体験的な学習を取り入れた情報科学教育手法の研究


間辺 広樹
神奈川県立柏陽高等学校 教諭

[背景]情報科学教育の必要性
[問題]コンピュータサイエンスアンプラグドの導入と課題
[貢献]学習法の改善と適用範囲の拡大

 情報機器を安全に使うためには,それらがどのように動いているかという仕組みの理解が大切である.しかし,コンピュータの内部動作は表に見える操作とは違うため,その動きを想像することが難しい.そのため,平成15年度に必修化された高等学校の教科「情報」でも,情報科学の教え方についての試行錯誤が続いている.本研究では体験的な教育手法として知られるコンピュータサイエンスアンプラグド(以下,CSアンプラグドと記す)に焦点を当て,その評価と改善を通して情報科学教育手法への貢献を目指したものである.

 CSアンプラグドは,具体物の教具を使ったゲーム性の高い活動を通して情報科学に関する原理の理解を導く体験的な学習法である.ACM(アメリカ計算機学会)の策定したカリキュラムでは子ども向けの学習法として高く評価されている.扱っている内容のレベルは高いため,高等学校以上にも使える可能性がある.ただし,CSアンプラグドは高等学校などで使うことを想定して開発された学習法ではないため,

(1)理解を深めるための工夫
(2)身体的な活動へ支援
といった点の議論は十分に行われていなかった.本研究では,高等学校及び障害者職業能力開発校での実験を通して,それらの点を評価・分析した.

(1)理解を深めるための工夫
CSアンプラグドをどのように授業に使えばよいかという課題に対し,授業形態(グループ/個人)と教具(具体物/ソフトウェア)の違いが理解度にどのような影響を与えるかという観点で調査した.調査は高等学校の「アルゴリズム」単元を使い,授業条件を変えた6通りの授業と確認テストによる比較実験から分析した.その結果,オリジナルのグループ学習に個人学習を併用することで理解が深まることがわかった.また,アルゴリズムの試行回数と理解度には関係があり,特に試行回数が1回と2回との間で大きな差を生むことを明らかにした.これらの結果から,時間の制約がある授業において,どのようにCSアンプラグドを改善し,使えばよいかを提案することができた.

(2)身体的な活動へ支援
CSアンプラグドは身体を動かしながら学ぶ活動が多いため,身体的な事情で活動できないことがある.特に,教具を手で動かして学ぶ活動は巧緻性を欠いた学習者には困難である.そこで,CSアンプラグドの活動に想定された細かな動きを,コンピュータによる簡易な操作で実現する支援ソフトウェア教具を開発した.障害者職業能力開発校で実験した結果,巧緻性を欠いた上肢障害者であってもソフトウェア教具による支援によって本来と同等の動作及び学習内容の理解が得られることを確認した.

 以上より,高等学校以上でのCSアンプラグドの有用性を確認すると共に,理解を深めるための改善点と学習適用者の範囲拡大の指針を示した.本研究の成果により,情報科学教育の充実と発展が期待される.

 

 
 (2013年6月14日受付)
取得年月日:2013年3月
学位種別:博士(工学)
大学:大阪電気通信大学



推薦文
:(コンピュータと教育研究会)


世界的に評価の高い情報教育手法であるコンピュータ・サイエンス・アンプラグドの弱点を補強し,この教育手法をさまざまな学習者に対して広く導入することに成功している.高等学校や障害者職業能力開発校などにおいて,学習アクティビティをより効果的に行うための支援システムを開発し評価している.


著者からの一言


教員として高等学校で働きながらの研究生活でした.教育実践と教育研究との切り分けが上手くできずに苦しみましたが,兼宗進教授(大阪電通大)と並木美太郎教授(東京農工大)に育てていただき,博士論文をまとめることができました.今後も教育に関する実践と研究の両分野で社会貢献できるよう,精進していく所存です.