会誌「情報処理」Vol.64 No.11(Nov. 2023)「デジタルプラクティスコーナー」

企業における情報技術活用のプラクティス

斎藤彰宏1,2

1情報処理学会デジタルプラクティス専門委員会 主査  2日本アイ・ビー・エム(株) 

我が国においてIT関連業務に従事している技術者は120万人を超えると言われています.利用者としてIT技術を活用されている方々を含めれば,さらに膨大な人数の方々がIT実践の場で活躍されており,それぞれの現場で生み出される知見や経験は莫大な量になるでしょう.しかし残念なことに大部分の知見や経験はごく限られた範囲や一時的な再利用にとどまっているのが実情かと思います.情報処理学会ではITを実践している実務家の方々が社会的有用性の高い成果を共有する仕組みとして2010年よりデジタルプラクティスを刊行しています.また2019年からは企業コミュニティや団体の活動における活動成果をデジタルプラクティスの中で発表いただいております.本特集では取り組みの強化を狙いとして「企業における情報技術活用のプラクティス」として,企業コミュニティや団体における優秀な活動成果に関する特集を企画させていただきました.

IBM Community Japanより推薦いただいた伊藤峰行氏の論文「E メールセキュリティサービスをすり抜ける不審メールの傾向と対策の検討」では,機械学習処理と自然言語処理を用いてEメールキュリティサービスのログから未知の悪性メールを抽出する分類システムを自社で構築した取り組みを紹介いただいています.

アシストソリューション研究会より推薦いただいた戸髙亮氏らの論文「機械学習プログラミングのスキル習得における集団学習の有効性」では,Python を用いた機械学習プログラミングのスキル習得において,外発的/内発的動機づけを工夫して実践した機械学習プログラミングの学習内容と結果をプラクティスとして整理し,集団学習の効果を論じていただいています.

BIPROGY 研究会より推薦いただいた宮原素美礼氏の論文「Ansible を利用した運用自動化の取り組み~運用業務の人手不足を自動化で解決!~」では,自動化ツールを利用した統合的な運用自動化基盤の構築により,人手不足が深刻化しているシステム運用業務への時間削減効果を事例も含めて紹介いただいています.

富士通ファミリ会より推薦いただいた水野祐輝氏らの論文「保険金・給付金等の請求手続きのデジタル化~1時間でお支払まで完了~」では,生命保険会社におけるインターネット経由での保険金・給付金などの請求手続が可能となるシステム実現により,加入者の利便性向上,事務負担軽減,システム保守性の確保と開発全体のコストダウンに取り組んだ開発過程と開発内容を紹介いただいています.

日立ITユーザ会より推薦いただいた論文は2編で,卜部和敏氏の論文「コロナ禍に於ける業務効率の維持と向上策」では,コロナ禍でテレワーク勤務を導入した結果,社内インフラがテレワークに未対応であることや勤務状況等の把握が困難であることが分かり,社員のモチベーションや業務効率の低下問題に対して,テレワークと出社作業のハイブリッドな働き方の実現で対応した経験をまとめており,コロナ禍で業務効率を維持向上した貴重な知見を報告いただいています.土井聡弘氏らの論文「顧客向け自社運用基盤への SOC サービス適用によるサイバーセキュリティ対策強化」では,実際の不正アクセス事案を教訓としたSecurity Operation Center(SOC)の立ち上げとセキュリティ強化についての貴重な経験を紹介いただいています.

プログラミング能力検定協会より推薦いただいた飯坂正樹氏らの論文「プログラミング教育における定着度評価の検討と実践」では小学生段階におけるプログラミング教育の量や質の差によるプログラミング能力定着度の違いについて述べるとともに ,学校やプログラミングスクールで効果的な指導を行う上での有用な情報を提供いただいています.

中部産業連盟より推薦いただいた青山誠氏の論文「日々変化する情報セキュリティリスクに対応し続けるための,情報セキュリティ管理の構築と実践」では,高度化するサイバー攻撃等の情報セキュリティリスクに対応するにあたり,状況別に必要な実施事項を整理した手法と事例を紹介いただいています.

特集号企画としての座談会記事「企業における情報技術活用のプラクティス」では,日立ITユーザ会,IBM Community Japan, アシストソリューション研究会,BIPROGY研究会の各団体において論文活動の運営と推進に携わられている方々にお集まりいただき,団体および論文活動のご紹介,論文活動の意義やご苦労,情報処理学会への期待を語っていただきました.

実業務の中で得られた貴重なプラクティスを本誌に寄稿していただいた執筆者の皆様に心から敬意を表させていただきます.また本特集をご支援いただいた各団体の事務局,委員会,および学会事務局の皆様,並びに特集号コーディネータとしてご尽力いただいたデジタルプラクティス編集委員会の長坂健治氏に厚く感謝いたします.

斎藤彰宏(正会員)
saitoha@tdp.ipsj.or.jp

日本アイ・ビー・エム(株)シニア・コンサルタント, 1995年日本アイ・ビー・エム情報システム入社.長野オリンピックプロジェクトなどを経て,ITアーキテクト・コンサルタントとして企業・官公庁のシステム設計に従事.2011年より現職.本会会誌編集委員(2018年〜2022年),会誌編集委員会デジタルプラクティス専門委員会主査(2022年〜),技術応用運営委員会委員(2022年〜).

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