イベント企画
若手研究者が描く未来予想図
9月3日(火) 13:10-15:10
第1イベント会場(創立50周年記念館 金光ホール)
【セッション概要】 気鋭の研究者が、自身が取り組む研究の紹介を通して、情報科学技術の最先端と未来創造への思いを語ります。今回は、科学技術振興機構(JST)が推進するACT-Iプログラム「情報と未来」研究領域に採択された方の中から、多彩なテーマを掲げる6名の研究者に登壇頂き、ユニークな着眼、斬新な方法論、そして将来の価値創造へのビジョンを共有して頂きます。さらに同研究領域の研究総括にも登壇頂き、同研究領域におけるアクティビティの全体像もご紹介頂きます。
13:10-13:15 司会
柏野 邦夫(日本電信電話株式会社 コミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員)
【略歴】 1995年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了。博士(工学)。同年NTTに入社、同社コミュニケーション科学基礎研究所メディア情報研究部長等を経て、現在同社上席特別研究員。2015年より東京大学大学院情報理工学系研究科客員教授、2008年より国立情報学研究所客員教授を兼任。メディア情報の認識、探索、解析、変換技術の基礎研究と社会実装に従事。文部科学大臣表彰科学技術賞、IEEE 論文賞などを受賞。電子情報通信学会フェロー、情報・システムソサイエティ副会長。情報処理学会、日本音響学会、人工知能学会、IEEE、ACMの会員。
13:15-13:25 講演(1) JST ACT-I「情報と未来」研究領域の紹介
後藤 真孝(産業技術総合研究所 情報技術研究部門 首席研究員)
【概要】 「ACT-I(アクト・アイ)」は、JST(科学技術振興機構)が2016年に新設した戦略的創造研究推進事業である。私はその研究総括として、担当する研究領域を「情報と未来」と名付け、未来開拓型・価値創造型の研究開発に取り組む若手研究者の「個の確立」を支援するプログラムとなることを目指して、12名の領域アドバイザーと共に運営してきた。情報学全般の研究テーマを対象として2016年から2018年の3年間に毎年30名、計90名を採択し、多様な研究に取り組む若手研究者が年2回の領域会議等で交流できる特長を持つ。採択年ごとに第1期生から第3期生と呼ばれ、既に第1期生と第2期生は約1年半の研究期間を終えて成果報告会「ACT-I先端研究フォーラム」を開催し、その様子はビデオアーカイブやポスター資料として公開中である。2019年5月には第3期生の成果報告会を予定している。また、1年半の研究期間後に、もし採択者が希望する場合には、加速フェーズと呼ばれる2年間の追加支援プログラムでさらに発展した研究を推進できる。
【略歴】 1998年早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。現在、産業技術総合研究所 情報技術研究部門 首席研究員 兼 メディアコンテンツ生態系プロジェクトユニット代表。2016年からJST ACT-I「情報と未来」研究総括、2017年から日本学術会議 連携会員等を兼任。JST ACCEL研究代表者。日本学士院学術奨励賞、日本学術振興会賞、ドコモ・モバイル・サイエンス賞 基礎科学部門 優秀賞、科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞、星雲賞等、47件受賞。
13:25-13:40 講演(2) Light Transport Matrix推定に基づく三次元形状計測とロボット応用
千葉 直也(東北大学 大学院情報科学研究科 博士課程後期2年)
【概要】 プロジェクタ・カメラシステムを用いた三次元計測法はこれまでに多くの手法が提案されており、実用化も進められている。これらの手法はテクスチャの少ない物体に対してもロバストであり、高密度で高精度な三次元形状を計測できることが知られている。一方、既存手法の多くは金属物体や半透明物体を計測することが困難であった。我々はLight Transport Matrixをスパース推定によって推定するというアプローチによって、これらの複雑な反射特性を有する物体の三次元形状をプロジェクタ・カメラシステムによって計測することを目指し研究を進めている。特に私はロボットビジョンに応用できるだけの計測時間と精度を達成するため、様々な高速化手法・ロバストに推定するための手法を提案してきた。本講演ではこれまでの研究の概要をまとめ、いままでの研究方針と試行錯誤の過程を紹介するとともに、構想している今後の研究ビジョンについて述べる。
【略歴】 2018年東北大学大学院情報科学研究科システム情報科学専攻博士前期課程修了、現在同博士後期課程に在籍中。日本学術振興会特別研究員 (DC1)。プロジェクタ・カメラシステムによる三次元形状計測、及び三次元点群処理の研究に従事。
13:40-13:55 講演(3) 多様なデータへのキャプションを自動で生成する技術の創出
牛久 祥孝(オムロンサイニックエックス株式会社)
【概要】 深層学習によって、テキストメディアや動画など様々な内容のコンテンツを検索したり生成したりする技術の進歩が著しい。一般的なユーザにとって易しい方法でコンテンツを検索・生成するための入力として自然言語が考えられ、そのためには言語によるコンテンツ理解や検索が必須である。本講演では、多様なデータへのキャプションを自動で生成する技術の創出を目指した取り組みについて紹介する。
【略歴】 2013年東京大学大学院情報理工学系研究科 博士課程修了。博士(情報理工学)。2014年日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所研究員。2016年東京大学情報理工学系研究科講師。2018年オムロンサイニックエックス株式会社Principal Investigatorおよび2019年株式会社Ridge-i社外Chief Research Officer、現在に至る。主としてVision and Languageなどの研究に従事。IEEE、ACM、電子情報通信学会、人工知能学会、情報通信学会、ロボット学会、各会員。
13:55-14:10 講演(4) Science of Scienceを支える技術:学術データの著者同定
桂井 麻里衣(同志社大学 理工学部 助教)
【概要】 個人や機関の研究評価、学術コミュニティ分析などの「Science of Science(科学の科学)」を推進するには、個々の研究者とその研究成果(例:学術論文、グラント、受賞、特許、学位論文)の正確な対応付けが必要不可欠である。学術データに研究者の個人識別子を付与する仕組みは普及しつつあるが、未だ研究者本人の継続的な手動業績管理が前提となっており、これを自動化する技術の確立が急務である。本講演では、学術データの自動著者同定に関する国内外の取り組みを紹介したあと、代表的な国内学術データベースKAKENとCiNii Dissertationsにおける個人識別結果を紹介する。さらに、集約された成果情報の一応用として、研究者の専門推定や関連研究者推薦の可能性について述べる。
【略歴】 北海道大学大学院情報科学研究科メディアネットワーク専攻修士課程、博士後期課程をそれぞれ2012年、2014年に修了。博士(情報科学)。2013年日本学術振興会特別研究員(DC2)、2014年同PD。2015年同志社大学理工学部情報システムデザイン学科助教、2018年より同志社大学理工学部インテリジェント情報工学科助教。マルチメディア検索や学術データマイニングの研究に従事。
14:10-14:25 講演(5) パーソナルインタラクションスペースの実現に向けた操作体系の構築
久保 勇貴(日本電信電話株式会社)
【概要】 スマートグラス等の眼鏡型端末が普及すると、日常生活においても、現実世界に情報を重畳表示する拡張現実(AR)空間を利用することが予想される。このような未来においては、日常生活のあらゆる場面でAR空間上の情報に対する操作を行う必要があるため、操作に伴うユーザの心的負荷および身体的負荷を可能な限り軽減した操作体系の実現が求められる。このような操作手法のひとつとして、操作に伴うユーザの動作を最小限に抑えることが可能と考えられる、細かな手指の動作を用いたジェスチャ操作を現在検討している。本講演では、細かな手指の動きを操作手法として利用可能とするマイクロジェスチャ認識技術をはじめとする、ウェアラブルセンシング技術を活用したジェスチャ操作手法に関して紹介する。
【略歴】 2016年筑波大学情報学群卒業、2018年同大学大学院システム情報工学研究科コンピュータサイエンス専攻博士前期課程修了。同年4月、日本電信電話株式会社に入社。ヒューマンインタフェース、ウェアラブルコンピューティングに関する研究に従事。
14:25-14:40 講演(6) 適応的に再構成するオープンなネットワーク
中山 悠(東京農工大学 工学研究院 准教授)
【概要】 モバイル端末の送受信する通信トラヒックは爆発的な増大を続け、その時空間的な変動も顕著になっている。高周波数帯の利用によるセルサイズの縮小に伴い、従来の通信ネットワークでは、トラヒック変動時に設備効率が低下しやすいという課題があった。本講演では、上記課題の解決に向けて検討している、適応的に再構成するオープンなネットワークについて紹介する。特に、モバイルネットワークに対してクラウドソーシングやシェアリングエコノミーといった共有経済的な枠組みを導入することを検討している。これは従来クローズドな運用が行われてきたネットワークに対し、新たな構成や利用の仕組みを提案し、通信ビジネスの公平化・オープン化により新たな市場やビジネスの開発に繋げることを目指す取り組みである。
【略歴】 2006年東京大学農学部卒業、2008年東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻修了、同年日本電信電話株式会社入社。2018年東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻博士課程修了。博士(情報理工学)。現在、東京農工大学工学研究院・准教授。モバイルコンピューティング、低遅延ネットワーク、IoT等の研究に取り組む。2017年度東京大学大学院情報理工学系研究科長賞等。
14:40-14:55 講演(7) イベント時系列解析とその応用
小林 亮太(国立情報学研究所)
【概要】 イベント時系列とは、あるイベントが起きた時刻についてのデータであり、YouTubeの視聴履歴(Web)、商品の購買履歴(マーケティング)、金融市場の取引(ファイナンス)、神経スパイク(脳科学)など幅広い分野から得られるデータ形式である。イベント時系列は通常の時系列と異なり、ほとんどの時刻で0の値をとり、イベントが発生した時刻のみ1をとる。このため、イベント時系列から有用な情報を抽出するには、新しい方法論が必要となる。本講演では、イベント時系列解析について紹介した後、イベント時系列解析を脳科学に応用した事例について紹介する。特に、多数の神経細胞から計測されたイベント時系列から、(実験では直接計測できない)神経細胞間の繋がり(神経細胞間の結合重み)を推定する技術について紹介する。
【略歴】 2009年京都大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了(博士:理学)。2009年立命館大学情報理工学部助教。2013年より国立情報学研究所情報学プリンシプル研究系助教、総合研究大学院大学情報学専攻助教(併任)。イベント時系列解析、Web分析、計算論的神経科学の研究に従事。船井研究奨励賞、INCF Prize、EPFL-Brain Mind Institute Neuron Modeling Award等受賞。
14:55-15:10 質疑・討論