任意の物体形状に応じた多様な把持姿勢の自動生成に関する研究

 
京田 文人

シリコンスタジオ(株)


[背景]人間らしい動作や姿勢の自動生成が求められている
[問題]任意の物体形状に対する多様な把持姿勢の生成
[貢献]物体形状と把持姿勢の対応関係に基づいた把持姿勢データベース

アニメーション生成やヒューマノイドロボットの動作生成等の様々な応用分野において,人間らしい動作をコンピュータ上で再現するデータとして自動生成することが求められている.なかでも,人間の手は,非常に高い自由度を有した複雑な構造になっており,対象物を伴った様々な作業を行うために,その動作や姿勢のデータを自動的に生成するのは非常に困難である.本論文では,手の動作のうち最も基本的な動作である把持に着目し,把持対象となる物体の3次元モデルの形状に対して様々な把持姿勢を自動生成する手法を提案した.

人間は,1つの対象物に対して複数の把持姿勢を取ることができ,把持の方法は目的によってさまざまである.たとえば,手掌部全体を用いてしっかりと掴む,指先のみで摘む,あるいは単に指の間に挟む,などというように人間は多様な把持方法の中から,経験的に適切な把持方法を選択している.

これまで,ロボティクスの分野で行われて来た把持生成の研究においては,外力に対する安定性や可操作性など,主に機械的な評価基準から作業に適した把持を生成してきた.そのため,把持方法のバリエーションはあまり問われなかった.しかし,ゲームや映画などでキャラクタアニメーションを用いる場合には,場面に応じて多彩な把持方法を再現する必要がある.

コンピュタグラフィクスの分野においても,任意の形状に対して,人間の把持方法をすべて網羅した多様な把持姿勢を生成することは困難であった.たとえば,形状マッチングを用いて与えられた物体形状に最も適切な手形状をデータベースから検索する手法では,1つの物体形状に対して1つの把持姿勢しか生成できない.また,機械的にさまざまな把持姿勢を生成して最適化を行う手法では,手の持っている自由度が非常に高いため,計算に時間がかかってしまう.そのため,手の姿勢を低次元化し,その部分空間の中で最適化を行う手法も提案されているが,すべての関節角度をまとめて低次元化することによって再現できない姿勢が生じてしまう,リアルタイム計算が可能なほどの高速化は実現できていないといった問題があった.

そこで本論文では,人間の把持方法を14種類に分類し,それぞれの把持方法がどのような形状の物体に対して適用可能であるかを考察することで,把持方法と物体形状との対応付けを系統的に行うことを試みた.物体表面の部分的形状を符号化して分類し,対象の部分的形状と把持との関係に着目して把持方法の分類を再構築することにより,対象形状を少数の形状特徴量で表現し,それをインデックスとして把持姿勢データベースを構築した.

把持姿勢データベース用いて手の関節角度の生成と手の位置の最適化を行い,多様な把持姿勢の生成システムを実現した.ユーザは把持位置および把持方法をインタラクティブに指定することもでき,容易に把持姿勢を得ることが可能である.
 
 
 (2012年9月7日受付)
 
取得年月日:2012年3月
学位種別 :博士(工学)
大  学 :東京工業大学

推薦文:(グラフィクスとCAD研究会)


人間の手は非常に自由度が高く,状況に応じてさまざまな把持方法が可能であるが計算機上でそれを再現することは難しい.任意の物体形状に対して多様な把持姿勢を高速かつ容易に生成することを可能にした本論文は,非常に実用性が高く,様々な分野において今後の応用が期待できると考えられる.

著者からの一言


手は人間にとって最も重要な器官であり,把持は手の最も重要な基本機能です.それだけに非常にやりがいのある研究テーマだったと感じています.今後,様々な動作の生成が可能となるように発展させたいと考えています.