大学受験を控えた高校生などを中心に,大学や研究室で行っている研究に興味を持つ一般の方々は数多く存在する.しかし,評判や偏差値を基準に進学する大学・研究室を選んでしまい,自分がやりたいことや興味のある分野を選ばなかった,という学生も多い.山陽新聞が大学生,短期大学生,専門学校生に対して2018年に行った「進路選択の満足度についてのアンケート調査」[1]では,高校卒業後の進路選択について,3割弱の人が「別の道を選べばよかった」と回答している.その理由について,「学んだことと別のことがやりたくなった」「評判のよい偏差値の高い学校に入ることが目標になってしまっていた」「興味の持てない道を選んでしまった」といった回答が得られている.
本研究ではオンラインコミュニケーション技術を活用して研究内容を周知するための研究室紹介バーチャルツアーを開発する.VRカメラとYouTubeを用いて作成した動画視聴型のバーチャルツアーと,Gather.townを用いた対話型のバーチャルツアーを開発し,オープンキャンパスや学部1年生向けの授業などで実施することで評価および比較分析を行った.本研究を通じて得られた知見は,研究室紹介のみならず,様々な分野において正しい知識を伝えるうえで有益だと考えられる.
本稿は,本章を含めて7つの章で構成される.第2章では,オンデマンド型バーチャルツアー作成の際に使用したVRカメラの概要について説明する.第3章では,バーチャルツアーの作成手段として利用したオンラインコミュニケーションサービスGather.townの機能や使い方について説明する.第4章と第5章では,動画視聴型バーチャルツアーと対話型バーチャルツアーの実施と評価についてそれぞれ示す.また,これらの章では,バーチャルツアーを作成するための手間についても説明している.第6章では,動画視聴型と対話型のバーチャルツアーの相互比較を行う.また,Gather.town以外のプラットフォームとの比較を行う.比較分析の結果,2種類のバーチャルツアーを組み合わせることで効果的なバーチャルツアーを実現できることが分かった.
YouTube動画を作成する際にはVRカメラを活用した.通常のカメラとは違い,360度動画を撮影できるため,教員と学生の研究打ち合わせや,小規模なゼミの様子を1台のカメラで簡単に撮影でき,室内のイメージや雰囲気をリアルに伝えることができる.複数台のカメラを使った撮影と比較すると,カメラが1台で済み,場所も取らないためゼミ等への影響も最小限で済む.また,ビデオ編集時に複数台のカメラの映像を同期する手間も不要になる.
我々が用いたVRデュアルカメラVuze XR [2]は180度3D動画や360度2D動画が撮影可能であり,4 K 30 fps,4 K 60 fps,5.7 K 30 fpsの高画質にも対応している.
スマートフォンで動作する付属アプリケーションVuze XR Appを用いると,Vuze XRとWiFi経由で接続することができ,露光,ISO,シャッタースピード,タイマー,解像度,プレビュー表示などが可能となる.そのため基本的にはVuze XRはスマートフォンから操作する.しかし,4 K 60 fpsと5.7 K 30 fpsの動画は,ほとんどのスマートフォンの性能限界を超え,PCでの再生も相応のスペックが要求されるため,動画撮影時には基本的に4 K 30 fpsで撮影することとなる.この場合の動画サイズ(mp4ファイル)は1分間につき約590 MB(参考値)だった.公式サイトでは,5.7 K 30 fpsでの撮影を行うには,最低でも8 GBのPCメモリと3 GBのGPUメモリが必要とされている[3].
Vuze XRカメラを使って撮影した映像を編集するには,PCまたはMACで利用可能なVuze VR Studioを使用する必要がある(図1).カメラとコンピュータをUSB-Cケーブルを使用して接続するとカメラの電源が自動的に入ってVuze VR Studioも自動的に起動する.また,SDカードをカメラから外し,直接コンピュータのSDカードスロットに挿入して,Vuze VR Studioを使用することもできる.
Vuze VR Studioを用いると,画像のアスペクト比や解像度,視野角の変更,トリミング,水平補正,露光量や色調の補正,手ブレ補正などができる.また,動画に対しても同様の補正のほかにキーフレームの設定や映像の再生速度変更ができる.
なお,Vuze XRのほかにも様々なVRカメラが市販されている.これらのカメラの中でVuze XRを選択した理由としては,(1)小型三脚に固定して研究打ち合わせやゼミの様子を簡単に撮影できる,(2)映像の時刻と視点・角度を指定してキーフレームを設定でき,設定したキーフレームから別のキーフレームへ視点を自動で動かすというカメラの動きを作成できる,(3)MP4形式で動画を出力しビデオ編集ソフトの中で活用できる,といった点が挙げられる.ただし,これらの条件を満たせるVRカメラはVuze XRだけではない.
バーチャルツアー作成にはGather.town [4]を利用する.Gather.townは複数のユーザがコミュニケーションするための仮想空間を提供するWebサービスであり,ビデオ通話やチャットを利用してユーザ同士が個別に会話できる.また,仮想空間はレトロゲーム風の2次元空間となっており,空間内のオブジェクトにWebページのリンクを付与することや,ユーザが閲覧できる動画等のコンテンツを設定することができる.
Gather.townには「スペース」という概念があり,任意のフロアマップを作成したうえでそこにユーザがアクセスできる.フロアマップの作成は,最初から用意されているものの中から選ぶ方法と,自分で1からフロアマップを作成する方法の2つがある.
自分のアバターは数十種類の中から選ぶことができ,あらかじめ用意されたキャラクター(性別,服装,髪型等)と色の組み合わせから自由に選ぶことができる.アバターの見た目はいつでも変更できる.
他のユーザとのコミュニケーションは,スペース上で相手に近づくことで可能になる.他の人と一定の距離まで近づくとうっすらと「会話している人達」がカメラで表示されはじめ,また音声もうっすらと聞こえてくるようになる.更に近づくと,映像と音声がよりくっきりとするようになり,会話に合流できる.会話から離れる場合はこれと逆の挙動になる.このように,リアルで会話するときの「近づいて話す」→「終わったら離れる」状況が再現されている.
また,一定の距離に近づくこと以外にも,「プライベートスペース」を利用した会話も可能である.プライベートスペースでは,その中にいるユーザ同士のビデオ通話が有効になる.
このほかにも画面共有機能やチャット機能,アイコンによるリアクション機能を用いたコミュニケーションができる.
スペースの参加者全員に対するアナウンスは,スポットライトボタンを押すことで可能である.この機能は特定の利用者やフロアマップ上の特定の場所にしか許可されないが,スポットライト機能を利用すると,相手の画面に自分のカメラが表示され,音声や映像を届けることができる.
また,スペースを好みの内容にカスタマイズすることもでき,属性を付与したオブジェクトを配置することによって,外部動画サイトへのアクセス(YouTube等),簡単なテキストドキュメントへのリンク,ウェブサイトの埋め込みなどが可能である(図2).
カスタムスペース上のオブジェクトには最初から属性が設定されているものもある.たとえばホワイトボードのオブジェクトには外部のホワイトボード機能を持つウェブサイトへのリンクが設定されているものもあり,ゲームを遊べるウェブサイトのリンクが設定されているものもある.これらのオブジェクトを起動すると,実際にホワイトボードツールを利用することや,ゲームで遊ぶことができる.
オブジェクトの配置はプレイ中に自由に行うことができ,画面左の金づちアイコンをクリックすると配置するオブジェクトの選択画面に移行する(ビルドモード).オブジェクトにはテーブルや椅子,テレビといったものから,カーペット,噴水,アーケードゲーム機など様々な種類のものがあり,Gather.town制作チームによって毎週増え続けている.
カスタムスペース上に配置したオブジェクトを選択すると,画面右に[Object Details]と[Object Interactions]という項目が表示される.Object Detailsでは配置するオブジェクトの向き(上下左右)と色を決めることができる.Object Interactionsではオブジェクトに付与する様々な属性を指定できる.具体的には他サイトへのリンク,外部動画サイトや外部通話ツール(Zoom等)へのリンク,オブジェクト起動時や接近時に表示する画面などが挙げられる.
Vuze XRとGather.townを用いた研究室バーチャルツアーを企画し,YouTube動画にまとめて2021年8月に開催されたオープンキャンパス(高校生向け),卒論テーマ説明会(学部3年生向け),および学部1年生向けの導入授業(2022年1月)で公開した(図3).URLは以下のとおりである.
https://www.youtube.com/playlist?list=PLdVcT4PQE4IbmVDIWHNiZ4Y-kyjGtCWqo
表1に動画視聴型バーチャルツアーの全体構成を示す.合計16分10秒の動画視聴型バーチャルツアーでは,学生・教員の研究紹介と1週間の活動内容や研究室の様子を紹介している.動画視聴型バーチャルツアーの作成に当たっては,担当者に対して各自の研究等を割り当て時間に合わせて説明するためのPowerPointスライドおよびシナリオの作成を依頼した.各担当者には作成したスライド等を用いてプレゼンテーションを行ってもらい,それを録画しBGMを追加したうえで割り当て時間のビデオにまとめた.Web上で無料公開されているBGMは多数あるため,代表的なサイトをいくつか提示したうえで各担当者に好みの楽曲を選択させた.
動画を作成するためのビデオ撮影には,表1に挙げた各項目のうち筆者2名(荒木,掛下)が担当するものは合計60分程度,その他の教員・学生が担当するものは合計90分程度(5~10分/人)の時間を要した.ビデオ撮影のほとんどはノートPC,ビデオカメラ,マイク,ライブスイッチャー,グリーンバック背景を設置した部屋で行った.PowerPointでのスライドおよびシナリオ作成の過程で内容のレビューを十分行っていたため,撮り直しは最小限で済んだ.
また,研究打ち合わせやゼミ等の様子を見せるためにVuze-XRを用いて4 K 30 fpsの360度2D動画を撮影した.撮影は機材設置時間を含めて15分程度で行った.また,Vuze VR Studioを用いてキーフレームを設定することで全方位を見せるビデオ(10秒×2本)を作成した.VRカメラで撮影した動画の編集作業(キーフレームの設定なども含む)は30分以下で完了した.この動画は,ビデオ編集ソフトを用いて学生や先生の1週間のビデオに組み込んだ.動画の長さは約16分だが,編集に要した時間は90分程度だった.その際にはビデオ編集用キーボードを活用することで動画のカット編集を効率化した.
我々はGather.townを用いて図4に示すカスタムスペースを作成し,各ブースへの移動をこの上で行った.これをビデオ収録し,各自の研究紹介ビデオの間に挿入したYouTube再生リストを作成した(図3).視聴者はバーチャルツアー用スペース内を案内されながら研究紹介ビデオを順次視聴するように,動画視聴型バーチャルツアーは構成されている.再生リストを用いることで,視聴者は動画視聴型バーチャルツアーを続けて視聴できるだけでなく,個別の研究内容等が変わった場合でも,ビデオコンテンツを容易に差し替えられるように工夫している.
動画視聴型バーチャルツアーの視聴者に対してアンケート調査を実施し,合計144名から回答を得た(図5,6).回答者の内訳はオープンキャンパスに参加した高校生36名,卒論テーマ説明会に参加した学部3年生22名および学部1年生向けの導入授業の受講者86名である.また,図中の数値は回答者数を表している.
卒論テーマ説明会の際には動画のオンライン配信時に音声が配信されないトラブルが発生したため視聴できなかった学生もいた.そのため回答数も多いとは言えず,評価もあまり良くないが,オープンキャンパスや1年生向け導入授業では比較的良い評価を得ることができた.
以下に回答者から得た感想を示す.どのイベントの参加者からも率直かつおおむね良い評価を得ることができた.
動画視聴型バーチャルツアーには,YouTube動画を用いることで,いつでも誰でもバーチャルツアーに参加できる利点がある.一方で,動画配信だけでは一方向のコミュニケーションしかできないため,視聴者とのインタラクションの機会を設けることを目的として,対話型バーチャルツアーを計画し,2022年1月に1年生向け導入授業(情報ネットワーク工学入門)の中で実施した(図7).なお,学生は対話型バーチャルツアーの1週間前の授業の際に動画視聴型バーチャルツアーにも参加しているため,個別の研究概要やバーチャルツアー用スペースをある程度把握している.
対話型バーチャルツアーを実施した授業には106名の受講者がいる.そこで,学生には,事前にGather.townの基本的な使い方を解説した動画を視聴してもらった.また,学生を53名ずつの2つのグループに分けて20分ずつ2回バーチャルツアーを実施する.20分のバーチャルツアー全体の流れは以下のとおりである.
上記の対話型バーチャルツアーを実施するための準備として,バーチャルツアー実行用スペース(図3)を修正し,各ブースに最大15名まで(発表者を含む)参加できるようにした.また,各ブースにはshadowパネルを配置し,影をつけることでブースの区切りを見やすくした.さらに,各ブースの床には発表者の名前を記しており,どのブースで誰の研究紹介を聞くことができるのか入室した際にひと目で分かるようにした.編集作業は60分以下で完了した.
次にGather.townの使い方を説明するPowerPoint資料とビデオチュートリアルを作成した(図8).ビデオチュートリアルの内容は以下のとおりである.
資料に基づいたプレゼンテーションと,Gather.town上での実演を組み合わせて録画し,余分な個所をカット編集することで,9分47秒のビデオにまとめた.これらの資料およびビデオチュートリアルは,授業を履修している学生だけでなく,説明役を担う研究室メンバーにも事前に視聴してもらった.さらに,各回のバーチャルツアーが短時間で終了することを考慮して,スペースには事前に入室して機能を試せるようにした.
研究室メンバーには研究紹介用資料(PowerPointスライドや開発したソフトウェア等のデモンストレーション等)の準備や対話型バーチャルツアー参加者からの質問対応を依頼した.コロナ禍をきっかけにして普及したオンライン授業を通じて,大学生は音声での質問よりもチャットを用いた質問に慣れている.そのため,質問受け付けは原則としてチャットで行うこととし,回答のみマイクをオンにして画面共有をしながら行うこととした.これにより,質問を記録し,その場で回答できなかった質問に対しても,翌週の授業で回答できるようにした.
対話型バーチャルツアーの参加者に対してアンケート調査を実施し93名から回答を得た.その結果を図9~10に示す.回答のうち88~89%から「面白かった」「勉強になった」との評価を得た.
以下に,対話型バーチャルツアーに参加した学生からの感想を示す.おおむね良い評価が得られているが,時間が足りない等の意見も散見された.
対話型バーチャルツアーは動画視聴型と比べて実施時にトラブル対処が必要になるが,その場で質問ができ,臨場感があるとの利点がある.また,動画視聴型バーチャルツアーとは異なり,アンケート時にも学生から14件の質問が寄せられたので,講義Moodleを通じて回答した.
結果として動画視聴型バーチャルツアーとインタラクティブ型バーチャルツアーの両方で90%弱の参加者から面白かった,勉強になったとの評価を得ており,どちらも参加者に大学研究に対する理解を深めてもらうという目的は果たせたと考えられる.
動画視聴型バーチャルツアーは対話型バーチャルツアーに比べてイベント実施時にメンバー全員を集める必要がなく,実施時のトラブル等が起きるリスクが少ない.また,一度作成した動画は後から見返すことができ,さらに卒論テーマ説明会,オープンキャンパス,1年生向け導入授業で同じ動画を使用できたことから,一度作成すれば後のイベントなどでも再利用できるという利点がある.
一方,対話型バーチャルツアーは,参加者が質問したい内容をその場ですぐに聞ける,実際に研究室を歩いて紹介を聞きに行くような臨場感があるといった利点があったが,研究紹介資料と発表の準備やGather.townの有料プランの加入といった手間がかかり,またイベント実施の際は参加者全員が指定した時刻に紹介スペースへ入室する必要がある,イベント実施時にトラブルが起こるリスクがある,用意するスペースや実施方法次第で一度に参加できる人数や時間に制限がある,といった欠点があった.
これらのことから,動画視聴型とインタラクティブ型のバーチャルツアーには一長一短がある.
最近のオンライン型のオープンキャンパス([5]に一例を示すが,Web上で多数検索できる)では様々なプラットフォームが使われている.Gather.town以外では,YouTube Live [6],Zoom [7],Webex [8],Cluster [9]などが挙げられる.これらの取り組みと我々の取り組みを比較すると,最も大きな違いは,YouTube再生リストとGather.townを組み合わせることで両者の長所を取り入れた点と,2つのプラットフォームの相互連携を図った点が挙げられる.
YouTubeは,主催者側からの情報伝達を効率よく行う面で強みがある.オンデマンド再生ができるため,視聴者は24時間365日好きなときにコンテンツを再生できる.一方,YouTube Live,Zoom,Webexはライブ配信を前提としている.そのため,主催者側ではライブ配信中に参加者に対応する要員が必要になるが,ZoomやWebexのチャットやブレイクアウトセッションを活用することで,参加者とのコミュニケーションを促進できる.また,ClusterやGather.townは,様々なコンテンツを仮想空間上で提供できる点に特徴がある.視聴者に対するアピール度も高く,チャットやビデオ会話を用いたコミュニケーションもできる.しかし,仮想空間を構築する手間がかかる点と,視聴者に対するガイダンスが必要になる点がネックになる.
我々の取り組みでは,YouTube動画を最初に視聴者に見せることで,Gather.townの仮想空間を視聴者に疑似体験させると同時に,ポイントとなる情報をコンパクトに視聴者に伝えた.視聴者にはその後でGather.townの仮想空間上に参加してもらうことにより,仮想空間の全体配置をあらかじめ理解してもらうとともに,興味を持ったブースに出向いて学生と直接話せるように工夫した.また,両方式の間でコンテンツ(PowerPointスライド,動画)の共有も行えた.
本研究では,動画視聴型と対話型の2つの研究紹介バーチャルツアーを企画・実行し,参加者からの評価を集めて比較分析を行った.
動画視聴型のバーチャルツアーは,VRカメラのVuze XRとオンラインコミュニケーションサービスのGather.townを活用し,研究室紹介動画を作成してYouTube動画として参加者に公開した.作成の際にはGather.townによる研究室紹介用マップと紹介シナリオの作成,Vuze XRによるゼミ風景の撮影,研究室メンバーによる研究紹介動画の収録を行った.参加者による評価では,バーチャルツアーを面白いと感じた参加者が全体の8割弱,勉強になったと感じた参加者が全体の9割弱を占めた.
対話型のバーチャルツアーは,学部1年生向けの導入授業の履修者を対象に,Gather.townを用いて参加者と研究室の学生が直接質問などのやり取りを行える研究紹介イベントを実施した.実施の際は研究紹介スペースの修正,Gather.townの有料プランへの加入,Gather.townの使い方を説明するビデオチュートリアルの収録を行い,また研究室メンバーには研究紹介材料の用意とイベントで参加者への研究紹介を依頼した.
結果として,動画視聴型バーチャルツアーはイベント実施時にメンバー全員を集める必要がない,実施時のトラブル等が少ない,一度作成した動画は後から再視聴できる,別のイベントなどにも再利用できるといった利点があった.一方対話型バーチャルツアーは,研究紹介材料の準備やGather.townの有料プランへの加入といった手間がかかる,イベント実施の際は参加者全員が指定した時刻に紹介スペースへ入室する必要がある,トラブルが起こるリスクや人数制限,時間制限があるといった欠点はあるが,参加者が質問したい内容をその場で聞ける,実際に研究室を歩いて紹介を聞きに行くような臨場感があるといった利点があった.
以上の経験から,動画視聴型と対話型のバーチャルツアーを組み合わせることで,コンテンツを共有できるとともに,両者の長所を活かせると考えられる.
今後の課題として,他の研究室や学外組織との相互協力がある.今回の研究紹介バーチャルツアーでは筆者らの研究室しか紹介できておらず,参加者は他の研究室や他大学との比較ができない.バーチャルツアーの仕組みは,研究室等の物理的な場所に依存しないため,オンライン技術を積極的に活用することで,こうした取り組みも技術的に可能になることが期待できる.
今後の展望としては,研究室ホームページのバーチャルツアー化がある.Gather.townのスペースは画像や動画,PDF等のファイルやURLをインタラクティブオブジェクトとして配置することができるため,研究室の概要や論文をスペース内で読むことができる.そのため研究室のホームページをバーチャルツアー化し,訪れた人は研究室内を歩いて研究内容や論文等を見て回る疑似体験を行える,という新しい形のホームページを作成できると考えられる.これにより,大学研究に興味を持つ方々の,研究室に対する理解が深まることを期待する.
謝辞 バーチャルツアーの作成および実施にご協力いただいた研究室の皆さんおよび,評価実験に参加・協力いただいた学生・生徒に感謝します.本研究は科学研究費(課題番号20K03265および20K03232)の支援を受けています.
2022年3月 佐賀大学 理工学部 知能情報システム学科卒業.卒業研究にてGather.townとVRカメラを活用した研究室紹介バーチャルツアーの開発に取り組んだ.
佐賀大学 理工学部 准教授.工学博士.ソフトウェア工学および情報システムの研究教育に従事.
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