会誌「情報処理」Vol.63 No.8(Aug. 2022)「デジタルプラクティスコーナー」

「デジタル化競争を勝ち抜くための標準戦略」インタビュー

インタビュイー:河合和哉((国研)産業技術総合研究所)
インタビュアー:吉野松樹((株)日立製作所)

本特集のゲストエディタをお願いした本会情報規格調査会委員長の河合和哉様に,情報規格調査会の国際標準化活動における役割,近年変化しつつある国際標準制定の目的,標準化活動活性化の課題などについて伺った.

河合和哉
河合和哉(正会員)((国研)産業技術総合研究所)
1987年横浜国立大学大学院工学研究科電子情報工学修了.同年,松下電器産業(株)入社.2019年(独)情報処理推進機構,2020年より現職.2014〜2020年,本会情報規格調査会副委員長,2021年より情報規格調査会 委員長.
吉野松樹
吉野松樹(正会員)((株)日立製作所)
1982年東京大学理学部数学科卒業.同年,(株)日立製作所入社.1988年米国コロンビア大学大学院修士課程修了(コンピュータサイエンス専攻).2011年大阪大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了.博士(情報科学).本会フェロー.2020〜2022年,本会論文誌デジタルプラクティス編集委員長.

吉野:本日はよろしくお願いいたします.

河合:よろしくお願いします.

吉野:デジタルプラクティスでは標準化の特集を過去3回組んでいて,今回が4回目となります.河合さんは,現在情報規格調査会の委員長ですが,2010年と2011年に大蒔和仁さんが委員長,亡くなった村上篤道さんが副委員長だったときに2回標準化の特集を組んでいます.そのあと,少し間が空いて,2019年に伊藤智さんが委員長のときに標準化の特集を組んでいます.本会の中で情報規格調査会の標準化の事業は非常に大きな部分を占めていることもあり,時々標準化の特集を組むようにしています.

情報規格調査会の位置づけ

吉野:私自身は,以前,本会の財務理事を務めていたときに情報規格調査会の役員会に参加させていただいたり,その前にISO/IEC JTC 1の標準化の活動に少し関与したこともあるので,大体把握していると思っていますが,本会と情報規格調査会の関係,ISO/IEC JTC 1との関係でどういう役割を担っているのかを簡単にご説明いただけますでしょうか.

河合:はい.私も最近知ったのですけれども,学会の設立の翌年から情報規格調査会の活動が始まっています.本会が1960年に設立されて,規格に関する委員会は,1961年に設立され,実際に活動を開始したのが1962年の始めのようで,学会の中では,歴史が非常に長いですね(図1).

吉野:そうですね.

情報規格調査会の歴史
図1 情報規格調査会の歴史

河合:ご承知のように,独立会計となっていて,学会本体の正会員や賛助会員の会費とは別に,情報規格調査会の賛助員企業から賛助会費をいただいて運営しています.

事務局も,学会本部の事務局とは独立した専任の体制で,業務委託1名を含めて現在8名の体制です.

吉野:賛助員企業からの会費で運営されているということですが,賛助員企業を増やすための施策は何か実施されていますでしょうか.

河合:最近の施策としては,準賛助員という,法律上中小企業に分類される企業は会費を安く設定しています.準賛助員は増えているのですけれども,全体で見るとなかなか厳しい状況です.

吉野:そうですか.

次にISOなどの国際的な標準化活動の中での情報規格調査会の位置づけを伺いたいと思います.

河合:はい.

ISO,IECに対して,日本では経済産業省の中に,日本産業標準調査会(JISC)いう審議会組織があり,そこが基本的に対応していて,ISOやIECのテクニカル・コミッティごとに審議団体が委嘱されている形になっています.

国際標準化団体との関係
図2 国際標準化団体との関係

情報技術関連の国際標準化を担っているJTC 1(Joint Technical Committee 1)の対応は,本会に委嘱されています.本会は,情報規格調査会を作って対応しています.情報規格調査会の中では,JTC 1の組織のミラー組織として委員会を組織しています(図2).

吉野:専門委員会のうちで,たとえばSC 39は本会ではなくてJEITA((一社)電子情報技術産業協会)が審議団体となっていますが,SC 39から上がってきた賛成,反対といった意見を情報規格調査会の技術委員会が,最終的判断をしてJISCに回答を返すということですか.

河合:審議団体としては,SC 17,SC 28,SC 35はJBMIA(一般社団法人 ビジネス機械・情報システム産業協会)で,SC 39がJEITAです.審議の委嘱は,JISCから直にそちらに下りているのですけれども,JTC 1として統一的対応をしたいという場合もあるので,それぞれの専門委員会から技術委員会に,こういう回答をしたいというご意見をいただいて,技術委員会で合意を得た上で,JBMIA,JEITAからJISCに回答していただくという形になっています.

吉野:なるほど,分かりました.

たとえば,IECの標準化に関しては,JISCから電気学会あたりに委嘱されているのでしょうか.

河合:IECについては,日本規格協会(JSA)の中にIEC-APC(IEC活動推進会議)というのがありそこで担当されています.個別のTC(技術委員会)に対しては関連する学会とか,工業会が対応していると思います.

吉野:はい.ありがとうございます.情報系に関しては,情報規格調査会が基本的にまとめているということですね.

これは後ほどまたお話があるかと思うのですけれども,スマートシティとか,AIのような新しく複数分野に関係するような分野の標準化では,ISO,IEC,そのほかのフォーラム標準化団体,JTC 1などの間でどの団体がどこを担当するのかというところが複雑になりつつあるという気がしているのですがどうでしょうか.

河合:そこは課題ですね,特にスマートシティは(笑).

スマートシティに関する委員会は,ISOにも,IECにもあって,JTC 1にもあり,その切り分けが,決して上手くいっている状況ではないと思います.

最近の標準化戦略の変化

吉野:伝統的な標準化というと,私は,昔,コンパイラの開発を担当していたときに,SC 22のプログラミング言語の標準化の活動にかかわっていたことがあります.そのときやっていたのは,PL/1というプログラミング言語の標準化で,今はもう標準化の活動はなくなってしまっていて,役に立たない標準化の典型例みたいな感じで,しかも言語のセマンティクスがVDM(Vienna Development Method)で記述されていて理解するのがなかなか難しかったですが,それはそれで面白かったですね.

プログラミング言語の標準は典型例だと思いますが,既存の技術をきちんと標準という形にまとめて,みんなでこれを守って可搬性や相互運用性を確保しましょうというのが,オーソドックスな標準だと思います.

先ほど話題に上がったスマートシティを考えてみると,スマートシティが,今,実現できているとは言えないと思います.そういうものに対して,標準化することの是非についてはいろいろ意見があるとは思うのですよね.標準が足枷になって,その分野の技術のイノベーションを阻害するのではないかという考え方もあるかと思います.最近,スマートシティのようなこれから伸びることが期待されている領域の標準化活動が活発になっているという,印象を受けるのですけれども,その辺りは,JTC 1の範囲でご覧になっていて,いかがでしょうか.

河合:まさに吉野さんがおっしゃった通りだというふうに私も思っています.図3は,JTC 1のSC(Sub Committee)の一覧ですが,番号の若いところは,ある程度,技術が固まっていて,産業としても確立しているところで標準化が進められているという,従来の流れの標準化になっています.

JTC 1配下のSC(Sub Committee)一覧-1 JTC 1配下のSC(Sub Committee)一覧-2JTC 1配下のSC(Sub Committee)一覧-3
図3 JTC 1配下のSC(Sub Committee)一覧

吉野:そうですね.

河合:一方で,大きいほうは,最近のところですね,特に41から先ですね.

たとえば,SC 41のIoTというのは,私は技術ではなくてコンセプトだと思っています.

IoTを実現するための技術は,既存の技術を使っている.標準としてもたとえば,SC 6の標準が使われたりしている.

吉野:ああ,そうですね.

河合:IoTではソフトウェア開発,システム構築もあるので,SC 7の標準も関連するし,ICカードが絡むとSC 17の標準を使いますし,相互接続という観点ではSC 25の標準が関係する.それからバーコードであれば,SC 31も関係する.要は,既存の技術を使った上で,どういうものを作るかというのがIoTだと思うので,割とこれまでの標準化とは毛色が違うのですね.

IoT固有の標準というのは何なのかということは,いつも議論しているのですけれども,なかなか難しい.

吉野:そうでしょうね.

河合:SC 42のAIも2017年に標準化活動の提案がされたのですけれども,当初は,そもそもAIの標準化は何をするのかということが議論となりました.

当初は,提案されたのはボキャブラリーと,コンセプトのオーバービューだけでした.

とはいえ,始めてみると,AIの商業ベースの立ち上がりがものすごく早くて,バイアスの課題のような倫理的な側面の議論もすごくあり,それに技術的にどう対応するかを標準として定めないといけないことが分かりました.市場の立ち上がりや,技術が固まる前に標準化が始まったという状況です.

吉野:なるほど.

河合:それからSC 43は,ブレイン・コンピューター・インターフェースですが,まだまだ研究もこれからという状況ですから,技術を開発しながら標準も作っていくという感じで,今までとはかなり変わってきています.

吉野:こういう新しい標準化を起ち上げるモチベーションはどういうところにあるんでしょうね.提案している国,あるいは,その裏にいる企業の狙いはどういうことなんでしょうか.

河合:AIですと,米国ではものすごく広く使われているじゃないですか.

使い始めると,たとえば,倫理的な側面,学習データのバイアスとか,よく話題になりますよね.AIに関していうとそういう批判を受けないように,AIを使う企業側が,我々はちゃんとこういう標準に則ってやっているのですと言いたいのではないかなと思います.

吉野:ああ,なるほど.

河合:AIの技術そのものの標準化ではなくて,AIの使い方というか,使うにあたっての留意事項みたいなことを標準化して,こういう標準に則って我々はちゃんとやっているんですよという,そういう説明のほうに使おうとしているのかなと思っています.

吉野:標準化に沿った運用,オペレーション,あるいは標準で決められた技術を使っているということで,訴訟リスクみたいなものを低減するということを目的に標準化をしているということですね.

河合:カナダ,アメリカが,AIマネジメントシステムというのをすごく早い段階から提案してきています.品質管理のISO 9000とか,情報セキュリティのISMSとか,マネジメントシステムはすでにいくつかあるのですけれども,AIシステムを開発するときのマネジメントシステムですね.2020年に提案されて,2023年の発行を目指して開発しています.

スタートアップの小さい企業でも,マネジメントシステムでちゃんとやっているんですよという形で,産業育成に使いたいという面があるようにも思います.スタートアップが勝手なことをして,市場が混乱するということにならないようにという意図が見えます.

吉野:イノベーションの健全な育成ということですね.

いい加減なスタートアップが出てきて,AI自身のレピュテーションが下がってしまって,みんなAIなんか信用しないみたいなことになることを恐れて,AIはちゃんと使えるんだという形にしたいということなのですね.

河合:そうです.そういうことがあるのではないかなと.

吉野:標準を定めることによって市場を健全に育成するという考え方に基づいて,AIの標準化なんかは進められているということですね.

IoTとか,デジタルツインもそうなのですかね.

河合:IoTでは,アメリカとか,欧州の国は,IoTを使うときの参照アーキテクチャとか,データのインタオペラビリティとか,システムを作るときに必要になる上位概念に興味があるようです.

一方で,システムの仕様に近いもの,アプリケーションに非常に近いようなところを韓国,中国がものすごく活発にやってきます.IoTをやっているSC 41の中でも,このあたりを議論しているワーキンググループにはあまり米国,欧州のメンバは参加していないので,中国,韓国がどんどん進めていている.日本としては変な標準を作ってほしくないので,必要に応じて反対するとかネガティブな対応をしないといけないこともありますが,それも労力を必要とするので,どこまで頑張ってやるかは悩みどころですね.

吉野:アプリケーションを考えることも,ユースケースとしては重要で,こういうユースケースがあるから,こういう標準が必要なんだという,フィット・アンド・ギャップをやるためには,必要なのかもしれませんけれども,それが標準になるのかは,ちょっとよく分からないことがありますね.

IoTにしても,スマートシティにしても,いろんなドメインのいろんなデバイスが絡んでくるので,それぞれが計測するデータの精度の問題であるとか,についてはある程度の規定があってもいいのかなという気はします.

河合:そうですね.

吉野:情報技術の標準化を担当するJTC 1としてやるべきなのか,それぞれのドメインスペシフィックな標準化を担当するIECなり,ISOの中の委員会でやるべきなのか,悩ましいですね.

河合:あとは業界標準みたいなものも含めて上手く使い分けることが必要なのではないかなと思うのですね.

吉野:そうですね.

河合:標準の上には規制(レギュレーション)があるということでAI規制がEUで議論されていて,それから倫理に関することはOECDとか,EU,EC(European Committee)で議論されて,それで技術はJTC 1のSC 42という役割分担になっています.

吉野:レギュレーションを考えると,WTO(World Trade Organization)のTBT(Technical Barriers to Trade)協定の関係でISO,IEC,ITU-T,JTC 1で標準にすると非常に効力がありますね.

さきほど話の出たスマートシティはまだSC(サブコミッティ)にはなっていないんですね.

河合:サブコミッティにするほどの規模はないということで,図4に示すようなJTC 1の直下のワーキンググループの1つで規格開発をしています.スマートシティのほかには3D Printing and scanning,Trustworthiness,量子コンピューティングがJTC 1直下のWGで規格開発しています.量子コンピューティングなんて本当に何を標準にするのか分からないですよね(笑).

 JTC 1直下のWG
図4 JTC 1直下のWG

吉野:まだまだこれからという感じだと思いますけれども.

河合:技術の立ち上げ時点から標準化も始めるというのが最近の流れとして見えているかなという感じがします.

吉野:Trustworthinessというのは,セキュリティとは違うということなのですね.

河合:そうですね,信頼なので,セキュリティも含むのですけれども,セキュリティはTrustworthinessの特性の1つということになります.何をもって信頼するのか,たとえば,システムが信頼できれば,信頼できるとするのですかという議論ですね.実はここもまだターミノロジーがようやく,出てきたというところです.

吉野:品質保証とも違うわけですね.

河合:品質も1つの特性としては考えられると思います.

JTC 1の活動における日本の立ち位置

吉野:JTC 1の活動の中で日本の立ち位置はどういう感じでしょうか.

河合:日本が幹事国をとっている分野は力を入れている分野ということになります.

たとえば,文字コード,漢字を扱わなければいけないので,日本にとっては非常に重要ですね.それからSC 23のパッケージメディア.CD,DVD,ブルーレイなどの規格です.

それからSC 29のマルチメディア系,JPEG,MPEGなどの規格です.

吉野:ビジネスとしても日本が強いところですね.

河合:日本提案の規格の数も多いですね.ですから活動自体も活発になります.

吉野:新しい分野は,どういうスタンスで活動されていると思えばいいのですかね.

河合:SC 38のクラウドはすごく大事なのですけれども,クラウド事業者は日本にあまりいらっしゃらなくて米国中心なので,十分活動できていないところです.

吉野:クラウド・コンピューティングの出始めのころはいろんな標準化団体が標準化に手を挙げていましたね.

河合:そうですね.SC 38では,クラウドの契約をするときのSLA(Service Level Agreement)の規格だとか,最近は複数のクラウドが連携して使われる場合が増えてきていて,データを複数のクラウド間で共有する場合もあるので,インタオペラビリティとか,データのポータビリティも議論されています.

米国の大手のクラウド事業者はほとんど参加しているので,実際に規格が使われているのだろうと思います.

AIは,日本も非常に活発にやっています,先ほど話の出たマネジメント・システム,倫理関係のガイダンス,それから安全に関する議論ですね.たとえば,AIを使った場合の機能安全の議論とかですね.

吉野:安全性を高めるために,いままでは,フォーマル・ディスクリプションできちんと仕様を書いて,実装までつなげましょうみたいな流れだったと思いますが,AIが入ってきたときに,AIの部分の安全性はどうやって説明できるんですかというのが問題ですね.

そうなると結果としてのAI自身の品質ではなくて,その品質を担保するために,どうマネジメントしているかというプロセスを標準化して,それに則っているから,絶対値としての品質・安全性ではなくて,標準化されたプロセスに則っていて,改善のループが回っているという,ISO 9000的な発想で担保しようということなのですね.

河合:そうですね.あとは本当に身近なところで言うと,SC 17のカード関連ですね.クレジットカードから,免許証,パスポートまで適用されています.SC 22のプログラム言語も活発に活動しています.

吉野:そうですね.

標準化活性化に向けた課題

吉野:最後に,標準化を活性化していくための課題について伺いたいと思います.以前からずっと言われていますが,標準化に携わられている方の高齢化が進んでいて若手の人材育成が必要といった課題があって,あまり改善されていないような気がするのですけれどもいかがでしょうか.

河合:そうですね.そこはやはり大きな課題です.標準化の活動はやればやるほど人脈とか,経験とかというのが活かせるので,企業だと,とりあえずお前がやれということでやり始めて,しばらくすると,もうちょっと頑張れと言われてやっていると,もうお前しかいないということになって止められなくなる,というようなことはありますね.

吉野:たとえば,中国とか,韓国などでは,若い方がどんどん標準化の場,JTC 1のようなデジュールな場だけでなく,フォーラム標準の場であっても,出て来られているように思います.その辺りは何か国の政策とか,そういうものがずいぶん影響しているのでしょうかね.

河合:たとえば,日本ですと,以前は,本社系に標準化の部隊がいて,大局的に見ていたかと思うのですけれども,最近,分社化の影響などで,事業部門に近いところで標準化を見ている.そうなると標準化はどうしてもコストに見えてしまうので,難しくなる.

標準化をやっている人たちの中で話しているのは,キャリアパスの中に標準化をなんとか入れてもらえないだろうかということです.韓国なんかで時々話を聞くと,たとえば,新しい規格を何本提案して作ったみたいなことがキャリアとして認められる.それから国際の役職を務めると,それが昇格でも有利になるのですね.ですから,国際の場での標準化の経験を会社に持ち帰って,ワンステップ上の役職に就いて,それでまた標準化の活動に戻ってくるみたいな形でキャリアパスの中に標準化を入れてもらえるとすごくいいよねというのが,標準化関係者の皆様とお話すると,意見が合うところです.

標準化委員会,標準化の専門能力で会社を渡り歩いてキャリアアップをされている方もいますが,多くはないですね.

吉野:そうですね.特に,海外ではコンサルタントとして,標準化を飯の種にしている人も時々見受けられますね.

河合:私は,元々3GPP,モバイルの標準化から標準化の活動を始めたのですけれども,そこにはそういう人がいっぱいいましたね.同じ人が出ていても所属する会社はころころ変わっているということがよくありました.

吉野:日本の雇用の慣習の中では難しいのかなという気もしますけれども.

河合:退職されてから標準化のコンサルを始められている方というのも少しずつ出始めてはいますね.

吉野:そうですね.標準化をやられている方,標準化に詳しい方の中で議論するとそうだよねという話が,なかなかその外に話を広げるのが難しいと感じています.デジタルプラクティスの今回の特集などで標準化に関心を持っていただける方が少しでも増えるといいなと考えています.企業にとって戦略的に事業を進めるために標準化が重要だということもありますし,標準化をやられている方にとって,国内あるいは国際で活動することが自分自身のキャリアアップになる,あるいはそういう活動自身が非常に面白いということがもっと多くの方に伝わるといいなと思っています.

河合:人材育成に関しては,英語を使わざるを得ないのでそこで尻込みされてしまう方が結構いらっしゃいますね.

私も,決して流暢にしゃべれるわけではないのだけれども,標準化活動に関して言えば,ネイティブと同じように話す必要はないというか,英語ネイティブの人のほうがむしろ少ないのですから.

吉野:ああ,そうですよね.

河合:あくまでみんなでコミュニケーションをとるための言語だと思っています.

英語はハードルであるのは確かなのですけれども,今の若い方は,そういう面では参加しやすいのではないかなと思います.

テレビの報道などを見ていると,いろいろなコミュニティ,気候変動に関するNGOとかで若い方々が,ものすごく活発に活動されているので,環境的には我々のころよりはハードルは下がっているのではないかなと思うので,ぜひ世代交代ができるようになればいいなと思いますね.

吉野:COVID-19の影響で,今,標準化の会議もほとんどオンラインになってしまっていて,時差があるので,大変は大変ですけれども,元々,大体の会議は電話会議でやられていて,年に1回か,2回,実際に集まって,集中的に議論するみたいな形が多かったので,影響はあまりないんでしょうか.

河合:いや,影響はあると思っています.どうネゴシエーションするかはオフラインがものすごく大切なのですね.

吉野:そうですね.はい.

河合:オフラインの会合では,コーヒーブレイクで話すとか,ご飯を一緒に行って話ができるのですけれども,今だとちょっとこれを相談したいというときに,お互いに時間を調整して会議を設定してみたいなことをしなくてはいけない. しかも,1対1になってしまう.オフラインで集まっていれば,必要に応じて声を掛けて3者,4者,3カ国,4カ国,集まって,話をすることがすぐできるのですけれども,そういうことができない.

上手く,フェイス・トゥ・フェイスとバーチャルが使い分けられるようになると本当はいいなと思います.

吉野:そうですね.

河合:国内でも同じですものね.学会でも,委員会が,全部オンラインになっている.

吉野:委員会のあと,ちょっと相談したいこととかあっても,いちいち時間をとって,オンラインで会議しましょうということにしないといけないので,そこまでしなくてもいいかなというトピックスは,どんどん捨てられてしまって(笑),何か新しい発展とか,新しいアイディアとか,そういうのがなんか生まれにくくなっているような感じもします.

河合:フェイス・トゥ・フェイスでお会いすると,顔を見て思い出すこともいろいろありますからね.

吉野:そうですよね.

河合:効率は確かに良くなっていますけれどもね.

以前だと,たとえば,午後2時から午後4時で会議が入ってしまうと,お昼を食べて移動して2時から会議して4時に終わって,もう直帰しようという感じだったのが,オンラインだと1時〜3時と3時〜5時と2つ会議が入りますからね.

吉野:そうですね.

大体,お伺いしようと思った話はカバーできたかなと思っています.

本日は,お忙しいところありがとうございました.

河合:ありがとうございました.

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