ホームネットワーク監理技術と応用サービスに関する研究

 
美原 義行
NTTサービスエボリューション研究所 研究主任

[背景]さまざまな機器がネットワーク化され始めてきた
[問題]ネットワークが複雑で不具合の対応が難しい
[貢献]不具合個所の発見・対応を自動化


 昨今,多くの機器がホームネットワークに接続されている.機器がネットワークに接続されることで,機器同士が連携でき,また,サーバとも連携できるようになることで,ユーザにとって便利なサービスが生まれている.ユーザの暮らしをより豊かにするためには,ユーザの多種多様なニーズに応えられるよう,ホームネットワークを利用したサービスが多様化される必要がある.

 本研究では,ネットワークサービスにおいて共通的な機能を,サービスを提供する事業者(サービス提供事業者)に対して提供するサービス提供基盤を提案する.本論文では,ホームネットワークサービスの共通的な機能として,ネットワークサービス管理と,プライバシーを考慮した属性取得・ユーザログ利用を実現する手法について論ずる.これら機能を,ホームネットワークサービスを提供するサービス提供事業者に提供することで,サービス提供事業者にとっての開発が効率化し,運用も容易になり,より多くのホームネットワークサービスが提供されることが期待される.

 ネットワーク管理機能として,不具合発生時に不具合発生個所を切り分けるため,ネットワーク構成を特定することを目指した.構成の特定には各エンド端末を特定し,その後,各エンド端末までの経路を特定する必要がある.本論文では,ネットワーク接続しているエンド端末の機器名特定機能を設計した.各エンド端末がプロトコルに応答する際の特徴を利用することで機器名を特定可能とした.そして,各エンド端末までの経路を示すトポロジを特定に必要なMACアドレステーブルを取得するプロトコルHTIPを設計し,かつ,取得したMACアドレステーブルを利用して,トポロジを特定する手法についても設計した.次の共通的な機能である,プライバシーを考慮した属性取得とユーザログ利用手法では,まずホームネットワーク内の機器から世帯像を推定する手法について設計した.サービス提供事業者にホームネットワークを所有する世帯の属性を提供することが可能となった.次に,サービス提供事業者の要望から,プライバシーを考慮しながらスマートフォン内部にのみ蓄積される移動履歴を活用するルールを設計した.サービス提供基盤の対象領域を地域公衆無線LANに拡大することを考え,サービス提供事業者である自治体による観光客の商店街への誘導要望を実現するためのユーザログ利用ルールの設計を通して,ユーザログ利用ルールを汎用的に作成する方法を設計した.

 本研究では,ホームネットワークサービスの拡充に向けホームネットワークサービスの共通的な機能を提供することで,参入障壁が低くなると想定し,共通的な機能を設計した.現在まで,ネットワーク管理と属性把握機能を設計したが,今後も社会的背景やユーザニーズを踏まえて必要な機能を設計していく.

 

 
 (2016年5月25日受付)
取得年月日:2017年3月
学位種別:博士(情報学)
大学:京都大学



推薦文
:(コンシューマ・デバイス&システム研究会)


本論文は,ホームネットワークサービスにおいて共通的な機能をサービス提供事業者に対して提供するサービス提供基盤を提案し,共通的な機能として,ネットワーク管理と,プライバシーを考慮した属性取得ならびにユーザログ利用を実現する手法について論じており,本研究会のスコープに合致している.


著者からの一言


在学中に指導教授から繰り返し言われたことは,真理追求の姿勢です.研究分野を深掘ることができたこともプラスになったのですが,物事を抽象化して本質を導き出す,物事の考え方を学べたことが,何より自分にとって大きかったことです.博士号は,取得の活動自体に意味があり,成長させてくれるものだと思うので,進学をオススメします.