佐野 渉二 神戸大学大学院工学研究科 学術推進研究員 |
[背景]ユビキタスコンピューティングのための環境センシング
[問題]異なる目的や用途
[貢献]さまざまな形態の環境センシング技術
半導体技術,情報技術の発展により,実世界上のさまざまな場所やものに小型コンピュータを組み込んで使用するユビキタスコンピューティング環境が実現に向かっている.ユビキタスコンピューティング環境では,温度センサ,湿度センサ,照度センサなどの入力デバイスやLED,ブザーなどの出力デバイスを搭載した小型なコンピュータ(ユビキタスコンピュータ)を適切に制御することで,人々の行動を支援する.
ユビキタスコンピュータの個々の性能はそれほど高くないため,多数のユビキタスコンピュータを協調的に用いて処理することが求められる.ここで,多数のユビキタスコンピュータを用いるため,キーボードやタッチパネルなどで入力を行うのは効率よくなく,ユビキタスコンピュータが周囲の環境情報を自律的にセンシングして把握することが重要となる.本研究では,ユビキタスコンピュータのさまざまな用途や処理方式に対して環境情報をセンシングすることを目的とし,以下の3つに分類して研究を進めた.
まず,同じユビキタスコンピューティング環境内でも,それぞれのユビキタスコンピュータで異なる入力デバイスを用いる場合や,取得したセンサデータの処理が異なる場合を考えた.このような場合,各ユビキタスコンピュータはそれぞれに搭載されている入力デバイスや処理方法に合わせた処理を行う必要がある.そこで,設定を容易に行うためルール処理を用い,ユビキタスコンピュータごとのルールを定義し,使用できる環境を構築することで,環境センシングのためのユビキタスコンピュータの制御方法を容易に設定,変更できるようにした.
次に,広範囲に点在するユビキタスコンピュータで取得したセンサデータを1つのユビキタスコンピュータ(シンクノード)に集約して,ユビキタスコンピュータ全体の環境情報を把握する場合を考えた.ユビキタスコンピュータは一般的にバッテリ駆動であるため,ユビキタスコンピュータ間の通信に要する消費電力を低く抑えてセンサデータを集約することが求められる.そこで,ユビキタスコンピュータの位置とセンサデータに相関があるようなセンサデータを圧縮しながら集約する環境において,低消費電力でセンサデータを集約できるシンクノードの決定手法を提案した.
最後に,広範囲のセンサデータを収集するために,可動型のユビキタスコンピュータを用いる場合を考えた.この場合の一つの手法として,すべてのユビキタスコンピュータの経路を指定することは困難であるため,ある経路に沿って移動する,あるいはランダムに移動するユビキタスコンピュータを他のユビキタスコンピュータが追跡することが考えられる.そこで,追跡するユビキタスコンピュータの位置,および相対距離のみを用いて追跡する手法を提案した.
環境情報をセンシングするためのユビキタスコンピュータの制御技術は,ユビキタスコンピューティング環境を実現する上で,主要な基盤技術であると考える.本研究,および今後の研究の成果により,その実現の一助となれば幸いである.
(2012年9月18日受付)