次世代車載無線技術の交通マネジメント応用研究

 
坪井 務
名古屋電機工業(株) 海外事業推進室 室長

[背景]車載無線技術の展開と新興国交通への応用
[問題]新興国交通渋滞の把握および自然災害対策
[貢献]新興国交通流解析と車載無線の社会的応用


 無線技術の発達に伴い,車車間および路車間通信を可能とする自動車用通信技術としての次世代車載無線が2007年より本格開発され,国内で2015年の世界に先駆け商用化に踏み切った.一方広く普及している携帯電話用通信技術の発展は顕著であり,次世代車載無線技術との境界が見えにくくなっており,車載無線技術の将来性に不安が生じている.自動車分野に目を向けると,社会的利便性の反面,世界的に交通渋滞が問題となっており,特に経済成長の著しい新興国で深刻な状態を招いている.渋滞問題はさらに地球温暖化への影響も無視できない状況になっており,その対策は喫緊の課題となっている.

 本研究の対象となる次世代車載無線通信技術は先進国を中心に開発され,2012年には世界標準化に至っている.先の携帯通信技術との比較は産業界ではよく議論になるところであるが,どのようなアプリケーションで最適であるかの判断は,それらの仕様からでは困難となっている.そこで本研究において,対象となる通信技術に対して統一した評価手法を確立し,次世代車載無線技術の特長が具体的にどのように示せるかの検証行った.さらに,交通環境の悪化が激しい新興国への適用を考え,交通状態の定量評価に対する試みを行うことにした.

 具体的には,次世代車載無線通信技術と他の通信技術との比較を無線の到達距離(セル)最適設計手法を確立し,対象とする通信の特長を把握するとともに,車載通信技術の適用として設定されている交差点や信号機への応用をもとに,社会的価値のある展開を試みた.その一つとして,近年問題視されつつある自然災害に対する都市の強さ(レジリエンス)への応用を考え,公共交通機関のバス停への拡張を想定し,近い将来発生の危険性が問われている南海トラフ地震による津波対策を例として,バス停に設置された通信基地局を環境モニタの役割としての検討を行った.これには対象地域の通信可能範囲の空間的広がりを検討し,それらを空間カバー率として解析する手法を示した.対象都市としては危険性の高いある地方都市を例に具体的シミュレーションを行うことで,社会的価値の評価を実施した.

 また,新興国の交通流解析として,インドのある都市にて2カ月にわたる毎分の交通量データを14カ所にて測定し,トータル百万ポイントを超えるビッグデータの取得できた.このデータ解析から新興国特有と思われる交通特性(特性領域に境界線が存在)の発見と,これまでの交通工学で用いられる交通特性基本式を組み合わせることにより,初めて新興国の交通流の定量化に成功した.この新興国の交通の見える化により,新興国においても次世代車載無線通信技術を積極的に展開することで,よりリアルタイムな交通状態の把握が可能となり,それらの情報を市民に適切に提供することで,無駄な渋滞に巻き込まれる危険回避が可能となり,将来の交通渋滞緩和への道筋を示すことができたと考える.

 
 (2016年5月20日受付)
取得年月日:2017年3月
学位種別:博士(情報科学)
大学:愛知県立大学



推薦文
:(高度交通システムとスマートコミュニティ研究会)


坪井務氏の博士論文は,2007年より先進諸国を中心に開発が開始され,2015年には国内で世界に先駆け商用化を開始した次世代車載無線技術に関する研究を行ったものである.本研究の成果は,世界規模の課題である交通に関する社会的問題の軽減につながる可能性が高く,ここに大きな実用性を持つ論文として推薦する.


著者からの一言


車載無線通信技術検証における,南海トラフ地震に対する通信可能範囲を空間カバー率とする評価法を確立した.新興国交通解析で得たビッグデータは今後の研究に役立つものと考える.交通流解析の非圧縮性粘性流体平行平板モデル比較で,流体の層流と乱流境界が,交通の渋滞流と自然流に相当するという類似性の発見になった.