A Study on Sustainability of Open Source Software Projects

(邦訳:オープンソースソフトウェアプロジェクトの持続性に関する研究)
 
山下 一寛
(株)富士通研究所

[背景]OSSは広く用いられ始めたが導入を躊躇する企業も多く存在する
[問題]OSSの持続可能性の定量的な計測
[貢献]新たなメトリクスの導入とその効果の実証的評価


 オープンソースソフトウェア(Open Source Software,OSS)は,そのライセンスに従って,自由に誰に対してもそのソースコードを学習,変更,頒布することのできるソフトウェアである.企業にとっては,同様の機能を持つソフトウェアを開発せずにOSSを利用することにより,ライセンス料や人件費等のコストを削減できるなどの利点がある.そのため,個人のみならず,多くの企業でもOSSを利用することが増えている.しかし,その一方でOSSの利用をためらう企業も多く存在する.その理由の一つとして,導入を検討しているOSSプロジェクトがいつまで持続するか分からないという点が挙げられる.そのため,本研究では,人口流動調査に用いられたメトリクスをOSSプロジェクトに導入し,持続可能性の計測に用いた.

 本研究では,持続可能性を2つの側面から考える.「プロジェクトが持続的に成長するための発展性」と「現在のプロジェクト体制が瓦解しないための組織的な安定性」の2つである.OSSの世界において,持続可能性は,プロジェクト単体ではなく,多数のプロジェクト群から構成される社会構造の側面から評価する必要がある.あるOSSプロジェクトが生き残るか否かは,他の競合プロジェクトの存在に影響されるからである.そこで,米国における州間人口流動調査に用いられているMagnet/Stickyという指標を導入し,OSSの持続可能性について大規模な実証的分析を行った.Magnet/Stickyでは,州間の人口流動を元にどの州が魅力的で人口を増やしているのか,またどの州が停滞しているのか,をマクロ的に捉えることができる.本研究では,州をOSSプロジェクトに置き換え,OSSプロジェクト間での開発者人口の流動を計測し,OSSプロジェクト群の持続可能性を分析した.Magnetは新規の開発者をプロジェクトに引きつける能力で発展性にあたり,Stickyはすでにプロジェクトに参加している開発者を引き止める能力で安定性にあたる.

 代表的な大規模OSSリポジトリであるGitHub上で開発されている1万5千件以上のプロジェクトのMagnet/Stickyを計測し分析した結果,MagnetとStickyの双方が高い場合,OSSプロジェクトが持続する可能性は非常に高く,双方が低い場合,高い確率で中断することが明らかになった.たとえば,Linux KernelプロジェクトなどがMagnetとStickyが共に高かった.一方で,CSSフレームワークであるBlueprintはMagnetとStickyが共に低く,実際に2011年以降開発が止まっている.また,新しい開発者は一部の限られたOSSプロジェクトにその多くを獲得されており,その分布は非常に偏っているという現象が明らかになった.新しい開発者を多く獲得しているOSSプロジェクトはその知名度が高いのみならず,新しい開発者が参加しやすいような開発上の工夫が行われている場合があることも分かった.一方で,持続的に貢献している開発者が非常に多いプロジェクトは,研究機関のプロジェクトである場合や,そのプロジェクトを利用している企業の開発者が貢献している場合などが見受けられた.


 
 
 (2017年5月25日受付)
取得年月日:2017年3月
学位種別:博士(情報科学)
大学:九州大学



推薦文
:(ソフトウェア工学研究会)


本論文は,Magnet/Stickyの指標を用いることにより,持続的に発展しているOSSプロジェクトとそうでないプロジェクトを上手く特徴づけられることを大規模な実証分析を通じて明らかにしたものである.今後,企業等でOSSを導入する際の判断指標の一つと成り得るものと期待される.


著者からの一言


本論文は,指導教員であった鵜林先生,亀井先生をはじめ,多くの方々との共同研究の成果に依っており,皆様に改めて深く感謝を申し上げます.今後も,博士課程において得た知識,技術を活かして活躍できるよう尽力したいと思います.