ビジュアル表現のための画像メディアツールの構築

 
渡邉 賢悟
けん悟庵

[背景]昨今の表現メディアの多様化と画像の重要性の増加
[問題]画像生成を妨げる導入障壁
[貢献]多種分野における画像を用いた表現支援の提案と実践


 ディジタル機器・技術の進歩により,人々は豊富な表現手段を手に入れた.文字・言葉・画像・音といった多様なリソースと,それらを加工するツールを状況に合わせて選択することが可能になり,自己の表現方法は多様化した.しかし実際に表現に用いられるのは依然として文字・言葉が主であり,他リソースの活用は進んでいない.理由として文字・言葉以外のリソースを扱える人が限定されている点があげられる.中でも視覚を刺激する画像リソースは,表現の手段として重要性が高まっており,画像表現の活性化・コンテンツ制作への応用が望まれている.

 本研究では画像を用いた表現支援のためのツールを「画像メディアツール」と呼称し,画像表現の支援・活性化を目的としたツールの構築を目指す.ツールの実現にあたり,「画像表現の容易化」による画像利用の促進,「画像表現の効率化」による画像コンテンツの生産性向上,「新しい画像表現手法」による新たな画像表現需要の開拓,以上3つのアプローチを採用する.

 画像表現が特に求められる領域と需要を特定し,以下に示す5領域で画像メディアツールの構築を試みた.

 1つめに絵を描かない人に向けて,アナログ画材を模した描画ツール構築手法を提案した.アナログの描画特徴を表現する画材モデルを開発しこれを用いることで実際の画材に似た使用感を実現した.結果,ツール導入が容易になり,画像表現を行う新たなユーザが増加した.

 2つめにキャラクタのビジュアルデザインの際,絵を描かないプロデューサでもデザイン案を容易に作成できる画像コラージュツールを構築した.ビジュアルのアイデアが画像で表現されることでデザイナとの意思疎通をスムーズにすることができた.

 3つめに日本の2Dアニメーション制作における膨大かつ煩雑なエフェクト付与作業を画像処理で自動化するツールを開発した.エフェクトの中でも特に需要が高く,かつ作業負荷の大きいグラデーション表現の付与を効率化し,「夏目友人帳」などの実作品制作で運用実績を得た.

 4つめに,実測による3次元点群情報を用いて,新印象主義画家の点描理論に基づいた新たな画像表現手法を提案した.その手法と点群の空間情報を活かして3D点描画空間の移動を表現する画像ツールを試作した.3Dモデリングが不要な新たな空間表現手段を示す画像メディアツールを実現した.

 5つめに,上記の点描画法の解析をさらに突き詰め,作業負荷の大きい点描画を容易に描画できる手法を提案した.作成した描画ツールを用いることで大量の点描を短時間に描けるようになり,ユーザの画像表現の選択肢に「点描」を加えることができた.

 以上5つの領域を対象に画像メディアツール構築の手法を提案した.提案手法に従って各分野に必要とされる画像メディアツールを開発し,効果を検証することで画像表現の支援・活性化に有効であることを示した.状況に合わせた適切な画像表現の支援を行うことで,人々は画像を用いて自らを表現しやすくなった.文字・言葉と併せて,個々人のさらに豊かな表現追究に寄与することが期待される.


 
 
 (2013年5月14日受付)
取得年月日:2013年3月
学位種別:博士(メディアサイエンス)
大学:東京工科大学



推薦文
:(グラフィクスとCAD研究会)


学会からの受賞2件のほか,研究成果を実装した公開ソフトウェアが複数ある.中でも「ゆめいろのえのぐ」は50万ダウンロードを数え,広く一般の人々のビジュアル表現支援を実現した.また,本研究で開発されたアニメ制作支援ソフトウェアは,30を超えるTV アニメ,劇場アニメ作品制作での活用実績があり,産業界にも直接貢献した.


著者からの一言


絵を描くことが趣味であり,自分も含めた多くの人が絵作りを楽しめるようになればと思い,画像が主軸の本研究に着手しました.分野によって絵づくりに求められる要素が多岐に渡るので,画像ツールの在り様も多様性が必要であるという意識が得られました.この知見をもとに実用的なツール構築に役立てていきたいと考えています.