Register Files of Superscalar Processors for Area and Energy Efficiency

(邦訳:スーパスカラプロセッサのレジスタファイルの面積・エネルギー効率向上に関する研究)
 
山田 淳二
東芝メモリ(株) メモリ設計第一部

[背景]高性能プロセッサの面積効率・エネルギー効率が重要に
[問題]レジスタ・ファイル(RF)の回路面積・消費エネルギーが増大
[貢献]性能を落とすことなくRFの回路面積・消費エネルギーを大幅に削減


 プログラムの依存関係を解析し,命令の実行順序を入れ替えて並列実行するOut-of-Orderスーパスカラ・プロセッサ(OoO SSP)は,高性能プロセッサとして広く用いられている.近年では,OoO SSPは,スマートフォンなどにも搭載されており,その面積効率・エネルギー効率はより重要なものとなっている.

 また,マルチコア・プロセッサでは,面積効率・エネルギー効率は,性能向上のためにも重要となる.シングルコア・プロセッサでは,面積・エネルギーの削減により,コスト・エネルギーの低下のみが期待できるが,マルチコア・プロセッサでは,コア数の増加を通じて,同一面積でチップの最大性能を高めることもできる.

 OoO SSPでは,レジスタファイル(RF)が最も高コストなものの一つとなっている.RFは,データを保存する領域であり,OoO SSPでは,レジスタ・リネーミングにより,プログラムから見えているより多くのレジスタを使うことができる.動的なレジスタ割り当てにより,レジスタへの偽の依存が回避され,実行順序の効率的な入れ替えが可能となる.RFは多ポートSRAMで構成され,面積はポート数の二乗に比例する.RFとして必要なポート数は,同時実行命令数に比例する.高性能なOoO SSPでは同時実行命令数を増大させる必要があり,また,in-flightな命令の増加によって必要なレジスタの数もより多くなる.したがって,高性能なOoO SSPでは,RFが巨大となる課題があった.

 本研究では,通常の多ポートSRAMではなく,多バンクのSRAMを使ったMultibanked Register File(Multibank RF)を用いることで,低コストで高性能のRFとする手法を提案した.この場合,バンク・コンフリクトによる性能低下が課題となる.過去の研究では,Multibank RFによる面積・消費エネルギーの削減には成功したものの,バンク・コンフリクトによる大きな性能低下を招くか,バンク・コンフリクトを回避するための巨大な制御回路が必要となっていた.

 本研究では,OoO SSPの命令パイプライン上で,RFへのアクセスに2ステージを割り当て,いずれかのステージでRFにアクセスできればよいとした.これが,本研究の最も重要なポイントであり,2ステージのいずれかでRFにアクセスできればよいとする場合,1ステージのみの場合と比べて,バンク・コンフリクトによるストール確率は大きく低下する.

 上記の提案について,シミュレーションによるIPC(クロックサイクルあたりの実行命令数)の計測と,CADツールによる論理合成による設計を行い,回路面積および消費エネルギーの評価を行った.その結果,従来のRF,また,他のRFの面積削減手法と比較しても,IPCをほとんど落とすことなく,回路面積と消費エネルギーを大幅に削減できることが示された.


 
 
 (2017年5月29日受付)
取得年月日:2017年3月
学位種別:博士(情報理工学)
大学:東京大学



推薦文
:(システム・アーキテクチャ研究会)


Out-of-orderプロセッサのレジスタ・ファイル(RF)は,面積・エネルギー効率上の制約となっている.本論文は,RFをマルチバンク化して小型化した際のバンク・コンフリクトによるIPC低下を抑えるシンプルかつ効率的な方式を提案しており,今後のプロセッサの効率向上に多大な貢献が見込まれる.


著者からの一言


在学中は,東京大学の坂井教授,NIIの五島教授,名古屋大学の塩谷准教授をはじめとして,研究室内外の多くの方に研究へのご協力をいただき,博士号を取得することができました.この場をお借りして深く御礼申し上げます.