イベント企画
医療と自然言語処理のこれから
9月4日(水) 15:30-17:30
第2イベント会場(一般教育棟 A棟 A21)
【セッション概要】 医療における人工知能(AI)研究が臨床現場に生かされるためには、重要なコミュニケーション手段であり、情報の蓄積手段でもある電子カルテテキストを扱う自然言語処理が必須であると思われる。しかし、その重要性と比べて、医療分野の自然言語処理は他の画像処理等の応用と比較し、活発とはいえない状態が続いている。本シンポジウムでは、現状の最新の自然言語処理成果を紹介するとともに、医療分野で何が求められているか、今後、何を開発すべきか、議論し、日本語の医療テキスト解析基盤について構想する。
15:30-15:35 はじめに
荒牧 英治(奈良先端科学技術大学院大学 研究推進機構 特任准教授)
【概要】 奈良先端科学技術大学院大学ソーシャル・コンピューティング研究室では、これまで、Web工学、人工知能、機械学習、自然言語処理といった情報技術を用いて、医療分野で多くの社会実装を行ってきました。本発表では、こまでの経験を通じて感じたいくつの疑問、例えば、今後の医療AI研究が、情報分野の医学領域になるのか、情報領域の医療分野になるのか、医療における実用性重視の側面と、精度をひたすら追求していく言語処理の研究スタイルはどう折り合いをつけれるのか? など、私見を展開したいと考えています。
【略歴】 2000年京都大学総合人間学部卒業。2002年京都大学大学院情報学研究科修士課程修了。2005年東京大学大学院情報理工系研究科博士課程修了。博士(情報理工学)。2005年東京大学医学部附属病院特任助教、2008年東京大学知の構造化センター特任講師、2013年京都大学デザイン学ユニット特定准教授を経て,奈良先端科学技術大学院大学特任准教授。医療情報学、自然言語処理の研究に従事。
15:35-15:45 講演(1) 医療テキスト構造化のための言語・知識処理基盤の構築
黒橋 禎夫(京都大学 大学院情報学研究科 教授)
【概要】 ニューラルネットワーク技術と自然言語処理の急速な進展により、ざまな分野で、大量のテキストを構造化し、自動的に知識を集約・分析することが可能となりつつある。我々は、官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)の枠組みのもとで、医療分野における臨床テキスト、患者テキストをターゲットとして、テキスト構造化のための言語・知識処理基盤の構築を推進している。具体的には、医薬基盤・健康・栄養研究所、国立がん研究センターとの協力により、特発性肺線維症(IPF)および肺がんの読影所見、診療記録の解析を進めており、将来的には本基盤がプレシジョン・メディシン等に資することを目標としている。
【略歴】 1994年京都大学大学院工学研究科電気工学第二専攻博士課程修了。博士(工学)。2006年4月より京都大学大学院情報学研究科教授。自然言語処理、知識情報処理の研究に従事。2016年よりJSTさきがけ「新しい社会システムデザインに向けた情報基盤技術の創出」研究総括。言語処理学会10周年記念論文賞、同20周年記念論文賞、文部科学大臣表彰科学技術賞等を受賞。日本学術会議連携会員(2014〜)。
15:45-16:00 講演(2) 人工知能技術を用いた臨床データ構造化のためのプラットフォームの構築
小林 和馬(国立がん研究センター研究所 がん分子修飾制御学分野 医師・連携大学院生)
【概要】 電子カルテの普及に伴い、病院には日々膨大な診療データが蓄積されている。しかしながら、多くの診療データは不均一で構造化されておらず、直ちにデータマイニングに有用な様式となっていない。すなわち、人工知能技術により牽引されるデジタル革命が到来している現状において、大きな機会損失となってしまっている。国立がん研究センターにおけるメディカルAIプロジェクトでは、こうした視点に立ち、人工知能技術を活用した統合的ながん医療システムを実現するためのデータ構造化のプラットフォーム作りに取り組んできた。本講演では、そのプラットフォームの紹介と、これに自然言語処理を組み合わせることで期待される展望について述べる。
【略歴】 2011年慶應義塾大学医学部卒。国保旭中央病院初期研修医を経て、2013年から2018年まで国立がん研究センター中央病院放射線治療科勤務。第一種放射線取扱主任者、放射線治療専門医取得。現在、東京医科歯科大学生命理工学専攻博士課程在籍。国立がん研究センター研究所連携大学院生としてメディカルAI研究に従事。
16:00-16:15 講演(3) 臨床現場と情報系研究者の間からこんにちは
森田 瑞樹(岡山大学 大学院ヘルスシステム統合科学研究科 教授)
【概要】 医療分野において、日常の診療で蓄積される医療データ(リアルワールドデータ)を用いた研究開発への期待が高まっている。診察で得られた情報や画像検査の所見などは文章で記述されるため、言語処理の活躍の場は多いと想定される。国内ではそのような事例は少ないが、海外の文献には言語処理を使用したものが多く見られる。一方で、病院情報システムには構造化データも多く記録されており、現状ではそうしたデータの活用が先行している。医療において文章をどのように活用できるかは自明ではなく、共通認識は確立されていない。医療における言語処理の今後の可能性について、これまでの各診療科との共同研究や言語処理の研究などを踏まえて私見を述べたい。
【略歴】 2003年東京工業大学生命理工学部卒業、2008年東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。東京大学大学院農学生命科学研究科特任助教、医薬基盤研究所特任研究員、東京大学知の構造化センター特任研究員、産業技術総合研究所産総研特別研究員、東京大学大学院情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センター特任研究員、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科准教授などを経て2019年より現職。医療情報・生体情報に関する研究および岡山大学病院バイオバンクの運営実務に従事。
16:15-16:30 講演(4) 創薬AIとNLP:疾患の理解とアンメットニーズの抽出へ
伊藤 眞里(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 バイオインフォマティクスプロジェクト 上席研究員)
【概要】 開発が容易な既知の創薬標的の多くはすでに研究しつくされ、新薬開発の難易度は高まる一方である。創薬の分野でも、大量のデータをAIで処理し、疾患の本態を解明し、新規創薬標的を見出す新しいアプローチに注目が集まっている。大量の疾患情報を蓄積、生理、分類できるAIの構築には、臨床現場から収集する自然言語で書かれた様々な診療記録を構造化し、統合する技術が重要となる。我が国の緻密なデータ収集力を創薬AIに活かすため、医療分野における自然言語処理の重要性と期待を述べる。
【略歴】 1984年大阪大学(薬学博士)。近畿大学薬学部、同医学部にて漢方医学、免疫薬理学研究、京都薬科大学にて分子生物学、UCLA医学部にて癌・老化免疫、放射線ホルミシス研究を経て、大日本住友製薬研究本部(伊藤ラボ)にて難治性免疫疾患(呼吸器、自己免疫、アトピー)の創薬研究に従事。その間、奈良医科大学医学部非常勤講師、英国インペリアル大学医学部NHLI招聘講師(現在名誉講師)兼任。2013年より東京医大、難病分子制御学(招聘講師)。2015年より伊藤免疫アレルギー研究所所長および医薬健栄研客員研究員を経て2018年より現職の医薬健栄研上席研究員。専門領域:アレルギー・リウマチ・呼吸器疾患。免疫薬理学(エクソソーム研究)、分子生物学(トランスオミックス研究)、システム生物学。
16:30-16:45 講演(5) ゲノム医療の時代における自然言語処理技術の活用
河添 悦昌(東京大学 大学院医学系研究科医療AI開発学講座 特任准教授)
【概要】 医療分野における自然言語処理技術の応用は古くから行われてきたが、医療分野独特の専門性や、個人情報を含むカルテ記録を外部に提供しづらいことなどの理由により、活発な研究が持続しているとは言い難い。しかしながら、医療分野におけるAI応用が本格化するなかで、カルテ記録の重要性はますます高まっている。さらに、直近ではがんゲノム医療が保険診療として開始され、遠くない将来には全ゲノムの解析が始まる状況において、ゲノム情報に対応する表現型の情報をセットで解析することが求められており、カルテ記録から表現型の情報を抽出する技術の確立は、ゲノム医療を持続可能なものとする上で重要なテーマであると考えている。本発表では、ゲノム医療を始めとして医療の場で期待される自然言語処理技術の応用とその課題について述べる。
【略歴】 2001年山梨医科大学医学部卒業、2009年東京大学医学系研究科医療情報経済学分野博士課程修了(医学)。内科医、臨床腫瘍医として勤務後、東大病院の電子カルテシステムの開発業務に従事しながら、AI技術を活用した高度な電子カルテシステムの開発をテーマに研究を続けている。2015年 シアトルワシントン大学客員研究員、2016年東大病院企画情報運営部講師、2016年JSTさきがけ研究員(兼任)、2018年 東京大学医学系研究科医療AI開発学講座特任准教授(現職)。専門は医療情報学。
16:45-17:00 講演(6) 富士ゼロックスにおける医療言語処理の取り組み
大熊 智子(富士ゼロックス株式会社 研究技術開発本部コミュニケーション技術研究所 グループ長 研究主査)
【概要】 富士ゼロックスではこれまで、固有名抽出や関係抽出などの情報抽出、要約、テキスト生成などの自然言語処理の要素技術を対象にした研究開発を行ってきた。今年からは、富士フイルムと富士フイルムの医療画像認識技術と富士ゼロックスの自然言語処理技術のシナジーを狙いとした読影レポートの自動生成に係わる共同研究を開始している。本講演では、これまで取り組んできた自然言語処理技術を紹介した上で、読影レポート生成技術とこの技術の実用化に向けた研究で直面する課題について述べる。
【略歴】 1994年東京女子大学文理学部卒業。1996年慶應義塾大学政策・メディア研究科修了。同年富士ゼロックス株式会社入社。現在、同社研究技術開発本部コミュニケーション技術研究所において自然言語処理と情報推薦の研究に従事。言語処理学会編集委員。博士(学術)。
17:00-17:30 パネル討論 総合討論
【概要】 本シンポジウムでの医療テキスト解析に関する多様な講演を踏まえ、日本語の医療テキスト解析に対して医療現場で何が求められているのか、今後、何を開発すべきかを議論する。特に、どのような処理にどのような解析精度が求められ、どの程度の誤りが許容されるか、また、情報分野と医療分野が人材育成を含めてどのような体制で協働し、信頼関係を構築していけばよいかなどについて、会場も含めて活発な意見交換を行う。
司会:黒橋 禎夫(京都大学 大学院情報学研究科 教授)
【略歴】 1994年京都大学大学院工学研究科電気工学第二専攻博士課程修了。博士(工学)。2006年4月より京都大学大学院情報学研究科教授。自然言語処理、知識情報処理の研究に従事。2016年よりJSTさきがけ「新しい社会システムデザインに向けた情報基盤技術の創出」研究総括。言語処理学会10周年記念論文賞、同20周年記念論文賞、文部科学大臣表彰科学技術賞等を受賞。日本学術会議連携会員(2014〜)。
司会:荒牧 英治(奈良先端科学技術大学院大学 研究推進機構 特任准教授)
【略歴】 2000年京都大学総合人間学部卒業。2002年京都大学大学院情報学研究科修士課程修了。2005年東京大学大学院情報理工系研究科博士課程修了。博士(情報理工学)。2005年東京大学医学部附属病院特任助教、2008年東京大学知の構造化センター特任講師、2013年京都大学デザイン学ユニット特定准教授を経て,奈良先端科学技術大学院大学特任准教授。医療情報学、自然言語処理の研究に従事。
パネリスト:小林 和馬(国立がん研究センター研究所 がん分子修飾制御学分野 医師・連携大学院生)
【略歴】 2011年慶應義塾大学医学部卒。国保旭中央病院初期研修医を経て、2013年から2018年まで国立がん研究センター中央病院放射線治療科勤務。第一種放射線取扱主任者、放射線治療専門医取得。現在、東京医科歯科大学生命理工学専攻博士課程在籍。国立がん研究センター研究所連携大学院生としてメディカルAI研究に従事。
パネリスト:森田 瑞樹(岡山大学 大学院ヘルスシステム統合科学研究科 教授)
【略歴】 2003年東京工業大学生命理工学部卒業、2008年東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。東京大学大学院農学生命科学研究科特任助教、医薬基盤研究所特任研究員、東京大学知の構造化センター特任研究員、産業技術総合研究所産総研特別研究員、東京大学大学院情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センター特任研究員、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科准教授などを経て2019年より現職。医療情報・生体情報に関する研究および岡山大学病院バイオバンクの運営実務に従事。
パネリスト:伊藤 眞里(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 バイオインフォマティクスプロジェクト 上席研究員)
【略歴】 1984年大阪大学(薬学博士)。近畿大学薬学部、同医学部にて漢方医学、免疫薬理学研究、京都薬科大学にて分子生物学、UCLA医学部にて癌・老化免疫、放射線ホルミシス研究を経て、大日本住友製薬研究本部(伊藤ラボ)にて難治性免疫疾患(呼吸器、自己免疫、アトピー)の創薬研究に従事。その間、奈良医科大学医学部非常勤講師、英国インペリアル大学医学部NHLI招聘講師(現在名誉講師)兼任。2013年より東京医大、難病分子制御学(招聘講師)。2015年より伊藤免疫アレルギー研究所所長および医薬健栄研客員研究員を経て2018年より現職の医薬健栄研上席研究員。専門領域:アレルギー・リウマチ・呼吸器疾患。免疫薬理学(エクソソーム研究)、分子生物学(トランスオミックス研究)、システム生物学。
パネリスト:河添 悦昌(東京大学 大学院医学系研究科医療AI開発学講座 特任准教授)
【略歴】 2001年山梨医科大学医学部卒業、2009年東京大学医学系研究科医療情報経済学分野博士課程修了(医学)。内科医、臨床腫瘍医として勤務後、東大病院の電子カルテシステムの開発業務に従事しながら、AI技術を活用した高度な電子カルテシステムの開発をテーマに研究を続けている。2015年 シアトルワシントン大学客員研究員、2016年東大病院企画情報運営部講師、2016年JSTさきがけ研究員(兼任)、2018年 東京大学医学系研究科医療AI開発学講座特任准教授(現職)。専門は医療情報学。
パネリスト:大熊 智子(富士ゼロックス株式会社 研究技術開発本部コミュニケーション技術研究所 グループ長 研究主査)
【略歴】 1994年東京女子大学文理学部卒業。1996年慶應義塾大学政策・メディア研究科修了。同年富士ゼロックス株式会社入社。現在、同社研究技術開発本部コミュニケーション技術研究所において自然言語処理と情報推薦の研究に従事。言語処理学会編集委員。博士(学術)。