「授業支援型ユーザインタフェース」とその応用

 
植木 泰博
ニュータイプシステムズ(株) 代表取締役

[背景]ICTを利用した教員と学生の教育と学習活動を統合的に支援
[問題]授業支援ユーザインタフェースの日本の教育環境でのユーザビリティ
[貢献]日本の教員の活動フローに必要なメニューのデザイン


 日本の高等教育において,教育の質の向上,学力向上,外部評価への対応が求められている.これら,教員,学生,組織が抱える問題に対して情報通信技術の活用が問題解決手段の1つとなる可能性がある.これらの問題を解決に資することを目的として,インターネット技術を利用して教員と学生の教育と学習活動を統合的に支援する「授業支援型e-Learningシステム」(Web-Based Coordinated Education Activation System,略称CEAS)を提案し開発を行った.CEASは,大学での対面型集合教育が毎回の授業を中心に運営されていることに着目し,「授業と学習のサイクル形成」支援を設計コンセプトにしている.この「授業」を中心とする設計コンセプトは従来のeラーニングシステムが「学習」活動の支援を中心においていたこととは異なり,CEASのシステムの特長を与えるものである.

 授業支援型e-LearningシステムCEASは関西大学はじめ他大学にも導入され大規模利用が進んだ.関西大学では2004年から全学規模の運用が開始され,利用講習会などを行うことなしに教員の間に広がり,2008年度には,年間760科目で専任教員238名,非常勤教員104名,学生17,770名がCEASを利用する状況になった.

 この利用者拡大の状況は,他大学において商用のeラーニングシステムを導入した場合の状況と異なっている.他大学では,利用拡大の講習会を開くなどの努力を行っているが普及が進まないという問題を抱えている.このような関西大学と他大学の利用状況の違いを認識する過程で,CEASは他のeラーニングシステムに比べなぜ教員の利用拡大が容易であったか,その理由を解明し知見を得る必要があると考えた.CEAS以外のeラーニングシステムは,主として北米の教育環境の中での利用を想定して開発されたシステムであることから,この違いをもたらしているのは教育環境を背景にしたシステムの使い方とシステムが提供するユーザインタフェースにあるのではないかと考えた.

 日本の教育環境での教員の特性やeラーニングシステムを利用する場合のユーザインタフェースを考察した.その結果,eラーニングシステムのユーザビリティとして他のeラーニングシステムのような機能中心のメニューと日本の教員の活動フローに必要な操作中心のメニューのデザインに違いがあり,システムのユーザインタフェースが異なることを明らかにした.

 結論としてCEASのユーザインタフェースの特徴を日本の教員に適合性の高いユーザインタフェースの要件として抽象化してまとめ「授業支援型ユーザインタフェース」と名付けた.

 「授業支援型ユーザインタフェース」は,日本の教育環境下でのeラーニングシステムのユーザインタフェースのデザインの指針を与える要件を規定している.
  • (要件A)各活動段階のユーザの活動と,それに必要な機能操作の集まりとが,ユーザインタフェースで分かりやすく提供されていること
  • (要件B)一覧的な情報の提示があること

 


  図1  授業支援型ユーザインタフェースの表現

 (2013年6月10日受付)
取得年月日:2013年3月
学位種別:博士(工学)
大学:関西大学



推薦文
:(教育学習支援情報システム研究会)


教育と学習を支援する情報システムが備えることが望ましい,ユーザインタフェースに関する研究である.現実に使われているシステムの好事例を分析検討し汎用的なデザイン指針を与えていること,ならびにシステム機能追加や新規システム開発への応用例を具体的に示していることから,大きな将来性・実用性があり推薦する.


著者からの一言


システムのユーザインタフェースは,使いやすさという数値として評価しにくく,開発側から顧客に示しにくいものです.CEASの開発を通じてユーザビリティを確保するために長期間にわたり改良と変更を行った結果としてようやくまとめられたという気持ちです.今後,ユーザ視点での設計・評価ができるように経験を活かしたいと思います.