集中管理された利用者用計算機の利便性向上に関する研究

 
髙田 真吾
(株)インターネットイニシアティブ

[背景]集中管理された計算機の利便性
[問題]集中管理下の利用者認証がもたらす利便性の低下
[貢献]計算機の集中管理と利便性向上の両立


 現在の集中管理された計算機システムでは,その利用者の層が広くなってきているにもかかわらず,集中管理の仕組みがその変化に対応できていない.そのため,情報リテラシや計算機利用のスキルの高い利用者であってもそれらの低い利用者に向けた計算機を利用しなければならないことが起こる.これは計算機システム全体としての利便性を低下させてしまう.

 本研究では,集中管理された利用者用計算機において利用者認証を強化することで計算機の利便性を向上させることを提案する.提案方式では,利用者認証を強化することで利用者のスキルに応じて計算機を利用可能とする.これにより,幅広い利用者層を持つ計算機システムであったとしても利便性を向上させることを可能にする.本研究では,集中管理された利用者用計算機の事例として,大学における重要な計算機である実習室に配置された計算機と図書館における蔵書検索用の端末を取り上げ,提案方式を評価する.

 まず,大学の計算機実習室に配置された計算機について考える.本研究では,スキルの高い利用者に対して,より高い権限を持ったOSを提供できるようにするため,集中管理された計算機上で,利用者と計算機の組み合わせに応じてOSの起動・終了を制御する仕組みを提案する.この仕組みにより,管理者が認めた情報リテラシや計算機利用のスキルの高い利用者に対して,より自由度の高いOSを提供することを可能とする.そのような仕組みを持つ起動・終了制御システムを実装し,利用者と計算機の組み合わせに応じた起動・終了制御を実現できることを示す.ここで,OSを提供する方法の1つであるネットワークブートシステムでは,OSの配信処理がボトルネックとなる.

 本研究では,このボトルネックをP2P方式のディスクイメージ配信システム(図1)により解消する.そのような配信システムを設計,実装し,従来のNFSによる方法と本手法での起動を完了するまでにかかる時間を測定する.その結果から,P2P方式を用いることで配信サーバのトラフィックを軽減し,起動を完了するまでにかかる時間を短縮できることを示す.

 


図1 P2P方式によるディスクイメージ配信システム概要


 次に,大学図書館における蔵書検索用の端末において,利用者認証を強化することにより利便性を向上させることについて述べる.利用者認証を強化することにより,大学の構成員は蔵書検索以外の目的にも端末を利用できるようになり利便性が向上する.その際に使用するアカウントとして,管理者が発行したユーザアカウントだけでなく,多数の認証システムを用いて認証を受けることができれば,より多くの来館者がWebアクセスを行うことが可能となる.本研究では,このような認証とアクセス制御を行う仕組みを提案する.この仕組みにより,利用者は自らが持つアカウントを用いて認証を行い,そのアカウントから提供される属性情報に基づいたアクセス制御ルールの下でWebアクセスを行うことを可能とする.そのようなアクセス制御システムを実装し,図書館の蔵書検索端末に適用し,その有用性を示す.
 (2013年6月12日受付)
取得年月日:2013年3月
学位種別:博士(工学)
大学:筑波大学



推薦文
:(インターネットと運用技術研究会)


本論文は,多数の計算機と多数かつ多様な利用者を持つ計算機システムにおいて利用者認証の強化により利便性を向上させるという,本研究会ならではのテーマについて述べている.また,この研究の一部は,本研究会が提案した論文誌特集号で採録された非常に有用性の高い研究であり,本研究会の研究活動を宣伝できる非常に価値のある研究である.


著者からの一言


本研究を進めるにあたり,ご指導ご鞭撻いただいた先生方だけでなく,筑波大学学術情報メディアセンターや附属図書館の皆様にご協力をいただきました.深く感謝いたします.今後はこの経験を活かし,インターネットを支えていけるよう努力する所存です.