会誌「情報処理」Vol.63 No.5(May 2022)「デジタルプラクティスコーナー」

物流現場の労働力不足の解消とテレワークの実現
~意思決定を支援するロジスティクス・コックピットの構築~

吉田健晃1

1(株)セイノー情報サービスBRAIS推進室 

物流業は,労働力不足の解消と新型コロナの拡大によるテレワーク対応のために以下の2つの課題を解決する必要がある.1つ目は,現場作業の生産性向上である.2つ目は,遠隔から現場の状況を確認できる労働環境の整備である.これら2つの課題を解決する仕組みとして,「ロジスティクス・コックピット」を構築した.本稿では,ロジスティクス・コックピットの構築に向けた取り組みとその導入効果について述べる.

※本稿はIBM Community Japanナレッジモール論文 推薦論文です.
※本稿の著作権は著者に帰属します.

1.本取り組みの概要

(株)セイノー情報サービス(以下,当社)は,大手物流企業であるセイノーホールディングス(株)を持ち株会社とするセイノーグループの1社である.当社は,物流分野に特化した情報システムを企画,設計,開発し,これを主にクラウドにより提供している.当社の顧客は,セイノーグループの事業会社および300を超える一般企業である.一般企業の顧客には,主に物流業,卸売業,小売業および製造業がある.筆者は,当社のBRAIS推進室に所属し,ロボット技術,AIによる意思決定支援・近未来予測を軸に,顧客の物流業務のイノベーションに挑戦している.

本稿は,物流倉庫が抱える2つの課題の解決を目指した取り組みの成果である.1つ目の課題は,物流倉庫の深刻な労働力不足の解消である.2019年には運輸・倉庫業のうち68.5%が労働力不足であると回答した調査結果がある[1].2つ目の課題は,遠隔地から業務が可能な労働環境の整備である.2019年に発生した新型コロナの影響により,密接・密集・密閉(以下,3密)を回避した労働環境が必要とされている.2020年の物流企業への調査では,調査対象の半数以上の企業が事務系従業員のテレワークや遠隔業務が可能な労働環境が必要と回答している[2].

筆者は,人手不足と事務系従業員のテレワーク対応には物流倉庫の生産性向上と,遠隔から物流現場の状況を確認できる環境が必要であると考えた.物流は包装,輸送,保管,荷役,流通加工および情報の6つの機能から成り立つ.物流倉庫の管理者は,物流倉庫システムから管理に必要となる情報を抽出し,作業状況を確認,担当者への指示,その状況の監視を行っている.このように,管理者だけが物流倉庫の情報を把握する状態では,管理者なしでは業務が回らなくなり業務品質低下の恐れがある.

そこで,物流情報の可視化と情報統合の1つの在り方として「ロジスティクス・コックピット」[6]を構想した.ロジスティクス・コックピット(以下,ロジ・コックピット)とは,物流倉庫の管理者が物流現場に影響する変化を素早く検知し,迅速かつ確実な対応を支援する仕組みである.具体的には,在庫管理システム,人時生産性管理システムおよびWebカメラなどの複数のシステムが連携し,収集したデータを可視化する.物流倉庫の管理者は,ロジ・コックピットから物流現場にある2つの情報を視覚的に捉えることができる.1つは作業進捗情報である.もう1つは作業指示に対する状況情報である.

ロジ・コックピットから得られた情報に基づいて意思決定する手法として,OODAループを取り入れた.OODAループは,米国のジョン・ボイド氏が発明した意思決定手法である.OODAループはObserve(観察),Orient(方向付け),Decide(決める),Act(動く)の4つのプロセスから構成される.本取り組みにおけるOODAループの目的は,刻々と変化する物流現場の状況に対して迅速かつ確実に対応することにある.物流倉庫の管理者は,これら4つのプロセスを繰り返し実行することで,上位者の決定を待つことなく絶えず行動を微修正しながら活動でき,急激な環境変化にも柔軟に対応できるようになる.

本稿では,まず,本取り組みで取り上げる物流倉庫の課題を述べた上で,ロジ・コックピットを提唱する.次に,ロジ・コックピット構築に必要な技術を選定する.最後に,本取り組みで実現した内容とその成果および今後の展開を取りまとめた.

2.物流倉庫が抱える課題

2.1 本取り組みで取り上げる2つの課題

本章では物流倉庫を対象にした作業生産性向上とテレワーク推進の視点から,物流倉庫が抱える課題を2つ取り上げる.

  • ① 物流倉庫における労働力不足の解消
  • ② コロナ禍により変化を余儀なくされる物流倉庫の管理者など事務系従業員の労働環境の整備

2.2 物流倉庫における労働力不足

国立社会保障・労働研究所の人口統計調査(2021年度版)[3]によれば,日本の労働人口は減少し続け,2017年は約6,700万人であったのに対して,2040年には6,200万人以下に減少すると予測されている(図1).

年齢別労働人口の将来推計
図1 年齢別労働人口の将来推計

物流業界に至っては,すでに労働力不足は深刻なものとなっている.図2は,帝国データバンクが2019年に実施した「人手不足に対する企業の動向調査」の結果である.本調査は,全産業および運輸・倉庫業の2つがある.「従業員が不足している」と回答した企業の割合は,全産業で50.3%,運輸・倉庫業で68.5%であった.このように,労働力不足は運輸・倉庫業で顕著であり,急ぎ生産性向上に向けた取り組みが必要と言える.

従業員が不足している企業の割合
図2 従業員が不足している企業の割合

2.3 コロナ禍に対応するテレワーク環境の整備

新型コロナウイルス感染症の拡大(以下,コロナ禍)は,産業と暮らしを問わずこれまでの行動および生活の様式を一変させた.具体的には,3密を回避する日常生活に変化し,都市封鎖による移動の制限が行われた.ビジネスにおける働き方は,テレワークや時差出勤の普及,会議のオンライン化,出張の禁止など大きく変化した.

日本物流団体連合会は,2020年9月にコロナ禍による物流業界への影響について調査している.これによれば,物流企業の事務系業務へのコロナ禍対策として9割以上の企業が出張の制限,テレワークや在宅勤務を導入している.また,半数以上の物流企業は今後のウィズコロナ,アフターコロナ下では「非接触型,少人化,自動化など物流システムの見直し」「事務系従業員の出勤体制やテレワークの見直し」が必要であると回答している(図3).

ウィズコロナ,アフターコロナ下の物流業経営に必要な対応
図3 ウィズコロナ,アフターコロナ下の物流業経営に必要な対応

物流倉庫従事者の職種は,管理者,現場作業者および事務職員の3つに大別できる.このうち,テレワークの対象は管理者と事務職員である.しかし,テレワークは,現場の監視,管理が十分に行き届かないという問題を生む.物流倉庫は,管理者により監視,管理されている.具体的には,管理者が物流倉庫で利用されている在庫管理システムから入荷や出荷の情報を抽出し,進捗状況を確認している.進捗に問題があれば,担当者へ電話や口頭での指示を行い,指示に対する状況を監視している.

物流倉庫で管理者のテレワークを実現するには,現場の状況の確認が現場でしかできないこと,問題が発生した際の指示状況の管理を行う手段がないといった問題を解決する必要がある.

3.ロジ・コックピットの構想と実現

3.1 ロジ・コックピットの構想

第2章では物流倉庫の課題を述べた.筆者は,物流倉庫の生産性向上とテレワーク対応を解決する方法は,物流倉庫内で管理される物流情報の可視化と情報統合を実現すること,そして遠隔地からでも監視できる環境を構築することにあると考えた.可視化とは,データを「見える」「計れる」状態にすることをいう.可視化は,データを見る側にとってその立場を問わず誰でも物流倉庫の状態の良し悪しの判断ができ,人に依存しないといったメリットがある.情報統合とは,複数のシステムからデータを集約することをいう.物流では,倉庫で取り扱う商品の情報を管理する輸配送システム,在庫管理システムおよび場作業員の作業生産性を管理する人時生産性管理システムといった複数のシステムが利用されている.

倉庫の管理者は,これらのシステムを利用することで,商品がいつ,どこから,いくつ到着するか,入荷,出荷作業の進捗はどうなっているか,作業員はどれくらいの生産性で作業でき,いつ完了できそうかを管理できる.

これまで取り上げた「生産性向上」と「テレワーク対応」の2つの課題は,いずれも「時間」に関する課題である.生産性向上のためには,迅速な現状把握が必要であり,テレワーク対応のためには,倉庫現場にいるのと同じ情報をリアルタイムに取得する必要がある.これらの必要を満たすロジ・コックピットの性能要件は,リアルタイム性および正確性といえる.この2つの性能要件を実現するためには,単に情報を集約するだけではなく,送信するためのIoT機器,通信技術およびセンサといった先端技術の進歩が不可欠である.ロジ・コックピットは,近年,目まぐるしく進歩した先端技術の活用により実現できるようになった.

可視化と情報統合の考えは,物流倉庫の生産性向上とテレワーク対応といった課題への対応だけではなく,ロジスティクス全体の最適化にも適応できる.

JILS(日本ロジスティクスシステム協会)が2020年に発表した「ロジスティクス・コンセプト2030~デジタルコネクトで目指す次の産業と社会~」[4]では,ロジスティクスが2030年に目指すビジョンが記されている.そのビジョンとは,オープンなデータ共有プラットフォームを基盤としたロジスティクスを全体最適する仕組みが形成されていることと記されている.ロジスティクスとは,JILSの定義として「物流の諸機能を高度化し,調達,生産,販売,回収などの分野を統合して,需要と供給の適正化をはかるとともに顧客満足を向上させ,あわせて環境保全および安全対策をはじめ社会的課題への対応をめざす戦略的な経営管理」とされている.

ロジ・コックピットは,ロジスティクス全体の最適化のため,生産,調達,物流,販売間の需要と供給の差を可視化し,調整を支援する.

3.2 ロジ・コックピットを構成する可視化機能とコミュニケーション機能

ロジ・コックピットは,大きく2つの機能により構成される.1つは,「物流可視化モニタ機能」である.もう1つは,「コミュニケーション機能」である.

物流可視化モニタ機能は,商品の輸送に関係する輸送情報,物流倉庫内で管理している入出荷進捗,在庫情報などのデータを一元的に集約し,可視化する.

一方,コミュニケーション機能は,情報共有,作業指示および作業進捗を管理する.たとえば,倉庫の管理者は,業務上発生する依頼やトラブルへの対応指示をコミュニケーションツールで実施し,課題の発生状況や進捗状況を把握できる.

物流可視化モニタは,4つの機能に分かれている(図4).具体的には,物流業務進捗モニタ,物流ロボット稼働状況モニタ,物流コスト・KPIモニタおよび現場カメラモニタである.物流業務進捗モニタは物流倉庫で行われている入荷,出荷,作業進捗を可視化する.物流ロボット稼働状況モニタは,物流現場で稼働しているAGVといった物流ロボットの稼働状況を可視化する.物流コスト・KPIモニタは,物流,製造におけるコストおよび収支を可視化する.現場カメラモニタは,物流現場に設置されたWebカメラの映像を表示する.

ロジ・コックピットの構成
図4 ロジ・コックピットの構成

3.3 ロジ・コックピットの導入によるOODAループマネジメントの実現

ロジ・コックピットは,OODAループでのObserve(観察)とOrient(方向付け)にあたる情報をリアルタイムに提供する(図5).たとえば,物流倉庫における出荷作業を取り上げる.出荷作業を担当する現場管理者は,在庫管理システムに登録された出荷指示数に対してどれだけ完了しているかの進捗を定期的に確認している.また,出荷作業完了予定時間までに完了する見込みがないと確認した場合は,作業要員を調整するなど,予定時間までに完了できるよう指示する.ロジ・コックピットは,在庫管理システムおよび人時生産性管理システムと連携し,出荷作業の進捗と完了見込み時刻を表示する.物流倉庫の管理者は,ロジ・コックピットから進捗状況と完了見込み時刻を確認し,作業の遅延を瞬時に把握できる.このように,ロジ・コックピットはOODAループマネジメントを実現し,物流現場は刻々と変化する状況に対応できるようになる.

OODAループの4つのプロセス
図5 OODAループの4つのプロセス

4.ロジ・コックピットの構築

4.1 プラットフォームの構成

ロジ・コックピットの構築にあたり,可視化モニタを複数配置し,現場管理者が状況を一望できるプラットフォームの構成を検討した.

候補としたプラットフォームは,(株)イントラマート社のintra-mart Accel Platform[8](以下,イントラマート)とElastic社のKibana[9]の2つである.構成の検討に際し,評価基準および評価項目を設定した.まず,評価基準は,機能性,セキュリティおよびコストの3つである.評価項目は,全部で11項目である.

これらの評価基準および評価項目により,2つのプラットフォームについて,3つの構成案を検討し,評価した.案1はイントラマートのみでデータの可視化や外部サービスとの連携を行う構成とし,案2はKibanaのみの構成とし,案3はイントラマートとKibanaを連携させる構成とした(図6).

3つのプラットフォームの構成案と評価結果
図6 3つのプラットフォームの構成案と評価結果[12]

2つのプラットフォームの機能性,セキュリティおよびコストは,以下のように評価できる.

イントラマートの評価
  • ① 機能性
      データの可視化の面で表現力に乏しい.
      Webカメラなどの外部サービスとの連携も可能で拡張性に優れている.
  • ② セキュリティ
      複数顧客,複数ユーザ利用において,ユーザごとの利用権限や画面設定が可能である.
  • ③ コスト
      当社での提供実績あり.
      複数顧客でライセンス共用できるため提供コストを減らせる.
Kibanaの評価
  • ① 機能性
      データの可視化の面で表現力に優れている.
      Webカメラを連携させることができず,外部のサービスとの連携に問題あり.
  • ② セキュリティ
      複数ユーザの管理ができない.
      同一環境上で顧客単位のデータの管理ができず,顧客ごとに環境を分ける必要がある.
  • ③ コスト
      顧客ごとに環境を分ける必要があるため,構築,管理にかかるコストが顧客数に応じて増加する.

2つのプラットフォームから検討した3つの構成案を評価した結果,機能面とセキュリティ面では案3が最も高評価となり,コスト面では案1が最も高評価となった.結果,評価基準の総合評価が最も高い案3をロジ・コックピットの構成として採用した(図6).

4.2 物流可視化モニタの構築

4.2.1 物流可視化モニタのシステム構成

物流可視化モニタ機能の可視化ツールとしてKibanaを利用する.Kibanaは,Elastic社から提供されているオープンソースソフトウェアである.Kibanaは,ログと時系列の分析,アプリケーションのモニタリングなどを代表的なユースケースとして,データの可視化および調査することに特化したツールである.Kibanaはヒストグラム,線グラフ,円グラフ,ヒートマップおよび地図といった可視化機能を提供している.

KibanaはElasticsearch[10]と緊密に統合されており,Kibanaで扱うデータはElasticsearchに保存されることがデフォルトの選択肢となる.ElasticsearchはElastic社から提供されている全文検索エンジンであり,高速で文書検索を行うのに優れているという特徴がある.Elasticsearchに保存されているデータへの参照,追加,削除および更新といったデータの操作は,APIで行う.Kibanaは,ElasticsearchにAPIでデータを参照し,可視化する.

Elasticsearchとのデータ連携はLogstash[11]を利用する.Logstashはデータを収集,加工し,格納先に取り込むことができるElastic社製のオープンソースのデータ処理パイプラインである.Logstashによるデータ処理は入力,変換,出力の3つの処理で構成されている.Logstashの入力処理ではアクセスするデータソースやデータ送信間隔を設定する.変換処理では,不要データの削除やカラムを追加する.出力処理では,指定した出力先にデータを出力する.

ロジ・コックピットにおいて,連携システムからElasticsearchへのデータ送信はLogstashで実施する.Logstashは,データの送信時にデータを加工できるため,データ送信機能を連携システムに追加するといったシステムの改修は不要で,データ連携を可能とする(図7).

可視化機能の構成
図7 可視化機能の構成
4.2.2 可視化モニタの作成方法

Kibanaでデータの可視化をする際には,「ダッシュボード」といわれる単位で画面を作成する.ダッシュボードはヒストグラム,棒グラフ,折れ線グラフ,円グラフといった可視化要素を複数配置して構築する.この可視化要素はビジュアライゼーションといわれ,Kibanaでの可視化画面の作成はこのビジュアライゼーションを作成していくことを指す.ビジュアライゼーションの作成には2つの方法がある.1つはKibanaに標準で用意されているものを利用する方法である.もう1つはVega言語でコードを書いて作成する方法である.ロジ・コックピットの物流可視化モニタは,Vega言語を使ったビジュアライゼーションで作成した.Kibana標準のビジュアライゼーションは,項目を設定するだけで可視化が可能という点で,作成が容易である.しかし,Elasticsearchに格納されたデータを加工して可視化する際に,平均や最大値などの決められた加工方法でしか可視化できないため,表現の自由度が低い.

一方,Vega言語で作成する場合は,Elasticsearchから取り出したデータの加工方法や可視化方法がKibana標準のビジュアライゼーション作成方法よりも多く用意されている.

4.3 複数の表示を一目で確認できる画面

Kibanaで作成したダッシュボードやWebカメラ画面はイントラマート上のポータルに組み込むことができる.ポータルは,ポートレットと呼ばれる画面要素を配置できる.ポートレットにはKibanaダッシュボードや,Webカメラ画面を設定できる.ポータル画面にポートレットを複数配置することで,複数のグラフおよびカメラ画面を同一画面上に配置することが可能である(図8).

イントラマートポータルでの複数画面表示
図8 イントラマートポータルでの複数画面表示

たとえば,物流拠点ごとの作業進捗を可視化するダッシュボードをKibanaで作成し,ポートレットに埋め込みポータルに配置することで複数拠点や複数工程の進捗状況が一目で確認できる.

イントラマートは,ユーザ管理の機能で,ユーザごとにポータルの画面設定ができる.また,ユーザごとにポートレットへのアクセス権限の設定も可能なため,役職に応じて,利用できるグラフの閲覧権限の設定が可能である.

4.4 BIZBOを使ったコミュニケーション

BIZBO[7]は,第3章で述べたロジ・コックピットの2つ目の機能であるコミュニケーション機能であるコミュニケーションツールである.BIZBOは当社製で,情報共有や作業依頼,依頼の進捗を管理するツールである(図9).BIZBOは可視化モニタ機能と同じイントラマート上にアプリケーションとしてすでに構築されており,同じプラットフォームを利用している.そのため,同じユーザで可視化モニタ機能とコミュニケーションツールを利用できるというメリットを持つ.可視化モニタで確認できた運用上の問題をチャットツールのBIZBOを利用して共有し,問題への対応依頼および進捗管理に繋ぐことができる.

コミュニケーションツール「BIZBO」の指示状況管理画面
図9 コミュニケーションツール「BIZBO」の指示状況管理画面

物流可視化モニタ機能とBIZBOを利用することで,管理者は状況確認から問題の発生から完了までの管理を一元化して行うことができ,作業漏れや作業遅れを防止できるため,業務の品質を向上させる.

5.物流業務進捗モニタの導入効果

5.1 物流業務進捗モニタの構築目標

本取り組みでは,物流業務進捗モニタを構築することで物流倉庫内の作業の可視化を実現した.物流業務進捗モニタは,物流倉庫で行われている入出荷工程を対象にその工程内での作業進捗を可視化する.物流倉庫の入荷工程では,仕入先ごとに入荷,保管棚への商品の格納といった作業をしている.出荷工程では,注文を受けてから商品の引当,出荷指示,商品のピッキング,梱包,出荷検品および積込検品といった作業をしている.物流倉庫の管理者はこの作業ごとに進捗を確認している.

本取り組みでは,物流業務進捗モニタ構築に際して以下の3点を目標に設定した.

  • ① 管理者の作業進捗確認と,情報伝達の手間の削減
  • ② 進捗モニタを作業員にも公開することで作業意識を向上させることによる生産性向上
  • ③ 生産性向上による作業時間の短縮

5.2 物流業務進捗モニタの導入効果

前節で述べた,物流業務進捗モニタの目標達成に向けて,倉庫業を営むA社を対象に導入し,その効果を確認した.A社は,当社ソリューションの1つである在庫管理システムを倉庫業務で利用している.ロジ・コックピットが在庫管理システムと連携することで,倉庫業務の進捗を可視化した.

可視化の対象とした作業は,倉庫業務における出荷工程内のピッキング作業と出荷検品作業の2つである.ピッキング作業とは,物流倉庫から出荷する商品を商品が保管されている場所から取り出す作業である.出荷検品作業とは,ピッキングされ,箱詰めされた商品をトラックなどで搬送する前に,商品が注文どおりの数詰められているかをチェックする作業である.

本取り組みではA社と定期的に打合せを行い,モニタの構築を進めた.モニタ画面の表示内容は,管理者が作業進捗を確認する際にチェックしている内容をもとにした.打合せの中で聞き取ったA社からの要望に応じて,表示の修正,現場での利用を繰り返し,約2カ月間を経て運用を開始した.

最終的に,物流業務進捗モニタは,配送を行う運送会社ごとに作業の未完了件数,完了件数,進捗率および完了見込み時刻を表示した(図10).この進捗モニタは,ピッキング作業,出荷検品作業を行っている現場にディスプレイを設置し,作業者も確認できるようにした.

物流業務進捗モニタ画面(A社)
図10 物流業務進捗モニタ画面(A社)

物流倉庫の管理者は,これまで,在庫管理システムにアクセスして進捗確認を1日に何度も行い,現場の作業者に状況を共有していた.ロジ・コックピットは,リアルタイムに進捗を表示することで,管理者の状況確認の手間を軽減した.

作業員は,これまで進捗状況を管理者から共有されていたが,現場に進捗が表示されている事によって作業の状況を意識するようになった.また,管理者からの指示内容にも理解が生まれ,スムーズに指示が伝わるようになり,意思疎通に要していた時間が削減した.

管理者が作業員から「サポートに行く必要はないか」との自主提案を受けるようになるという改善結果も得られた.

6.本取り組みのまとめと「Society5.0時代の物流」との関係

6.1 倉庫現場の生産性向上とテレワークの実現

本取り組みでは,ロジ・コックピットを構築し,物流倉庫業を経営する企業を対象に,出荷工程のピッキングと出荷検品の2つの作業進捗を可視化した.物流倉庫の管理者は,以下の2つの能力を高めることができる.

  • ① ロジ・コックピットから提供されるリアルタイムな現場の状況から,作業の遅れを素早く検知する.そして,要員調整や作業指示を行うことで作業効率を向上させ,現場の作業生産性を向上させることができる.
  • ② 現場の状況を観察,問題解決のために行動することでOODAループマネジメントを実現する.OODAループマネジメントが実現することで,物流現場は変化に迅速に対応できるようになる.

加えて,物流倉庫の管理者は,遠隔地からでも利用できるロジ・コックピットの持つ「可視化モニタ」と「コミュニケーション」の2つを利用することで,現場の状況把握と作業指示が可能になる.ロジ・コックピットはコロナ禍における物流倉庫の管理者の在宅勤務,テレワーク推進に貢献する.

6.2 Society 5.0時代のつながる物流の実現

ロジ・コックピットは物流業界のSociety 5.0[5]の実現に貢献する.Society 5.0とは「内閣府の第5期科学技術基本計画において,我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱されたもの」である.これは,IoT(Internet of Things),ロボット,人工知能(AI),およびビッグデータといった新たな技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れてイノベーションを創出し,一人ひとりのニーズに合わせる形で社会的課題を解決する新たな社会を目指すことであると提唱しているものである.

日本経団連は2018年に「Society 5.0時代の物流」を提言し,2030年に向けた物流の変革として5つの物流を順次目指すとしている.その5つとは,つながる物流,人手を解放する物流,創造する物流,共同する物流および社会に貢献する物流である(図11).

日本経団連の提言「Siciety5.0時代の物流」
図11 日本経団連の提言「Siciety 5.0時代の物流」

ロジ・コックピットは,5つの物流の中でつながる物流の実現に貢献する.つながる物流では,「IoT技術による物流の可視化,リアルタイムでの情報共有によるサプライチェーン全体の調整,最適化」がうたわれている.ロジ・コックピットはWebカメラなどのIoT製品との連携や,ロジスティクスで利用されるシステムと連携し,状況を可視化する.ロジスティクスの管理者は,ロジ・コックピットから得られた情報をもとに調整を行い,ロジスティクスを最適化する.

7.今後の展開

7.1 今後の取り組み方針

ロジ・コックピットの今後を展望する.物流現場だけではなく,倉庫業務および輸配送業務の運営や物流業の経営へのロジ・コックピットの利用拡大がある.倉庫および輸配送の運営者や物流業の経営者は,運営や経営にかかわる情報を視覚的に得ることで,迅速な判断を行い,変化に対応する.ロジ・コックピットは物流の運営や経営においてOODAループマネジメントを実現する(図12).

物流の運営や経営へのロジ・コックピットの展開とOODAループマネジメントの実現
図12 物流の運営や経営へのロジ・コックピットの展開とOODAループマネジメントの実現

7.2 物流KPIによる運営・経営への利用拡大

ロジ・コックピットを物流倉庫業務および輸配送業務の運営や物流業の経営で利用するために,物流KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を取り入れる.物流KPIとは,物流の「コスト・生産性」,「品質・サービス」および「物流・配送条件」の3点に関して,適切な管理がなされているかを判断するための指標である.

これまで物流業の運営者や経営者は,物流KPIで自社の物流を評価するために,各物流システムからデータを抽出し,データの加工,集計および分析をしてきた.ロジ・コックピットは,物流KPIによる評価に必要なデータを集約し,加工から可視化までを担うことでデータの抽出,加工,集計および分析の手間を削減する.物流業の運営者や経営者は,ロジ・コックピットがリアルタイムに可視化した物流KPI分析結果をもとに物流現場の業務改善に注力することができる.このため,素早い意思決定を実現し,変化に対応できるようになる.

そして,物流の運営者や経営者は,ロジ・コックピットに物流KPIが取り入れられることで,遠隔から物流拠点の経営状況を把握することもできる.

参考文献
  • 1)帝国データバンク:人手不足に対する企業の動向調査 (2019).
  • 2)(一社)日本物流団体連合会:物流企業における新型コロナウイルス感染症への対応動向調査報告書 (2021).
  • 3)国立社会保障・労働研究所:2021年度版人口統計調査 (2020).
  • 4)日本ロジスティクスシステム協会:ロジスティクス・コンセプト2030~デジタルコネクトで目指す次の産業と社会~ (2020).
  • 5)(一社)日本経済団体連合会:Society 5.0時代の物流―先端技術による変革とさらなる国際化への挑戦―概要 (2018).
  • 6)(株)セイノー情報サービス:物流現場の可視化LOGISTICS・COCKPIT,https://www.siscloud.jp/logistics-it-cloud/solution/logisticscockpit/ (2021/11/18 アクセス)
  • 7)(株)セイノー情報サービス:コミュニケーション型タスク管理BIZBO,https://www.siscloud.jp/logistics-it-cloud/solution/bizbo/ (2021/11/18 アクセス)
  • 8)(株)エヌ・ティ・ティ・データ・イントラマート:システム共通基盤intra-mart Accel Platform,https://www.intra-mart.jp/products/iap.html (2021/11/18 アクセス)
  • 9)elastic社:Kibana,https://www.elastic.co/jp/kibana/ (2021/11/18 アクセス)
  • 10)elastic社:Elasticsearch,https://www.elastic.co/jp/elasticsearch/ (2021/11/18 アクセス)
  • 11)elastic社:Logstash,https://www.elastic.co/jp/logstash/ (2021/11/18 アクセス)
  • 12)PostgreSQL Global Development Group : PostgreSQL, https://www.postgresql.org/ (2021/11/18 アクセス)
吉田健晃(非会員)yoshida.takeaki@siscloud.jp

2018年,金沢大学理工学域卒,同年(株)セイノー情報サービス入社.BRAIS推進室に所属し,ロボット技術,AIによる意思決定支援・近未来予測を軸に,顧客の物流業務のイノベーションサポートに従事.

受付日:2021年11月29日
採録日:2021年11月29日
編集担当:斎藤彰宏(日本アイ・ビー・エム(株))

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