新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響を受け,感染防止のため世界の多くの教育機関がオンライン授業を実施している.慶應義塾大学でも2020年4月7日に緊急事態宣言が発出されたことを受け,インターネットを介したオンライン授業・研究活動を原則とする方針が発表された.キャンパスへの立ち入り禁止が発表され,すべての授業がWebex [1]やZoom [2]等のオンラインコミュニケーションツールを使用して遠隔化された.多くの座学講義とは性格の異なる体育の授業もこの例外ではなく,オンラインでの授業の実施が決定された.
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(Shonan Fujisawa Campus:以下SFC)のカリキュラムでは,1年生全員が必修で受講する「体育1」が開設されている.多様な身体運動体験や活発な対人コミュニケーション,基礎的な身体教養の獲得などを通じて,身体運動・スポーツとの新たな関わり方に気づくことを目指す体育1のオンライン授業化を受けて,我々はオンライン体育授業サポートシステム「SFC GO」(SFC Going-well Online)を実装した.SFC GOでは,教員から出題される課題ごとの内容によってセッション形式の運動の記録ができ,学生が提出した投稿はクラス単位のタイムラインに掲載され,お互いの運動記録を閲覧・コメントすることができる.さらに,家事など日常生活中の運動がスマートフォンに内蔵されているセンサによって記録され,学生は後からデータを振り返ることができる.ほかにもアプリケーションの利用に応じてたまる独自のポイントや,累計歩数などでクラスメートと交流できる機能が搭載されている.
我々は実際に体育1を受講する1年生839人に対して,学生自身が保有するスマートフォンにSFC GOをインストールし,2020年春学期(5月から7月)のオンライン体育授業で使用した.本稿では,本実施から得られた経験やそこから導かれる知見を述べ,今後のより良いオンライン体育授業への寄与につなげる.
COVID-19感染状況下以前においても,モバイルテクノロジーを使用したオンライン教育システムについての研究は多くなされてきた[3], [4].限られた教室スペース・大学への交通手段・授業費用などの様々な障壁を取り払い,自分に最も合致したコースを受講することが可能になるオンライン教育システムは,学生が大学から高等教育を柔軟に享受するための次世代の教育システムであると言われている[5].
また,本実施では体育の授業のサポートとしてスマートフォンに内蔵されているセンサ情報に注目し,運動情報の記録・振り返りを行った.スマートフォンのセンサに注目したモバイルセンシングプラットフォームを大規模に活用した研究はいくつか存在する.たとえば,Dartmouth大学のStudentLifeというアプリケーションを使用した10週間にわたる48人の学生の実験では,スマートフォンから収集されるセンサ情報と自己回答データによってストレス,睡眠,活動,気分,社交性,メンタルウェルビーイングおよびアカデミックパフォーマンスに対するワークロードへの評価が行われた[6].また,18000人のユーザから約3年の年月にわたりスマートフォンの物理センサとソフトウェアセンサで収集したデータから,ユーザのルーチンの識別やルーチンとユーザの心理的変数との相関を調査し,ユーザの気分の推定を行った研究も存在する[7].
SFCでは原則として1年生全員が必修科目として体育1を履修し,各学生はあらかじめ割り振られた約30名規模のクラスにおいて受講する.SFCにおいては,多くの授業科目では履修に際する学生の年次制限が設定されていない.学年の進級に応じて基礎科目から専門科目へと履修が許可されている体系ではなく,ほぼすべての科目がすべての学生に許可されている.このため学生は,学年に関わらず自分自身の学習・研究に必要な科目を必要なときに履修できる.こういったカリキュラムの中で「体育1」は,クラス単位で履修する数少ない授業科目であり,また対象が入学直後の1年生1学期目であることも重なり,1年生が同学年の友達関係を築く貴重な場として機能している.
しかし,2020年の新型コロナウイルス感染拡大の影響により,2020年度春学期はすべての授業がオンライン開催と決定されたことを受け,体育1の授業もインターネットを介したオンライン授業の形態をとった.オンライン授業では,大学キャンパスへ通学することなく自分の生活リズムに合わせて授業を受けることができ,チャットを利用することで気軽に質問ができるなどの長所がある.一方,自身が保有するインフラ環境に依存してしまう点や学生の状況把握が難しい点などの短所も存在する.さらに,現在主流のツールを使ったオンライン授業では,学生間でもお互いに顔が見えない場合が多く,学生教員間だけでなく学生間でのコミュニケーションも不足してしまう傾向がある.特に当該科目の履修者である1年生は,入学後一度もキャンパスに物理的に登校することができず,同級生との友人関係を構築できない不安を抱えているというケースが多くみられる.そこで我々は,オンラインでの体育授業の実施において,クラス内のコミュニケーションを支援できないか検討した.
キャンパスにて(オフラインで)行われる平時の通常の体育授業においては,履修者はクラスごとに,決められた授業時間に教室または体育施設に集合する.運動体験やスポーツを通じて同期的な学生間コミュニケーションが発生する.オンライン体育授業においても,画面越しに身体運動・スポーツについての講義を行うが,同期的学生間でのコミュニケーションはオフライン授業と比較すると薄れてしまうことが予想される.そこで我々は「非同期的」なコミュニケーションにも注目し,ソーシャルネットワーク構造をもつシステムを導入することで授業時間外においても非同期的なコミュニケーションの誘発が行えないかを検討した.
新型コロナウイルス感染拡大の影響により自宅待機が社会的に要請され,在宅勤務が増加した状況では,会社員の1日あたりの歩数は平常時の平均11500歩から29%減少し,座位姿勢の長さも有意に増加したことが明らかとなっている[8].そこで我々は,学生の授業時間以外の日常的な生活における様々な運動(ジョギングといった明示的な運動行動だけでなく家事なども含む)に対しても意識を向けることが重要であると考え,情報システムを活用することで学生に負担なく記録・振り返りができないかについても検討した.
これまでに述べた背景から以下のような要件がオンライン体育授業をサポートするシステムに求められる.
SFC GOは新型コロナウイルス感染拡大の影響によりオンライン授業となった体育1をサポートするシステムである.SFC GOの概要図を図1に示す.
前章で説明したシステム要件を満たすためのアプローチを説明する.
現在,95%もの人々がスマートフォンを所持しており,女子高校生は平均で1日に6.1時間も使用しているという調査結果[9]がある.我々はスマートフォン上で様々な情報を収集し,ゲームアプリなどで娯楽を楽しみ,メッセージやSNSで人間関係を築いており,日常的に馴染みが深い存在となっている.そこで我々はSFC GOをモバイルアプリケーションとして開発した.学生が普段使い慣れているスマートフォンにアプリケーションをインストールすることで,特別なセンサやデバイスに依存せず導入できる.
今回のオンライン体育授業では,ほとんどの学生がスマートフォンを所有していると仮定し,学生自身のスマートフォンにアプリケーションをインストールした.スマートフォンを所有していない学生がいた場合はスマートフォンを貸し出すことを予定していた.
ユーザの携帯端末より収集したセンサデータを用いて,人の行動や感情状態を理解するモバイルセンシングは,情報科学だけでなく社会科学や公衆衛生など様々な分野で利用されており,モバイルセンシングを容易に実現するツールは多数提案されている.そこで,SFC GOではモバイルセンシング技術を活用し,様々な種類のスマートフォンセンサから学生の運動情報を記録することにした.また,記録したセンサ情報を表示することで,自分自身の運動記録を振り返ることも可能にした.そして,センサをバックグラウンドで動作させることで,意識的な運動だけでなく普段の生活のなかでの運動情報を記録することも可能にした.
SFC GOは非同期コミュニケーションの誘発を目的にソーシャルネットワーク機能を備える.クラス内に閉じたタイムラインが存在し,自分の運動記録の投稿が可能である.また,クラスメートから投稿された運動記録の閲覧やコメントも可能であり,クラスメート内の交流が期待される.そして,SFC GOシステムの使用を通じて蓄積するポイント制度や累計歩数などでクラスメートと交流することもできる.
図2は,SFC GOの画面構成と遷移を表している.本章では,この図を用い,本システムの設計および使用方法を説明する.
オンライン体育授業では多様な身体運動体験の提供を目的に,体育教員は受け持つクラスの学生に対してSFC GOを通じた課題の出題が可能となっている.学生は教員が指定した運動(たとえば,ラジオ体操や腹筋運動など)をセッション形式に記録し,提出する.図2の(4)の課題選択画面は課題一覧画面を示しており,スクロールすると教員から自分に出題された課題一覧が閲覧できる.課題の説明欄には課題に取り組む際の注意事項やスマートフォンの所持位置などが書き記されている.
学生は投稿ボタンを押すことで,図2の(7)のセッション運動計測画面に進み,セッション運動の記録を開始する.セッション運動の記録中には課題を始めてからの時間経過とリアルタイムで計測している加速度の値が表示される.加速度センサ以外の表示はないものの,セッション運動中に計測しているセンサは他にもあり,表1に示す.これらのセンサはAWARE Framework [10], [11]というモバイルセンシングプラットフォームを利用している.収集センサデータのうち位置情報はセッション運動完了後に統計データを計算するために一時的にメモリ内に取得するもので,緯度経度を保存することやサーバにアップロードするものではない.
課題を達成でき終了ボタンを押すと,図2の(8)の計測データ・投稿内容確認画面に進む.ここでは,課題への評価としてセッション運動中の運動強度(6~16)を答えてもらい,キャプションとして課題へのコメントを書ける.そして,任意でスマートフォンの2つのカメラをほぼ同時に撮影することができる「両面写真撮影」機能[12]を使うことで,背面カメラではセッション運動状況の写真を撮影でき,フロントカメラでは自分自身の自撮り画像を撮影できる.また,課題中に計測されたセンサデータの統計データを確認できる.
セッション運動の投稿後にはタイムラインに自分の投稿したセッション運動記録が図2の(3)のタイムライン画面に表示される.背面カメラで撮影されたセッション運動状況の写真にセッション運動中の統計データを上書きした画像が表示され,画像をタップすると投稿者の自撮り写真や詳細な統計データを閲覧できる.タイムラインには自分の投稿以外にもクラスメートの投稿が並んで表示されている.クラスメートの投稿にコメントをすることができ,非同期的なコミュニケーションを誘発する狙いがある.
SFCで実施するオンライン体育授業では,課題のセッション運動に加え,掃除やゴミ出し,買い物などの授業時間外の日常生活中における無意識の運動も体育の一要素として注目した.そこでSFC GOでは,スマートフォンの携帯性を生かして日常生活中の運動データを自動収集し,学生にフィードバックを行った.日常生活データの収集には,モバイルセンシングフレームワークの1つであるAWARE Framework [10], [11]を用いて,歩数と行動の種類(歩行・ランニング・自転車・自動車・静止・不明の6種類)を24時間自動計測した.図3に示すように,AWARE FrameworkがSFC GOのバックエンドとして動作し,各プラットフォーム(iOSまたはAndroid)が提供するAPIから各種データを継続的に一分ごとに収集する.収集データは一旦,スマートフォン内のデータベース(SQLite)に保存され,1時間周期でサーバにアップロードされる.ただし,ユーザのスマートフォンデータ消費量を考慮し,スマートフォンが充電されておりWi-Fiに接続されている状況のときのみアップロードが開始される.
SFC GOユーザは,図2の(5)のデータ確認・書き出し画面から日常生活データを振り返れる.データの可視化はGoogle Data Studioを用いて行い,学生個人と学生全体の活動量を確認できる.収集した歩数と行動種類データは,「データを書き出す」ボタンからTSV形式で書き出せる.書き出しデータには一分ごとのデータが保存されており,時間帯や曜日,週ごとの分析など,客観データに基づいた個人単位での分析を実施できる.
SFC GOでは使用することで蓄積するポイント機能が備わっている.現在の設定では,初回時のみのログインで100ポイント・課題を投稿すると100ポイント・クラスメートの投稿にコメントすると50ポイント獲得できる.自分のポイント数はSFC GO内で確認ができ,利用ユーザの中での自分のランキング順位が表示される.また,自分のポイント数に近いユーザ50人も表示される.
SFC GOのクライアントサイドの実装では,Google Flutterフレームワーク[13]を用いることでクロスプラットフォーム対応し,iOSとAndroidの双方で使用できるようにした.また,セッション運動や日常生活をセンシングする際のスマートフォンに内蔵されたセンサ情報を取得する際にはモバイルセンシングフレームワークであるAWARE Framework [10]を使用した.
SFC GOのサーバサイドでは,1ヶ月弱という短期間での構築と体育1受講生839人の使用に耐えうるロバスト性が求められたため,Amazon Web Service(AWS)を利用し構築した.HTTPSトラフィックの負荷分散のためのロードバランサーにElastic Load Balancing(ELB)を使用し,アプリケーションサーバにはAmazon ECSを使用した.データを蓄積するデータベースにはAmazon RDSを使用した.サーバはセッション運動や日常生活運動などのセンサ情報を蓄積するサーバとユーザ情報や課題情報などのSFC GOの基本的な情報を蓄積するサーバの二種類に分かれている.それぞれに対して,Amazon ECSとAmazon RDSを用意した.そして,今まで説明したインフラ構築を自動化・一括制御するツールであるTerraform [14]を使用し,ユーザの使用状況により容易にインフラ環境の調節が可能となっている.
2020年4月中旬にSFC GOの導入が決定され,情報教員と体育教員による議論を通じてSFC GOの仕様を決定し,1ヶ月弱でアプリケーションの実装やインフラの構築を完了した.また,人を対象とする研究上の実験・調査における生命倫理,プライバシー保護,人権保護等の倫理審査について,慶應義塾大学SFC実験・調査倫理委員会から承認を受けた.
アプリケーションをインストールした学生は,体育1を履修した839名のうち,816名であった.そのほかに体育教員18名,体育科目SA(Student Assistant:学部生による授業補助員)やTA(Teaching Assistant:大学院生による授業補助員)合計27名,体育およびITスタッフ22名にインストールした.体育1は基本的にSFC1年生の必修科目であり,26のクラスが編成され,クラスごとに授業が行われている.クラスごとに1名の体育教員が指導にあたり,そのサポートとして体育SA/TAが1人もしくは2人配置される.また,本実施では履修学生全員がスマートフォンを所持していたため,スマートフォンの貸し出し等は行われなかった.
SFC GOの導入や使用における不具合発生や質問等がある場合に備えて,サポート体制を構築した.情報系研究室に所属する複数の学部上級生や大学院生から構成される専用のサポートチームを構成し,平日昼間,Zoomオンラインカンファレンス上でのサポート窓口(月曜~金曜,全11時限分)を用意した.サポートに連絡を取りたい学生は,同窓口の営業時間中に指定のZoom会議用URLをクリックして開くことで,待機するサポートスタッフに連絡することができる.
2020年6月(5月上旬から通常より遅れて開始された春学期授業の6週目)の導入から7月末までの7回分の授業をSFC GOを活用しオンライン体育授業を進めた.
導入にあたっては,開発チームがシステムのオンラインマニュアル(Googleスライドを利用)を作成し,関係教員,SA/TA,スタッフ内で共有のうえ説明会を開催し,授業関係者全体でSFC GOについての理解を深めた.
その後2020年6月からのオンライン体育において,各クラスを受け持つ体育教員から学生に対してSFC GOを説明し,学生に実験参加同意書に同意してもらったうえで利用を求めた.上記オンラインマニュアルは学生に対しても公開され,学生は各自SFC GOについての理解を深めた.SFC GOのインストールは,マニュアル上の記載に従って学生それぞれが,学生自身の常用するスマートフォンに対して行った.時間的制約から,プラットフォームのアプリケーションストア(App StoreやGoogle Play)へアプリケーションを公開することは難しいため,iOS上ではTestFlightの仕組みを使ったテスト版としてのインストール,およびAndroid上ではアプリケーションAPKファイルを直接指定のURLからダウンロード・インストールしてもらう形態を採用した.
SFC GOアプリケーションをインストールする際,最初に上記の実験参加への同意書の内容を含む利用規約が表示される.ユーザはそれぞれ同規約に合意することで本アプリケーションの利用を開始する.SFC GOには,ユーザ認証が導入されている.ユーザ認証は学籍番号およびパスワードで行う設計とした.ユーザ情報はあらかじめサービス運営側で全ユーザ分作成し,ユーザ各自に認証情報を個別に連絡することで,ユーザサポートコストの最小化を目指した.ユーザはアプリケーション起動後に同認証情報を使ってログインすることで,SFC GOの全機能を使用しはじめる.
最終授業終了後,履修学生に対してオンライン上でアンケート調査を実施した.アンケートは合計で6問から構成されており,Q1–4については5段階で回答を求め,Q5–Q6については自由記述での回答を求めた.表2ではQ1–Q4でのアンケート項目を示す.自由記述での回答を求めたアンケート項目について,Q5では「SFC GOについて,良かった点はなんでしょうか?」,Q6では「SFC GOを使ってみて,今後改善が必要だなと感じた点について教えてください」という質問内容で構成されている.
今回の実施では,学生によるSFC GOの使用頻度・使用法によって「体育1」の成績評価に影響しない.学生に対しては,今回の実施への参加は任意であり拒否した場合においても成績に影響をしない点を説明し,実験参加に同意を求めた.オンライン体育授業内におけるSFC GOの使用方法は各体育教員に任せられており,学生に対するセッション運動の課題数もクラスごとに異なる.
本章では,本実施で得られた結果について述べ,考察を次章で述べる.なお,アプリケーションをインストールした816名(履修学生は839名)のうち,収集されたデータの研究利用に同意を得られなかった学生が69名いた.そのため,本稿で使用する学生のデータは747名分である.
実施期間中に体育教員からのセッション運動の課題が合計99回出題され,それらに対する学生からの投稿数が合計1927回だった.セッション運動を実施中に一度でも投稿した学生は全体の747名のうち648名であった.
体育教員から実際に出題された課題には,「ラジオ体操第一をやってみよう」,「ウォーキングを20分しよう」,「腹筋を20回やってみよう」や「ボクシングパンチ左右15回やってみよう」などクラスごとに様々であった.
次にセッション運動時間については,収集された運動時間は平均1516.3秒(中央値:164秒,標準偏差:5334.1)であった.なお,1日(85400秒)を超えるセッション運動が5件あり,投稿終了ボタンを押し忘れの可能性も考え,1日を超えるセッション運動は外れ値として除外した.2時間(7200秒)を超えるセッション運動は65件投稿された.
投稿タイミングについては,セッション運動の曜日ごとの投稿数を図4で示し,時刻ごとの投稿数を図5で示す.最も多く投稿された曜日は木曜日で467件であった.休日である土曜日と日曜日にもそれぞれ200件に迫る投稿数(土曜日:178件,日曜日:190件)があり,授業がない日であってもSFC GOを使用し運動が行われていることを示している.また,セッション運動が投稿された時刻は14時~15時が最も多く,深夜以外の時間帯では平均100回程度のセッション運動投稿が行われていた.
セッション運動終了時に学生から自己申告による運動強度については,平均11.0(中央値:11,標準偏差:3.4)であった.図6に各運動強度のセッション運動投稿回答数を示す.軽い運動から激しい運動まで様々な運動強度を伴うセッション運動が学生によってなされた.
セッション運動終了後に撮影される2つの画像(背面カメラで撮影された投稿時の状況を表す画像とフロントカメラで撮影された撮影者の自撮り画像)の共有について,1930個のセッション運動の投稿のうち,1928個のセッション運動投稿に背面カメラで撮影したセッション運動状況を表す画像が付与されていた.一方で,フロントカメラで撮影された自撮り画像に関しては,195個のセッション運動投稿に付与されていた.これは投稿総数の10.1%であり,投稿した学生は52人(一度でも投稿を行った学生の8.0%)であった.
次にクラスメートのセッション運動の投稿に対するコメントについて,実施期間中に合計で2826件のコメントがなされ,そのうち学生のコメント数は2702件であった.実施期間中にコメントしたことがある利用者は79人であり,そのうち57人が学生(全体の学生の7.6%)であった.履修学生が投稿した合計1930件のセッション運動投稿数に対して,コメントがついたセッション運動投稿数は205件であった.投稿単体への最大コメント数は223件であった.ある1つのクラスでのコメント数が合計クラスのコメント数のうち92.1%を占めていた.
SFC GOではスマートフォンセンサをバックグラウンドで起動することで日常生活中の運動量の計測を行った.実施期間中すべてのデバイスから収集されたセンサデータは歩数情報が2.4 GB,行動認識情報が6.0 GBであった.
日常生活センシングの結果の1つとして,実施期間中の学生の歩数について述べる.SFC GOはiOSとAndroidをサポートしているが,OSの違いによって歩数検知アルゴリズムが異なるため,本研究ではiOS端末から収集した歩数データのみを分析対象とした.747ユーザの内,Android端末利用ユーザと設定不良により歩数データが収集できなかったiOS端末を除いた446名を歩数データの分析に利用する.また,歩数データは1分ごとに収集されており,一人あたり1日1440レコード収集されるのが理想であるが,アプリのアンインストールや強制終了,スマートフォンの電池切れなどの理由により,理想どおりのデータ量を計測できない可能性がある.本稿では,筆者らが以前行った歩数データ分析[15]時に利用した手法を参考にし,1日1440レコード記録されている日付を有効データとし,有効データが7日以上計測された305名(男性:175名・女性:130名)を分析対象のユーザとした.
利用期間全体を通してユーザ平均歩数は3522.5歩(中央値:2201歩,標準偏差:4031.7)であった.男性の平均歩数は3650.6歩(中央値:2439歩,標準偏差:3963.5)と,女性は3348.2歩(中央値:1829歩,標準偏差:4116.8歩)であり,男性のほうが302.4歩多かった.Welchのt検定の結果,二群間に有意差(p < 0.01)が認められた.
図7に週ごとの歩数を示す.緊急事態宣言中の1週目(平均歩数:3217.79,中央値:2151,標準偏差:3460.13)と緊急事態宣言解除後の10週目(平均歩数:4843.76,中央値:3903,標準偏差:4901.07)を比較すると,平均歩数が約1600歩増加している.また.図7に曜日ごとに各ユーザの歩数をまとめると,平日(平均3294.0歩)よりも週末(平均5136.0歩)のほうが平均1842歩多くなっていることが確認できた.
実施期間中に学生が獲得した合計ポイントは427550ポイントであり,最大52050ポイントを獲得した学生がいた.平均獲得ポイントは578.8で中央値は300であった.100ポイント獲得した学生は99人,150ポイント獲得した学生は1人,200ポイント獲得した学生は247人,250ポイント獲得した学生は5人,300ポイント獲得した学生は166人であった.
セッション運動時間について,学生間に違いがみられたためコサイン距離を用いた群平均法を使用して階層的クラスタリングを実施した.得られた樹状図を図9に示す.その結果,2つのクラスタを得られた.それぞれのクラスタに属する各学生の統計量については表3に示す.
クラスタ間の平均運動時間をt検定を行った結果,有意な差が得られた(p < 0.001).平均運動時間が長いクラスタを多運動クラスタ,短いクラスタを小運動クラスタと呼ぶ.多運動クラスタに所属する学生よりも小運動クラスタに所属する学生の人数のほうが多かった.小運動クラスタでは多運動クラスタと比較すると男性比率が高い.大学運動部活動に所属している学生比率は小運動クラスタのほうが高かった.
実施期間中に出題された課題に対する学生の平均投稿回数についてもクラスタ間でt検定を行った結果,有意な差が得られた(p < 0.001).同様に学生に対して実施期間中に出題された課題数についても有意な差が得られた(p < 0.001).
日常生活の運動として記録された歩数についてもクラスタ間でt検定を行った結果,有意な差がみられた(p < 0.001).多運動クラスタに属す学生のほうが記録された歩数が多い結果となった.
次に学生間の日常生活中の歩数についても6.4節と同様の手法で階層的クラスタリングを行った.得られた樹状図を図10に示す.その結果,2つのクラスタを得られた.それぞれのクラスタに属する各学生の統計量については表4に示す.
平均歩数の多いクラスタを多歩行クラスタとし,平均歩数の少ないクラスタを小歩行クラスタとする.クラスタ間の平均歩数時間をt検定を行った結果,有意な差が得られた(p < 0.001).小歩行クラスタの人数は多歩行クラスタの人数より少ないことが分かった.
平均運動時間については,小歩行クラスタが多歩行クラスタと比較して短いことが分かった.クラスタ間の記録された平均セッション運動についてもt検定を行い有意差を得た(p < 0.001).平均投稿数では,クラスタ間でt検定を行ったところp=0.13として有意差が得られなかった.また,平均出題課題数でのt検定ではp=0.001で有意差を得られ,小歩行クラスタよりも多歩行クラスタのほうが課題が多く出題されたことが分かった.
実施期間中,各クラスを担当する教員それぞれが独自に考えた多様な課題が合計で99回出題された.課題内容により学生の運動時間は違い,最も平均運動時間が多かった課題内容は「自由課題:自分で何か思いついて身体を動かしてみましょう」であり,次に多かったのは「プラス10で自粛生活から脱却しよう!普段の生活よりも10分多く運動機会や身体活動量を増やそう」であった.一方で,「ボクシングパンチを左右15回する」という課題が最も平均運動時間が少なく,「腕の曲げ伸ばしを30秒する」が次に平均運動時間が少なかった.なお,本節では最低4人以上の学生が提出した課題62件を扱うこととする.
課題内容について具体的な数字を提示し,運動の指示をしているかどうかに注目する.たとえば,「腹筋を20回やってみよう」や「散歩を10分しよう」などがこれに含まれ,「簡単な運動をしよう」や「体操を踊ってみよう」などがこれに含まれない.具体的な運動の指示をしている課題が14件あり,そうでない課題が48件であった.
課題ごとの運動時間の平均変動係数は運動の指示をしている課題は1.07であり,そうでない課題は1.48であった.この変動係数に対してt検定を行ったところ有意な差が得られた(p < 0.001).従って,本実施では学生は運動の指示をしている課題のほうが運動時間のばらつきが少ないことが分かった.
また,課題に対するクラス内の平均投稿数は具体的な運動の指示がある場合は33.3件でそうでない場合は24.7件であり,この2つの値についてt検定を行ったところ有意な差がみられた(p < 0.001).これより,具体的な運動指示がある課題のほうが学生の投稿数が多いことが分かった.
次に,課題内容が外に出なければいけない運動かどうかに注目する.外出を伴う運動を指示した課題は6件あり,そうでない課題は56件あった.
指示した課題の運動時間に対する平均変動係数は1.52であり,そうでない課題では1.38であった.この2つの値についてt検定を行ったところ有意な差がみられた(p < 0.001).外出を伴う課題のほうが学生間の運動時間のばらつきが大きかった.
また,課題に対するクラス内の平均投稿数は外出を伴う課題の場合23.7件であり,そうでない課題では29.7件であり,同様にt検定を行ったところ有意な差がみられた(p < 0.001).外での運動を求める課題への投稿数が少ないことが分かった.
本章では,本実施から得られた経験とそこから導かれる知見について述べる.
本実施ではSFC GOをスマートフォンのアプリケーションとして配布した.履修する学生のほとんどがスマートフォンを所持しているという前提のもと,学生自身のスマートフォンにアプリケーションのインストールを依頼した.本実施では学生からスマートフォンの貸出の要望はなく,履修学生839名のうち816名が実際にインストールを行えた.
iOSではTest Flight経由でのインストール,AndroidでのAPKファイルを直接のインストールを行った.これらのインストール手法は従来のApp StoreやGoogle Playに公開する必要がなく,短期間での導入を可能にした.Flutterフレームワークを利用することで,iOSとAndroidどちらのOSのスマートフォンにも対応できた.また,バックエンドプラットフォームとしてのAWSの利用やインフラ制御ソフトウェアであるTerraformの利用によって,1ヶ月弱でのアプリケーション実装やインフラ構築を行えた.本実施のような自作アプリケーションの実装と活用および学生自身のスマートフォンにインストールする手法はオンライン体育授業に柔軟に対応する1つの手段であるという知見を得られた.
また,SFC GOによるスマートフォンのバッテリー消費への影響を調査した.スマートフォンの使用頻度・時間,バックグラウンドで稼働しているアプリケーションの種類・数などスマートフォンの使用法は利用者ごとに違い,スマートフォン使用記録をすべて収集することはプライバシー保護やOSによる制限により難しい.そこで,今回の調査では全利用者を対象にした事後調査アンケートのQ1とQ2の質問によって,バッテリー消費に対する利用者の主観的な変化を調査した.表2で示したとおり,Q1でのSFC GOアプリ利用中のバッテリー消費の回答において,「ややそう思う」や「強くそう思う」と回答した人は少なかった.Q2での日常利用中のバッテリー消費の変化については,「ややそう思う」や「強くそう思う」と回答した人は,「どちらでもない」に比べて少なかった.また,SFC GOによる定常的なセンシングに対しプライバシー面の影響についても同様にアンケートのQ3によって回答を求めた結果,回答した半分以上の学生が「全くそう思わない」と回答した.本実施では,定常的にバックグラウンドで収集されるセンサは歩数データと行動識別の2種類のみで最小限に抑えてあり,スマートフォンが充電されておりWi-Fiに接続されている場合にのみサーバにアップロードする仕様になっている.このため利用者には追加的なバッテリー消費が大きな問題とはならなかった可能性がある.一方バッテリー消費が明らかに増加したと考える利用者もいたことから,さらに低消費電力化する手法を検討する必要がある.
本実施では,情報系研究室に所属する学生によって構成されるサポートが平日毎日開かれた.実施期間中,24件の相談がなされた.本章では,その相談事例を紹介し,本実施での解決手段を紹介する.
センサデータを収集する際に不具合が生じる複数の学生が報告され,調査を進めると特定のAndroid端末でのみ生じる事象であることが分かった.OSのバージョンが同一であっても端末の機種が異なる場合,異なる挙動をすることがあり,調査や不具合の再現が困難であった.調査後,原因となる箇所を修正し,Android端末のみアップデートを行った.また,気圧センサを搭載していないAndroid端末も存在し,それに起因する不具合対応のためのアップデートも実施した.このような機種ごとの差異は,所有機種のみを使用するユーザ自身が意識することは困難である.開発者側からも,本実施のように対象者が限定されている場合には,機種ごとの差異が具現化することの可能性を過小評価しがちである.従って今後は,実利用期間前にユーザ自身による検証期間を設けるなど,不具合を事前に明らかにする取り組みを全体で実施することを検討する.
アプリケーションの操作性が悪いと相談されたケースでは,学生が実施中に行ったアプリケーションのアップデートをせずに使用していることが原因と判明した.その後,アップデートを促すことで解決した.
学生自身のスマートフォンにペアレンタルコントールや「あんしんフィルター」の設定がなされてるケースなどの相談事例もあり,本実施に同意後に解除の依頼をした.
また,SFC GOに許可するパーミッションを拒否していたため,エラーがでていた相談事例も存在した.これも同様に本実施に対して理解を得た後,パーミッションの許可を促し,解決した.学生に説明する際に使用したマニュアルでは,パーミッションの許可の方法を説明していたが,OSのバージョンによって許可の手順や方法が異なるため,このような事例が発生しまった.
学生が運動したタイミングについて,図4を見ると体育授業が最も多かった曜日である木曜日が最も多くセッション運動が投稿されていた.一方で,週末に関しても170件を超えるセッション運動が投稿されており,本実施によって体育授業時間外である学生の運動を記録することができた.図5では,同様に体育授業の最も多かった時間帯である15時が最も多く投稿されていた.その一方で,深夜24時以降の運動も観測された.深夜の運動は睡眠の時間を妨げることや運動効率も悪いという研究報告[16]もあり,本実施によって深夜の運動を確認できたことは重要であり,今後の体育授業において学生個人の適切な運動時間をフィードバックするなどの活用方法も考えられる.
背面カメラでの撮影が添付された投稿は全体の99%以上であり,学生のそれぞれの生活・運動環境や運動を実施した状況についての視覚的な情報が学生間で授業時間外においても共有された.一方で,フロントカメラで撮影された自撮り画像に関しては,全体の10.1%に付与されていた.クラス内での自撮り写真の交換は心理的ハードルがあるためか背面カメラでの撮影と比較すると少なかったが,本実施ではオフラインで会ったことがないクラスメートの自撮り写真が複数枚クラス内で共有された.
また,日常運動については,実施期間を通して学生の平均歩数は,3522.5歩であり,男性の平均歩数は3650.6歩,女性は3348.2歩であった.厚生労働省の調査[17]によると,20~29歳の1日の平均歩数は,男性7904歩・女性6711歩と報告されている.また,国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針を定める「健康日本21(第二次)」[18]では,男性は9000歩・女性は8500歩を目標に定めている.本実施によって測定された学生の歩数は上記目標の半分以下にすぎず,体育授業等を通じて大きな改善を要することが明らかとなった.
本実施では学生間の歩数によるクラスタリングを行った結果,少人数の小歩行クラスタの存在を確認した.上記のような学生全体を対象に歩数向上を狙うことはもちろん重要であるが,特に歩数が低い個々の学生に対して対策をすることも重要である.本実施では,小歩行クラスタに属する学生は他の学生と比較して課題を出される回数が少なかった.これらの学生に対しては積極的に課題を出題し運動機会の創出を図ることで歩数の向上が見込まれると考えられる.
そして,課題に対する記録された運動時間の長さによっても,クラスタが存在することが分かった.少運動クラスタの学生は,所属するクラスに出題された課題数は多い一方で課題に対して投稿する回数が少ないことが分かる.各クラスの学生のクラスタ比率を図11に示す.クラスによって多運動クラスタと少運動クラスタの割合が異なることが分かる.体育教員が出題する課題内容や授業中の指導の仕方などのクラスの違いが,クラス内の運動時間の長さに対して影響を与えていることが考えられる.運動時間の短い群に対して運動時間の拡大に焦点を当てる場合,運動時間の長い学生を多く含むクラスとそうでないクラスとの間で,本システムを含めた体育授業運営に関する技術や経験を共有するなどの工夫が必要であると言える.
また課題内容に着目した際に,具体的な運動指示を伴う課題のほうが学生からの課題への投稿数が多いことが分かった.具体的な数字が提示された運動指示の課題のほうが,学生にとってするべき運動が明確であり取り掛かりやすかったことが示唆された.
本実施における反省の1つとして,学生のシステム利用機会の少なさが挙げられる.6.3章で述べた学生の獲得したポイントを見ると,100名近くの学生が初回のログイン時獲得した100ポイントのみの保有で運動を投稿することなく実施期間を終えたことが分かる.学生の投稿回数も平均2.6回に留まっている.クラスメートへのコメントに関しても,学生57人のみの利用となっていた.また,実施後のアンケートQ4の「他人の投稿にコメントをしたくなりましたか?」では,回答した学生の約半数が「全くそう思わない」と回答した.そこで,本章ではこれを受けた今後の展望について述べる.
まず,オンライン体育授業におけるSA/TAの協力体制についてである.今回の実施では一部の学生しかクラスメートの投稿に対してコメントしなかった反省から,SA/TAと連携し意識的に,投稿した学生に対してコメントすることを依頼することで学生によるコメント機能使用へのハードルを下げ,よりシステムの利用機会が増える可能性がある.また,SA/TAが課題の見本となるセッション運動の投稿をすることによって,履修する学生にとっての投稿するモチベーションの向上も見込まれるのではないかと考えられる.
次に,ポイント機能の強化・活用方法についての検討である.現在のシステム仕様では,初回ログイン時,投稿時,コメントしたときにポイントが入る.日ごとのログイン時や目標歩数を達成したときなど,学生がポイントを獲得できる機会を増やすことでシステムの利用機会を増やせる可能性が考えられる.また,Q6の「SFC GOを使ってみて,今後改善が必要だなと感じた点について教えてください」という質問では,SFC GOを使用する利点やインセンティブが見当たらないなどの意見が複数寄せられていた.本実施では,SFC GOを通じた体育授業への成績評価は行われないことが学生に伝えられていたためであると考えられる.SFC GOを頻繁に使用することでよりポイントを蓄積できた学生ほど,より良い成績を付与していいかは非常に慎重な議論が必要であるが,ポイントの獲得によって授業で表彰されるなどの学生の使用するモチベーションの向上を促す体制を築くことはポイント機能の今後の有効的な活用方法だと考えられる.
また,SFC GOによる運動体験の提供やコミュニケーション誘発への有効性の評価についても今後の課題の1つである.本実施によって,学生の授業時間外の運動やクラス内での運動記録の共有が行われたことは確認できたが,SFC GOによる有効性は十分に評価できていない.これらの有効性を示すためには,他の手法との比較実験が必要である.たとえば,SFC GOを導入せずZoomなどの遠隔コミュニケーションツールのみを用いて行ったオンライン体育授業で得られる結果との比較やクラス内での運動記録の共有機能を停止し,体育教員から出された課題に対して運動記録を提出するシステムとの比較などが挙げられる.このような有効性を示すためのSFC GOの継続的な運用と他手法との比較実験が今後の展望の1つである.
COVID-19状況下によってオンラインでの開催となった体育の授業において,独自のスマートフォンアプリケーションであるSFC GOを1ヶ月弱で構想・開発を行った.SFC GOはスマートフォンセンサによってユーザの運動情報を記録・振り返りをすることが可能である.また,クラスメート同士での交流機会の増加を目的にソーシャルネットワーク機能を実装した.実際に体育1を受講する839人の学生に対して,オンライン体育授業での利用を実施した.
816人の学生に自身が持つスマートフォンにSFC GOをインストールに成功し,体育教員から出題される課題に対する授業時間外の運動を記録することができた.バックグラウンドでセンサを稼働させることによって,日常生活中の運動の記録も行うことで実施期間中の学生の歩数が低いことを明らかにした.また,本実施で構成したサポート体制に寄せられた相談内容とそれに対する解決手法を述べ,導かれる知見について述べた.
本稿では,今回の大規模な実施経験から獲得した様々な経験や反省を議論することにより,今後のオンライン体育授業に寄与し得る有用な知見が得られた.一方で,私たちはこの特殊な状況と依然と向き合わなければならず,リモート授業や在宅ワークが私たちの日常生活に浸透していくと考えられる.そのなかで,本稿で実施した大規模な試みから得られた知見は,大学の体育授業サポートシステムに限らない様々な場面で活用できると考える.
佐々木,大越,中澤,西山は論文執筆,SFC GO構想,開発統括および実験実施の取りまとめを行った.羽柴,山田,柿野,野田,中はSFC GO開発に携わった.森,水鳥,塩田,永野,東海林,加藤はSFC GOの構想および体育授業を行った.
謝辞 本研究は,JST,CREST,JPMJCR19A4の支援を受けたものである.
2016年慶應義塾大学環境情報学部卒業.2018年同大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了.現在,同大学大学院同研究科後期博士課程在学中.主に,モバイルコンピューティングシステム,ユビキタスコンピューティング,ヒューマンコンピュータインタラクションなどの研究に従事.ACM会員.
2012年慶應義塾大学環境情報学部卒業.2014年同大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了.2017年同大学大学院同研究科後期博士課程修了.博士(政策・メディア).2018年オウル大学ユビキタスコンピューティング研究所ポスドク研究員.2019年より東京大学生産技術研究所助教.主にユビキタスコンピューティング,モバイル・ウェアラブルセンシング,ヒューマン・コンピュータ・インタラクションに関する研究に従事.情報処理学会,IEEE,ACM各会員.
2020年慶應義塾大学環境情報学部卒業.現在,同大学大学院政策・メディア研究科修士課程在学中.主に,モバイルコンピューティングシステム,ユビキタスコンピューティングシステム,ヒューマンコンピュータインタラクションなどの研究に従事.
2020年慶應義塾大学環境情報学部卒業.現在,同大学大学院政策・メディア研究科修士課程在学中.主に深層学習,情報検索,クロスモーダル学習等の研究に従事.
2020年慶應義塾大学環境情報学部卒業.現在,同大学大学院政策・メディア研究科修士課程在学中.主に深層学習,ユビキタスコンピューティング等の研究に従事.
2021年慶應義塾大学環境情報学部卒業.現在,同大学大学院政策・メディア研究科修士課程在学中.主にウェルビーイングコンピューティングに関する研究に従事.
2021年慶應義塾大学総合政策学部卒業.現在,ベンチャーキャピタルファンドにてテクノロジーセクターのスタートアップ投資に従事.
1998年慶應義塾大学環境情報学部卒業.2000年同大学大学院政策・メディア研究科修士.2006年カーネギーメロン大学計算機科学部計算機科学科修士(M.S. in Computer Science).企業勤務を経て,2012年シンガポール経営大学情報システム学部研究員,2015年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士.現在,慶應義塾大学環境情報学部准教授.モバイルコンピューティングシステム,ユビキタスコンピューティングシステム,分散システム,ヒューマン・コンピュータ・インタラクションに関する研究に従事.情報処理学会,電子情報通信学会,日本ソフトウェア科学会,IEEE,ACM各会員.
1998年慶應義塾大学総合政策学部卒業.2001年同大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了.2001年同大学大学院同研究科博士課程修了.慶應義塾大学環境情報学部教授.博士(政策・メディア).ミドルウェア,システムソフトウェア,ユビキタスコンピューティング,センサネットワーク等の研究に従事.情報処理学会,電子情報通信学会,ACM,IEEE各会員.
2014年慶應義塾大学環境情報学部卒業.2016年同大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了.2019年同大学大学院同研究科後期博士課程修了.博士(政策・メディア).2014年子どもメンタルクリニック芝医療技術員.2016年日本学術振興会特別研究員DC1.2019年慶應義塾大学環境情報学部専任講師.現在に至る.知覚心理学,数理心理学,臨床心理学,身体教育学に関する研究に従事.日本心理学会,日本基礎心理学会,日本視覚学会,日本乳幼児医学・心理学会,日本自閉症スペクトラム学会,日本体育・スポーツ・健康学会,日本スポーツ心理学会会員.
2003年日本体育大学体育学部卒業.2016年同大学大学院体育科学研究科博士後期課程満期退学.2014年から2020年まで慶應義塾大学総合政策学部専任講師.現在,(公財)日本オリンピック委員会理事,専任コーチングディレクター,(公財)日本体操協会常務理事.アスリートとして2004年アテネ五輪体操男子団体総合金メダル獲得.指導者として2016年リオ五輪,2021年東京五輪体操男子日本代表監督を務める.
2003年東京都立保健科学大学保健科学部理学療法学科卒業後,2003年下井病院リハビリテーション科勤務,2005年東京都立保健科学大学保健科学研究科修士課程修了,2007年了徳寺大学健康科学部理学療法学科助手・助教,2009年首都大学東京大学院保健科学研究科博士課程修了(保健科学),2011年早稲田大学スポーツ科学学術院講師,2015年一般社団法人こみゅスポ研究所所長,早稲田大学重点領域研究機構招聘研究員,2019年グロービス経営大学院経営研究科経営専攻(経営学修士),2020年慶應義塾大学総合政策学部准教授.応用健康科学,リハビリテーション科学の研究に従事.日本理学療法士協会会員,一般社団法人 日本スポーツ理学療法学会評議員,日本体育・スポーツ・健康学会,日本保健科学学会.
2001年慶應義塾大学環境情報学部卒業.2003年同大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了.2006年同大学大学院同研究科後期博士課程修了.博士(学術).2005年慶應義塾大学総合政策学部専任講師.現在,横浜商科大学商学部経営情報学科准教授(スポーツマネジメントコース).慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任准教授.主にスポーツ科学(スポーツ心理学)と人間工学を専門分野とし,スポーツ選手のパフォーマンスの可視化に取り組む.日本体育・スポーツ・健康学会,日本フットボール学会.
2014年2月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了.博士(政策・メディア).1991年瓊浦高校(長崎市)に赴任し,男子ハンドボール部顧問としてインターハイ優勝などの成績を収めた.男子を率いての女性指導者全国大会優勝は初.研究テーマはスポーツコーチング.コーチングの複雑な心理的葛藤をゲーム理論を援用し定式化した.現在はアスリートの効果的なエンパワーメントとライフスキルの関連について研究に従事.著書に『コーチングのジレンマ』・『スポーツコミュニケーション』ブックハウスエイチディ.2015年より公益財団法人日本ハンドボール協会理事・監事など歴任(2021年まで).
1997年慶應義塾大学環境情報学部卒業.1998–1999年MLB Chicago Cubs Baseball Club所属選手.2003年同大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了.2003年同大学総合政策学部専任講師(有期).現在,慶應義塾大学環境情報学部教授兼大学院政策・メディア研究科委員.スポーツにおける知覚運動スキルを中心に,眼球運動,身体運動,熟達化,eスポーツ等の研究に従事.日本人間工学会,日本スポーツ心理学会,国際スポーツ心理学会(ISSP),体育学会,自動車技術会等の会員.慶應義塾体育会副理事.三田倶楽部(野球部OB会)理事.
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