A Study on Design and Development Support for Cooperative Wireless Sensing Systems

(邦訳:協調型ワイヤレスセンシングシステムの設計開発支援に関する研究)

 
森 駿介
(株)日立製作所 横浜研究所 研究員

[背景]ワイヤレスセンサーネットワークやモバイル端末による協調型センシングのサービス応用を促進
[問題]センシングシステム全体の仕様と個々のセンサノードプログラム仕様の間のギャップ
[貢献]センシングにおけるノードやシステムの振る舞いの抽象化による開発の容易化


 近年,ワイヤレスセンサネットワーク(WSN)およびモバイル端末をセンサとして用いるモバイルセンシングは,実世界の現象をモニタリングする重要な技術として注目されている.しかしセンシングシステムは,多数のセンサノードの協調的な振る舞いを,各センサノード上で動作するプログラムの集約によって実現する必要があり,その開発は容易ではない.そこで,センシングシステムの開発を包括的に支援する開発支援環境の設計による問題の解決に取り組んだ.システム全体の抽象的な振る舞いを設計し与えるのみで,プラットフォームやシミュレータに対応した各ノードの振る舞いのコードを得られる開発環境の実現のため,以下の3つの課題に取り組んだ.

 まず1つ目の課題として,ネットワークレベルのプログラミングおよび性能評価を支援する開発支援環境D-senseの設計を行った.多様なタイプのプロトコルの実装を容易かつ簡潔に可能とする,既存のルーティングプロトコルの特徴の分析から抽出した処理をAPIとして提供する.また,APIを用いた記述からセンサノードで実行可能なコード,およびシミュレータ用コードへ変換を行うトランスレータ群を提供することにより,APIを用いたアルゴリズムの記述を作成するのみでシミュレーションおよび実環境における性能評価を支援する.

 2つ目の課題として,アプリケーションレベルの要求からノード仕様を自動で生成することによりWSNの協調アプリケーションの設計開発を支援する環境を設計した.時間,位置,センシングデータなどの実世界に基づく条件と条件が満たしたノード群が実行する処理を定めたアプリケーション全体の動作仕様によってWSNのプログラムを可能とする.提案環境は,与えられた動作仕様をもとに,条件判定や通信のためのモジュールなどを含むノードプログラムを導出することで,センサノードの詳細や実際の配置などを意識せずに複雑な協調プロトコルを含むセンシングシステムの開発を可能とする.

 3つ目の課題として,クラウドベースのモバイルセンシングを支援するミドルウェアの設計を行った.モバイル端末上のアプリケーションとサーバ側のモジュールからなる提案ミドルウェアは,端末のモビリティを管理し,モバイルセンシングを実現する.時間,位置,センサデータの特徴といった実世界の条件と処理の内容を規定したクエリを与えることで,モバイル端末に対するセンシングの実行のコマンドの送信,端末のリアルタイムな位置管理に基づいたタスクの割り当てやその変更などを行うことで,モバイルセンシングの容易な実行を実現する.

 本研究で提案したこれらの手法によって,センシングアプリケーションの全体仕様を用意すれば,そこからWSNおよびモバイルセンシングを実行できる開発環境の実現が期待できる.センシングを用いたサービス提供を行いたい開発者が,容易に意図通りのセンシングシステムを開発,管理,運用できる開発支援を提供することで,センシングシステムを用いたサービスの社会普及に貢献することが考えられる.


 
 (2013年6月15日受付)
取得年月日:2013年3月
学位種別:博士(情報科学)
大学:大阪大学



推薦文
:(モバイルコンピューティングとユビキタス通信研究会)


本論文は,無線センサーネットワークを実際に設計,設置する際のコストを削減することを目的とした統合開発環境D-senseの開発と,それを用いたノード協調環境モニタリングシステムを提案しており,今後のセンサーネットワークの実用化に大きく寄与するという観点から博士論文速報として推薦する.


著者からの一言


開発支援をテーマとした研究は,性能のような分かりやすい目標がなく,コンセプト検討や性能評価などにおいて苦心しましたが,ご指導頂いた先生方をはじめ,さまざまな方のご助言を頂き,学位を頂くことができました.大学院で取り組んだ研究の経験を,これからの研究開発においても生かしていければと思います.