Reliability-driven High-level Synthesis Algorithms for Distributed-register SoC Architectures

(邦訳:レジスタ分散型集積回路アーキテクチャを対象とした信頼性指向の高位合成に関する研究)
 
川村 一志

日本学術振興会 特別研究員(PD)/早稲田大学 戸川研究室

[背景]微細化・多機能化を続けるSoCの設計技術
[問題]信頼性の低下,回路遅延に占める配線遅延の増加
[貢献]高性能・高信頼性を担保する高位設計技術の確立


 半導体の微細化技術の進歩により,電子機器は小型化・高性能化を続けてきた.現在では,CPUやGPU,画像/音声処理ユニット,通信制御ユニットなど,一連の機能ユニットを1チップに収めるSoC(System on a Chip)があらゆる電子機器に組み込まれ,ますます小型で高性能な電子機器が実現されている.SoCに搭載される機能ユニットは今後も多様化していくことが予想され,“SoC設計にかかるコストをいかに削減するか”を考えることが重要となる.効率的なSoC設計を実現するため,CやC++等で記述されたプログラムからハードウェアの回路記述を自動合成する「高位合成」は近年の主要技術のひとつとなっている.

 医療や社会インフラなどの場面で利用されるSoCにおいて,信頼性は最も重要な設計指標のひとつである.半導体素子の微細化はさまざまな恩恵をもたらす反面,SoCの信頼性を低下させる.SoCの信頼性を低下させる要因として「ホットスポット」と呼ばれる局所的・集中的な電力消費に伴う発熱,「ソフトエラー」と呼ばれる放射線粒子衝突に起因する一時的な回路の故障があり,対策が求められてきた.これを受け,ホットスポットやソフトエラーに対処する高位合成の研究が国内外で進められ,ホットスポットの発生しにくい回路やソフトエラーに起因する故障を検出しセキュアに動作する回路が合成可能となった.

 半導体素子の微細化に伴う別の問題として回路遅延に占める配線遅延の増大がある.従来,回路遅延の大部分はトランジスタのON/OFFにかかわるゲート遅延であったため,多くの高位合成技術はフロアプランを考慮に入れず配線遅延を無視して回路を合成していた.しかし,配線遅延の影響が大きい現在,配線遅延を無視した高位合成では配線遅延のために過剰な遅延マージンが必要となり,動作速度が著しく劣化する.これに対し,近年国内外で研究が進められている「レジスタ分散型SoCアーキテクチャ」を導入した高位合成技術は,回路の分割とフロアプランにより高位合成時に配線遅延を見積もり,配線遅延の影響を抑えた高速な回路を合成可能である.

 本研究では第一に,レジスタ分散型SoCアーキテクチャを対象とした熱考慮高位合成手法を確立し,従来のレジスタ分散型SoCアーキテクチャを対象とした高位合成手法と比べて動作速度を劣化させることなくホットスポットの発生を抑えた回路を合成する.筆者が提案する高位合成技術は,高位合成時のフロアプランから配線遅延に加えてホットスポットを見積り,ホットスポットの発生を抑える.博士論文中の計算機実験結果より,従来に比べて最大15.5%ホットスポットの温度削減が達成された.

 本研究では第二に,レジスタ分散型SoCアーキテクチャを対象とした耐ソフトエラー高位合成手法を確立し,従来の耐ソフトエラー高位合成手法と比べて動作速度を劣化させることなく低い回路面積オーバヘッドでソフトエラーに起因する故障を検出可能な回路を合成する.筆者が提案する高位合成技術は,高位合成時のフロアプランから配線遅延に加えて故障検出のために必要な回路の面積を見積り,その面積オーバヘッドを最小限に抑える.博士論文中の計算機実験結果より,従来に比べて最大47%回路の面積削減が達成された.
 



  レジスタ分散型SoCアーキテクチャを導入することで高位合成時に見積り可能になる情報
 
 (2016年6月6日受付)
取得年月日:2016年3月
学位種別:博士(工学)
大学:早稲田大学



推薦文
:(システムとLSIの設計技術研究会)


本論文は,レジスタ分散型アーキテクチャを対象とした熱やソフトエラー等を考慮した高位合成手法を提案している.核となる高位合成アルゴリズムでは,配線遅延を高精度に見積り,マージンを排除することにより,高性能な回路を実現している.革新性も高く,今後の研究の発展も期待できるため,SLDM研究会として推薦する.


著者からの一言


博士論文の執筆は,これまでの研究をまとめ上げるということで,非常に骨の折れる仕事でありましたが,戸川望教授をはじめとする指導教員の先生方,研究室メンバに支えていただき無事に学位を取得することができました.心より感謝申し上げます.半導体分野の研究は流行り廃りが激しいため,常に時代の最先端を行けるよう研究を続けていきたいと思います.