近年,研究データを含む研究成果の透明性や再利用性を高めることを目的に,「オープンサイエンス」および「オープンアクセス(OA)」の理念が国際的に普及しつつある.たとえば,2015年にOECDが発表した報告書「Making Open Science a Reality」[1]では,公的資金による研究成果は原則としてオープンアクセスで公開されるべきであると明記され,各国の政策形成に強い影響を与えた.こうした動向は,研究成果の迅速な共有や再利用性の向上を通じて,研究の効率化や信頼性の向上を図る取り組みと位置づけられる.現在では,国際的な助成機関や学術団体による様々な実践的イニシアチブが展開されており,オープンサイエンスは研究活動の新たな常識となりつつある.
日本においても,こうした国際的な潮流を受けて,政府主導のもとオープンサイエンス推進に向けた基本指針の策定と基盤整備が進められている.特に2024年2月に内閣府統合イノベーション戦略推進会議が策定した「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」[2]は,研究成果の公開とデータ管理を制度的に義務化する大きな転換点となっている.この基本方針では,公的資金を受けて得られた研究成果について,学術論文およびそれに関連する研究データを原則として即時に公開することが求められており,これを実現するための制度基盤の整備が加速している.こうした動きは,研究の透明性と信頼性を確保するうえで,重要なステップといえる.しかし,研究者の目線に立てば「研究成果ではない,新たな対応」が求められることであり,大学としては,いかにして効率よくこれらの管理・公開対応を行う体制を整えるかが大きな課題となる.
本稿では,こうした国際的・制度的な動向,また研究者の意向を踏まえ,大阪大学が研究成果の公開のためにどのような基盤を整備し,研究マネジメント支援の実践を研究者の目線に立って進めてきたのかについて報告する.
「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」[2]に基づき,2025年度以降に新たに公募される一部の競争的資金では,研究成果のOA公開が義務化されることが明示された.これにより,助成を受けた研究者は,学術論文を機関リポジトリ等で速やかに公開する責務を負うこととなる.さらに,論文とあわせて公開される研究データの信頼性や再利用性を確保するため,科学研究費補助金(科研費)を含む主要な競争的資金では,データ管理計画(DMP:Data Management Plan)の作成が原則として必須となった[3].DMPは,研究データの保存方法,共有・公開の時期,倫理的・法的配慮などを体系的に記述する計画書であり,FAIR原則(Findable, Accessible, Interoperable, Reusable)に準拠した研究データ管理を促進する国際的なスタンダードでもある[4].研究成果の即時公開と,それを支える研究データの計画的な管理は,制度対応の観点にとどまらず,研究の質・透明性・再現性を高めるための実践的な取り組みとして,今や不可欠なものとなっている.
大阪大学では,研究成果の公開に関して,制度化の動きに先立って早期から取り組みを進めてきた.2020年には「大阪大学オープンアクセス方針」[5]を制定し,学術雑誌に掲載された論文を可能な限り著者最終稿(Accepted Manuscript: AM)として機関リポジトリに登録・公開することを推奨してきた.さらに2023年には,「大阪大学研究データポリシー」[6]を策定し,研究データの適切な管理・保存・公開についても,大学として明確な方針を打ち出している.
これらの方針は,オープンサイエンスの実現に向けた大学の姿勢を示すものであり,研究者・研究支援者が研究活動の中で果たすべき責務を具体的に示す指針として機能している.
大阪大学の機関リポジトリ「OUKA(The University of Osaka Institutional Knowledge Archive)」は,2010年に運用を開始し,主に学術論文の蓄積と公開を担ってきた.近年では,研究データやAMを含む多様な成果の受け入れに対応するため,システム基盤および運用体制の再構築が進められている.
特に,2023年に制定された「大阪大学研究データポリシー」[6]を受けて,OUKAは2024年に,論文とその根拠データを統合的に公開できるリポジトリとして再設計された.これに伴い,本学の研究データ集約基盤ONION(Osaka university Next-generation Infrastructure for Open research and open InnovatioN)[7]との連携機能を実装し,ONION上に保存された研究データファイルをOUKA経由で公開する仕組みを整備した[8].この連携により,OA化された論文とその根拠データを公開する運用が可能となっている.
さらに,公開された研究データの発見性と利便性を高めるため,図1に示すとおり,2024年に研究データ専用の検索ページを新設した.このページでは,全文検索機能に加えてカテゴリ別ナビゲーションを提供し,学内外の利用者が分野やテーマに応じたデータセットに容易にアクセスできる構造となっている.
また,図2に示すとおり,文献管理ツール(Mendeley,EndNote Basic)への書誌情報出力や,SNS(X[旧Twitter],Facebook)へのシェアボタンも導入し,研究成果の拡散と引用促進を支援する機能強化が図られている.
このようにOUKAは,従来の論文公開機能に加え,研究データを含めた包括的な研究成果公開基盤として,着実に機能拡張が進められている.
前項で述べたように,本学ではこれまでOUKAを中心に多くの先行的な取り組みを進めてきた.しかし,2023年に示された基本方針[2]は,従来とは異なり,対象となるすべての学術論文等について即時OAを実現することを求めるものであり,その規模と実行要請は従来の比ではない.この方針の実現にあたっては,OA化対象となる論文件数が大幅に増加するとともに,研究者および図書館職員に求められる作業負担も飛躍的に増大することが想定される.特に,OA化の実務を担う研究者の負担を最小限に抑えることは,円滑な制度運用において極めて重要である.即時OAの推進は,公的資金によって研究を行う者の責務であり,情報社会のさらなる発展に不可欠な取組であることは論を俟たない.一方で,現状では新たな事務負担が研究者に課されることになり,協力を得にくくなることも懸念される.
このような課題に対応するため,本学では,研究者の負担を可能な限り抑えつつ,新たな利点も創出する「複合的アプローチ」によって,OUKAを中核とするグリーンOA推進戦略を構築した.具体的には,OUKA単体の機能拡張ではなく,OUKAを含む既存の周辺インフラと連携し,DMP作成支援や研究業績管理機能を統合することで,OA化に伴う業務負担の軽減だけでなく,研究者の業務を包括的に支援する「研究マネジメント総合支援システム」の開発に至った.
即時OAの義務化や,科研費におけるデータ管理計画(DMP)作成の必須化[2], [3]などは,我が国の大学における研究実務に大きな制度的変化をもたらした.これらにより,即時OA対応やDMP作成は,すべての研究者にとって避けて通れない制度要件となりつつある.即時OA対応については,図書館職員による研究者への確認事項が多くメールの往復などが双方にとって負担であった.また,DMP作成については,多くの研究者にとって「メタデータ項目」などの記述負担が大きい.また助成機関ごとに異なるExecel様式への対応が困難である.
こうした課題に対応するために構築された「研究マネジメント総合支援システム」は,制度要件の確実な履行と,研究支援業務の効率化・省力化の両立を目的として設計された.本システムは,図3で示すとおり,論文の即時OA化,研究助成におけるDMP作成支援,研究者の業績情報および論文メタデータの一元管理,OA論文に関する根拠データの登録・公開,研究IR(Institutional Research)に資するオンラインアンケート作成・集約といった機能を有し,研究マネジメントに関する主要な業務を統合的に支援することを設計思想の中心に据えている.
これらの機能は相互に連携しており,単なる業務の電子化や機能の分断的提供にとどまらず,研究者による情報入力や確認作業を一元化・最小化する設計となっている.この結果,研究活動のライフサイクル全体を通じて制度対応と実務支援を統合的に実現する,本学の研究マネジメント基盤として機能することを期待している.
本システムの特徴は,単なる業務プロセスの電子化を図るだけでなく,OA対応に伴う研究業績管理や関連情報の統合的な取り扱いを可能とする点にある.特に業績管理については,従来の年度単位から脱却し,研究者自身が任意に設定した「研究プロジェクト」という単位で,継続的かつ横断的に研究活動を追跡・記録できるように設計されている.このプロジェクト単位の構造により,研究費やDMPといった制度的要素との紐付けが容易になり,研究の進行と制度対応とを自然に結びつけることが可能となっている.
DMP作成機能においては,登録済みの研究プロジェクト情報をもとに必要事項を段階的に入力できるインタフェースが提供されており,入力補助機能などで研究者の負担を軽減しながら,制度要件を満たしたDMPを作成することができる.本システムでは研究プロジェクト情報を起点に重複する必要項目を反映し,資金配分機関別のテンプレートを提供することで,記述作業の省力化と制度適合性の確保を両立している.また,将来的には,メタデータ整合性について支援者側が確認等のためにコメント付与等できる機能追加を検討している.
また,AMや根拠データの登録では,OUKAおよびONIONと連携している.AMに関するメタデータ(公開日,著者,出版情報)は,図書館職員がワークフロー画面上で検証・編集し,OUKAへの登録へとつながる.図書館職員は,ONION上のAMファイルもしくは根拠データを選択し,著者・出版情報・DOIなどのメタデータを検証・編集した上でOUKAへ登録する.この際,研究者の申請操作をトリガーにMicrosoft Power Automateが自動で承認依頼・確認通知を送信し,属人的処理を排除している.これにより,公開可否判断やメタデータ修正を効率的に行える仕組みを整備している.これにより,データ保存・公開・可視化の一連のプロセスが,研究者の負担を最小限に保ちつつ制度対応を実現する.
また,本システムは,researchmapとの連携を通じて,大学側での研究業績情報の一元的な管理と利活用を可能にしている.従来,researchmapは研究者個人の管理にとどまり,大学側からの包括的な参照や分析には限界があったが,本システムでは,OA化された論文を半自動で業績として登録し,研究プロジェクトや予算との紐付けも行うことで,入力や管理の重複を避け,IRにも活用可能な正確な研究情報の整備が進められている.また,登録された業績情報に紐付けてアンケートを実施できる機能も備えており,たとえば論文や学会発表ごとに,全学共用機器や研究支援サービスの利用実態を調査することが可能である.回答データは対象者単位で自動集計・CSV出力が可能で,これまで手作業で行っていた業績対応アンケートの運用を大幅に効率化している.researchmap連携と,本システムを基盤とした業績情報の管理・公開体制の詳細については,第5章で述べる.
本システムは,学内のすべての研究者を主な利用対象として設計されており,「使いやすさ」は最も重要な要件である.また,研究者の登録作業を支援し,データの登録や集計を担うURAや図書館職員などの研究支援者にとっても,操作性と実務上の利便性が求められる.こうした実務の要請に応えるべく,制度対応との両立を意識しながら,段階的な試験運用とユーザテストを通じて機能の精緻化を進めてきた.2025年6月には,研究者やURA,研究支援職員など計12名を対象とした試験運用を実施し,UI設計,制度適合性,処理フローの整合性といった観点でフィードバックを収集した.その結果を反映するかたちで,制度要件の確実な実装とユーザビリティの両立を図る改修を行い,2025年度中の本格運用開始を予定している.今後も,研究者の意見を継続的に反映し,使い勝手やIR機能の強化に向けた改善を進めていく方針である.
また,本システムは単なるOA化支援にとどまらず,「研究マネジメントを総合的に支援する基盤」として位置付けられている.そのため,オープンサイエンス推進室,附属図書館,研究推進部,情報推進部が中核となり,D3センター,コアファシリティ機構,歯学部附属病院の研究者とも連携し,全学的な専門知を結集した運用体制が構築されている.この体制は,大学ICT推進協議会(AXIES)研究データマネジメント部会による「研究データポリシー策定のためのガイドライン」[9]や,大阪大学の研究データポリシー[5]の理念を具体化する仕組みでもあり,大学としての支援環境を制度的に整備する基盤となっている.
本システムでは,研究者が登録する「研究プロジェクト」を起点に,研究予算や業績,DMPなどの情報を一元的に管理できる設計となっている(図4,図5).プロジェクト登録時には,名称や研究種別,実施期間,資金配分機関,研究代表者などの基本情報を入力し,同一情報をDMP作成や業績登録など他の機能にも自動的に反映することで,重複入力の負担を軽減している.
DMP作成画面では,保存先,公開方針,データ種別などの必須項目に対応した入力インタフェースを実装し,手入力の負担を軽減している.さらに,資金配分機関ごとに異なる提出様式に対応する入力フォーマットも備えており,制度対応を容易にしている.また,内閣府による「「公的資金による研究データの管理・利活用に関する基本的な考え方」におけるメタデータの共通項目」[10]において指定されるメタデータ項目と多くが一致する,科研費様式に基づいた汎用テンプレートも提供しており,あらゆる研究活動においてDMP策定を支援する.
このように,プロジェクト情報と連動するDMP作成機能により,研究者は自然な流れで制度に即した管理が可能となり,研究支援者による進捗管理や内容確認も効率的に行える.研究活動の一貫した情報基盤として,業務の効率化と制度適合性の両立が実現されている.
図6に示すとおり,OA化の要となるAMファイルの登録も,本システムに各研究者がログインしたのち,D3センター・情報推進部が運用するONION-objectにアップロードできるシステムとなっている.これにより,OA化のためのAMアップロードを当該研究者の業績登録としても処理できる.
アップロード時には,対象ファイルに対してシステムUI上で必要なメタデータ(例:タイトル,著者名,DOI等)を入力する画面が表示されるが,その入力作業は,DOI入力や著者名入力による入力補完などによって,できる限り最小化されるように設計されている.手入力の最小化は,作業負担軽減だけでなく業績登録の精度向上にも貢献する.加えて,研究者自身による登録だけでなく,所属部局や支援担当者が代理で情報を入力・修正できるロール制御も実装されている.
AMファイルや根拠データのアップロードおよびメタデータ付与が完了すると,研究者は図書館への公開申請を行うことができる.申請を受けた図書館側は,登録されたメタデータを確認・編集のうえ,ONION-objectからOUKAへの登録処理を実施する.OUKAへの登録処理では,図書館職員用の専用画面上から,ONION上のファイルを選択し,メタデータを確認しつつ,OUKAのワークフローに投入することが可能である.
将来的には,制度的要請に対する説明責任の担保を,システムによってDMP記述内容と実際の登録行為との整合性をチェックすることで自動化したいと考えている.また,外部データベース(KAKENデータベース等)とのメタデータ連携の拡充を見据え,論文情報の一元管理・多元活用を実現する拠点的機能としてさらなる高度化を目指す予定である.
本アンケート機能は,研究成果や論文に関する調査を円滑に実施するための仕組みとして設計されている.従来,こうしたアンケートはファイル提出やメール回答といった手作業で行われることが多く,研究者にとって大きな負担となるだけでなく,実施そのものが困難なケースも多かった.たとえば,執筆論文に対する全学調査を実施する場合,各部局に通知後,部局では事務職員が全研究者に案内し,回答を回収・集計して担当部門に提出するという,煩雑かつ非効率なプロセスが必要であった.そこで,こうした課題を解決するため,本システムでは,研究業績管理機能と連携して,研究者がオンライン上で直接アンケートに回答し,それをシステム側で自動集計できる仕組みを導入している.これにより,研究業績と調査を同一システム内で紐づけて実施でき,従来手作業で行っていた全学調査が大幅に効率化された.また,全学共用機器や研究支援サービスの利用実態を調査することも可能となり,回答結果を研究IR指標として支援施策の改善に活用することも期待されている.
アンケートは,図7に示すとおり,管理者権限を有するユーザがWebベースのGUIで作成でき,単一・複数選択や自由記述など,様々な設問形式を柔軟に組み合わせることができる.設問には必須・任意の設定や,配信対象(部局単位・属性単位)の絞り込み,回答期限の設定などの管理機能も搭載されている.対象ユーザにはシステム内通知やメールによりアンケートのリンクが配布される.収集された回答データは,CSV形式でエクスポート可能で,部局や職種,回答期間など任意の区分で集計・分析することができる.これにより,研究支援活動の評価や,IRにおける定量的な施策立案に活用できる,実用性の高いデータ収集手段となっている.さらに,将来的には,既存のアンケート結果や問い合わせログを活用したAIチャットボットの開発事例[11]を参考に,本機能を基盤とした新たな研究支援サービスへの応用も期待されている.
以上のような様々な機能を統合した本システムの全体像を図8に示す.図は,機関リポジトリOUKA,データ集約基盤ONION,researchmap,および学内IT認証基盤とのAPI連携を中核に,申請・承認・通知に至る業務フローまでを一体として表現しており,研究成果公開と研究業績集積を統合的に実現する構成を俯瞰できる.
研究者(あるいは支援者)はAMや根拠データをアップロードし,最小限のメタデータを入力する.DOIや著者名の入力をトリガーとして自動補完を行い,AMの登録から提出までを同一UIで一括処理できる.その後,研究者は図書館へ公開申請を行い,図書館側でメタデータの確認・必要な編集を経て,ONION-objectに保管されたファイルを選択しつつOUKAのワークフローへ投入する.
申請以降の事務処理はMicrosoft 365のPower Automateによりオーケストレーションされる.研究者の登録・更新操作をトリガーとして,図書館等の支援部局へ承認依頼や確認通知が自動送信され,制度に基づく手続きを属人的にせず確実かつ効率的に実行できる.研究情報の外部公開・可視化に向けては,researchmap APIにより研究者の基本情報と最新業績を取得し,大学側の公開系に流通させる.
以上のように,図8が示すAPI連携(OUKA・ONION・researchmap・IT認証基盤)とPower Automateによる業務フロー自動化を組み合わせることで,研究者の入力負担を抑えつつ,論文・データの即時公開と業績集積を同時に満たす技術的統合が実現されている.将来的には,DMP記述と実際の登録行為の整合性チェックの自動化や,外部データベース(例:KAKEN)とのメタデータ連携拡充により,論文情報の一元管理と多元活用の高度化を図る予定である.
これまでも述べてきたとおり,研究マネジメント総合支援システムは,研究者の研究情報を一括して管理する機能を有しており,その情報はresearchmapへの自動連携を通じて随時流通する.さらにresearchmapに登録された情報は,大阪大学研究者総覧の表示基盤として利用され,学内外に向けた研究情報の可視化を実現する.これにより,「管理」と「公開」の体制を再構築し,一貫した情報流通の実現が目指されている.本章では,reseachmapと大阪大学研究者総覧のシステム連携について述べる.この連携により一元的な研究者情報を集約し,本学独自の研究者情報の公開基盤を保持することなく,半自動的に大阪大学研究者総覧で公開する体制を整えた.また,将来的な研究IRへの展開可能性について説明する.
まず,背景として,大学や研究機関における研究者情報の公開と管理の重要性が高まっており,研究活動の可視化,共同研究の促進,学術資源の利活用といった観点から,研究者データベースの整備は不可欠となっている.特に,業績情報の公開は,外部資金獲得や社会との連携において重要な要素である.また,文部科学省の通知[12]により,各大学は研究者の業績情報を適切に公開する義務を負っている.このため,多くの大学では研究者総覧や業績データベースの構築が進められている.
国内の研究者情報管理については,「ReaD」を用いた研究者情報システムから始まり,後に登場した「researchmap」は,ReaDとの統合が進められたことで,全国的な標準基盤として整備されていった.科研費申請においてresearchmapへの登録・活用が事実上の標準となる一方で,多くの大学がそれぞれ独自の研究者データベースを運用していたため,研究者は複数のプラットフォームに同一の業績情報を登録する必要があり,データ入力の負担が非常に大きかった.一方,近年では,ResearchGateやGoogle Scholarなどの研究者主導型のプラットフォームが発展し,研究者自身が業績情報を自動的に登録・管理できるサービスが増加している.これらのサービスは研究者間の情報共有やネットワーク形成を促進しているものの,特定の研究分野や領域に偏る傾向があるため,医療系や情報系など一部の領域では利用しやすいものの,他の研究分野では必ずしもメリットが大きいサービスとは言えなかった.
大阪大学においても研究者データベースの整備を進めており,これらのデータベースは教員の業績の可視化,外部資金獲得支援,社会連携促進など,多様な目的で活用されている.当初は独自に研究データベースの開発を進めていたが,個別開発による高コストな運用体制が課題となった.その後,多くの大学が採用している共通プラットフォームを導入することで機能性や利用者利便性の向上を図り,システム運営の効率化を実現した.しかし,導入したプラットフォームとresearchmapとの間に機能的な重複や論文データベース連携に関する課題が残された.
こうした背景を踏まえ,本学では研究者の業績情報管理の効率化と情報公開基盤の刷新を目的に,現在,JSTが運営する研究者情報基盤であるresearchmapを中核としたサーバレス構成による研究者データベースを構築している.researchmapに登録された研究者の業績をそのままバックエンドとして活用する仕組みである.この構成をAWS環境へ移行し,AWS Amplifyを利用したサーバレス化を図ったことで,OSレベルの管理負荷がほぼ不要となった.具体的には,OSのアップグレードやセキュリティパッチ適用といった定期的なメンテナンス作業がAmplifyにより不要になったため,運用コストが大幅に削減された.
さらに,researchmap API経由で研究者の基本情報や最新の業績データを自動取得できるようになった.AWS Amplify環境では,取得したresearchmap情報をS3に格納している.AWS Amplify環境におけるS3は,図8に示すとおり,研究者総覧Webの静的データ保存に用いるクラウドストレージで,AMや根拠データを格納するONIONとは別構成であり,Elasticsearch経由で即時検索と高速レスポンスを実現している.また,閲覧環境にはCDNを挟んだ構成を採用し,研究者総覧や個人業績表示ページの表示速度を大幅に向上させている.その結果,世界のどこからアクセスされてもレスポンスが安定し,大規模アクセス時の信頼性も高まっている.これらの取り組みにより,従来の大学独自にサーバを運用する方式に比べ,初期投資や運用コストの両面で大幅な削減を実現するとともに,メンテナンス負荷軽減,可用性向上,最新情報への即応性の向上を同時に達成している.
以上のように,研究情報の登録と管理を担う基盤である研究マネジメント総合支援システムから自動連携された研究情報がresearchmapを経由して,最終的に大阪大学研究者総覧に可視化される.これにより,登録・管理から可視化・活用までの一貫した情報流通体制が実現されている.
本稿では,大阪大学における研究成果の公開と研究業績の集積を一体的に支援するシステム構築の取り組み,さらにそれらに蓄積された研究情報の公開について述べた.国内外で即時OAや研究データ管理の制度化が進む中,本学では機関リポジトリOUKAの機能拡充とDMP作成支援・業績管理を統合した研究マネジメント総合支援システムを開発した.本システムにより,論文と根拠データの即時公開を円滑化するとともに,研究者の業績情報を一元管理し,プロジェクト単位での継続的な研究追跡やオンラインアンケート機能による研究支援情報の収集が可能となった.現在,試験運用を通じて制度対応の正確性や操作性の向上を図っており,2025年度中の本格運用開始を予定している.今後は,研究者からのフィードバックを反映しつつ,他システムとの連携強化や機能拡張を継続して行うことで,研究者の負担軽減とオープンサイエンス推進の基盤強化に寄与していきたい.
謝辞 本研究は文部科学省「AI等の活用を推進する研究データエコシステム構築事業」および「オープンアクセス加速化事業」,「科研費・若手研究(課題番号:24K21055)」の支援を受けたものです.
2021年九州大学大学院統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻博士後期課程修了(博士(ライブラリーサイエンス)).2012年より九州旅客鉄道株式会社に勤務.2021年大阪大学附属図書館研究開発室助教,2023年准教授を経て,2024年より同大学D3センター准教授.専門は図書館情報学.日本ナレッジ・マネジメント学会,組織学会,情報知識学会,記録情報管理学会各会員.
私立大学の大学図書館や研究支援業務(科研費)を経験し,2023年12月から大阪大学附属図書館にて学術情報流通を担当.その他,特設サイトの管理,図書館管轄の転換契約,OSWGの主査等を担当している.
2007年大阪大学附属図書館に入職.利用者サービス担当等を経て,2023年度より学術情報整備課電子コンテンツ担当として機関リポジトリの運営に携わる.
2003年大阪大学入職.2022年4月から大阪大学附属図書館学術情報整備課にてオープンサイエンス,転換契約等,学術情報流通全般にかかわる業務にたずさわる.
2009年4月大阪大学に入職し,情報推進部事務職員として勤務
その後,異動を重ね,2021年4月情報推進部専門職員として今に至る
2001年4月,大阪大学に学生部非常勤職員として入職.2013年,情報推進部事務職員として入職.2023年4月より,情報推進部専門職員として現在に至る.
2018年4月から大阪大学の事務職員として勤務.2023年4月には研究推進部に着任し,APC支援や転換契約の企画・運営等をはじめ,オープンサイエンスの推進や予算の管理を担当.
2025年大阪大学大学院人間科学研究科人間科学専攻博士後期課程修了.博士(人間科学).2023年11月より大阪大学附属図書館研究開発室特任研究員(常勤),2025年5月から現在まで同助教.
2004年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了.2005年株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社.2008年大阪大学大学院情報科学研究科助教.2014年大阪大学大学院情報科学研究科講師.2016年より大阪大学大学院情報科学研究科准教授.博士(工学).モバイルアプリケーションやモバイルネットワークの設計および性能評価に関する研究に従事.IEEE会員.
大阪大学歯学部附属病院 口腔医療情報部 准教授.歯科医療情報学を専門とし,医療AI,データ標準化,病診連携DXの研究および社会実装を推進.国内外の医療情報標準化活動にも参画している.
応用物理学科においてレーザー化学で博士(工学).その後,大気環境化学・大気エアロゾル化学・生物地球化学・質量分析学など,東京やサンディエゴなどで長い理学系ポスドクを経て2015年から現職.研究基盤マネジメントが高じて最近は研究DXも担当.
大阪大学D3センター DX研究部門 准教授.2010年早稲田大学大学院商学研究科専門職学位課程ビジネス専攻(MBA)修了.2018年早稲田大学大学院商学研究科博士後期学位課程商学専攻 単位取得退学.企業勤務の後,2024年6月より大阪大学サイバーメディアセンター(現D3センター)にてDX推進に従事.
大阪大学OUDX推進室 副室長・教授.(兼)D3センターDX研究部門長・教授,(兼)大学院情報科学研究科 教授,(兼)キャリアセンター 教授,(兼)中之島芸術センター 教授.早稲田大学法学部卒業,早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程 単位取得退学.新日本製鐵(現 日本製鉄)入社後,30年強のIT業界のベンダー・ユーザ企業両方での実務経験を踏まえた,「経営とIT」戦略の理論研究と実践,大阪大学全体のDXに取り組んでいる.2025年日本DX大賞(業務変革部門)大賞受賞.経営情報学会 理事(研究担当),日本経営学会,組織学会,教育システム情報学会,情報処理学会,日本経営倫理学会 会員.
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