A Method to Construct Devices for Converting Soft Objects as Interfaces

(邦訳:柔軟物をインタフェース化するためのデバイスの構成手法)

 
杉浦 裕太
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 訪問研究員

[背景]人間を取り巻く柔軟物のインタラクティブ化
[問題]柔軟物の特性を損なうことなく計測や制御機能を付加する必要性
[貢献]生活者の懐に長時間入り込む柔らかいインタフェースの実現


 本研究では,人間を取り巻く柔らかい日用品(以下,柔軟物)を人と情報環境をつなぐインタフェースとして扱い,温もりのあるサービスを展開していくビジョン「柔軟物コンピューティング」を掲げる.

 柔軟物は,素材の物理的な柔らかさや保温性と,それに伴う緩衝材としての役割や,形状や触覚的な生物らしさから所有者が愛着を抱く嗜好品としての役割を担っており,家庭に快適性を提供している.柔軟物は,こうした役割の多様性から身の回りにあふれていて,居住者に長時間に密着している存在である.

 我々は,この柔軟物を人間と情報環境がインタラクションをするためのインタフェースとして扱う.これによって,マウスやキーボードなどの従来の硬いインタフェース機器が入り込めなかった人間の指先よりももっと近い空間---人間の「懐」の空間にインタフェースを忍びこませることができ,日々の生活の中でユーザはコンピュータを意識的に操作せずとも長時間情報環境とのやりとりが可能となる.

 柔軟物コンピューティングを実現するためには,柔軟物に対して計測システムや駆動機構を適切な形式で組み込み,インタフェース化していくことが重要である.既存のセンサやアクチュエータは硬い素材によって構成されており,これらを柔軟物の特性を損なうことなく組み込むための方法が必要となる.

 そこで本研究では,柔軟物をインタフェース化するデバイスを構成する手法を提案している.この構成手法は,3つの設計要素で成り立つものである.1つめは,柔軟物を構成する素材特性や構造を利用した計測と制御をすることである.2つめは,電子機器の知識がない生活者でも柔軟物にデバイスを容易に組み込むことができるようにモジュール化をするということである.3つめは,モジュールを分散協調制御にすることで,形状や大きさが異なる柔軟物に対しても組み込むことができるようにすることである.これに従い構成されたデバイスは,既存の柔軟物に組み込むことができ,日常での人の身体動作を計測し,情報を提示可能なインタフェースに変換できるものになる.

 本研究では,この構成手法によって試作したデバイスを用いて,衣服,クッション,布団,ぬいぐるみなど,複数の柔軟物のインタフェース化に成功した.本論文では,さらに人間の懐から柔軟物までの身体距離に着目してインタラクションを設計し,実生活での利用シーンを描いた.

 
 
 (2013年6月14日受付)
取得年月日:2013年3月
学位種別:博士(メディアデザイン学)
大学:慶應義塾大学



推薦文
:(グループウェアとネットワークサービス研究会)


本論文ではフォトリフレクタなどの複数のセンサ値を統合して,接触位置および圧力を算出し,それを用いて柔らかいものをインタフェース化するアイディアとその実装事例が紹介されている.センサ値がどのように遷移するのかを解説し,またその特性を用いて新しいインタフェースデバイスを創造している.遊び心があり,着眼点の良い研究である.


著者からの一言


よく食べて,夜はきちんと寝て,身近な人とたくさん議論することで,長期戦の博士論文執筆を乗り切ることができました.指導教員である稲見教授をはじめお世話になった方々に,この場をお借りし心からお礼申し上げます.