トランザクションデジタルプラクティス Vol.4 No.3(July 2023)

本格的なDXを支えるインターネットと運用技術

池部 実1

1大分大学 

1Oita University, Dannoharu, Oita, Oita 870–1192, Japan 

1. 編集にあたって

社会は新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により大きな変化を強いられている.たとえば,企業活動や教育活動においては対面による活動を避けるためテレワークやオンライン授業の導入が急速に進んできている.そしてこの流れはこれまでデジタル化・リモート化されていない分野も巻き込み,ICTの浸透により社会生活をより良い方向に変化させるDX(Digital Transformation)へと本格的に進んでいくことが考えられる.デジタル化・リモート化を支える管理運用の現場では様々な取り組みがなされ議論されてきた.

しかし,本格的なDXを見据えた情報基盤の運用のためには,一時しのぎのオンライン化・デジタル化ではない持続可能なサービス提供が可能なシステム設計,利用者への教育などの課題がある.また,既存システムからの移行の際には業務フローの見直しも発生し,それらに伴うネットワークの管理運用体制の変化も予想される.そのため,情報システムの運用技術における様々な実践的な知見・事例を共有することによって,DXを支える運用技術の発展が進む.

本特集では,COVID-19が世界的に収束することを願いつつ,本格的なDXを支えるための運用構築技術に関する課題や取り組みを見据えたインターネットと運用管理技術に焦点を当て,これからの情報通信基盤の構築および活用に向けた最新の研究,開発,実験,運用等に関するプラクティス論文,実践の中で問題解決を図っており,ほかの環境においても有用な知見が述べられた論文を紹介している.

1.1 特集号編集委員会

本特集号は,次の編集委員会を組織し,編集した.

編集委員長:池部実(大分大学)

副編集委員長:大谷誠(佐賀大学)

編集委員:

今泉貴史(千葉大学),大森幹之(鳥取大学),柏崎礼生(近畿大学),北口善明(東京工業大学),坂下 秀(アクタスソフトウェア),佐藤 聡(筑波大学)

敷田幹文(高知工科大学),土屋英亮(電気通信大学),中山貴夫(京都女子大学),中村 豊(九州工業大学),萩原威志(新潟大学),鳩野逸生(神戸大学),福田 豊(九州工業大学),松本亮介(さくらインターネット),三島和宏(大阪教育大学),宮下健輔(京都女子大学),山井成良(東京農工大学),吉浦紀晃(埼玉大学)

2. 本特集の論文について

本特集では4編の投稿論文を掲載する.

石川 開氏らによる投稿論文「WISDOM-DX: An Automatic DX Assessment System Using a QA System Based on Web Data」では,質問応答(QA)システムが収集したWeb上の情報を用いて,企業のDXの取り組みを自動評価するシステムWISDOM-DXを提案している.提案システムでは企業のDXに関連した情報を複数種類の質問で収集し,収集した情報から,回答数,回答の妥当性,DX実践例についての文章から評価スコアを算出する.これらのスコアを集計し,学習データ上で最適化された重みを用いてランキングスコアを算出している.提案システムの有効性について,2つのベースラインで精度を比較評価し,有用性についてユーザ企業への調査で評価している.提案システムWISDOM-DXが企業のDXの取り組みを自動評価できることが示されている.

戀津 魁氏らによる投稿論文「オンラインポスターセッションシステム『TeleAgora』の開発と運用」では,新型コロナの影響により学会発表が大きな制限を受けたことに端を発し,議論やデモに重点を置く対面を前提としたポスター発表の実施が困難になった.そこで筆者らはオンラインでポスターセッションを実施できるオンラインポスターセッションシステム『TeleAgora』を開発し,複数の研究発表会や学会でのポスターセッションにて運用した.利用者に対するアンケートで開発したシステムの有用性を確認している.単にビデオ会議システムでポスターセッションを実施するだけでなく,ポスター発表を聴講している人数を表示することなど対面で実施していたポスターセッションを再現するような工夫がなされている.

眞鍋督氏らによる投稿論文「クラウド環境を標的とするDDoS攻撃の対策訓練システム」では,クラウドサービスの利用率が年々上昇している中で,クラウドサービスに対するDDoS攻撃も増加してきている現状がある.DX化を進める中ではクラウド環境に対する防衛が必要になる.そんな中で,クラウド環境を標的とするDDoS攻撃への対策を学べるシステムをAmazon Web Service上に構築している.IoTマルウェアMiraiを想定したボットネットによるDDoSを想定した対策訓練を学習者は体験でき,学習者の学習効果についてアンケートで確認できている.また,DDoS対策だけではなく,ボットネットや攻撃サーバ群の構築からDDoSまでの一連の攻撃の流れも体験できるシステムとなっている.

新井凪氏らによる投稿論文「ネットワーク構成モデルに基づくネットワーク機器設定手順自動生成システム」では,情報ネットワーク構築・設定変更のためにネットワーク機器の設定手順を作成するが,一般的には手作業で設定手順を作成するため,ネットワーク構成の仕様との乖離が生じる問題を改善するために,仕様からネットワーク機器の設定コマンドを自動生成する手法を提案している.本提案では,ネットワーク構成の仕様の厳密性と拡張性を両立するために,オブジェクト指向モデリング言語UMLを応用してネットワーク構成をモデル化し,設定手順を自動生成する手法を実現している.本システムを筆者らの所属する大学のネットワーク構成を適用事例として検証して期待通りの振る舞いをするネットワークが構成できたことを確認している.DXを支えるためのネットワークエンジニアを支える有益なシステムとなっている.

会員登録・お問い合わせはこちら

会員種別ごとに入会方法やサービスが異なりますので、該当する会員項目を参照してください。