会誌「情報処理」Vol.67 No.5(May 2026)「デジタルプラクティスコーナー」

プラットフォームに依存しない学習歴のデジタル流通に向けて
─さまざまなクレデンシャルの標準をつなぐ─

坂口菊恵1,2

1大学改革支援・学位授与機構  2日本マイクロクレデンシャル機構

 日本マイクロクレデンシャル機構の発足に伴い,学習歴デジタル化に関心を持つさまざまなステークホルダーの間でコミュニケーションが活発となっている.マイクロクレデンシャルの文脈ではデジタルバッジなど,北米の代替的クレデンシャルの文脈で発達してきた方式が着目されがちである.しかし高等教育の文脈で扱われるマイクロクレデンシャルの表現とデジタル証明には,国際通用性とIssuerの信頼性確認,“マクロ”クレデンシャルの中への包摂といった課題への対応が重要となる.高等教育指向のクレデンシャルと,スキルベースのクレデンシャルをどのように共存させて流通させるか,またEUの標準と北米中心に発展してきた標準をどのように共存させるか,現在進められている取り組みを紹介し,私たちが進むべきロードマップを整理する.

0.学習歴デジタル化にかかわるステークホルダーの結集

2025年10月23日,一般社団法人として「日本マイクロクレデンシャル機構」が発足し,同11月17日には発足式が行われた.高等教育界および産業界からの関心は高く,発起人は143名にのぼり,オンサイト・オンライン合わせて250名ほどが参加した.マイクロクレデンシャルは,北米で産業界の強いイニシアティブのもと人気を博し,デジタルバッジに流通を助けられ世界に広まった.これは,スキルベースの学習の証明ニーズが高まっていることと呼応する.

マイクロクレデンシャルは従来の学位や卒業証明と比較して短期間で修了できる学習歴証明の総称である.学習時間は1時間から1年間程度と多岐におよび,学習コンテンツの提供者は従来の教育機関である場合も,それ以外の組織による場合もある.短期間の学習を流通・蓄積させる仕組みとしては,従来より既習得学習の認定や単位銀行制度が存在した(2節,表2参照).EUやUNESCOは,マイクロクレデンシャルを,生涯学習・職業教育・高等教育の相互通用性推進の観点から,従来の単位互換システムや生涯学習口座の中に統合していくべきという方向性を打ち出している.高等教育機関の観点からは,マイクロクレデンシャルは従来の高等教育(大学院,大学,短期大学,専修学校,高等専門学校など)の柔軟な制度設計を助け,学修歴の持ち運びを容易にし,次の就学機会に繋げるという重要な役割を持っている.18歳人口の減少と,資金の漸減に伴う経営悪化で統廃合や運営形態の転換を迫られる高等教育機関の起死回生策として,マイクロクレデンシャルは期待に応えていくことができるのか.

その方略を検討するために,これらの2つの発行者ステークホルダーにとってのマイクロクレデンシャルの要件を確認し,両者を通用させる技術標準を概観していく.

1.“マクロ”クレデンシャルと,2つの「マイクロクレデンシャル」

マイクロクレデンシャル(Micro-credentials)実装に関する議論において,論者が「高等教育マイクロクレデンシャル」を主に想定しているのか,デジタルバッジの産業流通等を主に想定しているのかによって,重視する要件や,負っているこれまでの発展の経緯が異なる.それによって必然的に,好まれる技術標準や考慮されるステークホルダーも異なってくる.これらをつないで生涯学習を円滑に行えるようにすることがマイクロクレデンシャルの主眼目の1つだが,まず論者の観点がいずれに近いかを診断しながら,これらを通用しようとする各国の取り組みを紹介する.

さらに,卒業後時を経ての就学の再開や留学,国境を超えた就業では,“マクロ”クレデンシャルすなわち学位や卒業証明と,それに付随する成績証明書の電子流通が喫緊の課題である.

マクロおよび,さまざまなマイクロクレデンシャルを統一的に記述して,公開レジストリを構築する試み(4節)と,それらを電子的に流通させ,他分野の資格証明や身分証明と接続しようとする取り組みの進捗を解説する(3節).

図1 高等教育視点と産業・職業視点のクレデンシャルの要件の違い
図1 高等教育視点と産業・職業視点のクレデンシャルの要件の違い

2.積み上げ可能マイクロクレデンシャルと「単位銀行」

2.1 積み上げ可能マイクロクレデンシャルとは

米国を中心に産業界が提供するマイクロクレデンシャルの中には学習期間が短いものも多い.これらは直近の就業能力向上には役立つものの,長期にわたる収入上昇効果を得るには,マイクロクレデンシャルは「積み上げ可能(stackable)」であることが望ましいという議論がある.積み上げとは,関連のある学習歴を体系立てて積み重ねることによって,典型的には学位(degree,diploma)のような,まとまりとして規模の大きい学修歴とすることである.

多数積み上げて学位となるような学習のまとまりは,高等教育における伝統的な単位(academic credits)の概念と親和性が高い.すなわち,高等教育機関で取得する単位も,マイクロクレデンシャルの一形態としてとらえることができる.もちろん,すべてのマイクロクレデンシャルが高等教育の単位として認定されるわけではない.本節では,単位の積み上げによる学位取得制度と,より広範なマイクロクレデンシャルの蓄積システムについて紹介する.

2.2 高等教育における単位とマイクロクレデンシャル

特に認定された学術高等教育の修了に伴い授与される学位(degree)は職業資格取得の前提となったり,大学院へ進学したりする際に必要とされる.マイクロクレデンシャルは規模の小さな学習歴として単独でも価値を持ち得る点が魅力であるが,積み上げ可能であれば,それにより学術学位と接続するパスとなる.具体例を挙げてみよう.

高等教育機関が発行する単位をマイクロクレデンシャルとしてさまざまな教育機関で取得し,積み上げて学位にする制度は古くから存在する.たとえば,筆者の所属する大学改革支援・授与機構(NIAD-QE)では,短期大学または高等専門学校を卒業,あるいは大学に2年以上在学して62単位以上を修得したという「基礎資格」を前提とするものの,残りの2年分の単位はさまざまな高等教育機関で学んだものを組み合わせることにより,学修成果の提出と試験を経て学士の学位を取得する途を1991年度から提供している.

オンライン学習や民間の資格を高等教育機関の単位とすることができる取り決めにもさまざまなものがあるが[1],当該学習を単位として認めるかどうかは,所属する大学の判断に任されている.それぞれの単位取得履歴は高等教育の文脈で管理されることから,個別の履歴も学位や卒業証明書と同様のインフラを用いて流通させることが望ましい.

2.3 単位銀行制から,生涯学習口座へ

これと類似した,単位蓄積による学位授与制度として,韓国の単位銀行制を紹介する.この制度は実質的にマイクロクレデンシャルの積み上げによる学位取得を可能にするものである.韓国では日本のNIAD-QEによる学位授与制度と類似した独学学位制と,単位銀行制の2つの制度がある.独学学位は取得の要件が複雑かつ厳格であり,年間の学位取得者は500名余にとどまる.一方で単位銀行制ではインターネット上で公開される大規模オンライン講座であるMOOC(Massive Open Online Course)や生涯学習センターでの学習,伝統芸能の修得歴,軍における教育プログラムなどさまざまな学習履歴が単位として換算され,個人の学習口座に蓄積することができる.単位銀行制では年間7.5万人に学士の学位を授与(2022年度,うち専門学士学位は4.3万人)しており,この学位をもとに教職資格等を得ることもできる.

こうした単位銀行制の成功や,個人がデジタルで管理できる生涯学習口座の設計はさまざまな国に影響を及ぼしてきた.中国では省ごとに異なる職業教育や非伝統教育の学習成果を,学位とは独立した形で単位銀行に蓄積・管理している.タイも単位銀行を展開している.インドでは生涯IDにより管理される学習アカウントのもと,取得した大学にかかわらず単位を集積して学位が取得できる全国統一単位銀行制(Academic Bank of Credits: ABC)を整備している.UNESCOの文書でも生涯学習口座の整備はグッド・プラクティスとして紹介されており[2][3],現在欧州で構築されている共通の学習歴ウォレットの設計にも参照されたと考えられる.ニュージーランドでは資格枠組み(New Zealand Qualifications and Credentials Framework: NZQCF)と対応づけられたマイクロクレデンシャルが個人の学習記録(Record of Achievement)に統合されている(資格枠組みに関しては3.2.1参照).

個人が高等教育と生涯学習の学習歴を安全にデジタルで持ち運び,それらを自由に組み合わせて学習経路を設計し,資格取得や就業に活かせるような仕組みが,世界的に構築されつつあることには疑いがない.しかし,アジアの一部の国や欧州,オセアニアが行うように,高等教育の質保証の枠組みの中へマイクロクレデンシャルを統合しきれない国や地域では,どのように双方の技術標準を擦り合わせていくべきだろうか.

3.マクロ/マイクロを超えた学習歴のデータベース化とデジタル流通に向けて

3.1 “マクロ”クレデンシャル(学位や卒業証明)はこれまで中央集権的に管理されてきた

比較的カジュアルに教育プログラムを設計し,さまざまな主体が授与することができるマイクロクレデンシャル(米国の文脈では代替的クレデンシャル)とは異なり,伝統的な高等教育機関の授与する“マクロ”クレデンシャル(学位や卒業証明)は個人の信頼度や同一性と密接に結びついた,高いセキュリティが求められる情報である.専門的技能を有していたとしても,学士,修士,博士といった学位がないとビザが降りないケースがあるし,政治家が学歴を詐称していたとなると大問題となる.そして,これらの“マクロ”クレデンシャルの所有はより高度な教育機関への入学条件となる.

このように身分証明のために重要な“マクロ”クレデンシャルであるために,紙の学位記や卒業証書では,偽造しようとする者が後を絶たなかった.そのため,欧州や中国,オセアニア,南アフリカ共和国などでは,国家的に整備された検証Webサイト,もしくは管理委託された業者のシステム内で,卒業証明書およびその発行機関の真正性が電子的に検証される仕組みを構築してきた.米国では“マクロ”クレデンシャルがまだ電子化されていない高等教育機関がいまだ少なからず存在するが,学修歴管理のデジタル化が進む国においては,紙面による証明書の発行を終了し,受け取りも困難化するケースが出てきている.

3.2 VCを用いた卒業証明の試み☆1

3.2.1 EUのイニシアティブ:e-seal基盤からVerifiable Credentials(VC:検証可能な資格情報)標準への展開

ヨーロッパは教育・研究の国境を超えた流動性を高め,共通の高等教育圏および職業教育圏を確立するため,1980年代後半より現在に続く取り組みを進めてきた.欧州委員会の強力なイニシアティブのもと,学習負荷やコンピテンシーの定義に関する議論を積み重ね,学士,修士,博士課程といった高等教育制度や単位制度の標準化もその過程で行われた.さらにその中で学修のレベルとコンピテンシーを具体的に定義し,学術教育と職業教育との通用性を明示する仕組みがNational Qualifications Framework(NQF:国家資格枠組み)である.

以上は内容上の定義に関する取り決めだが,そうした学修歴の電子的な集約と通用制の担保に関する議論は,オランダの教育資金援助機関であるDienst Uitvoering Onderwijs(DUO)を中心とした2012年のGroningen Declarationに始まり,世界的に広まった[4].このGroningen Declaration Networkの活動と連携して,オンラインプラットフォームであるEuropassの整備が進められた.加盟国の教育機関は,公的に発行された個々人の学修歴を,各国で認められた規格にもとづくデジタル証明付きでEuropassのWebシステムに登録する.Europassはこれらを,European Learning Model(ELM)スキーマのもとJSON-LDとして格納された機械可読データに,ヨーロッパ共通電子証明法下のeIDAS規制(Regulation(EU)No 910/2014)に準拠するe-sealを付与したものとして集積してきた.学習者はeIDAS準拠の電子識別手段(各国が発行する公的な電子IDや電子証明書)を用いてシステムにログインすることにより,中央集権システム内のEuropass Viewerで自らの学修歴をデジタル履歴書として管理し,求職や就学に用いることができた.デジタルバッジなどで表現されるその他の学習歴は,リンクデータとして同じウォレット内に格納されていた.

ここで2024年5月に発効したeIDAS 2.0では,Web標準化団体World Wide Web Consortium(W3C)が策定したVerifiable Credentials(VC:検証可能なデジタル証明書)と互換性がある形式で,ユーザー自身がデバイス上で電子資格情報を管理・提示できるEU Digital Identity Wallet(EUDI Wallet)を,各国が2026年末までに導入開始することを求めている.EUDI Walletはself-sovereign identity(SSI:自己主権型アイデンティティ)の原則にもとづき,ユーザーが自らの資格情報をコントロールする仕組みとなっている.運転免許証,eHealth,支払いに加えて,教育・職業資格の証明が統合されていくことが決まっている.Europassの提供するサービスの中では,Certificates and diplomasセクション,すなわち“マクロ”クレデンシャルの部分がEUDI Walletと統合される.Digital Credentials for Europe(DC4EU)が,ヨーロッパ共通のeduID(フェデレーションとしてID管理が行われる)を付与するデジタル学生証発行を含め,教育デジタルインフラのEUDI Walletへの統合を進めている.

3.2.2 北米型スキルバッジの内容の,欧州の高等教育基準へのマッピング

この取り組みの中で,Open Badgesを含む既存の教育クレデンシャルの欧州基準への書き換えにはオランダのSURF(旧称:協力大学計算施設,現在はオランダの高等教育・研究機関のICT基盤を担う非営利組織)が中心的な役割を果たし,Credential ConverterとしてGitHub上で提供している[5].オランダではマイクロクレデンシャルの管理を国家的に一元化してedubadgesとして発行し,さまざまなクレデンシャルの高等教育への組み込みと相互通用制を担保している.欧州では「セクター別の質保証」を尊重しつつ,共通の透明性基準(学習成果,評価方法,発行者情報など)を設けることで信頼性を担保することを重視している[6].その中で高等教育セクターは「単位換算可能なマイクロクレデンシャルのみ認める」という姿勢が強い.edubadgesの取り組みは職業スキルやコンピテンシーに相当する内容も単位換算し,高等教育の質保証の枠組みに回収することにより,透明性を保とうという方向性の現れである.

ここで北米型のコンピテンシーベース雇用との親和性が高いLearning and Employment Record(LER)(4.2.4参照)といった学習・雇用記録のデータフォーマットの欧州標準へのマッピングのために,SURFと共同でData Ecosystem Schema Mapping Tool(DESM)を作成したのが,米国商工会議所財団が運営するT3 Innovation Networkである[7].4.2で紹介するCredential Engine社のCredential Transparency Description Language(CTDL)は,DESMのデータ標準マッピングを活用して,クレデンシャル記述語彙を整備している.

3.2.3 北米と欧州を架橋する新基準対応プラットフォーム:カナダ・オンタリオ州

自己主権型デジタルウォレットの中に各種証明書に合わせてマクロおよびマイクロクレデンシャルを格納しようとするパイロット・プロジェクトは各国で進められている.ここでは,W3C VCに準拠したウォレットmywallet.cloudを展開するカナダのオンタリオ州の取り組みを紹介する.

オンタリオ州高等教育・研究推進省より資金提供を受けた非営利団体であるeCampusOntarioは,2017年よりカナダ向けマイクロクレデンシャル・フレームワークを作成し,複数の労働市場情報提供組織との密接な対話のもと,マイクロクレデンシャル・エコシステム構築を主導してきた.たとえば2024年3月には,学習者のスキルや能力と雇用者のニーズとをAIでマッチングし,そのギャップを埋めるマイクロクレデンシャルを紹介するサービスを開始している[8].学習歴はBCdiploma社の提供するウォレットmywallet.cloudに格納される.2025年のアップグレードで,マクロおよびマイクロクレデンシャルをより統合的に管理できるようになった.これはオンタリオ州の公立高等教育機関が公式に参加する,個人の生涯学習口座のような役割を持つことになる.

BCdiplomaは元々“マクロ”クレデンシャルのデジタル証明を行うプラットフォーマーであり,19カ国100以上の機関で運用されてきた.自社製品としては偽造できないトークンとしてのNFTの利用を推している.一方でW3C VC標準およびOpen Badges標準の両方に対応している.BCdiplomaはスポンサーの中に1EdTech(Open BadgesやLTI等の教育技術の標準規格を策定する国際的非営利コンソーシアム.2022年にIMS Global Learning Consortiumから改称)を擁する一方で,EUDI WalletのベースであるEuropean Blockchain Services Infrastructure(EBSI)に基づいてフランス政府と包括的に共同開発を進めてきた[9].地政的にも必然的に,欧州・米国の両方のサービスとの同時サポートに対応し,ウォレットを作り込んでいる点で特筆される.

3.3 クレデンシャルによるデジタル証明方式の違い

3.3.1 W3C VCとOpen Badges 3.0との違い

3.2.2で,北米のジョブ型雇用にマッチした産業指向マイクロクレデンシャルの内容を,欧州型の高等教育マイクロクレデンシャルのスキーマにマッピングすべく取り組みが重ねられていることを示した.

デジタル資格証明の技術面に関しては,W3C VCとDecentralized Identifier(DID:分散型識別子)を用い,プラットフォーム非依存で分散的に高セキュリティとプライバシーを担保する方式への転換が,地域やクレデンシャルの種類の違いにかかわらず進められている.北米で中心的に用いられるOpen Badges 3.0(OB v3)やComprehensive Learner Record 2.0(CLR:包括的学習者記録)(いずれも1EdTech Consortium)もW3C VCに対応している.しかし産業指向マイクロクレデンシャルで多く用いられるデジタルバッジ(OB v3)はそのままでは学位や卒業歴といった“マクロ”クレデンシャルの持ち運びには不適当である.それはなぜなのか.そして,3.2.3で紹介したBCdiplomaのようなベンダーはそれをどのように解決しようとしているのだろうか.

Open Badgesはジョブ型雇用を主流とする北米で,高等教育の枠組みに縛られず,市場の強いニーズのもと発展してきた.その後,世界標準として展開し,欧州でもOpen Badges 3.0がEBSIおよびW3C VCと整合性を構築しつつ普及が進められている.とはいえ,Open Badgesは「Defined Achievement Claim」と「Skill Claim」に特化し,主にマイクロクレデンシャルやスキル認証を想定した設計となっている.デジタルバッジをdiploma等の資格証明に用いている例も散見されるが,そのままでは学位証明など”マクロ”クレデンシャルに求められる内容およびデジタル資格証明上の厳格性を欠いていると考えられている.

W3C VCはそれ自体では法的効力を持つ証明書ではなく,データモデルと検証可能性を示す,国際技術標準である.W3C VCが技術面における封筒の役割だとすると,EUにおいて電子文書に法的効力を持たせるために必要とされるのはe-sealであり,e-sealをeIDAS Bridgeという仕組みを用いてVCに付与することによって,VCは信頼された法人により発行された文書であることが確認できるようになっている.

一方でOpen Badges 3.0は教育分野に特化した標準であり,法的拘束力や政府レベルの認証要件を満たすためのバインドに関する明示的な規定を持たない.学位証明書のような高リスク証明書(high-stakes credentials)には,

  • 法的効力の保証
  • 長期的な検証可能性(数十年単位)
  • 厳格な本人確認
  • 監査証跡
  • 国際的な法的相互認証

が必要だが,Open Badges 3.0はこれらの要件を完全には満たさない(表1).むしろ,これらを緩めることによって,従来の高等教育につきものであった硬直性を脱し,マイクロクレデンシャルらしい柔軟性を担保しているといえる.しかしそれでは,単位互換に見られるような,高等教育機関の提供する「積み上げ可能な」マイクロクレデンシャルを表現するには都合が悪い.OB v3自体には,大学教育機関の正当性を検証するための信頼レジストリやガバナンスフレームワークに関する明示的な要件がない.

表1 “マクロ”クレデンシャルの証明にはW3C VCが必要
要件 W3C VC(完全実装) Open Badges 3.0
法的効力 eIDAS等との統合可能 教育分野特化,法的効力は限定的
用途 あらゆる証明書 主にスキル・達成認証
暗号証明 多様なプルーフメソッド必須 柔軟だが標準化が不十分
信頼フレームワーク 信頼レジストリ統合可能 明示的な要件なし
長期検証 数十年単位の検証を想定(LTV: Long-Term Validation) 主に短〜中期的使用を想定
相互運用性 グローバル標準 教育エコシステム内

学習内容面では,Open Badges単体が“マクロ”クレデンシャルおよび高等教育マイクロクレデンシャルに関するさまざまな情報を格納するのには不十分であることに対応し,1EdTechが定めるCLR 2.0(Comprehensive Learner Record,3.3.1参照)は,“マクロ”クレデンシャルの中に各々のプログラムが包含されるという階層的関係性をAssociationという機能を用いて表現するように規定されている.CLRは各学習項目間の階層性を定義するデータスキーマであるが,W3C VC仕様に準拠することにより(4.2.4参照),“マクロ”クレデンシャルおよび,包含されているデジタルバッジ等のそれぞれについて電子証明書を付与することが原理的には可能となっている(図2).

図2 CLRとOpen Badgesの入れ子構造および証明添付例
図2 CLRとOpen Badgesの入れ子構造および証明添付例
3.3.2 Open BadgesとCLRは柔軟である一方,技術的標準化に課題

各国ではこれまでOpen Badges v2.0として,1.5億程度のデジタルバッジが提供されてきたと推定される.OB v2は受取人の識別にメールアドレスを使用し,バッジの真正性を検証するために,バッジ発行者のWebサーバへの問合せが必要である.これはそのままでは,W3C VC対応の現代的なデジタルウォレットに格納することができない.そのため,こうしたウォレットが従来発行されたデジタルバッジに対応するためには,W3C VC形式に変換して格納するか,もしくは従来型のプラットフォームを共存させて運用するかのいずれかの対応が必要になる.

OB v3および各種学習歴格納のための標準仕様であるCLR 2.0では,ユーザーの識別情報としてDIDsを用いるものの,使用可能なDIDメソッドの選択については実装者に任されている.そのため,共通のルールが定着するまで期間を要すると考えられる.しかしながら,学位証明や越境的な単位互換に関しては,相互通用性が保証された検証方法を用いることが求められる.

すなわち,OBを高等教育型のクレデンシャルに利用するためには,CLRの中に位置付けた上で,技術的な適用に関する合意形成が必要になる.米国においては,国内で取得した学位を持って留学しようとするニーズが限られており,“マクロ”クレデンシャル電子化に対する動機づけが低い.ポータブルなデジタル資格証明としての学位や卒業証明書の電子化率は3〜10%にとどまると推定されている.ほとんどの大学は,従来からの中央集権的なNational Student ClearinghouseのWebサービスに学生の学修歴を登録しており,雇用主はサイトへのアクセスを通じて学生の学修歴を確認する.学生は自らのデータの管理権を持たず,また国際通用性もないが,それらを問題視する機運は限られている.そのため,高等教育学修歴,とりわけ“マクロ”クレデンシャルのデジタル資格証明の標準に関して,米国の運用を参照する場合は注意が必要である.

3.3.3 ウォレットは両方のクレデンシャルを格納することが必要

こうした問題意識のもと,3.2.2で紹介したカナダ・オンタリオ州が採用するBCdiploma社のmywallet.cloudでは,単一のウォレットで学習クレデンシャルを以下の2つの方式で格納し,学習者が多様な学習成果を生涯にわたって蓄積し,利用することができることを目的に整備されている.こうした設計思想は,Europassと共通するものである.

  • W3C VC準拠,欧州と共通規格:高セキュリティが必要な公式学位証明書向け
  • Open Badges 3.0:より柔軟性が必要なマイクロクレデンシャルやバッジ向け

4.プラットフォームに依存しないデジタル化の共通基盤に向けて

4.1 レジストリの整備/文献情報とのアナロジー

4.1.1 技術実装の方式に依存しない,学習内容レジストリの整備が必要

これまで述べてきたように,学習歴発行および証明の方法にはさまざまなものがある.その中で,Holder,Issuer,Verifierといった分散的な概念に見て取れるように,証明すべきクレデンシャルの内容記述と証明主体を切り離すことが今後主流となってくる.一方で学習記録の網羅的な把握と生涯学習支援の観点からは,分散型ウォレットと中央レジストリを組み合わせたハイブリッドアプローチが有効である.すなわち,クレデンシャルの保管はHolderのウォレットで行いつつ,発見可能性と相互運用性を担保するトラスト(信頼に足る発行機関)・レジストリやメタデータ(存在した教育/学習内容)・レジストリといった,分散型システムを支える補完的インフラの整備が重要となる.ウォレットはこれらを参照することによって,正しい内容を反映し続ける.

レジストリを公共の見える場所で提示しておくことは,高等教育型,スキルベースの各クレデンシャルに対して以下の点で必要である.まず高等教育型クレデンシャル(マクロおよびマイクロ)に関しては,高等教育機関や教育プログラムの存続にかかわらず,実在した教育の履歴を一貫した形式で残し,必要に応じて利用できるように提供することが求められる.こちらは,高等教育の質保証と管理に関する問題である(表2).2.3節で示したとおり,韓国,インド,中国,ヨーロッパ諸国,オセアニア諸国では,その国で提供された高等教育の記録を個人と紐づけて中央集権的に管理し,個人が必要に応じて利用できるシステムを構築してきた.東南アジアでも同様のシステム整備が進められている.これは,個人が自らの学修歴を円滑に活用する上でも,国が教育資源の効果的な配分をエビデンスに基づいて行う上でも必要である.これらの教育データベースの管理は民間業者に委託することもできる.

表2 高等教育における認定と認証
名称 和訳 内容
Accreditation 認証/適格認定 教育機関プログラムが事前に定められた最低限の質基準を満たしているかを,認定機関が検証し,認めること
Recognition 認定/承認 学位授与権を持つ機関として認められること
学位や資格を公式に承認すること
RPL(Recognition of Prior Learning) 既修学習認定 0.公式学習(他の教育機関での取得単位や資格)
1.非公式学習(職業経験や教室外で獲得したスキル・知識)
を評価し,単位認定または入学資格として認めること
PLAR(Prior Learning Assessment and Recognition) 既修学習評価認定 個人の既修学習を特定,文書化し,評価を受け,認定すること
VAE(Validation des Acquis de l'Expérience) 経験学習認定 職業経験を通じて獲得した能力を,学位や称号,または職業資格として認定すること(フランス)
Credit Transfer 単位互換 ある認定高等教育機関で修了したコースに対して,別の機関が単位を認めること

米国では,マイクロクレデンシャルを含めたデジタル学習歴証明の利用に関して,統一的なインフラの提供は限られた内容にとどまっている.そこで民間非営利団体が,教育プログラムの定義を登録するメタデータ・レジストリを運営し,さらに個人の学習歴データを集約する学習歴レポジトリ(National Learning Record Infrastructure)の共同構築を呼びかけていることを紹介する.

スキルベースのマイクロクレデンシャルについても,高等教育型と統一したメタデータ・レジストリに格納することにより,積み上げ可能な高等教育型マイクロクレデンシャルとの接続を容易にし,認知度と他クレデンシャルとの比較可能性が向上する.

4.1.2 高等教育機関の信頼性を保証するトラスト・レジストリ

3.3で述べたように,デジタル資格証明が発行元の信頼性と真正性を保証するためには,権威ある管理者の運営する発行者証明のためのレジストリが必要である.多くの国では電子証明書の真正性を確認するためのオンラインツールも公的機関により提供されており,提出されてきた学位記や成績証明書がその国で認定された教育機関により発行されたものであるか確認することができる.またこれまでは,学位記や卒業証明は,法人による発行であることの証書であるe-sealが付与されていることで相手機関に受け取ってもらうことが可能であった.

ここで,電子的な学修証明の発行や管理が厳格化し,個人による電子証明されたクレデンシャルの持ち運びが通例となるに従い,個々のクレデンシャルが参照すべき権威ある発行機関レジストリの重要性がますます高まっている.国内では,高等教育質保証機関の1つである大学改革支援・学位授与機構の中にNational Information Center(NIC:高等教育資格承認情報センター)が設置されており,UNESCO東京規約・世界規約で認められた教育資格情報のマスターソースとなっている.NICのWebサイトでは,各種大学のほか,高等専門学校,専門学校,省庁大学校を含む設置認可された高等教育機関の一覧と,それらが授与する学位や称号の種類を示している.さらに,それぞれの学位や称号の,全国教育資格枠組み(Japanese Educational Qualifications Framework)に対応するレベルと種類について解説している[10].このリストを機械可読な状態で,VCに記載されるDIDから参照できるようにすることが望まれる.

4.1.3 資格枠組みを通じたスキルとの接続は道半ば

全国教育資格枠組みは2025年3月に中央教育審議会で承認された.ただし,今回の資格枠組みには職業的スキルとのマッピングに必要なコンピテンシーの内容が記述されていない.欧州やオセアニアとは異なり,公教育の中での,職業教育の各段階の内容の対応づけ標準化に関する合意が取れていないため,スキルのレベル定義は今後の各職業団体との協議に依存する.

高等教育の中で積み上げ可能な「単位」と,スキルやコンピテンシーとのレベル対応は文脈依存であり,必ずしも一意に決めることができないという問題も解決する必要がある.すなわち,同じ統計分析のクレデンシャルの単位換算が,一般教養課程としての文脈と,情報工学の前提知識としてでは,前者においての方が単位数が多いという事態が生じることが考えられる.すなわち,高度な達成度を期待される文脈においては,同じ学習成果の換算単位数は少なくなってしまうだろう.

4.2 マイクロクレデンシャルのレジストリ

4.2.1 マイクロクレデンシャル・フレームワーク

日本マイクロクレデンシャル機構では,UNESCOの指針に準拠して,2023年3月27日に日本におけるマイクロクレデンシャル・フレームワークを公開した[11].フレームワークは,メタデータの記述規則を規定する.学習成果がマイクロクレデンシャルとして認められるためには,発行機関がどこであれ,「発行機関」「学習目標・成果」「外部質保証(第三者認証)の有無」「学習時間・期間」を明示することが求められる.フレームワークに準拠したマイクロクレデンシャルのデータが集積されると,レジストリとして利用することができるようになる.

高等教育機関によって単位認定されないマイクロクレデンシャルに関しては,そのプログラムを通じて,想定されるコンピテンシーやスキルが適切に身につけられることを客観的に評価し,その証拠を示す必要がある.国内ではマイクロクレデンシャルの実質的なマーケットや,人々に共有された価値観はまだ成立していないと言ってよい.そこで,日本マイクロクレデンシャル機構がマイクロクレデンシャルの質保証を行い,その承認証明の情報と合わせて,レジストリに蓄積し一般公開することが必要である.デジタル証明書やウォレットからの参照は,オンラインで公開されたレジストリの項目一つひとつに一意のURL(URI:Uniform Resource Identifier)を付与することによって実現する.

類似の例としては,各国で出版され,さまざまなデータベースに登録されている学術文献に付与されているDOI(Digital Object Identifier)が挙げられる.DOIの登録を受け付ける団体(Registration Agency)は国内外に存在し,JaLC(Japan Link Center)やDataCite,Crossrefなどが代表的である.学術情報リポジトリやオンラインジャーナルの発行者が,文献のメタデータと所在URLを登録機関に登録すると,永続的な参照識別子としてDOIが付与される.学修内容に関しては現在のところ,このような世界共通の専用のURIシステムは確立していない.

オンライン授業で提供される授業の情報を,国立情報学研究所(NII)の提供する学術文献レポジトリプラットフォームであるWEKOの機能を用いて登録し,DOIを付与する試みはすでに行われている.WEKOはそのままでは学習歴のメタデータ格納に最適化された仕様となっていないため,各種クレデンシャルの公開レジストリに用い易くするためのツールの提供が待たれる.この後言及する米国の非営利組織Credential Engineの,CTDL(次項参照)という記述言語を用いたCredential Registryでは,登録されたクレデンシャルにCTID(Credential Transparency Identifier)というURIを発行している.世界的なクレデンシャルの持ち運びを容易にする重要な取り組みであるものの,米国においてもCredential Registryを活用している州は一部であり,日本の機微なクレデンシャル情報に関してマスターデータを国外の非営利団体に依存して管理することには不安もある.日本国内においてフレームワークに従って記述された学習歴クレデンシャルのメタデータは,国内のレジストリに格納して学習歴の参照を可能とするURIを付与し,さらに必要に応じてCredential RegistryにマッピングしてCTIDを取得,紐付けていく流れになるだろう.

4.2.2 CTDL(クレデンシャル・エンジンによる記述言語)

Credential EngineによるCTDL(表3)を用いたレジストリ構築の取り組みの経緯を紹介する.Credential Engineは,2013年に始まったCredential Transparency Initiativeから発展し2016年12月に発足した,米国の非営利組織である.Credential Engineの最大の後援団体は,すべてのクレデンシャルに透明性を持たせ,クレデンシャルエコシステム全体の変革を目指してきたLumina Foundationである.Lumina Foundationは,高等教育へのアクセスがすでにあるようなエリート層のみならず,低所得層などリソースの乏しい人々に学位や就業に役立つクレデンシャルを提供することを目標に掲げてきた.

表3 学修およびスキルフレームワークと粒度の違い
記述フレームワーク 発行機関 粒度 用途
資格枠組み
Qualifications Framework
公的な評価機関
地域連合
教育機関のレベル
プログラムレベル
進学,留学,単位交換,既習得単位認定
上記のコンピテンシー定義 同上
日本は検討中
上記のコンピテンシー内容を記述 一般教育と職業教育とで共通するQF各レベルの達成度を明示
ESCO Framework 欧州連合 各分野における職業資格内のスキルの詳述 移民の職業資格自動承認
CTDL
(Credential Transparency Description Language)
Credential Engine(米国非営利団体) マクロおよびマイクロクレデンシャルを一元的に記述するメタデータ 学習プログラムやコースの記述,データベース化
CTDL-ANS
(Achievement Standards Network)
同上 スキルやコンピテンシーの超域的表現 スキルベースマイクロクレデンシャルのCTDLでの記述
CASE
(Competencies and Academic Standards Exchange)
1EdTech Consortium
(国際的な非営利コンソーシアム)
それぞれの学習内容の記述 主に米国K-12におけるデジタル教科書,学習指導要領,ラーニングアナリティクス

国境を越えた単位互換や既習得学習認定,高等教育と職業教育との接続のために長く議論を重ねて合意を形成してきた欧州と対照的に,米国では職業訓練を含めて爆発的なマイクロクレデンシャルのブームが生じたにもかかわらず,それらの質と相互通用性(interoperability)の不透明さが課題となってきた.そこで,地域やクレデンシャルの提供者にかかわらず,高等教育の相互通用とも整合するかたちで記述子を定義し,一意のURIを付与したレジストリを構築するためにCTDLを制定し,少なくとも年2回のペースで更新を行っている.

CTDLは対象として,いわゆるマイクロクレデンシャルやデジタルバッジのみならず,学位(degree)や職業学位(diploma),職業資格といったさまざまなクレデンシャルを網羅している.さらに,欧州における1999年からのボローニャ・プロセス(国境を超えた学位の承認や単位互換を推進する取り組み)に相応するように,高等教育機関における既習得学習認定の透明性と相互運用性を高めるための,データ収集とシステム整備を行っている.すなわち,各国の高等教育認定(accreditation)機関を中心的なステークホルダーとし,大小のクレデンシャル種を統一的に記述し,蓄積することを目指しているといえる.これらはJSON-LDで記述され,クラウドベースの公開データストアであるCredential Registryに蓄積される.Credential Engineにより承認された機関にはAPI Keyが発行され,データをアップロードすることができるようになる.手動入力も可能である.

CTDLは国際プロジェクトとして有識者のタスクグループにより運営されており,欧州やオセアニアといった他地域でのクレデンシャルとの接続を重視した設計となっている.米国内ではフロリダ,コネチカット,ノースカロライナ,ミシガン等の州が積極的にデータを登録し公開している.既習得学習認定のための学習歴単位換算情報は,10,000以上が発行されている.このプロジェクトは,あらかじめ統一基準を定めることが困難で,5,819(2023〜2024年)の高等教育機関を擁する米国が,すでに出てしまった膨大なクレデンシャルを整理し,他地域の基準とマッピングを行う取り組みの中心となっている.しかしながら,米国内でも全体的に受け入れられているとは言えず,Lumina FoundationとCTDLを利用してクレデンシャル品質指標の透明性向上に参加しているのは18の州・地域に限られる.

4.2.3 CTDLでは,単位・スキル・職務経験をどのように記述するか

CTDLでは学習機会をCourse(大学の単位に限らず,何らかのまとまった学習のまとまり)と,Courseを含む複数の学習機会で構成されるLearning Programの2段階で記述する.Courseを説明する記述子は図3のとおりである.学術単位換算値は,Learning Opportunity Profileクラス全体の推奨ベンチマークとして設定されている.既習得学習認定は米国やカナダでは一般的な慣行であり,その認定は成人学習者の教育機関選択と修了率に大きな影響を及ぼすことが知られている.

図3 CTDLにおける学習機会の表現
図3 CTDLにおける学習機会の表現

一般的な授業科目との記述粒度の対応について,CTDLでは週ごとの授業計画や課題内容のようなシラバスの詳細な内容を格納しない.コース全体の記述,学習成果,所要時間,前提条件といったコースカタログレベルの情報が,Courseの記述子で表現される(図3).

学術高等教育機関での伝統的な学びを,職業教育や非伝統的な学びと接続していくためには,単位移行の規則の記述のみでは不十分なため,スキルやコンピテンシーに関して記述する方針も必要となる.欧州では職業教育の公教育のスコープへの統合度が高く,教育のレベル定義を行う資格枠組みは学術教育と職業教育を架橋するように整備され,各レベルでどのようなコンピテンシーが求められるかの記述がされている.これに対し,CTDLの中にはコンピテンシーを記述するCTDL-ASN(Achievement Standards Network)というフレームワークが用意されている.習熟度,ルーブリック(各達成レベルで求められる具体的行動や,成果物を記述した評価マトリクス),概念スキームといった,コンピテンシーを機械可読な状態で詳細に記述し,雇用者とマッチングするためのクラスを持つ.

さらに,学習クレデンシャルの費用対効果を見える化するために,QDataという学習や労働成果に関する量的データを記述するクラスが存在する.日本国内では,教育の費用対効果を分析し明示する慣行が乏しく,日本マイクロクレデンシャル機構におけるマイクロクレデンシャル・フレームワークでもこの点に相当するメタデータの記述は求めていない.しかしながら,取得した国内のマイクロクレデンシャルに実効的な用途があるのかどうかを評価するためには,今後マイクロクレデンシャルの提示先や利用頻度のデータ分析が必要となってくると考えられる.

4.2.4 1EdTechのCLRとの対応

1EdTechは,Open Badgesのみならず,高等教育の学修歴を含むあらゆる学習歴を個人が蓄積し,提示する入れ物として,CLRという標準規格を提唱している.CLRはこれまで紹介してきた規格とどのような関係があるのだろうか.

CLR標準はデジタルバッジとしてOpen Badgesを包摂するのはもちろん(図2),セキュリティ技術としてはW3C VCに,メタデータとしてCTDL/CTDL-ASNに対応している.すなわち,これらは相互補完的な規格および技術であると言える.CLRは,W3CのVCを通じて配信される可能性のあるペイロードを規定する.CLRと類似の用語としてLearning and Employment Record(LER:学習・雇用記録)があるが,こちらは職業経験やコミュニティ活動,軍事訓練などあらゆる学習・雇用経験のデジタル記録に対応した包括的な概念である.LERの整理や,活用エコシステムの確立に尽力しているのが,3.2.2で紹介したT3 Innovation Networkであり,学習歴を雇用者や産業界に提示するためのデータ転換ツールを提供している.産業との円滑な接続のためには,保持情報のLERへの拡張が必要となる.

4.2.5 AACRAO(米国大学登録・入学管理者協会)

欧州やアジアでは,個人の多様な学習歴を集積して学習者個人に管理・活用させる生涯学習口座,もしくは単位銀行の整備が進んでいる(2.3節参照).これらに相当するサービスの提供を目指し,米国では高等教育の有識者によって運営される非営利専門職団体AACRAOが活動を進めている.AACRAOは南アフリカ共和国の質保証機関であるThe South African Qualifications Authority(SAQA)をはじめ,40カ国以上,約2,300機関が参加する国際イニシアティブとなっている.AACRAO自体はデジタルウォレット等を提供するプラットフォーマーではないが,ウォレットに格納可能な形でCLRを含む個人のLERを集積しようとている.

これまで中央集権的に“マクロ”クレデンシャルを格納してきた米国のNational Student Clearinghouseも,AACRAOとの連携にもとづきMyHubという,多様な学習歴と就業履歴の学習者によるアクセス可能なポータルを開発中である.

4.2.6 Open Syllabus

ここで,多様な学習歴の分類に関して別の角度からのアプローチを紹介する.既習得単位認定を支援するシラバスのデータ分析に関するものである.米国では科目ナンバリングシステムにてコースシラバスを分類する慣行があり,またCollegeSource社が大学間で単位互換を行うためのデータベースと専用プラットフォームを提供してきた.教育内容の急速な進展に対応し,これらに頼らずにオンライン公開されているシラバスの文面から,授業内容の類似度を機械学習により判定するサービスが出てきている.

非営利研究組織であるOpen Syllabusは2016年に設立され,日本を含む152カ国で公開されているシラバスをスクレイピングし,753万以上のシラバスデータを蓄積するオープンソース・プロジェクトである.それらをもとにシラバスの逐語比較に基づく,Course Matcherという単位認定支援ツールを提供している.この活動の本来の目的は教育ビッグデータをもとに出版や教育開発を支援することであり,それぞれの授業で採用されている教科書の地域に紐づいたマッピングなど,グラフィカルな分析データが豊富である.高等研究におけるラーニングパスや包含関係の推移といったトレンドを確認するのに役立つと考えられる.このほか,UC Berkeleyでの研究をもとに開発されたCourseWiseでは生成AIを駆使して,背景文脈を考慮した上で大学間の等価なコースを特定することに特化したサービスを提供している.

4.2.7 スキルツリー分類の自動化

スキルやコンピテンシーに着目してマイクロクレデンシャルを分類し,階層化する試みも出てきている.マイクロクレデンシャルや求人情報・履歴書データが集積することにより,スキル分類を自動化し,マッチングに役立てるサービスである.Lightcast,Degreed,Daxtra,Indeedといった労働市場・スキル分析ソリューション提供企業によるAI Resume Screening & Skills Extractionといった解析ツールや,365Talentsといった関係性マッピングを行うサービスが存在する.これらのボトムアップなデータのアップデートが,T3 Innovation NetworkのDESM(3.2.2参照)やCTDLの採用する分類に継続的に反映されてくると考えられる.

5.今後のロードマップ

5.1 マナパスなど他レジストリとの連携

国内ではリカレント・リスキリングのニーズに対する対応策がそれぞれのフィールドで行われた結果,学習コンテンツの提供プラットフォームは複数存在するものの,それらを一覧して関係性を確認したり,ユーザに分かりやすく提示したりするツールに欠けている.また,これまでの国内の公開オンライン学習プラットフォームでは,修了証は発行されていたものの,単位認定や資格と接続できたり,一般に価値が認められたりしているマイクロクレデンシャルとしての,体系的な整備は不十分であった.今後は日本マイクロクレデンシャル機構の提示するマイクロクレデンシャル・フレームワークを用いて,既存の学習コンテンツのうち,質保証されたクレデンシャルを提供し得るものを共通のレジストリに格納していく必要がある.

5.2 機関認証,個人認証との接続

今後学修歴のデジタルクレデンシャルは,免許証や保険証と同じように個人のウォレットで管理されるようになっていくと考えられる.分散的な利用が主流となってくると,Issuerの真正性と権威を確認するために,高等教育クレデンシャルでは特に国内で認可された教育機関であることを示すトラスト・リストへのデータ参照が必要となってくる.

そのクレデンシャルのHolderが本人であるかの確認にはいくつかの方法が考えられるが,所属機関間の移動,名前の変更などに対して頑健で,他の重要なクレデンシャルとのデータ連携を可能にするという意味で,マイナンバーカード・システムとの統合が指向されると考えられる.EUおよび1EdTechの標準に適合するようにデジタル認証をパッケージ化することは,これらと別の段階で実装することができる.

5.3 クレデンシャルレジストリおよびURIの管理と国際接続

以上を実現する前提となるのが,適切なフレームワーク内に整理されたマクロおよびマイクロクレデンシャルのメタデータ・レジストリの確立と維持となる.CTDLに準じることにより網羅的な分類を実現することができる.公開URIは国際的に一意に定まることが望ましいが,国内でのデータガバナンスを考慮するならば,国内向けのURIと国際標準のURIの両方を参照させることが望ましい.分類・整理されたクレデンシャル項目のデータを整備しておくことにより,認証方式や利用のトレンドに左右されずサービスを提供し続けることができるだろう.

参考文献
脚注
  • ☆1 EUを中心としたVCおよびデジタルウォレットの動向に関してはOpenID Foundation/CTCの富士榮尚寛氏,慶應義塾大学の鈴木茂哉先生に多大な示唆をいただきました.深く感謝申し上げます.
坂口菊恵

坂口菊恵
sakaguti@niad.ac.jp

2007年東京大学大学院総合文化研究科修了,博士(学術).大学改革支援・学位授与機構研究開発部教授,(一社)日本マイクロクレデンシャル機構設立時理事.専門分野:行動生物学,教育工学.所属学会:日本心理学会,日本GI(性別不合)学会(理事).

投稿受付:2025年12月15日
採録決定:2026年2月10日
編集担当:横山和秀(日本アイ・ビー・エム(株))

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