2023年3月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のマスクの着用が個人の判断に委ねられ,5月にはCOVID-19は感染症法上の位置付けも変更となった.COVID-19がきっかけとなり始まったニューノーマルの生活様式もそのほとんどがCOVID-19前の生活に戻った.しかしパンデミック時に整備されたテレワークやオンライン講義は既に生活の一部となり,今後も活用が続いていくと予想される.そして,パンデミック前から利用している情報システムとパンデミックに対応するために整備された情報システムの両者を運用していかなければならないことが想定される.このようにネットワークの重要性は増しており,その運用管理者の負担は減ることはない.幸いなことにこれらを監視し制御する技術も発展しているが,膨大な監視データを活用できず,障害発生後に初めて確認を行うということが少なくない.これらのデータを適切に処理・活用し,問題発生の前兆に気づかせることで,情報システムの可用性を向上し運用管理者の負担軽減を達成することが求められている.同時に情報システムの利用者にも障害や問題が発生したことを気がつかせ,適切なアクションを取らせるようにしていくことも重要である.運用中のシステムに障害が発生した際に,何が起こるかをあらかじめ気づかせることで被害を最小限に抑える技術も必要である.
本特集号では,運用者や管理者,利用者全ての人に気づきのあるネットワーク運用管理技術に関する課題や取り組みに焦点を当て,これからの情報通信基盤の構築および活用に向けた最新の研究,開発,実験,運用等に関するプラクティス論文を掲載している.また理論中心ではなく実践の中で問題解決を図っており,他の環境においても有益であると考えられる論文を積極的に評価し掲載している.
本特集号は,次の編集委員会を組織し,編集した.
編集委員長:吉浦紀晃(埼玉大学)
副編集委員長:三島和宏(大阪教育大学)
編集委員:池部 実(大分大学),石島 悌(大阪府立大学工業高等専門学校),今泉貴史(千葉大学),大谷 誠(佐賀大学),大森幹之(鳥取大学),柏崎礼生(近畿大学),北口善明(東京科学大学),坂下 秀(アクタスソフトウェア),佐藤 聡(筑波大学),敷田幹文(高知工科大学),土屋英亮(電気通信大学),中山貴夫(京都女子大学),中村 豊(九州工業大学),萩原威志(新潟大学),鳩野逸生(神戸大学),福田 豊(九州工業大学),宮下健輔(京都女子大学),山井成良(東京農工大学)
本特集では四本の投稿論文を掲載している.
中川慶祐氏らによる投稿論文「実践的人材を育てる情報セキュリティ演習の設計と実施」では,和歌山県白浜町で長年に渡り実施されている情報危機管理コンテストの取組について述べている.筆者らはこのコンテストを主催しており,コンテストでの情報セキュリティ演習の考え方,問題の作成,演習実施環境の構築,演習の実施方法,そしてコンテストとしての運用方法について詳しく述べている.さらに長年に渡るコンテストの実施による人材育成の取組で得られた知見を述べている.社会的課題でもある情報セキュリティ人材の育成にとって,有益な内容を含んでいる.
神馬豊彦氏らによる投稿論文「内製業務システムを対象とした運用監視ツール「カダモニタ/KadaMonitor」の開発とその効果」では,香川大学のDX推進において内製開発された業務システムの運用監視ツール「カダモニタ/KadaMonitor」の開発と監視運用の取組が述べられている.DX化において業務を自動化するために業務システムを内製開発した場合,その保守方法が問題となっていた.「カダモニタ」は内製開発した業務システムの実行履歴などを取得することで成功率を常時監視し,成功率が低下した場合やエラーが発生した場合には,運用管理者が業務システムの改善を行うことで,業務システムの保守を行うことが可能となる.DX化における業務システムの内製開発にとって,この論文で提案された「カダモニタ」は有益な運用監視ツールとなっている.
中村光晟氏らによる投稿論文「ネットワーク機器設定の構文解析によるネットワーク機器設定構成モデル自動抽出手法の提案」では,ネットワーク機器の設定情報から構文解析を利用して,ネットワーク機器設定構成モデルを自動抽出する手法を提案している.ネットワーク設計の妥当性確認のためには,実機での試験ではなく,ネットワーク構成モデルのシミュレータによる自動検証手法や一貫性検証手法はコスト面からも有効である.しかしネットワーク更新などにおける設計時にネットワーク構成モデルによるシミュレーションを行おうとすると既設ネットワークをモデルに書き起こすことが必要でありこれが問題であった.提案された手法はこの負担を軽減している.
藤田智哉氏らによる投稿論文「静的解析による ネットワーク構成モデルの自動検証手法の提案」では,ネットワーク構成を表すモデルに対し,その一貫性を静的解析により自動検証する手法を提案している.この手法では,予め定めている要件,たとえば,ポリシ違反等の有無などを検査し,違反がある場合にはその原因となる設定値を指摘する.また,この論文では評価実験により提案手法の有効性が示されている.提案手法は,ネットワーク設計の検証を,実機を用いずにそして網羅的に行うことを可能にしており,ネットワーク設計の効率化や完成度の高さを望めるものとなっている.
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