会誌「情報処理」Vol.66 No.2(Feb. 2025)「デジタルプラクティスコーナー」

生成AIに関連する著作権侵害の成否

東崎賢治1

1長島・大野・常松法律事務所

 近年,生成AI(Generative AI)の技術が急速に発展し,著作権との関係が大きな議論を呼んでいる.特に,クリエイターや権利者からは著作物の無断利用への懸念が高まっている.文化庁の法制度小委員会は,2024年3月に「AIと著作権に関する考え方」をとりまとめた.生成AIによる著作権侵害は,開発・学習段階と生成・利用段階の2つの段階で問題となる.前者については,著作権法第30条の4に基づく非享受目的の利用に該当するか否かが問題となり,後者については,依拠性が問題となる.

1.AIと著作権に関する議論の経緯

近時,画像や音楽,文章等のコンテンツを生成することができる生成AI(Generative AI)に関する技術が急激に発展し,生成AIを利用したサービスが急速に広まった.たとえば,米国のOpenAIが開発し,2022年11月に公開されたChatGPTは,その公開の直後から利用が広まり,関連サービスが我々の日常生活に広く浸透した.また,Stable Diffusion等の画像生成AIやCREEVO等の音楽生成AIについても,さまざまな関連サービスが提供されている.それに伴い,いわゆるIT企業だけでなくほかの企業も,生成AIを事業に活用し始めている.

他方,生成AIの開発・利用については,個人情報保護,肖像権,知的財産法等のさまざまな法領域で,法的論点が指摘され,議論されている[1][2].特に,著作権と生成AIとの関係については,盛んに議論されており,クリエイターや実演家等からは,著作物の無断利用等についての多くの懸念の声が上げられている(文献[3]の14~15ページ).また,AI開発事業者・AIサービス提供事業者等の事業者からは,AI開発や生成AIを活用したサービス提供において,AI利用者がAI生成物の生成・利用により著作権侵害の責任を負う可能性についての懸念が示されている(文献[3]の15~16ページ).

このような状況の下で,文化庁の文化審議会著作権分科会法制度小委員会(以下,単に「法制度小委員会」という)は,2023年7月から,AIと著作権に関する考え方について議論を重ね(文献[3]の44ページ),2024年1月23日には,文化庁著作権課が,その時点での法制度小委員会の考え方の概要を示した「AIと著作権に関する考え方について(素案)」を公表し,同日から2月12日にかけて,この素案に関する意見募集(パブリックコメント)を実施した[4].意見募集に対しては,2万4,938件の意見が提出され[5],法制度小委員会は,さらに審議の上,2024年3月15日付けで「AIと著作権に関する考え方について」(以下「考え方」という)[3]をとりまとめた.

この「考え方」[3]には,「本考え方は,その公表時点における,本小委員会としての一定の考え方を示すものであり,本考え方自体が法的な拘束力を有するものではなく,また現時点で存在する特定の生成AIやこれに関する技術について,確定的な法的評価を行うものではないことに留意する必要がある.」との注記および「今後も,著作権侵害等に関する判例・裁判例をはじめとした具体的な事例の蓄積,AI やこれに関連する技術の発展,諸外国における検討状況の進展等が予想されることから,引き続き情報の把握・収集に努め,必要に応じて本考え方の見直し等の必要な検討を行っていくことを予定している.」との注記がされていることに留意する必要がある.もっとも,この「考え方」[3]は現時点において,政府から公表された生成AIと著作権との関係についての唯一の文書であることから,検討のベースとしての意義はあり,今後も参照の価値がある.

さらに,「考え方」[3]の公表後には,2024年5月28日に,知的財産戦略本部が「AI時代の知的財産権検討会中間とりまとめ」(以下「中間とりまとめ」という.)を公表した[2].この「中間とりまとめ」[2]は,AIと知的財産権に関する考え方を整理したものであるが,知的財産権のうち著作権については,法制度小委員会の「考え方」[3]を引用しており,独自の考え方を示すものではない.もっとも,「中間とりまとめ」[2]は,整理された法的リスクへの対応として,「技術による対応」([2]の35~43ページ),「契約による対応(対価還元)」([2]の44~50ページ)に分けて言及している.

AIと著作権に関連する議論等の経緯は,表1のとおりである.

表1 AIと著作権に関連する議論等の経緯
表1 AIと著作権に関連する議論等の経緯

生成AIと著作権との関係についての関心が高まっていることに伴い,筆者においても,事業において生成AIを活用する際の法的リスクについて助言を求められる機会が増えている.そこで,本稿では,生成AIと著作権との関係に関する各論点について,法制度小委員会の「考え方」[3]も踏まえつつ論ずるとともに,生成AIの開発および利用における留意点について述べる.

2.著作権について

著作権に関する基礎的事項を確認のため言及する.日本の法律の下では,著作権は,著作権法第21条から第28条までに規定する権利の総称である(著作権法第17条第1項).このことを,通常,「支分権の束」と呼んでいる(文献[6]の10ページ).著作権法第21条から第28条までに規定する権利のうち,生成AIとの関係で主に問題となるのは,複製権(著作権法第21条)である.「複製」については,「印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義されており(著作権法第2条第1項第15号柱書),通常「再製」とは,既存の著作物に「依拠」して,当該著作物と表現上の同一性があるものを作成することである(文献[7]の708ページ,文献[8]).

なお,著作権のほかに,著作者人格権(著作権法第18条~第20条)との関係も問題となり得るが,本稿では触れないこととする.

3.生成AIと著作権との関係が問題となり得る2つの場面

生成AIと著作権との関係が問題となり得るのは,①開発・学習段階,②生成・利用段階の2つの場面である.

  • ① 生成AIの開発・学習段階においては,学習用データをAIに学習させる際に,学習用データが著作物である場合には,当該著作物の「複製」が行われる.そのため,この「複製」が,著作権侵害に当たらないかが問題となる.
  • ② 生成AIの生成・利用段階においては,既存の著作物と同一または類似の表現を含むAI生成物が生成されることがあり得る.そういったAI生成物を生成させることが,既存の著作物の「複製」に当たらないかが問題となる.

このように,①開発・学習段階,②生成・利用段階の2つの場面では,検討すべき法律上の論点が異なるため,分けて検討する必要がある.法制度小委員会の「考え方」[3]も,この2つの場面に分けて検討している.

生成AIによる著作権侵害に関し,「考え方」において検討された事項は,表2のとおりである.

表2 生成AIによる著作権侵害に関し,「考え方」[3]において検討された事項
表2 生成AIによる著作権侵害に関し,「考え方」[3]において検討された事項

以下,第4章で①開発・学習段階における問題について,第5章で②生成・利用段階における問題について,それぞれ論ずる.

4.開発・学習段階における問題

4.1 問題の所在

第3章で述べたとおり,生成AIの開発・学習段階においては,学習用データをAIに学習させる際に,学習用データが著作物である場合には,当該著作物の「複製」が行われる.そのため,この「複製」が,著作権侵害に当たらないかが問題となる.一方,著作権法第30条の4は,「著作物は,次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には,その必要と認められる限度において,いずれの方法によるかを問わず,利用することができる.ただし,当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は,この限りでない.」と規定している.すなわち,①次に掲げる場合(著作権法第30条の4各号に掲げる場合)つまり,その他の既存の著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には,②必要と認められる限度において,③当該著作物の種類・用途・利用態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとならない限り,当該著作物を利用することができる.言い換えれば,これらの著作権法第30条の4の要件に該当する場合には,当該著作物の利用(たとえば,複製)を行ったとしても,著作権侵害は成立しない.

これらの著作権法第30条の4の要件のうち,①の要件は,「非享受目的」と呼ばれることがある.「享受」とは,一般的には,「精神的にすぐれたものや物質上の利益等を,受け入れ味わいたのしむこと」を意味する(文献[9]の762ページ).ある著作物の利用が非享受目的に当たるか否かは,「著作物等の視聴等を通して,視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為か否か」という観点から判断される(文献[10]の281ページ,文献[11]の21ページ,文献[12]の33~34ページ).

ここで,法令において「その他の」という語は,「その他の」の前にある字句が「その他の」の後にある,より内容の広い意味を有する字句の例示として,その一部をなしている場合に用いられる[13].したがって,著作権法第30条の4各号に掲げる場合は,「既存の著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」の例示として,その一部をなしていることとなる.同条各号のうち第2号は,「情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から,当該情報を構成する言語,音,影像その他の要素に係る情報を抽出し,比較,分類その他の解析を行うことをいう.第47条の5第1項第2号においても同様)の用に供する場合」と規定している.

生成AIの開発・学習段階において,学習用データをAIに学習させる際に,学習用データが著作物である場合には,著作権法第30条の4の要件のうち,①および③,中でも特に①の要件(以下「非享受目的要件」という)が問題となる.

4.2 非享受目的と享受目的の併存

4.2.1 「考え方」[3]における整理

仮に主たる目的が非享受目的であると認められるとしても,享受目的もあることが認められる場合には著作権法第30条の4の適用はないと考えられている(文献[11]の23ページ,文献[12]の34ページ).法制度小委員会の「考え方」[3]は,1個の利用行為に複数の目的が併存する場合において,複数の目的のうちに1つでも「享受」目的が含まれている場合には,著作権法第30条の4の要件を欠く(「考え方」[3]の19ページ)ことを前提として,「ある利用行為が,情報解析の用に供する場合等の非享受目的で行われる場合であっても,この非享受目的と併存して,享受目的があると評価される場合は,法第30条の4は適用されない」(「考え方」[3]の19~20ページ)とし,享受目的が併存すると評価される場合として,「既存の学習済みモデルに対する追加的な学習(そのために行う学習データの収集・加工を含む)のうち,意図的に,学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を出力させることを目的とした追加的な学習を行うため,著作物の複製等を行う場合」(「考え方」[3]の20ページ)や,「既存のデータベースやインターネット上に掲載されたデータに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を,生成AI を用いて出力させることを目的として,これに用いるため著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の,著作物の複製等を行う場合」(「考え方」[3]の20ページ)が想定されるとした.

4.2.2 「情報解析の用に供する場合」と享受目的との関係

「考え方」[3]における整理は,著作権法第30条の4第2号の「情報解析の用に供する場合」に該当する場合であっても,享受目的が存在する場合には,非享受目的要件を満たさないと考えられる.しかし,条文構造上,著作権法第30条の4第2号の「情報解析の用に供する場合」は,非享受目的要件の例示として規定されているので,「情報解析の用に供する場合」に該当すれば,当然に非享受目的要件に該当する.故に,「情報解析の用に供する場合」に該当する場合であっても非享受目的要件該当性を否定する,という解釈は,条文構造上不可能である(文献[14]の84ページ).そのため,「情報解析の用に供する場合」と享受目的との関係については,あくまで「情報解析の用に供する場合」の解釈によって対処すべきであると考える.すなわち,著作権法第30条の4が,著作権者の許諾なく非享受目的での利用を可能としたのは,「著作物が有する経済的価値は,通常,市場において,著作物の視聴等をする者が当該著作物に表現された思想又は感情を享受してその知的・精神的欲求を満たすという効用を得るために対価の支払をすることによって現実化されている」から,「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為については,著作物に表現された思想又は感情を享受しようとする者からの対価回収機会を損なうものではなく,著作権法が保護しようとしている著作権者の利益を通常害するものではないと評価できる」からである.そして,非享受目的の例示として「情報解析の用に供する場合」が規定されたのであるから,著作権法第30条の4の規定の趣旨を踏まえて「情報解析の用に供する場合」を解釈すべきである.

著作権法第30条の4第2号において,「情報解析」は,「多数の著作物その他の大量の情報から,当該情報を構成する言語,音,影像その他の要素に係る情報を抽出し,比較,分類その他の解析を行うこと」と定義されている.したがって,AIの開発において著作物を学習させることそれ自体は,「情報解析」に該当する.しかし,既存の著作物の表現上の本質的な特徴を感得することができる新たな生成物を生成する生成AIの開発において著作物を学習させることは,「著作物の視聴等をする者が当該著作物に表現された思想又は感情を享受してその知的・精神的欲求を満たすという効用を得る」ことに向けられた行為であって,「著作権法が保護しようとしている著作権者の利益を通常害する」ものというべきであるから,そのような場合は,著作権法第30条の4第2号の「情報解析の用に供する場合」には該当しないと解すべきである.同号の文言との関係で言えば,「情報解析」の定義は,「多数の著作物その他の大量の情報から,当該情報を構成する言語,音,影像その他の要素に係る情報を抽出し,比較,分類その他の解析を行うこと」であるところ,解析を行った後に「著作物の視聴等をする者が当該著作物に表現された思想又は感情を享受してその知的・精神的欲求を満たすという効用を得る」ことを予定するようなものは,「情報解析の用に供する場合」に当たらないと解すべきである.このこととの関係では,既存の著作物の表現上の本質的な特徴を感得することができる新たな生成物を生成することができないように技術的に制御された生成AIの開発において著作物を学習させる場合には,「情報解析の用に供する場合」に当たると解する余地はあると考える.

なお,著作権法第30条の4に言う「目的」とは,単なる主観ではなく,行為者の主観に関する主張のほか,利用行為の態様や利用に至る経緯等の客観的・外形的な状況も含めて総合的に考慮される(文献[12]の34ページ).「目的」の基準時は,行為時,すなわち,AIの開発において著作物を学習させるにあたって著作物を複製したときであるが,その「目的」の認定にあたっては,開発されたAIの内容・機能,開発されたAIの第三者への提供の態様,第三者への提供にあたっての第三者との合意内容,といったものが考慮されるべきである.

4.2.3 生成AIの開発における著作物の学習に著作権法第30条の4の適用を広く認める見解について

「考え方」[3]は,「既存の学習済みモデルに対する追加的な学習(そのために行う学習データの収集・加工を含む)のうち,意図的に,学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を出力させることを目的とした追加的な学習を行うため,著作物の複製等を行う場合」(「考え方」[3]の20ページ)や,「既存のデータベースやインターネット上に掲載されたデータに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を,生成AI を用いて出力させることを目的として,これに用いるため著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の,著作物の複製等を行う場合」(「考え方」[3]の20ページ)には,享受目的が併存すると評価されるが,「生成・利用段階において,AIが学習した著作物と創作的表現に共通した生成物が生成される事例があったとしても,通常,このような事実のみをもって開発・学習段階における享受目的の存在を推認することまではできず,法第30条の4の適用は直ちに否定されるものではないと考えられる.」(「考え方」[3]の21ページ)としている.

このような見解は,著作権法第30条の4第2号が規定されている以上,生成AIの開発における著作物の学習であったとしても,原則として同号により許容されており,AIが学習した著作物と創作的表現が共通した生成物が生成される事態については,生成・利用段階における著作権侵害として対応すれば足りると思われる.

しかし,AIが学習した著作物と創作的表現で共通した生成物が生成される場合に,生成・利用段階における著作権侵害が成立するのは当然としても,個々の生成物に対する権利行使によって得られる金銭的補償はきわめて少額である反面,個々の生成物を検知し,権利行使を行う負担は大きい.そのため,個々の生成物に個別に対応する負担を著作権者に負わせるのは現実的ではなく,著作権者の保護に欠けるように思われる.

そうであればやはり,著作権法第30条の4第2号の「情報解析の用に供する場合」の適切な解釈によって,既存の著作物の表現上の本質的な特徴を感得することができる新たな生成物を生成する生成AIの開発において著作物を学習させる場合を,同号の「情報解析の用に供する場合」から除外することにより,AI開発者に対する権利行使を可能とするのが適切な著作権法の解釈であるように思われる.

4.3 「作風」の保護

著作権法第30条の4ただし書は,「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は,同条本文の規定は適用されないと定めている.

そして,「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当するか否かは,著作物の利用の態様やその種類,用途等を踏まえて,著作権者の著作物の利用市場と衝突するか,あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から判断されるとされている(文献[12]の35ページ,文献[11]の31ページ).

この点について,「考え方」[3]は,「特定のクリエイター又は著作物に対する需要が,AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じることは想定しうるものの,当該生成物が学習元著作物の創作的表現と共通しない場合には,著作権法上の『著作権者の利益を不当に害することとなる場合』には該当しないと考えられる.」(「考え方」[3]の23ページ)としつつも,「特定のクリエイター又は著作物に対する需要が,AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じる場合,『著作権者の利益を不当に害することとなる場合』に該当し得ると考える余地があるとする意見が一定数みられた.」(「考え方」[3]の23ページ)と付記している.

この後者の意見は少数意見であると思われるが,AI生成物が学習元著作物の創作的表現と共通しないのであれば,それは,著作権法の保護が及ばない領域の事象であり,たとえ需要の代替が起こったとしても,それは著作権法とは無関係のことであるというほかない.「特定のクリエイター又は著作物に対する需要が,AI生成物によって代替されてしまうような事態」が生ずるとしても,そのことは著作権法第30条の4ただし書の該当性を基礎付けるものではないと解すべきである.ただし,上記4.2節において述べた同条第2号に関する私見によれば,既存の著作物の表現上の本質的な特徴を感得することができる新たな生成物を生成する生成AIの開発において著作物を学習させる場合は,同号の「情報解析の用に供する場合」に当たらないこととなるから,同条ただし書の該当性を論ずる必要がないのが通常であると思われる.

4.4 AI学習のための著作物の複製等を防止する措置

「考え方」[3]には,AI学習のための著作物の複製等を防止する措置として,「ウェブサイト内のファイル“robots.txt”への記述によって,AI学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置」(「考え方」[3]の26ページ)や,「ID・パスワード等を用いた認証によって,AI学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置」(「考え方」[3]の26ページ)が挙げられている.これらの措置は,「情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物として販売する際に,当該データベースの販売市場との競合を生じさせないために講じられていると評価し得る例がある」(「考え方」[3]の26ページ)とされている.そのように評価し得る場合には,著作権法第30条の4ただし書に該当することとなるが,著作権者が反対の意思を示していることのみをもって同条該当性を否定することはできない.そのため,これらの技術的な措置を講じただけで,同条の規定の適用を否定することはできない.

そして,上述の2つの措置のうち,前者の“robots.txt”については,実際上はクローラへの「お願い」にすぎず,クローラに無視されてしまうと無意味なので,クローラによるアクセスを阻止する技術の開発が望まれるところである.後者のID・パスワード等を用いた認証を行うものについては,認証を回避して行うクローリングは,不正アクセス禁止法違反となる可能性が高いため,有用である.そのような行為は,日本のサーバーへのクローリングである限り,日本国外からのアクセスであっても不正アクセス禁止法違反を構成すると考えられるが,日本国外の事業者によるアクセスである場合には,現実に捜査を行い刑事罰を科すことが困難となる可能性があることには留意すべきである.

4.5 オーバーライド条項の有効性

オーバーライド条項の有効性の問題とは,当事者間で権利制限規定に基づいて認められる著作物の利用を禁止又は制限する内容の合意をした場合にその合意が有効となり,著作権法第30条の4を含む権利制限規定の適用が排除されるか,という問題である.

オーバーライド条項の有効性については,「権利制限規定の趣旨等諸要素を総合的に勘案して,個別的に当該契約の有効性を判断す」べきものとされる(文献[15]の37ページ).著作権法第30条の4が規定されたのは,「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為については,著作物に表現された思想又は感情を享受しようとする者からの対価回収機会を損なうものではなく,著作権法が保護しようとしている著作権者の利益を通常害するものではないと評価できる」ことを根拠としていることからすれば,当事者の合意によって同条の規定の適用を排除するのは,同条の趣旨に反するものと考える.すなわち,生成AIを含むAIの開発における著作物の学習に伴う著作物の複製について,著作権法第30条の4の適用を排除する旨の合意をしたとしても,その合意は無効であると考える.

4.6 ほかの権利制限規定の適用可能性

著作権法は,第30条の4以外にも複数の権利制限規定を設けている.いずれかの権利制限規定に該当すれば,著作物の利用行為は侵害が否定される.

生成AIの開発における著作物の学習については,著作権法第47条の5第1項の適用可能性が指摘されている.「考え方」[3]においては,「検索拡張生成(RAG)その他の,生成AIによって著作物を含む対象データを検索し,その結果の要約等を行って回答を生成する手法」を「RAG等」とし(「考え方」[3]の21ページ),「RAG等による回答の生成に際して既存の著作物を利用することについては,法第47条の5第1項第1号又は第2号の適用があることが考えられる.」(「考え方」[3]の22ページ)とされている.

著作権法第47条の5第1項は,電子計算機を用いて一定の情報処理を行い,およびその結果を提供する者は,著作物について,その行為の目的上必要と認められる限度において,当該行為に付随して,軽微な利用を行うことができるとする規定であり,同項各号において,提供するサービスの内容が限定列挙されている.第1号は,検索により求める情報の特定又は所在に関する情報を検索し,およびその結果を提供すること,第2号は,情報解析を行い,その結果を提供すること,と特定している.著作権法第47条の5第1項の適用との関係では,「当該行為に付随して,軽微な」という要件に該当するか否かが問題となる.同項が適用されるためには,著作物の利用は,あくまで各号のサービスの提供行為に付随する軽微な利用でなければならない.生成AIの開発における著作物の学習について,この要件を満たすことがあるかは疑問ではあるが,もし同項の各要件を満たすのであれば,著作権法第30条の4の要件を満たさなくとも,著作物の利用については侵害が否定される.

5.生成・利用段階における問題

5.1 問題の所在

生成・利用段階においては,生成AIが既存の著作物と創作的表現が類似する生成物を生成した場合,さらにはAI利用者がその生成物を複製し,あるいはインターネット上にアップロードした場合,当該既存の著作物の著作権を侵害するか,という問題がある.

この問題との関係で最も大きいものは「依拠性」である.複製権侵害が成立するためには,「複製」が行われる必要がある.第2章で述べたように,「複製」とは「印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義されており,「再製」とは通常,既存の著作物に「依拠」して,当該著作物と表現上の同一性があるものを作成することを指す.

もっとも,AI利用者は通常,生成AIがいかなるデータを用いて著作物を学習したのかを知ることはないため,AI利用者の認識のみを基礎とする限りにおいては,生成AIが既存の著作物と創作的表現が類似する生成物を生成したとしても,既存の著作物に「依拠」したとは言えないのではないか,というのがここでの問題である.

5.2 「考え方」[3]における整理

「考え方」[3]では,AI利用者による既存の著作物の認識の有無との関連で,3つに場合分けをして検討をしている(「考え方」[3]の33~35ページ).

まず,①AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合には,依拠性が認められ,AI利用者による著作権侵害が成立するとしている.次に,②AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが,AI学習用データに当該著作物が含まれる場合にも,客観的には当該著作物へのアクセスがあったと認められるため,通常,依拠性があったと推認され,AI利用者による著作権侵害が成立し得るとしている.ただし,当該生成AIについて,開発・学習段階において学習に用いられた著作物の創作的表現が,生成・利用段階において生成されることはないと言えるような状態が技術的に担保されていると法的に評価できる場合には,依拠性が否定される可能性があるとしている.そして,③AI利用者が既存の著作物を認識しておらず,かつ,AI学習用データに当該著作物が含まれない場合には,仮に,既存の著作物と類似した生成物が生成されたとしても,依拠性は認められず,著作権侵害は成立しないとしている.

①および③については,おそらく異論のないところと思われる.②との関係では,従前考えられてきた「依拠性」の意義との関係が問題となる.「依拠性」とは,既存著作物に接したという客観的な要件だけでなく,既存著作物の存在およびその表現内容を認識し,これを利用する意思という主観的要件が加わったものと解する見解が多数と考えられてきた(文献[14]の86ページ).そこで,生成AIの利用者については「既存の著作物の存在及びその表現内容を認識し,これを利用する意思」は存在しないのではないか,という点が問題となる.もっとも,ここでいう「表現内容を認識し,これを利用する意思」とは,具体的な認識・意思である必要はなく,「無意識の依拠」の場合にも依拠性は否定されないと解されている(文献[16]の320ページ)のであって,生成AIの場合は,1人の人間が行っていた既存の著作物の認識から,既存の著作物に類似した著作物の作成までの一連の過程が,学習済みモデルの作成者,生成AIの開発者,およびAIの利用者に分担して行われるようになっただけのことであると捉えるべきであり,生成AIによる既存の著作物の学習,生成AIの開発,生成AIの利用,という一連の過程を連続的に捉えれば,生成AIが既存の著作物と創作的表現が類似する生成物を生成した場合,少なくとも「無意識の依拠」があるというべきである.

ただし,「考え方」[3]の整理のうち,②において,「当該生成AIについて,開発・学習段階において学習に用いられた著作物の創作的表現が,生成・利用段階において生成されることはないといえるような状態が技術的に担保されていると法的に評価できる場合には,依拠性が否定される可能性がある」としている点は,疑問がある.生成AIの開発者は,開発・学習段階において学習に用いられた著作物の創作的表現が,生成・利用段階において生成されることはないと言えるような状態を技術的に担保する措置を講じたとしても,生成AIが既存の著作物と創作的表現が類似する生成物を生成した場合には,上記の「無意識の依拠」があることに変わりはないというべきである.このような場合(つまり,「依拠性」を肯定した場合)にはAI利用者に酷であるという価値判断があるのかもしれない.しかしながら,AI利用者としては,当該生成物が既存の著作物に類似していることを認識するまでは過失が否定されることが多いと考えられ(「考え方」[3]の34ページ脚注46),当該生成物が既存の著作物に類似していることを認識した時点で速やかに複製や公衆送信を中止すれば,著作権侵害の責任を問われることはないため,AI利用者にとっても酷な結果とはならないと考える.

6.企業における生成AIの利用

近時,日本企業において,業務への生成AIの利用を検討することが増加しており,実際の利用も増加していると思われる.その際には,5.2節においても指摘したとおり,AI利用者として既存の著作物と創作的表現が類似した生成物が生成された場合には当該生成物の利用を速やかに中止する,というルールをあらかじめ定めておくことが望ましい.また,AIの利用にあたって,プロンプトとして既存の著作物を入力することにより,当該著作物に類似した生成物が生成される場合にも,著作権侵害が成立し得ることにも注意が必要であり,他人の著作物をプロンプトとして入力しないようにすることも必要と考えられる.

なお,AI開発者あるいはAIサービス提供者が,AI利用者に対して,AI生成物が他者の著作権を侵害する場合にAI利用者が被る損害を補償するという動きがあるようである.AI利用者としては,生成AIがどのような著作物を学習したかを知ることは困難であるため,AIサービス提供者による補償は好ましいし,AIサービス提供者としても,補償という条件を提示することによって,AI利用者が不安なくAIを利用できることとなるため,双方にとってメリットのある仕組みであると評価できる.

7.外国における議論の状況

AI開発のための著作物の利用について,著作権侵害の例外とする規定を設けている国は少なくないが,その中でも,日本は,導入した時期も早く,導入した規定も広範な(あるいは,広範に見える)規定であり,「機械学習パラダイス」と呼ばれる最も先進的な国であると考えられている.日本国外では,機械学習のための著作権侵害の例外規定は,text and data mining(TDMと略されることがある)のexception(例外)と呼ばれることがある.たとえば,EUにおいては,学術研究目的で調査機関等によって行われるもの(文献[17]のArticle 3)を除き,アクセスが適法であり,権利者による反対の意思が表明されていないという条件の下で,例外が認められている(文献[17]のArticle 4).英国においては,非営利の研究目的であれば著作権侵害の例外に該当する[18].英国知的財産庁(UKIPO)は,2022年6月,この例外の拡大を提案したが[19],それは困難ということとなり,AI事業者がモデルへのインプットとして著作物にアクセスすることをサポートするガイダンスを提供するcode of practiceを作成しようという方向に切り替わったが[20],2024年2月には,合意形成が困難であるとして,code of practiceの作成も見送られることとなった[21].米国では,特にAIを念頭に置いた規定はなく,一般的な権利制限規定であるフェアユース規定によって処理されることとなる.現状,日本の内外を問わず,生成AIが身近になったことにより,生成AIの学習用データとして用いられたであろうと思われる著作物と同一またはきわめて類似する生成物が生成されることが広く知られるようになり,著作権者に無断で著作物を生成AIの学習用データとして用いることは著作権者の利益を害するとの意見が強くなっている.米国では,生成AIと著作権との関係について,数多くの訴訟が提起されており,そう遠くない時期に裁判所による何らかの判断が示されるのではないかと思われる.

なお,2024年5月21日に欧州理事会で承認されたEU AI Act[22]は,EU域内でAIシステムを市場に投入するまたはサービスに供するプロバイダや,AIシステムの出力結果がEU域内で使用される場合のプロバイダおよびディプロイヤ(個人的かつ非専門的な利用を除き,自己の権限に基づきAIシステムを利用する者)にEU AI Actが適用されると規定している(文献[22]のArticle 2(1))ところ,汎用目的AIモデルのプロバイダは,文献[17]のArticle 4(3)に規定されたオプトアウトメカニズムに従うための方針を導入しなければならないこととされているため,EUにおいてAIサービスを提供することが想定される場合には,開発・学習段階から,日本の著作権法だけでなく,EUの指令にも沿ったものとする必要があることに留意が必要である.

8.今後の展望

日本では,生成AIと著作権との関係について訴訟が係属しているとの情報には接していないが,生成AIと著作権との関係については,各国における懸念の内容は共通であるため,外国における議論が進展した場合には,外国における議論の状況によって日本の議論も影響を受けることは十分考えられる.特に,米国における裁判所の判断が出された場合には,日本の議論も大いに影響を受けると思われるため,今後も継続して注視していくことが重要である.

参考文献
東崎賢治

東崎賢治
kenji_tosaki@noandt.com

1996年東京大学法学部卒業.1998年裁判官任官.Southern Methodist University Dedman School of Lawへの留学,金融庁総務企画局,内閣官房郵政民営化準備室への出向,東京地方裁判所知的財産権部,高松地方裁判所での勤務を経て,2008年に弁護士登録,長島・大野・常松法律事務所に入所.

投稿受付:2024年10月1日
採録決定:2024年11月29日
編集担当:山口晃広((株)東芝研究開発センター)

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