トランザクションデジタルプラクティス Vol.4 No.3(July 2023)

「XR最前線~メタバースがやってくる~」編集にあたって

土井 美和子1  江谷 典子2

1国立研究開発法人情報通信研究機構  2全日本空輸株式会社 

1National Institute of Information and Communications Technology  2All Nippon Airways Co., Ltd. 

1. 編集にあたって

仮想現実(VR:Virtual Reality),拡張現実(AR:Augmented Reality),複合現実(MR:Mixed Reality)といった技術の総称であるXR(エックスアールもしくはクロスリアリティと呼ぶ)を活用したサービスが一般的となる時代へと向かっています.そこで,ニューノーマル時代のXRやリモートワークのXR,ホログラフィ技術を用いてVRゴーグルなど専用装置を使わないHMI(Human Machine Interface)やホログラムディスプレイなど新しい技術やサービスなどの開発・実証実験・運用から得られた知見を集めて,仮想空間拡張が容易な時代の可能性や課題を共有することを目指して企画しました.

2. 本特集の論文について

本特集では8編の招待論文と1編の投稿論文を掲載しています.

磯部 宏太氏・畑田 裕二氏らの招待論文「IPSJバーチャルホールの開発と運用」では,3次元的な広がりを持たせた情報処理学会(IPSJ)を象徴する情報空間の場であるIPSJバーチャルホールの制作について報告しています.IPSJバーチャルホールの制作過程で利用してるツールの紹介は参考になると思われます.また,配信運用事例では運用方法について有益な知見が含まれています.

岡本 茂久氏らの招待論文「IBMのバーチャル入社式にみるバーチャル空間やイベント作成における実践的工夫や考慮ポイント」では,IBMの2022年入社式をオンラインの3D空間で開催し,会場は新入社員約600人のアバターが同一空間に同居できるイベント向けのVR空間を開発したことを報告しています.アバター操作やイベント空間作りの進め方などの実践的工夫や考慮ポイントは参考になると思われます.

井原 章之氏の招待論文「XRが拓くRX(リサーチトランスフォーメーション)」では,研究現場のRX(デジタルトランスフォーメーション(DX)等を駆動力として研究開発活動を革新し,そのオペレーティングシステムをトランスフォームすること)を促進するために行っている「XRシステムの開発と運用」に関する活動を報告しています.「リアルタイム拡張仮想」の技術を用いたシステムの開発手法や活用事例,また,内製のシステムをMR用ゴーグル型デバイスと組み合わせて活用した事例から得られた知見は,XRが拓くRXの試みとして重要であると思われます.

田中 洋輔氏らの招待論文「フィールド科学体験型VRシアターの構築とその教育現場への適用と評価」では,容易に体験することができない地中(鉱山),水中,宇宙,森林等のフィールド科学の現場に強みを持つ北海道大学として,我が国では初の試みとなる360° VRシアターの設計・建築が計画され,フィールド科学を360°立体視で,しかもグループで仮想体験できる設備を構築したことを報告しています.実際の活用事例である鉱山工学教育現場での活用と評価には有益な知見が含まれています.

山口 武彦氏の招待論文「VR技術の予防医療分野への適用事例と留意点―MCI早期発見技術・うつ病を対象としたデジタル治療薬を事例として―」では,医療分野への新しいVR活用であるVRデジタル治療薬を紹介し,予防医療の適用事例や留意点について解説いただきました.Virtual Kitchenシステムを用いた軽度認知障害の早期発見技術やうつ病を対象としたVRデジタル治療薬の事例は,VRの応用可能性など有益な知見が含まれています.

八杉 公基氏らの招待論文「タッチレス空中インタフェースとしての3Dディスプレイの利用」では,空中ディスプレイの国際標準化,3Dディスプレイの原理,さまざまなセンシングデバイスと統合することで実現されたタッチレス空中インタフェースについて紹介し,実機の作成と展示を通して得られた課題を解説いただきました.新型コロナウイルスの感染拡大以降,タッチレス空中インタフェースは,共用デバイスを介した感染拡大を防止するキーテクノロジーとして注目される中,本取り組みから得た知見は非常に興味深い内容となっています.

高木 康博氏の招待論文「ホログラムコンタクトレンズによる究極のARディスプレイ実現への取り組み」では,人体に非侵襲な形のARディスプレイであるコンタクトレンズ型ディスプレイは,目の中に入れて使うことができますが,表示画像が近すぎて目がピント合わせできない問題があり,ホログラフィ技術による立体表示を用いて,目がピント合わせできる距離に画像を表示する方法を提案し,提案法の実現に向けた取り組みについて解説いただきました.

山口 一弘氏らの招待論文「ホログラフィックTVの実用化に向けた課題と3D映像のストリーミング表示システムの開発」では,現実空間と同様に自然な3D映像を表示できる3D TVとして実用化が期待されているホログラフィック TVについて紹介し,実際にホログラムの生成から表示までの実験を行い,3D映像を遠隔地へと伝送するシステムの開発を行ったことを報告しています.ホログラムデータを有線通信にてストリーミング表示した例や無線通信にてストリーミング表示した例は,ホログラムの伝送における課題として参考となると思われます.

井上 円氏らの投稿論文「自動配送ロボットの走行情報に関するAR表示がもたらす周辺歩行者への心理負荷低減」では,超低遅延通信が期待される5G通信を組み合わせた自動配送ロボット周辺の歩行者の不安低減を目的とし,Augmented Reality(AR)を活用した情報提示について提案し,提案手段の有効性を検証したことを報告しています.パーソナルスペースの侵害や物体の近接を事前に可視化するARコンテンツが周辺歩行者の不安感を低減する事を確認しています.

グロッサリでは,招待論文から各論文を理解するのに助けとなるキーワードを数ワード選択し,簡潔な解説をしています.

招待論文は会誌「情報処理」のデジタルプラクティスコーナー,投稿論文は論文誌トランザクション デジタルプラクティスに掲載されております.全文はHTML版「https://www.ipsj.or.jp/dp/contents/publication/55/S1403-index.html」をご覧ください.

土井美和子(名誉会員)

昭和54年東京大学大学院修士課程修了.同年,(株)東芝に入社.博士(工学)(平成14年東京大学).平成26年4月から国立研究開発法人情報通信研究機構 監事(非常勤).東北大学理事(非常勤),奈良先端科学技術大学院大学理事(非常勤),平成19–20年度本会副会長.

江谷典子(正会員)

全日本空輸株式会社.2001年3月奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科情報処理学専攻博士後期課程修了.博士(工学).現在 本会デジタルプラクティス編集委員会編集委員,ビッグデータ解析のビジネス実務利活用研究グループ運営委員.

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