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小林 潤平 大日本印刷(株) |
[背景]もっと速く文章を読みたい
[問題]文章を読むときに発生していた過剰な目の動きの抑制
[貢献]目の動きをスムーズ化して速く読める日本語電子リーダーの開発
[問題]文章を読むときに発生していた過剰な目の動きの抑制
[貢献]目の動きをスムーズ化して速く読める日本語電子リーダーの開発
多くの情報が文字で伝達される現在,もし電子リーダーによって読み効率を高めることができれば,その効果の大きさは計り知れない.
読み効率を高める電子リーダーの設計にあたっては,人間の視覚特性に起因する,読書中の眼球運動を考慮することが重要である.人間の視野において,細かくはっきり見ることができる領域は,中心部分に限られる.人間の網膜は,中心部でもっとも解像力に優れ,周辺部では低下するという特徴をもつ.そして,解像力の高い中心部はとても狭く,中心から視角にして約2.5º離れると,視力は半分に低下してしまう.細かな文字の識別には中心部の解像力を必要とするため,視野の中心に収まらない長さの文字列を読むためには,眼球運動が欠かせない.
中心視野において文字を認識している注視状態は停留,次の停留点への移動運動はサッカードと呼ばれ,読書中は停留とサッカードが繰り返される.停留中には,中心視野で文字認識すると同時に,そのまわりの周辺視野で次の停留場所の選定を行う.単語単体の認知に最も適した停留場所は最適停留位置と呼ばれ,さまざまな言語において単語の中心付近であることが報告されている.もし,最適停留位置から外れた場所に停留すると,停留時間の増加や同一単語内で再停留が発生しやすくなる.したがって,効率良く読むためには,視点を最適な場所へ的確に移していくことが重要となる.
日本語文章において,読みに適した停留場所は文節単位とされる.英語のような単語間にスペースを有する言語では,もし単語間のスペースを除くと読み速度は30〜50%低下するなど,スペースによる境界情報が視点移動に対して重要な役割を担っている.一方,日本語文章では,漢字仮名が混合した文章の文節間にスペースを挿入しても読み速度は向上しない結果が報告されている.漢字仮名が混合する日本語文章においては,視覚的に目立つ漢字が視点移動の手掛かりとなるために,文節間へのスペース挿入は冗長であるとされた.
しかし,既存の日本語表記には,まだ改善の余地が残されている.日本語文章における1停留あたりの持続時間およびサッカード距離は,それぞれ約0.25秒および約5文字であることから,もしスムーズに次々と視点移動できれば,1分あたり約1,200文字の速度で読める可能性がある.一方で,日本語文章の平均的な読み速度は1分あたり500〜600文字といわれており,理想的な速度と平均的な速度は大きな差がある.この差が生まれる主な原因は,最適な場所へ的確に停留できないという,非効率な視点移動にあるとされる.すなわち,日本語文章においては,漢字仮名が混在していても的確な視点移動を促す新たな仕組みが必要とされていた.
そこで本研究では,人間の視知覚メカニズムにもとづいた文字レイアウトの工夫やスクロール操作の併用によって,文章を読み進める際の非効率な視点移動を改善し,読み心地や理解度を維持したまま,読み効率の向上をうながすような日本語電子リーダーの設計を試みた.視線検出装置を用いて読み効率の低下につながる目の動きを捉え,それらを改善するさまざまな表示方式を検討し,検証を重ねた.その結果,文節にもとづく改行位置の調整をはじめ,文節単位で文字ベースラインを階段状にずらす表示方式や,文節単位で文字そのものを左右に微振動させる表示方式など,文節単位を考慮した表示方式によって,日本語文章を読み進める際の非効率な視点移動を改善できることが分かった.そして,それらの仕組みを電子リーダーに組み込むことで,読み心地や理解度を維持したまま,読み速度を向上できることが分かった.
読み効率を高める電子リーダーの設計にあたっては,人間の視覚特性に起因する,読書中の眼球運動を考慮することが重要である.人間の視野において,細かくはっきり見ることができる領域は,中心部分に限られる.人間の網膜は,中心部でもっとも解像力に優れ,周辺部では低下するという特徴をもつ.そして,解像力の高い中心部はとても狭く,中心から視角にして約2.5º離れると,視力は半分に低下してしまう.細かな文字の識別には中心部の解像力を必要とするため,視野の中心に収まらない長さの文字列を読むためには,眼球運動が欠かせない.
中心視野において文字を認識している注視状態は停留,次の停留点への移動運動はサッカードと呼ばれ,読書中は停留とサッカードが繰り返される.停留中には,中心視野で文字認識すると同時に,そのまわりの周辺視野で次の停留場所の選定を行う.単語単体の認知に最も適した停留場所は最適停留位置と呼ばれ,さまざまな言語において単語の中心付近であることが報告されている.もし,最適停留位置から外れた場所に停留すると,停留時間の増加や同一単語内で再停留が発生しやすくなる.したがって,効率良く読むためには,視点を最適な場所へ的確に移していくことが重要となる.
日本語文章において,読みに適した停留場所は文節単位とされる.英語のような単語間にスペースを有する言語では,もし単語間のスペースを除くと読み速度は30〜50%低下するなど,スペースによる境界情報が視点移動に対して重要な役割を担っている.一方,日本語文章では,漢字仮名が混合した文章の文節間にスペースを挿入しても読み速度は向上しない結果が報告されている.漢字仮名が混合する日本語文章においては,視覚的に目立つ漢字が視点移動の手掛かりとなるために,文節間へのスペース挿入は冗長であるとされた.
しかし,既存の日本語表記には,まだ改善の余地が残されている.日本語文章における1停留あたりの持続時間およびサッカード距離は,それぞれ約0.25秒および約5文字であることから,もしスムーズに次々と視点移動できれば,1分あたり約1,200文字の速度で読める可能性がある.一方で,日本語文章の平均的な読み速度は1分あたり500〜600文字といわれており,理想的な速度と平均的な速度は大きな差がある.この差が生まれる主な原因は,最適な場所へ的確に停留できないという,非効率な視点移動にあるとされる.すなわち,日本語文章においては,漢字仮名が混在していても的確な視点移動を促す新たな仕組みが必要とされていた.
そこで本研究では,人間の視知覚メカニズムにもとづいた文字レイアウトの工夫やスクロール操作の併用によって,文章を読み進める際の非効率な視点移動を改善し,読み心地や理解度を維持したまま,読み効率の向上をうながすような日本語電子リーダーの設計を試みた.視線検出装置を用いて読み効率の低下につながる目の動きを捉え,それらを改善するさまざまな表示方式を検討し,検証を重ねた.その結果,文節にもとづく改行位置の調整をはじめ,文節単位で文字ベースラインを階段状にずらす表示方式や,文節単位で文字そのものを左右に微振動させる表示方式など,文節単位を考慮した表示方式によって,日本語文章を読み進める際の非効率な視点移動を改善できることが分かった.そして,それらの仕組みを電子リーダーに組み込むことで,読み心地や理解度を維持したまま,読み速度を向上できることが分かった.
☆1本稿の著作権は著者に帰属します.
(2016年5月31日受付)