User Interfaces and Data Analysis on Digital Handwriting Environment

(邦訳:デジタル手書き環境におけるユーザインタフェースとデータ解析手法に関する研究)
 
浅井 洋樹
(株)NTTドコモ

[背景]コンピュータを利用したデジタル手書き環境の普及
[問題]IT技術の利点を活用した手書きアプリケーション
[貢献]デジタル手書き環境のUI技術や教育アプリケーションの提案


 紙のように持ち運べて操作性に優れたタブレット端末が普及し,教育やビジネスでの利用が進む中,以前より紙面上で行われていた作業をタブレット上でも行う要求が増大している,しかしタブレット上での情報入力手段であるソフトウェアキーボードは,図の書き込みや電子ドキュメント上への自由な書き込みといった用途には適さない.そこでタブレット端末でも紙に対する情報入力手段であるペンを再現した入力装置を利用するデジタル手書きが注目されており,データ処理が可能であるコンピュータの利点を活用したデジタル手書き環境におけるアプリケーションが求められている.

 本研究では,デジタル手書きによって生まれたオンライン手書きデータから有用な情報を抽出するデータ解析技術とそれを実現するための入力インタフェースを提案した.本研究の具体的な貢献となるポイントは次の2点である.

1.手書きアノテーション認識モデルとそのインタフェース
 コンピュータ上でペンを扱う主なアプリケーションとして,PDFといった電子ドキュメント上にペンで情報を書き込む手書きアノテーションが挙げられる.本研究では,これまでに行われてきた基礎的な手書きデータの処理技術を踏まえ,手書きアノテーションの支援およびデータ可用性向上の基盤となる手書きアノテーション認識モデルを提案した.また,本モデルを使用したアプリケーションとして,手書きアノテーションを支援する知的フレームワークと情報検索時に有効な手書きノートの要約スニペットを提案し,要約スニペットを利用した手書きノートの情報検索では,目的の情報を発見するまでの時間が軽減されたことを確認した.

2.オンライン手書きデータからの情報抽出手法
 コンピュータ上で扱うことが可能な筆記データ(オンライン手書きデータ)は紙面上に現れる筆跡に加え,時系列や筆圧,筆記速度といった目に見えない付加情報が得られる.本研究では,オンライン手書き情報から新たに得られる目に見えない手書き情報を活用し,有効な情報を抽出する手法を提案した.ここで提案した情報抽出手法は2点あり,1点目は教育環境における学習者のつまづき検知である.学習時のオンライン手書きデータを取得し,解析することで指導に必要となる学習者のつまずきを検出する手法を提案した.2点目は記憶度推定である.漢字や英単語といった暗記学習時のオンライン手書きデータを取得し,反復学習が必要と考えられる,1週間後に忘却してしまうような未定着記憶の検知を行う手法を提案した.

 (本研究は早稲田大学在籍時の成果であり,現職の(株)NTTドコモとの関連性はございません)
 


 

 (2016年5月15日受付)
取得年月日:2015年12月
学位種別:博士(工学)
大学:早稲田大学



推薦文
:(データベースシステム研究会)


本博士論文は,コンピュータを利用した手書きである「デジタル手書きデータ」を解析することにより,学習者のつまずき可視化や記憶度推定といった,従来にない応用領域を開拓している.電子ペンやタブレットPCの普及に伴い,同解析手法の重要性が急速に高まることが期待され,「大きな将来性を持つ研究」として推薦する.


著者からの一言


世間からたびたび期待を寄せられたものの,爆発的普及に至らなかったデジタル手書き技術ですが,この世界に一石を投じたい一心で研究を進めました.残した課題も多く,悔しい気持ちもありますが,博士論文としてまとめることができてよかったです.指導教員である山名早人教授をはじめ,お世話になりました皆様にこの場を借りて御礼申し上げます.