type Energy Management System: VIEMS)を設計し,VIEMSを実際の小型小売店舗へ導入した.IoT対応機器が少ないVIEMS導入当初は自動制御と手動制御とのハイブリッド制御を実施し,徐々にIoT対応機器への入れ替えを実現することで,スモールスタート可能なエネルギーマネジメントシステム導入を実現した.

 以上の研究成果を通じて,「ベンダー非依存型EMSにおける水平分離アーキテクチャ」として以下の事項を整理提示した.研究開発,仕様検証,標準化(国際標準化の推進含む)を通じて,「IoT通信技術」及び「システム機器グループ管理技術」を確立したことで,「技術者,ベンダーの増加」,「制御対象機器の増加」,「スモールスタートでのシステム導入」を実現した.そして,「垂直統合型のエネルギーマネジメントシステム」から「水平分離型のエネルギーマネジメントシステム」への転換が可能になり,特定のベンダーに依存することなくエネルギーマネジメントシステムを構築することが可能になったことを示すとともに,エネルギーマネジメントシステムの普及が期待できることを提示した.

 今後の展開として,ベンダー非依存型エネルギーマネジメントシステム(VIEMS)のさらなる展開に向けた検討事項として,「システム導入の容易性の改善による横展開の加速」,「AIとIoT機器(ECHONET Lite機器)との連携によるソリューションの改善」,「VIEMSの対象領域の拡大」,「国際展開」などを推進することで.エネルギーマネジメントシステムによる高効率なエネルギー利用を実現し,社会貢献を果たしていく.
 

 
 
(2018年5月31日受付)
取得年月日:2018年3月
学位種別:博士(工学)
大学:神奈川工科大学



推薦文
:(コンシューマ・デバイス&システム研究会)


本論文は,さまざまな事業者が後発でも参入可能なベンダー非依存型のエネルギーマネジメントシステムを実現するためのアーキテクチャの研究結果をまとめたものであり,実社会においてエネルギーマネジメントシステムの市場拡大とともにエネルギー問題の解決に寄与する価値ある研究成果であり,博士論文速報に推薦する.


研究生活


松下電器産業(株)(現,パナソニック(株))に入社以来,白物家電,設備系家電,センサ系,AV家電などを対象としたさまざまなホームネットワークシステムに関する研究開発,標準化活動に従事してきました.この業務を通じて10年以上前よりお世話になっている一色先生よりお声がけいただいたことがきっかけで,博士課程へのチャレンジを決めました.

通常業務と大学の博士課程との両立は,当初の目論見よりかなりハードな一面があったのは事実ですが,大学での研究,論文執筆などを通じて,「課題は何か」,「何のために取り組んでいるのか」ということをじっくりと考慮する習慣づけをするようになり,論理的な思考が強化されたのではと考えております.

指導教官の一色正男先生を始め.各先生方のご協力,ご指導のおかげで,無事に博士課程も修了することができました.本研究を通じた経験,ならびに成果を今後よりいっそう社会に貢献していくためにも,ますますの精進を重ねていきたく思います.