World Wide Webなどの情報技術の急速な発達により,我々は多くの情報を迅速に的確に入手することが可能となり,今やその利便性を享受せずして生活することはあり得ない状態とまでなった.
いつでもどこでも便利に情報にアクセスできることが当たり前の社会の中で,情報へのアクセスに困難を生じる可能性のある人々(たとえば高齢者や障がい者)が,社会から取り残されないようにするために,情報へのアクセスを補償する技術が多数開発されている.たとえば,情報機器の画面を見ることが困難な人のために,文字を拡大表示したり,文書を音声で読み上げたり,点字で表示する技術である.このような情報の“アクセシビリティ(accessibility)”を確保することはきわめて重要である.
情報技術の分野では,一定のアクセシビリティを確保するために必要な多数の技術,方法,基準等が,国内・国際標準として制定されている.
本稿では,情報にアクセスすることに困難のある人々が取り残されないようにするための情報アクセシビリティに関する標準化の動向について概説する.
“標準(standard)”とは,製品の品質,性能,安全性,寸法,試験方法などに関する取り決めを指す[1].“規格”とも言う.一般的には,法的に実施義務のない任意規格を指す.そのため,“ソフトロー(soft law)”とも表現される.往々にして“標準は義務である”と誤解される傾向にあるが,標準は単体では実施義務は発生しない.その標準の実施を義務付ける法令などが制定されて初めて義務化されることに留意したい.
標準には大きく次の4つの形態がある[2].
アクセシビリティに関する標準のほとんどはデジュール標準として発行されるケースが多いが,Webアクセシビリティの標準のようにW3Cのようなコンソーシアムが開発している例もある.
“アクセシビリティ(accessibility)”という用語は,一般に,製品やサービスなどにアクセスすることに困難のある人々(たとえば高齢者・障がい者など)を含む幅広い特性の人々が製品やサービスなどにアクセスできる“度合”を表す言葉として用いられる.また,製品やサービスなどにアクセスすることに困難のある人々がアクセスできる性質を,“アクセシブル(accessible)”などと表現する.
国際標準では,アクセシビリティという用語について複数の定義が存在しているが,情報技術分野では以下の定義[3]を採用する場合が多い.
なお,ISOとIECにおいては,高齢者・障がい者配慮に関する標準を作る人のための共通指針を示した“ガイド”の作成が日本提案で進められ,ISO/IEC Guide 71として2001年に初版[4]が発行された.その後このガイドは,高齢者・障がい者に限らず,より多くの人に対応したアクセシビリティ配慮のためのガイドとして2014年に改訂[5]された.ISO/IEC Guide 71は,アクセシビリティに対する考え方を詳細に記しており,現在ISOとIECはもちろん,JISにおけるアクセシビリティ関係の標準開発の基本としても活用されている.
言語情報や画像情報などの情報へのアクセシビリティ(以下,情報アクセシビリティ)を確保するには,一般に2通りの対応方法がある.
1つ目は,主に印刷物や公共サインなど,情報の物理構造(文字の大きさ・色・フォント,音の大きさや音色,点字・触図などのモダリティの種類,など)が変更できない場合の情報デザインに用いられる対応方法である.それは,人間の感覚・運動特性の統計データに基づいて,できるだけ共通のデザインで多くの人がアクセスできるよう情報の物理構造の最適値を設定し,デザインを決定する方法である.統計データ収集のために,高齢者・障がい者を含むできるだけ幅広い属性の被験者を集め,特性を計測して統計データを作成する.しかし,感覚・運動特性の統計データに基づいてデザインするということは,裏返して言えば統計の中で少数派の特性を持つ人ほどアクセスし辛くなり,取り残されてしまうことを意味している.したがってこの方法は,あくまで物理構造が変更できない情報のデザインに限られる.この方法を用いた情報アクセシビリティの標準化は,ISO TC 159(人間工学)やISO TC 173(福祉用具)などの標準化組織で行われてきた経緯があるが,物理構造を自由に変更できる情報技術の普及に伴い,徐々に主流ではなくなりつつある.
2つ目は,情報の物理構造が変更できる場合の情報デザインに用いられる対応方法である.コンピュータやタブレット端末などの情報技術を通して情報を提供する場合,情報の物理構造を個々の使用者の感覚・運動特性に合わせて最適に変更できるため,統計データの中で少数派の特性を持つ人が取り残されることはなく,十分なアクセシビリティを確保できる.その鍵となる技術は,物理構造を個別に最適に設定できる性質や機能を情報技術や情報そのものに持たせることである.現在,この方法の標準化が情報アクセシビリティの標準化の主流となっており,ISO/IEC JTC 1(情報技術)を始め,多くの標準化組織が標準化に取り組んでいる.詳細を第4章で説明する.
情報アクセシビリティに関する標準の開発を行っている標準化団体は多数存在する.ここでは代表的な例として,次の3つの組織の取り組みを紹介する.
ISO/IEC JTC 1(以下,JTC 1)は情報技術の国際標準を策定する組織として,ISOとIECが共同で設置した標準化委員会である.2022年4月現在,JTC 1の傘下には22個の専門委員会がある.その中の1つである専門委員会SC 35が,情報技術におけるユーザインタフェースの国際標準の策定を担当している.
JTC 1では,アクセシビリティは20年以上前から重要な課題として位置づけられており,2003年にはSC 35の傘下にユーザインタフェースアクセシビリティを扱う作業部会WG 6を新設し,情報アクセシビリティに関するさまざまな国際標準の策定を開始した.また翌年,JTC 1の直下にアクセシビリティ特別作業部会SWG-Aを発足させ,さまざまな標準化団体で発行された多数のアクセシビリティに関する標準をすべて調査し,障がいのあるユーザのニーズを集計したり,多数の標準間の差異を分析するなどの活動を開始した.そしてSWG-Aは10年間活動を行ったのち,2014年に解散となり,その業務をSC 35が受け継いだ.2015年現在,JTC 1におけるアクセシビリティ標準化活動の中心はSC 35に置かれている.
SC 35 では,情報アクセシビリティに関する以下の国際標準開発を行ってきており,今も精力的に活動を続けている.
SC 35ではそのほかに,アクセシビリティを考慮したユーザインタフェースとして,音声命令(日本提案であり,自由発話ではなく限定された語彙の音声で情報通信機器を操作する技術),ジェスチャ命令,メニューナビゲーション,バーチャルキーボードなどの標準開発も行っている.
なおJTC 1ではSC 35のほかにも,傘下の専門委員会で情報アクセシビリティ関連の国際標準開発例がある.
情報技術に関する国際標準はISO/IEC JTC 1が策定しているが,電気通信技術(電話,放送など)に関する国際標準はITU-Tが策定している.ITU-Tは国連の一専門機関として,国連が2006年に定めた国連障害者権利条約[22]を推進する立場から,電気通信アクセシビリティを重要課題に掲げている.
2022年4月現在,ITU-Tの傘下には11個の研究委員会がある.その中の1つである研究委員会SG 16が,マルチメディア符号化,システムおよびアプリケーションの国際標準の策定を担当している.SG 16の傘下には14の研究課題があり,その中の1つである研究課題Q 26として,マルチメディアシステムとサービスのアクセシビリティが設定されており,Q 26のラポータ(研究課題の代表者)を日本人が務めている.2022年4月現在,Q 26には電気通信アクセシビリティに関する24の作業項目がある.
Q 26では,電気通信サービスや機器に対するアクセシビリティの国内標準であるJIS X 8341-4[23]の2005年初版を基に日本から国際標準を提案し,2007年に国際標準F.790[24]として制定している.
Q 26の最近の作業項目として着目したいのは,ISO/IEC JTC 1/SC 35で発行した“解説音声”(主に視覚障がい者への情報補償)と“字幕”(主に聴覚障がい者への情報補償)の国際標準ISO/IEC 20071-21,23,および25[15]が,ITU-Tのツインテキスト(技術内容が同じ文書)T.701.21[25],H.ACC-GVP[26],およびT.701.25[27]として標準化されていることである.ISOとIECは放送に関する標準を制定する立場にないが,ITU-Tは放送に関する標準を制定できるので,ISO/IEC JTC 1で開発した解説音声と字幕の標準が,テレビなどの放送にも適用できるようになる.情報技術と電気通信技術の境界が曖昧になりつつある現在,ISO/IEC JTC 1とITU-Tの連携は不可欠なものとなっている.
W3C(World Wide Web Consortium)は,World Wide Web(以下WWW)で使用される技術の標準化を行う非営利団体であり,1994年に発足した.代表的な標準は,WWWの基盤技術であるHTML(Hyper Text Markup Language)のほかに,XML(Extensible Markup Language),CSS(Cascading Style Sheets),DOM(Document Object Model)などがある.W3Cが策定する標準はコンソーシアム標準であるが,一部はISO/IEC JTC 1などにも提案され,デジュール標準となることがある.
W3CはWWWのアクセシビリティを確保する技術の標準化にも力を入れており,W3Cの傘下にWAI(Web Accessibility Initiative)というアクセシビリティ専門の組織を持つ.WAIでは大きく次の3つのガイドラインを策定している.
このうちWCAGは,アクセシブルなWWWコンテンツを作成するために開発されたガイドラインであり,初版のWCAG 1.0が1999年に発行された.その10年後,新しいWWW技術に対応できるよう,改訂版のWCAG 2.0が2008年に発行され,この版は,ISO/IEC JTC 1にも提案されてISO/IEC 40500[31]としてデジュール標準化されている.また日本では,JIS X 8341-3[32]としてやはりデジュール標準化として発行されている.WCAGの2022年4月現在の最新版は,2018年に発行されたWCAG 2.1であり,読解に困難のある人や携帯端末使用時のアクセシビリティに配慮されている.WCAGはWWWのみならず,ほかの形式の電子媒体(PDFなど)におけるアクセシビリティ指針としても参考にされている.
ATAGは,WWWのオーサリングツール(Webページ作成ソフトなど)のアクセシビリティに関するガイドラインであり,初版のATAG 1.0が2000年,改訂版のATAG 2.0が2015年に発行されている.
UAAGは,WWWのユーザエージェント(ブラウザなど)のアクセシビリティに関するガイドラインであり,初版のATAG 1.0が2002年に発行されている.
またWAIでは,近年多く見られる動的(内容がユーザの操作などによって変化する)コンテンツのアクセシビリティを確保する技術であるWAI-ARIA(Accessible Rich Internet Applications)[33]の標準も開発している.2014年に初版WAI-ARIA 1.0,2017年に改訂版WAI-ARIA 1.1が発行されている.
ところで,W3C以外のWWW技術の標準化団体としてWHATWG(Web Hypertext Application Technology Working Group)がある.WHATWGはW3Cの標準に反対する企業によって2004年に結成され,かつてW3Cとは競合する関係にあった.しかしその後,HTML標準の最新版であったHTML5(2021年1月に廃止),およびその後継となったHTML Living Standard[34]の開発においては,両者は協力関係を続けている.
日本国内では,情報アクセシビリティの確保のため,日本のデジュール標準である日本産業規格において,JIS X 8341シリーズ“高齢者・障がい者等配慮設計指針”を定めている."8341"は語呂合わせで“やさしい”と表現されることがある.この標準はISO/IEC Guide 71に基づいて開発され,2022年4月現在次の7部によって構成されている.
このうち第1部から第5部は,2000年台前半に初版が制定され,その後,それぞれISO 9241-20[37], ISO/IEC 29136[11],W3C WCAG 2.0[28], ITU-T F.790 [24],およびISO/IEC 10779[18]として国際標準化されている.第6部および第7部は国際標準として制定されたISO 9241-171[38],および日本提案の国際標準ISO/IEC 24786[9]をそれぞれJIS化したものである.
標準は前述のとおりあくまで任意規格であり,法的な実施義務がない.強制力を持たせるためには.法令等で実施を義務付ける必要がある.
ここでは,情報アクセシビリティに関して強制力を持つ次の3つの代表例を紹介する.
国際的に強制力を持つ合意文書である“条約”は,国内においては,その優先順位が“憲法”と“法律”の間に位置付けられる.アクセシビリティに関連した条約として,国連障害者権利条約[22]がある.日本では同条約について,2007年に署名,2014年に批准し,同年効力を発生した.
同条約の第9条がアクセシビリティに関する条項であり,情報・通信その他のサービスの利用可能性を確保するための適当な措置をとることが規定されている.
ただし,同条約には情報アクセシビリティを確保するための具体的な技術的規定は定められておらず,これらは標準または法令によって別途定めることとなる.
米国リハビリテーション法は,障がい者のリハビリテーションに関するアメリカの連邦法として1973年に制定された.その後1986年の同法改正時に,情報アクセシビリティに関する条項が508条[39]として追加された.当初の508条は努力義務にすぎず十分機能していなかったが,その後1998年に遵守義務を持つよう改定された.508条は,アメリカ連邦政府機関に,同条が定める技術基準に準拠したアクセシブルな情報技術を調達することを義務付けている.これにより,準拠していない情報技術はアメリカ連邦政府機関に販売できなくなるため,アメリカを始めその他の国の情報技術メーカにも508条の技術基準に準拠させる事実上の強制力が発生する.508条はアメリカの法令ではあるが,国際的にも情報アクセシビリティの分野に大きな影響を与えている.
準拠すべき技術基準の詳細は,電子技術情報アクセシビリティ基準[42]として2000年12月に公布され,2001年6月に施行となった.具体的には次の6項目の情報技術に関する技術基準を詳細に規定している.
508条のはその後,WCAG 2.0[28]や,米国電気通信法255の通信アクセシビリティ指針[43]などの基準を取り入れ,2017年1月に改定されている.
さらに,アメリカでは企業が自社製品・サービスが508条の技術基準をどの程度満たしているかを公開するための情報アクセシビリティ自己評価様式(VPAT)[44]が開発され,各企業は自主的に基準対応情報を公開している.
2005年12月に欧州委員会は,欧州連合(EU)における情報技術のアクセシビリティ向上のため,欧州の標準化組織である欧州標準化委員会(CEN),欧州電気標準化委員会(CENELEC),および欧州電気通信標準化機構(ETSI)に対し,公共調達の際の情報アクセシビリティに関する要求事項を定める標準を策定するよう,欧州連合マンデート376としてマンデート(要請)を発出した.この要請を受け,CEN, CENELEC, およびETSIの3組織は,情報アクセシビリティの標準策定作業を開始した.
マンデート376は2つのフェーズによって構成されていた.
1つ目のフェーズは,アクセシビリティ要求事項と検証手順の目録の作成である.3組織はこの要請を受理した後12カ月以内に,次の2つの報告を提出しなければならない.最初の報告は,情報通信機器およびサービスの目録,EU内の既存のアクセシビリティ要求事項の目録,ならびに標準化作業計画である.次の報告は,アクセシビリティの要求事項に対する検証手順の提案である. 2つ目のフェーズは,標準化活動である.次の5つの成果物を用意する.
マンデート376を受けて,3組織は,情報アクセシビリティに関する欧州標準EN 301 549[45]を2014年に発行した.EN 301 549は,公共調達の要件となることを想定しているため,米国リハビリテーション法508条の電子技術情報アクセシビリティ基準[42]と同様,事実上の強制力が発生する.発行後も改正作業は継続され,2022年4月現在の最新版は,2021年3月改正のV3.2.1である.
さらに欧州連合では2019年に,情報アクセシビリティに関する欧州連合指令2019/882[41]を発令した.この指令は欧州アクセシビリティ法(EAA)と呼ばれることがあるが,あくまで指令であって法律ではない.この指令の適用を受けるのは,2025年以降に市販される次の製品およびサービスである.
指令2019/882への適合性検証のための基準として,マンデート376による情報アクセシビリティ標準も使用されると予想される.これにより欧州における情報アクセシビリティの対応はますます加速すると考られる.
日本は,欧米に比べて,情報アクセシビリティに関する法整備は遅れていると言わざるを得ない.アクセシビリティに関する標準はJIS X8341シリーズ[35][12][32][23][19][36][10]を始め数多く制定されているが,法整備に結び付いていないのが現状である.
日本では.国連障害者権利条約[22]に対応し,障がい者を理由とする差別の解消を推進することを目的として,障害者差別解消法[46]が2013年6月に制定され,2016年4月から施行,2021年5月に改正された.同法では,不当な差別的扱いの禁止,および合理的配慮の提供という2つの骨子を掲げ,広く日常生活および社会生活における障がい者の差別解消を推進している.なお,障がい者の雇用に関する差別の解消は,障害者雇用促進法[47]で規定されている.しかしこれらの法律は,差別を解消することを規定しているが,そのための具体的な技術については何も定めていない.
文書情報に対する情報アクセシビリティに関しては,学校教育において障がいのある児童および生徒の教科書へのアクセシビリティを確保するため,教科書バリアフリー法[48]が2008年9月に施行された.同法では,教科書へのアクセシビリティを確保するため情報技術を活用できるように,教科書デジタルデータの提供を発行者に義務付けている.その後,2019年4月に学校教育法等の一部を改正する法律[49]が施行され,学校教育において紙の教科書に代わり情報技術を使ったアクセシブルな学習者用デジタル教科書の使用が認められるようになった.さらに教科書だけではなく,2019年6月に,障がいなどを理由に視覚による表現の認識が困難な者の読書環境の整備を推進する目的で,読書バリアフリー法[50]が施行された.同法では,印刷された書籍ではなく,情報技術を活用したアクセシブルな電子書籍などの整備を規定している.また,視覚障がい者のために印刷物を点字翻訳や音声データ化する際の著作権に関する制限・例外を定めることにより,視覚障がい者が著作物を利用する機会を促進することを目的とした国際条約であるマラケシュ条約[51]が,2019年1月に日本でも効力を発生した.これにより,視覚障がい者の読書環境が改善されることが期待できる.
一方で,欧米のように,情報アクセシビリティに対応した情報技術が政府の公共調達の要件となるような法整備は日本では行われていない.これは日本だけではなく,韓国,中国も同様であり,アジア全体の対応が遅れている.この事態を解消すべく,日中韓で統一したアクセシビリティの規則を作ろうという提案が北東アジア標準協力フォーラム(NEASF)において韓国から2017年になされたが,作業は思うように進んでいない.一方,日本の総務省は,アメリカの情報アクセシビリティ自己評価様式(VPAT)[44]に倣って,日本版VPAT[52]を策定して2021年に公開した.日本には情報アクセシビリティに関する法規制がないのでその代わりにJIS X 8341シリーズ[35][12][32][23][19][36][10]を使うか,または米国リハビリテーション法508条[39],あるいはEN 301 549[45]を使って,核要求事項に適合しているか自己評価を行う.総務省としては,情報アクセシビリティに関する法規制のない日本において,日本版VPATを情報アクセシビリティ確保の促進に繋げたい考えだ.
情報アクセシビリティを確保するための国際標準の策定は今後も進んでいくことが予想され,情報社会から誰も取り残さない取り組みが進められていくことは大変喜ばしいことである.
しかし一方で冒頭にも述べたとおり,標準は実施義務のない任意規格であって強制力がない.その効果を発揮するためには,強制力を伴う法制度の策定との連携が重要である.
日本は,情報アクセシビリティの標準の策定を盛んに行ってきた一方で,欧米に比べて法整備が大幅に遅れている現実を認識し,標準化と法整備の連携体制を早急に構築する必要がある.
博士(工学).産総研勤務.ISO/IEC JTC 1(情報技術)国内副委員長.IEC SC 3C(機器・装置用図記号)国際幹事.
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