女性の美しさを支援するユビキタスコンピューティング

 
小室 真紀
(株)スイッチサイエンス 技術広報

[背景]女性の美容に対する歴史的な挑戦と,昨今のユビキタスコンピューティングの発展
[問題]ユビキタスコンピューティング技術を用いた女性の美の支援
[貢献]女性の美容という領域とユビキタスコンピューティングの領域を結びつけた点


 多くの女性は美しくありたいと願っている.美しさを追求する女性の歴史は長く,古代エジプト時代から現代に至るまでさまざまな美の基準が登場している.現代では,自分自身の美しさを追求することは社会生活におけるマナーのひとつであると同時に,個性の表現方法のひとつにもなっている.このような美の歴史に伴って,さまざまな分野において女性の美を支援するアプローチがなされている.

 本研究ではまず,女性が憧れる美しさについて分類/整理を行った.美しさには大きくわけて「内面の美しさ」と「外面の美しさ」の2つが考えられ,さらに外面の美しさは「装飾美」と「素材美」の2つの観点から整理することができる.装飾美/素材美それぞれ中から,本研究では特に「化粧を施すことによって得られる美しさ」と「素肌の美しさ」に着目した.化粧やスキンケアを支援する手法として,近年ではインターネット上に美容に関するSNSやYoutubeを用いた美容情報共有などが行われている.加えて,シミュレーション技術や画像解析技術を用いた美の支援も試みられている.本研究ではこれら既存の支援手法をふまえ,新たにライフログ技術を用いた支援手法を提案した.新たな支援手法のコンセプトは以下の2点である.
  • 日常の美容行動になじむ支援
  • ユーザ個人の美に適した支援
 この2つのコンセプトを実現する具体的なアプローチとして,「Smart Skincare System: ライフログを用いた遠隔美肌カウンセリングシステム」と「Smart Makeup System: ライフログを用いた化粧支援システム」という2つのシステムを提案した.

 「Smart Skincare System: ライフログを用いた遠隔美肌カウンセリングシステム」は,肌状態に関連するライフログを取得し,それを美容の専門家と共有して適切な診断とアドバイスを行うことで,美しい肌を保つことを支援するシステムである.多くの女性がスキンケアをする際に用いる化粧台にカメラやディスプレイを埋め込み,持ち歩きの簡単なキーホルダー型のデバイスでライフログを取得することで,日常の美容行動になじむ支援を行うことができる.また,肌状態に関連する要素を日常的/継続的に管理し,専門家に診断/アドバイスしてもらう事で,ユーザ個人の美に適した支援を行う事ができる.

 「Smart Makeup System: ライフログを用いた化粧支援システム」は,化粧の出来上がりに関連するライフログを取得し,インターネットを介して一般の女性同士で共有し合うことで,化粧を支援するシステムである.ノートパソコンを用いた現実的でコンパクトな実装と,化粧を行った流れでライフログを取得できるようなシステム設計によって,日常の美容行動になじむ支援を行う事ができる.また,他者とのインターネットを介したコミュニケーションを通して,ユーザ個人に適した美容情報を素早く/簡単に収集できることで,個人の美に適した支援を行う事ができる.
 
 (2013年7月3日受付)
取得年月日:2013年3月
学位種別:博士(理学)
大学:お茶の水女子大学



推薦文
:(ユビキタスコンピューティングシステム研究会)


「化粧を施すことによって得られる美しさ」と「素肌の美しさ」に着目し,ライフログ技術を取り入れた新たな美の支援手法に関する研究である.日々のメイクアップデータに基づいてメイクアップ行為を電脳強化する鏡台システムを提案し長期の評価実験が行われた.女性の視点を活かしたユビキタスコンピューティングの可能性を示した.


著者からの一言


博士論文では,それまで着目されていなかった女性の美とユビキタスコンピューティングを結びつける研究を行いました.女性ならではの感性や発想というのは,特に情報科学の分野においては発展途上であると感じます.私の自由な発想を受け入れ,指導して下さった椎尾一郎教授と塚田浩二准教授には深く感謝いたします.