新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより,私たちの生活は大きく変化いたしました.企業活動や教育活動においては,テレワークやオンライン授業の導入が急速に進みました.対面やオンラインだけではなく,両者を組み合わせたハイブリッドという異なる活動形態が,感染状況に応じて柔軟に選択されるようになりました.これは,これまでの対面によって制限されていた私たちの活動の幅を広げたと言えます.
一方で,オンラインやハイブリッドを支えるネットワーク運用管理技術も複雑化しており,より高品質な運用が求められています.それに伴い,運用者や管理者,利用者の物理的または心理的な負担も増加しています.
本特集号では,COVID-19が世界的に収束することを願いつつ,運用者や管理者,利用者すべての方々のwell-beingを目指すネットワーク運用管理技術に焦点を当てました.運用者や管理者,利用者すべてが「身体だけではなく,精神面・社会面も含めた健康」を意味するwell-beingな状態を志向し,これからの情報通信基盤の構築および活用に向けた最新の研究,開発,実験,運用などに関するプラクティス論文を掲載しています.
本特集では,3編の投稿論文を掲載しています.
福田豊氏らによる投稿論文「新型コロナウィルスによるパンデミック影響下での無線LAN整備とAP設置準備の工夫」では,2022年度の後半に,筆者らの大学がCOVID-19の影響でネットワーク機材の入手が困難になる状況の中,キャンパス内に100台規模のアクセスポイント(AP)を導入し,またそれに伴う配線工事を行った経緯が述べられています.この取り組みで,APのキッティングを非常に短期間で実施し,約2週間かけて配線工事とAPの設置を完了しました.この際のAP設置箇所の選定,現地調査,調査結果に基づく設置箇所の最終決定,APやPoEスイッチングハブの手配,キッティング時の工夫点について詳しく報告しています.
豊田安信氏らによる論文「Multipath Transport Protocolを用いたSRv6 BGP Egress Peer Engineeringによる高品質・高信頼なコンテンツ配信」では,コンテンツ事業者(CSP)がサービス品質を改善するための手法が述べられています.サービス品質を改善するためには,通信品質の良い経路を選択することが重要です.しかし,BGPを用いるCSPでは,BGPに品質を示すパラメータがなく,BGP経路の性能評価と選択が困難であり,さらにはコンテンツによって要求される品質が異なるため,品質に基づいた経路の選択が難しいという問題がありました.本研究では,新たな制御機構を定義し,「Multipath Transport SRv6-EPE Suite」という実現手法を提案しています.通信品質の変動を想定したテストケースでは,障害があってもサービスが途切れることなく配信できることを確認され,国内外のISPを用いた評価実験では,スループットの改善もみられています.
滝聖子らによる論文「SECIモデルに基づくオンライン力覚技能伝承支援システムの開発」では,オンライン力覚技能の伝承を支援するための手法について述べられています.日本では高齢化に伴い熟練者の減少が進み,技能伝承の問題への解決策が求められています.ARやVRを用いた教育法にも注目が集まっていますが,力覚技能に関する研究はまだ十分ではありません.本稿では知識創造のプロセスであるSECIモデルに基づき,オンラインで力覚技能を習得するためのシステムを構築し,実験結果を比較することで,SECIモデルが非熟練者の力覚技能習得にどのような効果があるのかが考察されています.またその結果,「表出化」プロセスが作業時間を減少させ,「共同化」プロセスが力覚技能の伝承および習得に効果があるという傾向が示されました.
2003年3月佐賀大学工学系研究科システム生産科学専攻博士後期課程修了.博士(工学).同年佐賀大学海洋エネルギー研究センターCOE研究員.2004年同大学学術情報処理センター(現総合情報基盤センター)講師,2009年同准教授.現在 情報処理学会インターネットと運用技術研究会(IOT研究会)運営委員.
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