Study on Sensing Technology for Resident's Behavior Awareness in Home

(邦訳:宅内における住人の振る舞い認識に向けたセンシング技術に関する研究)
 
柏本 幸俊
KDDI(株)

[背景]宅内における住人の振る舞い認識システム実現の期待
[問題]普及が期待できるセンサを活用した高精度な認識システム確立に向けた基礎技術の確立
[貢献]宅内における住人の振る舞い認識システム実現につながる基礎技術の確立

 近年のユビキタスコンピューティング技術の目覚ましい発展によって,Resitent’s Behavior Awareness (RBA・宅内における住人の振る舞い認識)システムの実現が期待されている.RBAシステムを実現するには,(要件1)普及が期待されるセンサを活用し,(要件2)住人の振る舞いを高精度で認識することが重要である.本研究の目的は,この要件1・2を満たすRBAシステムの要素技術を開発し,RBAの普及に貢献することである.

 RBAを実現するには,(技術1)宅内におけるユーザの位置を推定する技術の確率,(技術2)宅内におけるユーザの行動を推定する技術の確立が特に重要である.加えて,(技術1)を確立するためには,建物の構造図を作成する技術の確立も重要である.これらの技術の確立に向けて,具体的に以下の3研究を実施した.

研究1:超音波距離計を付帯したスマートフォンを活用した屋内フロアマップ作成ツールの開発
宅内におけるユーザの位置を推定するには,建物の構造を示す屋内フロアマップの作成が必須である.本研究では,超音波距離計を付帯したスマートフォンを新たに開発し,ユーザが建物内で部屋の壁に沿って部屋を1周すると部屋のサイズと形状を手軽にかつ正確に測定できる技術を開発した.評価実験の結果,筆者が所属していた研究室エリアのフロアマップを10%以下の精度で測定できた.

研究2:床に貼り付けた振動センサを活用した宅内位置推定技術の開発
宅内におけるユーザの位置を推定するには,これまでカメラを活用した画像処理による技術や,スマートフォン内蔵センサを活用した慣性航法による技術などが提案されている.しかし,これらの技術は,(i)プライバシ侵害,(ii)常にデバイスを保持することによるユーザへの負担等の課題が存在する.本研究ではこれらの課題を解決するために,床に貼り付けた振動センサを活用し,ユーザが宅内で移動したときに生じる振動の種類などからユーザの位置を推定する屋内位置推定システムを開発した.評価実験の結果,ユーザの位置を90%以上の精度で推定できた.

研究3:人感・ドア開閉センサを活用した行動認識技術の開発
宅内におけるユーザの行動を推定するには,これまでカメラを活用した画像処理による技術や超音波位置センサで推定した位置よりユーザの行動を推定する技術などが提案されている.しかし,これらの技術は,(i)プライバシ侵害,(ii)常にデバイスを保持することによるユーザへの負担等の課題が存在する.そこで,本研究ではエナジハベスティング人感センサとドア開閉センサを活用し,ユーザの宅内での行動を認識するシステムを開発した.評価実験の結果,宅内で頻繁に発生するユーザの行動8種類を68.6%の精度で認識でき,既存研究に拮抗する性能でユーザの行動を認識できた.
 


 
 (2017年6月4日受付)
取得年月日:2017年3月
学位種別:博士(工学)
大学:奈良先端科学技術大学院大学



推薦文
:(モバイルコンピューティングとパーベイシブシステム研究会)


本論文では,宅内における居住者を対象とした実用性の高い位置推定および行動認識の手法を提案している.低コストな加速度センサや環境発電が可能な赤外線センサを利用することで,センサの設置やメンテナンスのコストを大幅に抑えつつ,精度の良い位置推定及び行動認識を実現しており,高く評価できる. 


著者からの一言


宅内向けにおけるユーザの振る舞いを認識する技術はIoTブームなどもありさまざまな認識手法が提案されています.しかし,多くが単に認識性能を追求したものが多く,どうやったら普及するのかということを重視した新たな認識手法を生み出すためにさまざまな試行錯誤を行いました.非常にチャレンジングなテーマながらも自由に研究させていただき,また留学やインターン,研究室運営を通じて人間としても大きく成長できました.主指導教員の安本教授をはじめ指導・アドバイスをいただいた皆様にこの場を借りて御礼申し上げます.博士論文の研究を通じて学んだことを糧に,企業人として情報通信技術の発展に尽力できるようさらに成長を続けてまいります.