藤本 実 東京工科大学メディア学部 助手 |
[背景]身体表現にメディアを組み合わせた表現手法の広がり
[問題]即時性と精度を兼ね備えたジェスチャ認識
[貢献]音・光・動きの3要素に関する身体拡張に基づくダンスパフォーマンスシステムの提案
舞台での鑑賞を目的とした芸術としてのダンスでは,身体の動作に加え,音楽・衣装・照明などの要素を組み合わせてダンスを作品として発表することで表現を行う.近年,コンピュータの進化にともない,身体表現に映像・音楽・照明などのメディアを組み合わせた表現手法が行われるようになってきた.例えば,従来のダンスでは,受動的に音楽に合わせて踊るだけであったが,ダンスによって能動的に音を出力するという表現が可能となった.また,静的であった衣装が電飾によって動的となり,身体に「光る・色が変化する」という要素が加わった.動作の習得においては,モーションキャプチャ技術により,動作の解析に基づいた習得方法が提案されている.
しかし,このようなコンピュータを用いた身体拡張には多くの問題点がある.例えば,人間の動作によって映像や音楽などのメディアを操作する場合,従来のジェスチャ認識では問題とならなかった即時性と精度を兼ね備えた認識が必要となる.
本研究では,ダンスを構成する上で重要である「音・光・動き」という3つの要素に着目し,身体拡張に基づくダンスパフォーマンスシステムにおいて,音や光というモダリティを増やすことで身体表現の拡張を行い,自身の動きを拡張することで身体動作の獲得を支援する.音による身体拡張として,ダンスを踊りながら音楽を演奏できるウェアラブルダンシング演奏システムを開発した.光による身体拡張として,身体表現と音・光を動的に組み合わせることが可能なウェアラブルLEDパフォーマンスシステムを開発した.動きによる身体拡張として,教示動作へのマッピングに基づく自己の動作画像を用いたダンス練習支援システムを開発した.
「音」を出力する要素を身体に加えるシステムでは,ウェアラブルコンピューティングにおいて重要であるジェスチャ認識に関して,認識速度と認識精度を兼ね備えた認識手法を提案した.提案した手法は一般のウェアラブルコンピューティングにおけるジェスチャ認識にも適応できると考えられる.また,「光」を人間の新しい要素として加えるシステムでは,様々な実運用から身体の動きに合わせた光の有効性を確認し,従来の振付とは異なる表現を可能とするシステムを構築した.最後に,「動き」による身体拡張を目的としたシステムでは,従来の熟練者の動きを見て技能習得を行う方法ではなく,自分自身が目標とする動作を行っている映像を技能習得に利用する新しい手法を提案した.この手法はダンスだけでなく,自らの身体的な特徴が大きな意味をもつといった場合や,単純に熟練者の映像を見ただけでは動作の習得が困難であるような動作習得においても有効であると考えられ,応用が期待される.
(2012年8月30日受付)