トランザクションデジタルプラクティス Vol.7 No.3(July 2026)

「新しい時代の運用管理を見出すグッとくるインターネットと運用技術」の編集にあたって

三島 和宏1

1大阪教育大学 

1Osaka Kyoiku University, 4–698–1 Asahigaoka, Kashiwara-city, Osaka 582–8582, Japan 

1. 編集にあたって

コロナ禍を経て,世の中はAI技術の時代に入った.ことあるごとにAIの話題を目にし,一般ユーザレベルにおいてもその技術を活用したシステムに支えられるようになってきた.この技術革新は良い点のみではなく,エネルギー消費の問題であったり,メモリ等の基盤的資源の消費であったりといった問題も存在する.AI技術の核でもある様々な情報技術は情報システムやネットワークの基盤に支えられて成り立っている.この運用には人知れず多くの「人」が関与し,その支えなしにはままならない状況がある.生成系AIの活用によりこれまで以上に容易に運用管理ができる時代になってきているものの,まだまだ「人」に頼った運用や「人」が管理運用に関与する機会は減らず,これら「運用人」の苦労が報われない日々がいまだ続いている.

本特集号では,2024年12月に「AIによる人間中心のネットワーク構築を求めて」というテーマで開催された第17回インターネットと運用技術シンポジウム(IOTS2024)を基軸として,AI時代において運用者や管理者が幸福に,ひいてはそれが利用者の幸福につながるインターネットや情報システムの素敵な運用管理技術,そんな「グッとくる」技術に関する課題や取り組みに焦点を当て,これからの情報通信基盤の構築や活用に向けた最新の研究,開発,実験,運用等に関する論文を掲載している.また,論文誌特集号にはない,プラクティスという視点において評価を行っており,新たな理論のみに限定されることなく実践の中で問題解決を図り,他の場においても有益であると言える論文についても積極的に評価を行っている.

これはインターネットと運用技術(Internet and Operation Technology: IOT)研究会が企画した論文誌特集号においても提示しているものであるが,今回本特集号が掲げる「グッとくる」というキーワードは,IOT研究会において長きにわたり計り知れない尽力を果たした故安東孝二氏が日頃よりメンバーにかけていた言葉に由来している.論文誌特集号に加え,本デジタルプラクティス特集号についても多くの読者にとって有益な情報となり,今後の情報通信技術の発展に一助になることを期待したい.そして,あらためて安東氏を偲ぶとともに,本特集号の取り組みについても氏を満足させるに至っているものと思い巻頭言としてまとめさせていただきたい.

1.1 特集号編集委員会

本特集号は,次の編集委員会を組織し,編集した.

編集委員長:三島和宏(大阪教育大学)

副編集委員長:大森幹之(鳥取大学)

編集委員:池部 実(大分大学),今泉貴史(千葉大学),大谷 誠(佐賀大学),柏崎礼生(近畿大学),北口善明(東京科学大学),久保田真一郎(熊本大学),佐藤 聡(筑波大学),敷田幹文(高知工科大学),中村 豊(九州工業大学),中山貴夫(京都女子大学),萩原威志(新潟大学),鳩野逸生(神戸大学),福田 豊(九州工業大学),藤原一毅(国立情報学研究所),山井成良(東京農工大学),吉浦紀晃(埼玉大学)

コーディネーター:坂下 秀(アクタスソフトウェア),宮下健輔(京都女子大学),土屋英亮(電気通信大学),福原知宏(マルティスープ(株))

2. 本特集の論文について

本特集では五本の投稿論文を掲載している.

石井悠人氏らによる投稿論文「GPUと分散処理による高速かつ堅牢なネットワークフロー特徴量抽出フレームワーク」では,通信の統計情報を用いた機械学習ベースの侵入検知システムにおいて,既存のツールが抱える大規模トラフィック処理時の性能低下やCPUメモリ不足によるクラッシュといった課題に対して,GPUによる特徴量計算の高速化とマルチプロセスによるパケット処理の分散化を組み合わせることで高速性と堅牢性を両立した新たな特徴量抽出フレームワークを提案している.これにより,従来の処理と比較して,総実行時間を短縮させるとともに,CPUやGPUメモリ容量が限定的な環境下でも安定動作をする仕組みを提供することにつながった.

大平健司氏による投稿論文「キャンパスローカル5Gネットワークにおける持ち込み端末向けデュアルスタック接続設計指針と評価」では,近年様々な場所で登場しているローカル5G環境の中で,大学キャンパスに設置するローカル5G環境における利用者による持ち込み端末を想定したIPv4/IPv6デュアルスタック接続性を提供するための運用設計指針を提示し,その妥当性を評価している.特にiOS環境における収容要件を満たすためのプラクティスを提供している.この評価において,iPhone,モバイルルータ,Windowsラップトップ端末においてIPv6到達性・スループット・RTTの安定性を確認し,性能劣化なくディアルスタック化が成立している.加えて,他拠点でも再現可能な条件の整理を行い,運用に絡むプラクティスを提供している.

三輪丈馬氏らによる投稿論文「ネットワーク構成モデルに対する静的・動的検証結果の統合的可視化手法」では,情報通信ネットワークでは設計者の意図通りに構築・動作しているかの検証が重要であり,設定情報に基づく複数の検証手法が存在することを提示している.これらは,手法に応じて得意とする点や検証可能な項目が異なるため,相互を参照しながら利用することは容易ではない.そこで,本稿では,従来より存在するネットワーク構成モデルをベースとした静的検証と動的検証の結果を統合し,マントラに基づいて可視化する手法を提案している.従来の手法では静的検証,動的検証で出力された結果を相互に分析していく必要があったが,提案手法により視覚的に結果を得ることができることを評価と通じて検証している.

吉田薪史氏らによる投稿論文「ExpEtherを用いたGPU-as-a-Service環境におけるアプリケーションの性能評価」では,機密データの利用に関する法令やセキュリティポリシなどによって研究者が多数の利用者による共有利用が前提となる高性能計算機を利用していることが困難となっている実情に応じて,機密データについては研究者の環境下に置きつつ遠隔地の計算資源を利用するGPU as a Service(GPUaaS)の実現に向けた取り組みを紹介している.GPUaaSにおいてはPCIe信号をEthernet上で伝送するExpEtherを用いることで伝送距離を拡張しているが,今回のようなケースにおいては通信遅延や帯域幅がアプリケーションの実行に影響を与える.これらを踏まえて,広域環境を含んだ性能評価を行い,実用的な利用であるかを考察している.

浅木森浩樹氏らによる投稿論文「ユーザ主導による教務システムの追加機能の内製開発」では,香川大学が取り組む各種システムの内製開発において,パッケージシステムである教務システムに対して追加機能として「大学ダッシュボード」と「お知らせ自動要約機能」について内製開発をした際のプラクティスを提供している.これらの機能はパッケージシステム内部におけるカスタマイズ対応を行うのではなく,APIを通じてパッケージシステムと連携するよう開発ベンダーとともに取り組んでおり,基幹システムの安定性と保守性を維持しながら現場のニーズに応じた新たな機能を容易に拡張していくことを可能としたものとなっており,今後の他組織におけるDX化における取り組みの一助となりうるものとなっている.

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