農林分野では,防除作業などの準備のために作物の生育や病害虫の発生を予測することが重要である.農林分野では過去の研究成果を基に各種予測モデルが提案されている[1]-[6].これらのモデルの多くは,予測モデルへの入力として気温のみ用いる.しかしながら,これらのモデルを用いて実際に予測を行うことは,多くの農業生産者にとってハードルが高い.そのため,公設試験研究機関などが予測を実施し,その結果を生産者向けに公開していた.秋田県果樹試験場[7]は,試験場内での気温の観測値を用いて,果樹の発芽・開花日の予測を実施し,その結果を定期的に公開していた.また,秋田県農林水産部が,県内12箇所を対象にアメダス観測値を用いて水稲の生育予測を実施し,予測結果を秋田県の農産・園芸のページ[8]に掲載の作況ニュースの一部として公開していた.
近年の地球温暖化の影響により,従来の経験則に基づく予測が通用しない状況が増えている.温暖化の影響で,たとえば,果樹の栽培では発芽・開花時期が早まる傾向がある.秋田県で栽培されているオウトウは,令和4年度に想定をはるかに上回る早さで開花したために,記録的な不作となった.そのため,生産者が発芽・開花の予測日を日々確認できるシステムの開発が期待されている.
そこで本研究では,秋田県果樹試験場の協力を得て,2023年に果樹発芽・開花予測システムを試作した.対象品種は,これまで果樹試験場が予測結果を定期的に公開していたリンゴ・ふじ(Malus domestica ‘Fuji’)と,前年記録的な不作となったオウトウ・佐藤錦(Prunus avium ‘Satonishiki’)を選んだ.秋田県におけるリンゴ・ふじ,オウトウ・佐藤錦の産地である横手市を対象に,試作した発芽・開花予測システムの実証を実施した.さらに2024年には対象地域を秋田県全域に拡大し,2025年には対象品種にニホンナシ・幸水(Pyrus pyrifolia ‘Kosui’)を加え,実証を継続した.本稿では,果樹発芽・開花予測システムの実装とその実証の結果を報告する.
これらの実証を進めるなかで,このシステムの仕組みを応用すれば,水稲(Oryza sativa)の生育予測や森林病害虫の発生予測にも活用できそうだとの感触を得た.そこで,関係機関の協力を得つつ,これらの予測システムの試作・実証も進めた.さらに,これらの予測システムに共通する機能を抽出し,共通基盤として整備した.
本稿の構成は以下のとおりである.まず,2章にて,農林分野でこれまでに研究されてきた予測モデルを概説し,これらのモデルを用いて各種予測システムを構築する際に着目すべき共通点と相違点を整理する.続いて,3章では,果樹発芽・開花予測システムの実装について説明する.4章では,同システムの実証および評価を述べる.さらに,5章においては,果樹発芽・開花予測システム以外に実装した各種予測システムを紹介する.6章では,これらの開発過程で抽出した共通機能を整理し,予測処理の共通基盤として整備した結果について報告する.最後に,7章で予測精度向上に向けた課題を整理し,8章で本稿を総括する.
本稿の主な貢献は以下の2点である.第一に,各種予測システムを構築し,その実証結果を示した点である.本研究でのシステム実装には高度な技術を用いてはいないが,実装に際して直面した多様な選択や判断について,その経緯を可能な限り詳細に記述した.また,一部の予測システムについては,実際の利用者から得たフィードバックも記載した.第二に,複数の予測システムに共通する機能を抽出し,気温データ処理の共通基盤として整備した点である.これらの知見は,将来的に他品種や他地域を対象とする予測システムを構築する際の有益な参考になると考えられる.
我々が試作した予測システムでは,表1に示す7つの予測モデルを使用した.本章では,これらの予測モデルを説明する.さらに,予測モデル間の共通点と相違点を整理する.

リンゴ・オウトウなど果樹の生産者にとって,発芽・開花予測は重要である.その理由は,病害虫防除に用いる薬剤は散布すべき時期が決まっているためである.特に,開花後は人工受粉を目的としてミツバチを放飼するため,薬剤の散布はできない.また,そのミツバチも専門業者に準備してもらう必要があるため,その点からも事前に開花日が分かるほうが望ましい.
果樹の発芽・開花時期を予測する手法として,有効積算温度法,温度変換日数法,発育速度法などが知られている[1].秋田県果樹試験場は従来から開花予測に発育速度法を用いていたため,本研究の予測システムでも発育速度法(表1(a))を用いることとした.
発育速度法では,時別気温tを元に算出した発育速度DVR(developmental rate)を予測に用いる.発育速度法では,果樹における開花前の休眠ステージを自発休眠期と他発休眠期に分けて考える[2].前年10月1日0時から始まる自発休眠期には,式(1)を用いて1時間ごとにDVRを計算し,計算結果を積算していく.この積算値を発育指数DVI(developmental index)と呼ぶ.DVIがしきい値を超えたら他発休眠期に移行したと判断する.\[DVR_1 = At + B\](1)
他発休眠期には式(2)を用いて,1時間ごとのDVRを計算する.\[DVR_2 = Ce^{ - D/(t + 273)}\](2)
その積算値であるDVIがしきい値を超えた日を発芽・開花日であると判断する.また満開日と判断するためのしきい値も明らかにされているため,開花日以降も積算を続けることで満開日の予測もできる.式(1)および式(2)中のA, B, C, Dの値およびしきい値は,品種によって異なる.また,A, Bの値は,tの値によっても異なる.
果樹の中でも,オウトウ・佐藤錦については,収穫時期の目安となる登熟期を予測するモデル(表1(b))が提案されている.このモデルは有効積算温度法[3]に基づき,満開日以降の気温を積算し,その値が800に達した日を登熟期と予測する.
水稲の生育予測には,移植日から幼穂形成期,減数分裂期および出穂期を予測するモデル(表1(c))と,出穂期から刈取適期を予測するモデル(表1(d))が存在する.前者は追肥や水管理の,後者は稲刈りの時期を知るために用いる.
幼穂形成期,減数分裂期および出穂期の予測では,果樹開花予測とは異なり,日平均気温を用いる.日平均気温tを用いて式(3)を計算し,日ごとのDVRを求める.\[DVR = A(t - B)\](3)
パラメータA, Bには,幼穂形成期の予測と減数分裂期・出穂期の予測では異なる値を用いる.また,これらのパラメータの値は移植する際の苗の種類(稚苗,中苗)によっても異なる.移植日からのDVRの積算値が0.8を超えた日を減数分裂期,1を超えた日を幼穂形成期・出穂期とする.秋田県にて広く栽培されている水稲の品種であるあきたこまち(Oryza sativa ‘Akitakomachi’)に関しては,秋田県が生産者や農業団体向けに毎年発行される稲作指導指針[9]にて,過去の実績値を元に推定されたパラメータを公開している.
刈り取り適期を予測するモデル(表1(d))に関しては,古くから多くの研究報告がなされている[10], [11].これらのモデルは,出穂期から日平均気温を積算していき,積算値がCに達した日からDに到達した日までを刈取り適期と判断する.あきたこまちの場合,C, Dの値として950, 1050が用いられている.
松くい虫(マツノザイセンチュウ)の媒介となるマツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus)の発生時期を予測するモデル(表1(e))や,ナラ枯れの原因となるナラ菌を媒介するカシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)の発生予測モデル(表1(f))が存在する.
松くい虫被害は日本最大の森林病虫害であり,その被害を防ぐためには松くい虫を松から松へ運ぶマツノマダラカミキリの駆除が必要となる[12].具体的には,羽化後のマツノマダラカミキリを駆除するための薬剤散布や,幼虫を駆除するために枯死した松を伐倒し,羽化前に薬剤によるくん蒸や破砕・焼却が行われる.いずれの対策実施も,マツノマダラカミキリの羽化時期を知ることが重要となる.マツノマダラカミキリの羽化時期は,以下のように予測する[4].
松くい虫被害に加え,ナラ枯れ被害も近年問題になっている[12].ナラ枯れに対する防除法も,松くい虫被害と同様に,薬剤散布,伐倒くん蒸処理などが行われている.これらの防除方法の有効活用には,カシノナガキクイムシ(カシナガ)の羽化脱出前に実施する必要がある.斉藤ら[5]は,秋田県におけるカシナガの初発日の予測モデルを提案している.このモデルでは,以下のように予測する.
リンゴ黒星病(Venturia inaequalis)は日本において重要病害として位置づけられており,その防除は重要である.本病の防除適期の決定には,子のう胞子の飛散開始日を知る必要がある.浅利は,積雪寒冷地では子のう胞子の飛散は消雪後の気温に大きく影響されると考え,消雪日から積算を開始する子のう胞子の飛散開始日の予測モデル[6]を考案した.このモデルでは,消雪日からの気温の積算値が180を超えた日を子のう胞子の飛散開始日と予測する.
これらの予測モデルを用いた各種予測システムを作るにあたり,これらの予測モデルの共通点と相違点を整理する.
まず,共通点を挙げる.これまで説明したモデルを用いた予測は,カシノナガキクイムシ発生予測(表1(f))を除き,いずれも以下の手順で実施される.
オウトウの登熟期予測モデル(表1(c))や水稲の刈取適期予測モデル(表1(d))では日平均気温をそのまま積算している.DVRという用語は用いられていないが,積算する日平均気温をDVRとみなせば予測手順は上記と同じと考えてよい.
次に,予測モデル間の相違点をみていく.予測モデルへの入力となる気温として,他の予測モデルが日別気温を用いているのに対し,果樹の発芽・開花予測(表1(a))のみ時別気温を用いている点が異なる.
積算の開始日は,果樹の発芽・開花予測(表1(a))とマツノマダラカミキリ・カシノナガキクイムシ発生予測(表1(e)(f))は毎年同じであるのに対し,他のモデルは生育状況や環境によって異なる.たとえば,水稲は苗の移植日(田植え日)によって,その後の生育状況が異なる.そのため,幼穂形成期,減数分裂期,出穂期予測モデル(表1(c))を用いた予測は,移植日ごとに行う必要がある.また,オウトウの登熟期予測(表1(b))での積算の開始日は満開日であるため,満開日が異なれば予測登熟日も異なる.この満開日には,果樹の発芽・開花予測(表1(a))の予測結果を用いることができる.同様に,水稲の刈取適期予測(表1(d))の積算開始日である出穂期に関しても,水稲の幼穂形成期,減数分裂期,出穂期予測(表1(c))の予測結果を利用できる.このようなシステム間の連携については,5.2で述べる.
本章では,果樹発芽・開花予測システムの概要,使用データ,構成と動作について説明する.
今回開発した果樹発芽・開花予測システムでは,ユーザが予測結果を見たい品種・地域を選択すると,選択地域における選択品種の予測発芽・開花日を表示するようにした(図1).予測実施日以降の気温経過が平年並みの場合に加え,平年より2℃高い場合および2℃低い場合の3通りの予測結果を表示するようにした.秋田県果樹試験場は,従来このような3通りでの予測結果を提供していたため,本システムでもそれに倣った.また,予測開花日がどのように変化したか分かるように,過去一週間の予測結果も表示することとした.
本システムでは,気温データとしてアメダス観測値を用いた.前日までのアメダス観測値は,気象庁のサイト[13]で公開されている.果樹発芽・開花予測では時別気温を用いるため,予測対象地点における前日24時間分の気温データを,毎晩気象庁のサイトから取得し,利用した.取得した気温データは,翌日以降の予測でも必要なため,データベース(temperatureテーブル)に格納し再利用した.
このように,予測実施日の前日までの気温にはアメダス観測値を使用すればよい.しかし,当然のことながら,予測実施日以降の気温(将来気温)は知ることができない.将来気温として,気温平年値を用いる方法が考えられる.気象庁が定義する気温平年値は10年ごとに更新される値で,2025年時点では1991年から2020年の30年間の観測値の平均である.しかし,以前から予測結果を公開していた果樹試験場では,温暖化の影響で年々平均気温が上昇していることを考慮し,気象庁による気温平年値ではなく,過去10年分の気温の平均値を用いていた.過去との予測結果との整合性をとるために,本システムにおいても過去10年の気温の平均値を将来気温として用いることとした.本システムでは,事前に過去10年分の気温データを気象庁のサイトから取得し,同一日付かつ同一時刻ごとに10年間の平均値を計算し,データベース(normal_temperatureテーブル)に格納した上で予測に利用した.
今回開発した果樹発芽・開花予測システムは,予測計算サーバと公開用のWebサーバから構成される.
予測計算サーバの構成を図2に示す.(a)から(d)は,それぞれPythonプログラムのプロセスを示す.(x)から(z)は,データベース(SQLite [14])のテーブルである.この予測計算サーバは,毎日深夜(2時から3時の間)に以下のように動作する.
3通りの今後の気温経過とは,平年並みの場合,平年より2℃高い場合および2℃低い場合である.平年より2℃高い場合および2℃低い場合の予測では,将来気温として,過去10年分の平均値である時別気温に+2もしくは−2を足した値を使用した.
公開用のWebサーバには,静的コンテンツを配信可能なサービスを利用した.このサーバには,品種・地域を選択するためのトップページ,予測結果を表示するページ(図1),および予測実施地点ごとの結果を格納したJSON形式のファイルを配置した.前述したように,JSON形式のファイルは日々の更新に合わせて最新版を配置した.
3章で述べたシステムを用いて,秋田県にて実証実験を実施した.予測対象品種として,2023年にはリンゴ・ふじ,オウトウ・佐藤錦を選び,さらに2025年にはニホンナシ・幸水を追加した.これらは,いずれも秋田県における主要果樹品種である.予測モデルのパラメータは,リンゴ・ふじについては秋田県果樹試験場が従来から用いていた値を使用した.また,オウトウ・佐藤錦に関しては,2023年には生態の似ているモモ・あかつきの値を用いたが,2024年以降は果樹試験場により過去の実績から算出した値を用いた.ニホンナシ・幸水についても同様に果樹試験場が算出した値を用いた.
予測実施地域は,2023年には横手の1箇所から始め,2024年に秋田県内11箇所へと拡大した.ただし,オウトウ・佐藤錦は,秋田県内の生産地である横手,湯沢の2箇所のみで実施した.
早い地域では3月中旬から発芽が始まるため,少し余裕をみて2月初旬にその年のシステム運用を開始した.この実証実験における予測開花日を掲載したWebページのURLは,生産者向けに秋田県のホームページ[15]にて紹介され,県内の生産者に利用していただいた.
本システムを用いた予測と実際の開花日の差を調べた.秋田県横手市にある果樹試験場本場でのリンゴ・ふじとオウトウ・佐藤錦の実際の開花日と,本システムにおける予測結果を表2にまとめた.アメダス横手観測所は果樹試験場本場より約10 kmほど北にあるが,それぞれの地点の観測値を用いた予測開花日に大きな差がないことは事前に確認した[16].

表2を見ると,予測開花日と実際の開花日の差は,2023年のオウトウ・佐藤錦を除き,最大で3日である.開花前までに実施する作業や,開花後に実施する作業の準備を考えると,予測開花日より遅く開花することは大きな問題にならないと考えられる.また,果樹試験場の担当者や実際の生産者に確認したところ,数日のずれであれば問題ないとのことであった.2023年のオウトウ・佐藤錦に関しては,予測開花日よりも4日ほど早く開花した.これは,前述したとおりパラメータにモモ・あかつきの値を用いたためであり,オウトウ・佐藤錦の値を用いた2024年以降の差は2日以内となっている.
果樹発芽・開花予測システムの利用状況を把握するため,アクセスログをもとに,開花予測ページへのアクセス数およびユニークIPアドレス数を集計した(表3).2023年および2024年にはログを取得していなかったため,2025年のデータを用い,品種別・月別に集計を行った.なお,筆者所属の大学からのアクセスは,死活監視などの管理目的によるものが大半であったため,同大学に割り当てられた送信元IPアドレスからのアクセスは集計対象から除外した.また,ユニークIPアドレス数は,送信元IPアドレスをもとに算出した.

表3を参照すると,2月あたりからアクセス数が増え,5月になるとアクセスが少なくなっている.実際の発芽(3月中旬から4月中旬)や開花(4月下旬から5月上旬)の前の時期に多くのアクセスがあったことを確認できる.
リンゴ・ふじの開花予測ページには,3月に496のユニークIPアドレスからのアクセスがあった.秋田県の統計[17]によると,令和2年次における果樹を主に生産する農家・経営体は約1000である.開花予測ページの利用者には営農指導員や県職員なども含まれるため,実際に利用した農家・経営体利用の割合は不明である.しかし,1000の農家・経営体に対して496のユニークアクセスは少なくはなく,実証関係者にとどまらず,実際の生産者にも広く利用されていると考えられる.
2025年2月に生産者,農協関係者,秋田県農林水産部や地域振興局といった農業行政担当者が参加した意見交換会において,生産現場での本システムの実利用が確認できた.ほぼ毎日予測結果を参照しているという生産者の声もあった.このときいただいたコメント・要望を以下に示す.
(2)に関しては,4.5にて評価する.(3)へ対応には実際の開花日の調査結果を入手する必要があるため,関係機関に協力してもらい対応する予定である.(4)で述べられた1 kmメッシュ農業気象データとは,農研機構が農業現場での活用を目指して開発した約1 km四方(基準地域メッシュ)ごとの気象データである[18].その利用方法については,7.2にて議論する.
表2で示した予測開花日は,実際の開花日以降にその年の気温を元に計算されたものである.しかし,4.4の(2)にあるように,たとえば開花の数週間前からより正確な開花日が分かるほうが望ましい.そこで,実際の開花日の2週間前から実際の開花日にかけて,その時点での予測開花日を調べた.図3に,リンゴ・ふじの実際の開花日2週間前から開花日までにおける,その時点での予測開花日の変化を示す.
図3(a)における今後の気温推移が平年並みだった場合を見ると,2023年の実際の開花日(4/26)の2週間前(4/12)における予測開花日が4/28となっている.以降,実際の開花日が近づくにつれて,日々予測開花日は変化するものの,最終的に2日前の段階で,予測開花日と実際の開花日が一致している.図3(c)を見ると,2025年は最終的に予測開花日と実際の開花日には1日差があったが,概ね2023年と同様の推移をしている.
一方で,2024年(図3(b))は,4/11の時点の予測開花日は4/30であり,最終的な予測開花日(4/22)や実際の開花日(4/25)と大きな差がある.4/11時点の予測では4/11以降の気温として過去10年の平均気温を用いているのに対し,4/22時点の予測では4/11~4/21の観測値を利用している.このため,この期間における観測値と過去10年の平均気温との差が,両時点の予測開花日に生じた差の要因であると考えられる.このことを確認するために,2024年の横手における実際の気温および予測に用いた将来気温(2012年から2023年の平均気温)を比較した(図4).この図を見ると,4/11から4/16にかけての日の最高気温が,平年よりも大幅に高い.その結果,図3(b)の4/17時点の予測開花日が前日の予測開花日と比べて大幅に早まったのだと考えられる.
このように,実際の気温と過去10年の平均気温の乖離が,予測結果に大きな影響を与えることが分かった.近年,地球温暖化の影響で秋田県各地の気温も上昇している.そのため,予測に用いる将来気温として過去10年の平均気温を使うと,前述したような予測精度に影響を与える可能性がある.その対処には,たとえば気象庁が公開する週間天気予報[19]や2週間気温予報[20]を利用することが考えられる.この点は7.2で考察する.
本研究では,果樹発芽・開花予測システム以外にも,2章で述べた各種予測モデルを用いた予測システムを実装し,秋田県内各地を対象とした実証を実施した.果樹発芽・開花予測システムも含め,今回実装した予測システムの一覧を表4に示す.表中の予測対象時点数とは,モデルが返す指標日付の数を示す.たとえば,果樹発芽・開花予測システムが使うモデルは発芽日および開花日を返すので,予測対象時点数は2となる.

本章では,これらのうち主要な表4の(4),(5),(6),(8)のシステムについて述べる.これらの予測システム中の予測手順に大きな違いはないため,システムの説明の際には果樹発芽・開花予測システムとの違いを中心に述べる.
あきたこまちは,秋田県にて一番多く栽培されている水稲の品種である.秋田県農林水産部は,4月から8月にかけて発行している水稲に関する作況ニュースの中で,幼穂形成期と減数分裂期・出穂期を予測し,公開している.
本研究では,幼穂形成期・減数分裂期・出穂期の最新の予測結果を確認できるようにするために,表4(4)のあきたこまち生育予測システムを開発した.本システムには,2.2で述べたように,毎年発行される稲作指導指針にて公開されているモデル(表1(c))とパラメータ値を使用した.過去との整合をとるために,作況ニュース中の予測と同じく,予測実施地点は12地点とし,将来気温には気象庁における平年値を用いることとした.予測ページのURLは作況ニュースにその時点の予測結果とともに掲載された.
本システムでは,将来気温については果樹発芽・開花予測システムと同様に3パターン(平年並み,平年より±2℃)の予測を実施した.さらに本システムでは,移植時期5パターン,移植時の苗の種類2パターン(稚苗,中苗)を加え,これらを組み合わせて1地点あたり計30パターンの予測を実施した.作況ニュースに掲載される予測では,移植時期は5日ごとに区切られ,5/10から5/25の地域と5/15から5/30の地域がある.本システムでは,簡素化のために,12地点すべて共通で,5日おきに5/10から5/30までの5パターンの予測結果を表示することとした.
本システムでは,一地点ごとに幼穂形成期,減数分裂期,出穂期のそれぞれについて30パターンの予測を実施している.そのため,予測結果の表示画面(図5)には,1画面に合計90パターンもの予測結果を表示する必要がある.この表示量を考慮し,過去の予測結果は表示しない方針とした.
予測結果はJSON形式ではなく,CSV形式のファイルに格納することとした.そのため,本システムでは,図2の(c)と(z)に相当する部分が存在せず,(b)forecastが予測結果をCSV形式で出力し,(d)upload_filesがCSV形式のファイルを公開用のWebサーバへと配置する.
筆者所属大学からのアクセスを除いた本システムへの月間アクセス数は,2024年7月が48,2025年7月が91であった.水稲生産者は果樹生産者より多いにもかかわらず,本システムのアクセス数は果樹発芽・開花予測システムよりも少なかった.その要因としては,周知不足,あるいは生産者にとって本システムの必要性が低かった可能性が考えられる.また,作況ニュースにその時点の予測結果が掲載されているため,それを確認した上でさらに本システムへアクセスする生産者は限られていた可能性もある.要因の詳細な分析については今後の課題とする.
秋田農林水産オープンデータカタログサイト[21]にて,県内各地で毎年実施されている出穂期等の調査結果が公開されているが,現時点では2022年までのデータしか公開されていない.現在,担当部署に対して最新データの提供を依頼しており,入手でき次第,予測精度の検証を実施する予定である.
2.2で述べたように,あきたこまちは出穂期からの積算気温にて刈取適期を予測できる.そこで表4(5)のあきたこまち刈取適期予測システムを開発し,秋田県内12地点での実証を実施した.
刈取適期の予測モデル(表1(d))では,気温の積算は出穂期から開始する.実際に出穂期を調査し,その日付を使用する方法も考えられるが,本システムでは前述のあきたこまち生育予測システムの予測結果を用いることとした.2025年の実証では,あきたこまち生育予測システムが実施した12箇所かける30パターンの合計360パターンの出穂期の範囲は7/21から8/9であった.また8月に発行された作況ニュースでは全県の出穂期の平均が7/31と報告されている.これらのことから,本システムでは,積算開始日となる出穂期は7/20から5日おきで8/10までの5通りを予測した.
あきたこまちの刈取適期は,出穂期からの積算温度が950℃から1050℃までである.そこで,積算温度が950℃, 1050℃に至る日の2つを予測対象時点とした.
筆者所属大学からのアクセスを除いた予測結果ページへのアクセス数は,2024年7月が6,2024年8月も6であった.アクセス数が少ない要因は周知不足であると考えられるため,効果的な周知方法の検討が今後の課題となる.
予測精度の検証も今後の課題である.実際の刈取適期の判断には,籾の黄化率や水分量などの調査が必要であり[11],一般には研究機関で実施される.これらの調査結果の入手方法については,今後検討が必要である.
秋田県での松くい虫による被害は近年増加傾向にある.夏季の高温・少雨による樹勢の衰えや松くい虫の活動の活発化により,2023年度は2021年度に比べ被害量が2倍以上に増えた[22].このため,松くい虫の防除に関して林業関係者の関心が高まっていた.
そこで本研究では,秋田県林業研究研修センターが従来から活用していた表1(e)の予測モデルを使い,表4(6)のマツノマダラカミキリ発生予測システムを開発した.前述した他システムの想定利用者とは異なり専門家向けとしたため,予測のバリエーションは用意しなかった.同センターから,専門家が薬効期間などを考慮した薬剤散布の時期を決める際に初出日,5%脱出日,50%脱出日が分かれば十分であるというアドバイスをいただいたため,この3時点を予測対象時点とした.この3時点は,いずれも表1(e)のモデルで予測でき,しきい値のみが異なる.
筆者所属大学からのアクセスを除いた予測結果ページへのアクセス数およびユニークIPアドレス数を表5に示す.本システムの想定利用者数は他のシステムに比べて少ないが,その点を考慮すると比較的多くの専門家がアクセスしたと考えられる.実際,秋田県林業研究研修センターのWebサイトで本システムが紹介された際には,アクセス数が急増したとの報告を得ている.これらの結果から,開発に協力いただいた同センターの関係者に加えて,多くの林業関係者による利用があったと推測できる.この点について同センターの関係者に確認したところ,防除業務を担う地域振興局や民間会社の担当者が本システムを閲覧しているとのことであった.また,地域振興局の担当者は,日々更新される予測結果を防除時期の判断の参考として実際に活用しているとのことであった.

松食い虫の被害状況についても確認したところ,残念ながら被害の進行は続いており,マツノマダラカミキリの発生を抑制できたとまでは言えないとのことであった.現時点では,本システムの予測が外れていたのか,あるいは予測以外の要因によって被害を防げなかったのか,その切り分けには至っていない.予測結果の精度を検証するためには,実際にマツノマダラカミキリが羽化した日を調査する必要がある.この調査には,マツノマダラカミキリを産卵させた丸太を用意し,羽化・脱出した成虫の数を計数する方法が用いられる[4].しかし,目視で確認可能な果樹の開花調査と比べると,定例業務として実施するには負担が大きい.予測精度の検証を含め,松食い虫被害防止における本システムの位置づけの明確化が,今後の課題である.
関係者からの強い要望に基づき,表4(8)のリンゴ黒星病発生予測システムを2025年に開発し,実証を行った.
本システムで用いる予測モデル(表1(g))は,消雪日から積算を開始する.アメダス観測地点の積雪量も気温と同様に気象庁のサイト[13]から取得できる.そのため,気象庁のサイトから取得した積雪量が0になった日から自動的に積算を開始するという方法を検討した.しかし,この方法は以下の理由により断念した.
そのため,機械的ではなく,データが提供されている8地点の積雪量に基づいて判断した.秋田県内において沿岸部の3地点は,例年,内陸部の5地点よりも早く積雪量が0になる.2025年に沿岸部3地点の積雪量が0になったのは2/28から3/3であった.これらの地域は,その後の降雪により一旦雪が積もっても,翌日には積雪量が0となっていた.そのため,この3地点は,2/28と3/3を積算開始日とする2パターンの予測結果を表示することとした.内陸部5地点では3/22から3/25に積雪量が0になった.しかし,内陸部のうち湯沢では,その後の降雪により3/30, 31に積雪量があった.そこで,3/20, 3/25, 3/30, 4/5をそれぞれ積算開始日とする4パターンでの予測を実施した.
(1)で述べた積雪量でデータが提供されていない地点は,その位置に応じて前述の沿岸部または内陸部のどちらかと同様に扱った.また,(2)に対しては,各圃場の積雪状況に応じた判断が可能となるよう,積算開始日を複数設定することで対応した.(3)に関して今回は前述のように対処したが,次のような問題が残る.たとえば,積雪量が0になった後,降雪により再び積雪した場合,どちらを消雪日とすべきなのか,文献[6]では明らかにしていない.仮に,始めに積雪量が0になった日を積算開始日とした場合,再びの積雪時に積算を継続するのか否かも明らかになっていない.これらへの対処には,システムではなく,予測モデルそのものの改良が必要である.
筆者所属大学からのアクセスを除いた予測結果ページへのアクセス数は,3月に84,4月に87,5月に41であった.アクセス数の分析を含めた本システムの有効性の検証については,今後,関係者に対し,本システムがどのように活用されているかや実際の黒星病の発生状況をヒアリングしたうえで進める予定である.
表4に示す各システムの構成を比較すると,細部には差異があるものの,図2の(a),(x),(y),および(d)に対応する部分は概ね共通している.そこで,これらの部分を抽出し,各システムから共通に利用できるよう共通基盤として整備した.共通基盤を用いたシステム構成例を図6に示す.この図中の灰色のブロックが共通基盤である.前章で述べた表4(4)から(9)のシステムは,2025年の実証実験の段階では,この共通基盤上で動作させた.
表4に示すとおり,日別気温を利用するシステムと時別気温を利用するシステムが存在する.しかし,共通基盤においては,日別気温と時別気温の扱いに大きな違いはない.たとえば,データベースに日別気温用の各種テーブルを用意した場合,同等のテーブルを時別気温用にも用意すればよい.したがって,本章では日別気温を中心に説明し,時別気温の扱いに差異がある場合のみ補足的に言及する.
表4(4)から(9)のシステムにおける予測対象地点数の延べ数は63であるが,重複を除いたユニーク数は13である.共通基盤におけるクローラーは,毎日深夜に気象庁のサイト[13]から予測対象13地点の前日の日別気温を取得する.1回のリクエストで予測対象13地点の1日分のデータがCSV形式で返され,そのサイズは約1.3 kBである(時別気温の場合は約7.4 kB).クローラーは取得したデータを地点ごとに,後述のtemperatureテーブルに格納する.
アップローダは,予測計算プログラムの出力結果が記載されたファイルを,指定された公開用Webサーバ上のディレクトリに配置する.
共通基盤では複数の予測計算プロセスからのアクセスがあるため,DBMSをSQLite [14]からMySQL [23]に変更した.データベース中のtemperatureテーブルは,表4(4)などのシステムで用いていたテーブルと同等である.将来気温に関しては,平年値を使うシステムと過去10年の平均気温を使うシステムが存在するため,平年値を格納するnormalテーブルと過去10年の平均気温を格納するnormal10テーブルを用意した.
平年値は気象庁のサイトから取得し,normalテーブルに格納した.過去10年の平均気温は次の手順で用意した.まず,予測対象13地点の過去10年分の気温を取得し,temperatureテーブルに格納した.次に,格納した値を用いて,同一日付かつ同一時刻ごとに10年間の平均値を地点ごとに計算し,normal10テーブルに格納した.
2025年に共通基盤上に構築したシステムが用いる予測モデル(表1(b)から(g))を見ると,(g)は3月下旬から積算を開始する必要があり,これらの中で最も早い.また(d)は予測を行う時期が9月であり,これらの中で最も遅い.以上から,将来気温として用いる平年値および過去10年の平均気温は3月から10月まで用意すれば十分である.しかし,本研究では便宜上,1/1から12/31までの1年分を用意した.まだ共通基盤上で動作させていない果樹発芽・開花予測システムが用いる予測モデル(表1(a))は,前年10月から積算を開始する.このため,前年10月から1年分の将来気温を用意すれば,表1に示すすべてのモデルに対応可能となる.したがって,将来的には前年10月から1年分の将来気温を用意する予定である.
今回の実装では,予測モデルで使用するパラメータを予測計算プログラム内にハードコーディングした.2.1で述べたように,これらのパラメータは予測対象となる品種によって異なる.そのため,品種ごとのパラメータをデータベースに格納し,予測計算プログラムが予測対象品種に応じて適切なパラメータを参照できるようにすれば,同一の予測モデルを用いる異なる品種の予測に対しても,同一の予測計算プログラムで対応できる.このような仕組みの導入は,今後の検討事項である.
2章で説明した予測モデルはいずれも,DVRの計算や積算において過去気温と将来気温を区別していない.そのため,予測計算プログラムにとって,積算開始日から予測対象時期までの気温が,配列のように1つの系列として用意されていることが望ましい.
しかし,共通基盤の整備前には,過去気温と将来気温の取得および1つの系列への結合は,各予測計算プログラムに個別に実装されていた.そこで,共通基盤の一部として,予測対象地点,開始日,終了日を指定すると,当該地点の開始日から終了日までの気温を1つの系列として返す関数を用意した.この関数はデータベースへのアクセスも隠蔽しているため,以降,ラッパー関数と呼ぶ.
表4に示すいくつかのシステムでは,予測のバリエーションとして,将来気温が平年より2℃高い場合と低い場合の結果も提供している.この予測バリエーションに用いる将来気温についても,このラッパー関数が提供する.
当然ながら,予測システムが提示する予測結果の精度はより高いほうが望ましい.予測結果の精度は,予測モデルの精度と入力データの精度の両方に依存する.そこで予測モデルの精度と入力データの精度について考察する.
本研究では既存の研究成果である予測モデルを利用しているため,システムによる予測結果の精度は予測モデルの精度に依存する.2024年に実施したカシノナガキクイムシ発生予測システム(表1(f))の実証では,秋田県内陸部の初発日は4月上旬と予測されるなど,例年の6月下旬から7月上旬という実態と大きく乖離した結果が得られた.こうした乖離が生じた理由は,本システムで用いた予測モデル[5]の精度が十分ではなかったためである.モデル構築に用いられた観測データが少ないことが,その主たる要因と考えられる.また,5.4で述べたように,システム化に必要であった再降雪時の扱いが明確化されていないモデル(表1(g))も存在する.これらのモデルを用いたシステム実装は,実現可能性の検証という点では意義があったが,広く生産者に予測結果を提供するという目的には適さなかった.したがって,果樹発芽・開花予測モデル(表1(a))や水稲生育予測モデル(表1(b))のように実績のあるモデル以外を用いたシステム実証については,その目的を明確にしたうえでの実施が望ましい.
予測モデルの精度向上のアプローチとして,システム利用者から開花日などの実測値を広く集め,それをモデルの改善に活用する方法が考えられる.その実現手段について検討したところ,以下の課題が明らかとなった.予測対象によっては,実測値の取得が容易でない場合がある.たとえば,5.2で説明したあきたこまちの刈取適期や5.3で説明したマツノマダラカミキリ発生予測がこれに該当する.さらに,病害虫発生予測(表1(e)から(g))の場合,予測結果に基づき防除を実施すると,当該時期には病害虫が発生せず,実測値を取得できない.そのため,この方法は,これらのモデルの改良には使えない.
一方で,たとえば果樹の発芽・開花予測の場合,予測に基づく農作業の結果にかかわらず,果樹は発芽・開花する.しかし,果樹園に植えられた複数の果樹は,個体ごとに発芽・開花日に多少の差がある.一定の基準を満たした時点を発芽・開花日と判断すべきであるが,一般の生産者がその判断を行うのは容易ではない.さらに,発芽・開花日の収集方法も課題である.たとえば,予測結果ページに入力フォームへのリンクを設け,そこから利用者に情報を提供してもらう方法が考えられる.しかし,生産者は発芽・開花後も多くの農作業を抱えており,自発的に入力してくれる生産者の数は限られると考えられる.これらの点をどのように解決していくかが,今後の課題である.
4.2で述べた将来気温の利用方法として,週間天気予報[19]や2週間気温予報[20]を活用する方法について検討する.これらの予報は,北海道や島嶼部を有する東京都などを除き,府県単位で提供されており,秋田県では秋田市の予報のみが公開されている.そのため,秋田市以外における予測での利用には,何らかの調整が必要となる.また,これらの予報では日最高気温と日最低気温が提供されている.これに対し,表1に示すモデルでの予測に必要となるのは,日別気温(日平均気温)または時別気温である.そのため,これらの値を日最高・最低気温から推定する方法が必要になる.たとえば,従来から果樹試験場による発芽・開花予測で用いられていたsine曲線による近似手法[24]の適用などが考えられる.その有効性の検証は今後の課題である.
次に,4.4で述べた,農研機構が開発した1 kmメッシュ農業気象データの予測システムへの適用を検討する.このデータを用いれば約1 km四方ごとの予測ができるため精度向上が期待できる一方,予測対象地点数は大幅に増加する.秋田県全域を対象とした場合,その数は12,055となり,本稿で扱う13地点の約900倍となる.1 kmメッシュ農業気象データを提供するサービスの利用条件にもよるが,全地点の前日気温を取得することが困難である可能性があり,その場合は現行方式をそのまま適用することは難しい.表4に示したシステムは,毎日深夜に全地点の予測を一括で行う方式を採用しているが,1 kmメッシュデータを用いる場合には,利用者からリクエストのあった地点の予測のみを随時計算する方式のほうが適すると考えられる.現在,この方式の有効性の検証を進めており,結果は別の機会に報告する.
本研究では,果樹発芽・開花予測システムを含む各種予測システムを実装した.これらのシステムに共通する機能を抽出し,気温データ処理の共通基盤として整備した.システム構築における設計上の選択や判断について可能な限り詳細に記述した.また,実装したシステムを用いた実証を行い,多くの関係者に利用していただいた.その結果得られた多くの知見についても記述した.また,予測精度の改善に向けたアプローチに関して考察を行った.ただし,十分な検証が行われていない事項がいくつか残されており,これらの検証は今後の課題である.
本研究は,果樹栽培,水稲栽培,林業など多様な分野の関係者の協力のもと進められた.その出発点となったのは,筆者らが構築した秋田農林水産オープンデータカタログサイト[21]である.本サイトは,秋田県の5つの公設試験研究機関(農業試験場,果樹試験場,畜産試験場,水産振興センター,林業研究研修センター)が保有するデータを公開することを目的として構築された.この活動に関わった関係者とのデータ活用に関する議論が,本研究を開始するきっかけとなった.2023年に実証を開始した果樹発芽・開花予測システムを見た別分野の関係者から水稲や林業に関する予測モデルにも応用できるのではないかとの意見をいただいた.その結果,表4に示すように,多数の予測システムの実現へとつながった.
本稿の成果は,他の予測モデルを用いたシステムの構築や,他地域への展開に有用であると考えられる.また,情報処理分野と農林業分野の連携における1つの成功事例として,今後の参考となれば幸いである.
謝辞 本研究を進めるにあたり,秋田県農林水産部,秋田県果樹試験場,秋田県林業研究研修センター,秋田県農業試験場の関係者の皆様には,多大なご協力とご助言を賜りました.ここに深く感謝申し上げます.
1997年都立大学大学院工学研究科修士課程修了.同年,NEC入社.以来ネットワーク技術の研究開発に従事.2011年筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了.博士(システムズ・マネジメント).現在,秋田県立大学システム科学技術学部およびアグリイノベーション教育研究センター教授.電子情報通信学会,IEEE,ACM各会員.
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