会誌「情報処理」Vol.64 No.11(Nov. 2023)「デジタルプラクティスコーナー」

鉄筋出来形計測業務自動化への取り組み─ICTで建設現場の業務革新をサポート─

齋藤卓磨1

1(株)日立ソリューションズ 

建設現場では,人手不足対策や2024年度に導入される時間外労働上限規制対策が課題となっている.国土交通省はi-Construction☆1を打ち出し,これらの課題に対応するための現場へのICT適用を推進している.建設会社も生産性向上のため,デジタル技術導入を積極的に進めている.これらの背景の中,(株)日立ソリューションズは鉄筋出来形計測に着目し,三井住友建設(株)と協業し,計測作業を自動化するシステムを開発した.鉄筋出来形計測は,鉄筋の組立作業後,コンクリートを打設する前に鉄筋が設計書どおり施工されているか確認する作業である.従来は3人1組の人手で行うことが多く,事前準備,手動による計測,帳票作成に多くの手間と時間を費やすため,業界でも省力化が求められる業務の1つであった.日立ソリューションズは鉄筋出来形計測の一連作業の省力化を目指し,三井住友建設とともにシステムの開発に取り組んだ.鉄筋出来形自動検測システムは,デプスカメラを搭載したタブレットで撮影するだけで,配筋間隔の計測から帳票作成までを自動化するシステムである.システムの導入により,1回あたりの計測にかかる工数を従来工法と比較して約3分の1に省力化できている.システムの開発にあたり特に工夫した点として,現場での導入,運用のしやすさを重視し,汎用品のデプスカメラ,タブレットを採用した点が挙げられる.

1.鉄筋出来形自動検測システムの概要

1.1 背景

1.1.1 建設業界の概況

近年,人手不足の影響もあり,建設現場はリソース不足,スキルのある人材の減少,スキル継承の難しさといった深刻な課題に直面している.政策の影響も大きく受けており,2024年度から建設業において,労働基準法改正による時間外労働の上限規制が罰則付きで適用されるため,現場の生産性向上が急務となっている.

これらの課題に対応するため,国土交通省はICTを活用して現場の生産性向上を図る取り組みであるi-Constructionを推進している.建設会社も持続可能な現場の実現を目指し,ICTの導入を積極的に進めている.

1.1.2 従来の鉄筋出来形計測について

鉄筋出来形計測は,図1のように,鉄筋を施工後,コンクリートを打設する前に鉄筋が設計書どおり施工されているかを確認する作業で,非常にアナログで煩雑である.

鉄筋出来形計測の立会検査の状況
図1 鉄筋出来形計測の立会検査の状況

実際の建設現場では,施工管理者は鉄筋出来形計測のために計測物品,黒板,設計図書を持ち歩き,取付作業や片付けを繰り返し行っている.また,立会検査時は計測結果の記録を黒板に記載し,写真撮影時は複数人作業になるため,省人化が強く望まれる作業となっている.

国土交通省は,鉄筋出来形計測業務をデジタル化する技術の現場適用を推進している.

1.1.3 当社の取り組み

これらの背景から,当社は三井住友建設(株)(以下,三井住友建設と記載)と協業し,鉄筋出来形計測を自動化するためのシステムを開発した.三井住友建設には建設業界での多くの実績,ノウハウ,DX推進力があり,当社には建設業界向け以外も含めて技術活用のノウハウがある.両社の強みを合わせることで,鉄筋出来形自動検測システムを実現した.

1.2 鉄筋出来形自動検測システムの提案

1.2.1 システム概要

鉄筋出来形自動検測システムは,デプスカメラ☆2を搭載したタブレットで撮影するだけで,配筋間隔の計測から帳票作成☆3までを自動化するシステムである(図2).

鉄筋出来形自動検測システムの概要
図2 鉄筋出来形自動検測システムの概要
1.2.2 利用の流れ

鉄筋出来形計測業務におけるシステムの利用の流れを図3に示す.

鉄筋出来形計測作業システムの利用の流れ
図3 鉄筋出来形計測作業システムの利用の流れ
1.2.3 導入メリット
(1)省人化と効率化

省人化と効率化は鉄筋出来形計測における最大の課題である.図4は1回の検測作業にかかる工数を比較したものである.従来手法の準備と片付けの部分をタブレットでの撮影に置き換えたこと,帳票作成を自動化したことで,約3分の1まで省力化した.また1人で実施可能な業務への改革もできている.

鉄筋出来形計測作業にかかる工数の比較
図4 鉄筋出来形計測作業にかかる工数の比較
(2)作業品質と安全性

作業効率化を目的にシステムを導入したが,実運用を通じて,作業品質と安全性の観点でも付随的な効果を確認できた.

作業品質については,システムで計測することで精度が確保され,ヒューマンエラーを減らすことができる.安全性については,鉄筋上を歩いて行う準備と片付け作業時に発生していた転倒,鉄筋に触れることで発生する切り傷や挟まれ,計測物品の落下による労働災害をなくすことができる.

2.鉄筋出来形自動検測システムの実現

2.1 汎用品活用に対するニーズ

三井住友建設との協業の中で,実際の現場利用について多くの要望をいただき,実現について議論を重ねた.中でも,鉄筋出来形計測という専門的な業務において,専用機器の利用を避けたいという要望は開発プロジェクトチームとって大きな挑戦となった.しかし,専用機器は高額になりやすいこと,調達柔軟性が低下し,多数の現場で使う場合に機器管理が煩雑になること,使いこなすスキルが必要になることなど,持続的に運用する上で大きな課題となることが予想される部分であった.そこで,汎用品を選定し,汎用品でも計測において十分な精度を出す工夫を施した.

2.2 汎用品の選定

図5は,国土交通省が推奨している画像解析技術を活用するために,カメラの選定を行った結果である.代表的な方式として,ステレオカメラ☆4,LiDAR☆5,デプスカメラがある.

汎用品の選定
図5 汎用品の選定

ステレオカメラは計測は可能であるものの,処理が重く計測に時間がかかるため,実運用上ICT活用の魅力が下がってしまうと評価した.LiDARは,太陽光との干渉で屋外利用が難しいため,建設現場には不向きと判断した.デプスカメラは,現場利用での制限が少ないことに加え,計測までの処理スピードも速くできる見通しを得た.そのため汎用品として,デプスカメラを採用した.

2.3 汎用品で鉄筋を正確に把握するアルゴリズム

図6はデプスカメラで撮影した画像のサンプルである.カメラレンズからの距離を各ピクセルが保持している.そのため,図中の白い部分が示すように,鉄筋の部分も把握可能である.しかしながら,ノイズが多いため,このまま使ってしまうと計測の際に十分な精度は得られない.そこで,デジタルカメラで撮影したRGB画像と組み合わせることで,鉄筋をより正確に把握する画像処理アルゴリズムを作ることとした.

デプスカメラで撮影した画像
図6 デプスカメラで撮影した画像

画像処理アルゴリズムの概要を説明する.まず,デプスカメラの画像から鉄筋の大まかな形を抽出し,その上にデジタルカメラのRGB画像を重ね合わせ,ノイズ部分を特定する.このノイズ部分を除去する処理により実際の鉄筋に近い形状を抽出する.抽出したデータを使った計測では,誤差が最大±5mmと運用に問題ない精度になることが確認できた.本技術は特許出願中である[1](図7).

画像処理アルゴリズム
図7 画像処理アルゴリズム

3.今後の展望

本システムは2021年12月の販売開始以降,全国から多くの問合せがあり,導入実績を順調に伸ばしている.2023年7月には,国土交通省が「デジタルデータを活用した鉄筋出来形計測の実施要領(案)」を公開し,今後システムを使った業務が本格化する計画である.当社もその流れに合わせて,現在お客様からいただいている多数の要望にスピーディに対応していく予定である.

建設業では鉄筋以外にも多くの出来形計測があり,その多くが手作業で行われている.当社は,本システムの距離を計測する仕組みや,AIによる画像認識技術を組み合わせることで,より多くの出来形計測を省人化および効率化する取り組みを継続している.すでに,トンネル工事におけるロックボルトの配置間隔の計測を自動化するシステムは2023年4月に販売開始した.ロックボルトの配置間隔計測の従来作業工数を2分の1にすることに加え,従来必須だった高所作業車を不要にすることで作業の安全性を向上している.

当社は,今後も建設業界との協創を通じてお客様の業務革新を支援し,持続可能な経営を支援するソリューションを提供していく.

参考文献
  • 1)(株)日立ソリューションズ:特開2021-85838,配筋検査システム,配筋検査方法,および配筋検査プログラム(2021年6月3日公開).
脚注
  • ☆1 「ICTの全面的な活用(ICT土工)」等の施策を建設現場に導入することによって,建設生産システム全体の生産性向上を図り,もって魅力ある建設現場を目指す取り組み.国土交通省が推進.
  • ☆2 2つの赤外カメラでステレオ視することにより,物体までの距離と形状を認識できるカメラ.
  • ☆3 日本コンピュータシステム(株)のクラウド帳票作成サービスと連携.
  • ☆4 2つのカメラで画像の視差データを生成し,物体までの距離を計測できるカメラ.
  • ☆5 対象物にレーザ光を照射し,その反射光を光線でとらえることで距離を計測するセンサ.
  • ☆6 本アルゴリズムは独自技術として,特許を申請している(公開番号:特開2021-85838).
齋藤卓磨

齋藤卓磨(非会員)
hgenko@ipsj.or.jp

2012年に(株)日立ソリューションズに入社し,空間情報事業のビジネスに従事.GISのシステムエンジニアとして,インド政府機関との空間情報活用プロジェクトを担当.その後,グループ会社のHitachi Solutions India Pvt. Ltd.に赴任.2020年に帰国し,建設会社との協創による新サービスの企画と開発に参画.建設業向けに体系化した建設業向けソリューションの強化に向け活動中.

投稿受付:2023年4月27日
採録決定:2023年7月1日
編集担当:藤瀬哲朗((株)三菱総合研究所)

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