会誌「情報処理」Vol.62 No.2 (Feb. 2021)「デジタルプラクティスコーナー」

「変革の先にあるコンタクトセンター」特集号について 

河合 洋1

1(株)つなぐ研究所 

本特集の経緯

今回でコンタクトセンタ特集号は4回目となる.1回目の2011年7月号では,テーマとして「進化を続けるコンタクトセンタ」,2回目の2014年1月号では「経営に貢献するコンタクトセンタ」をテーマとして取り上げた.3回目の2017年4月では人工知能など高度テクノロジー活用の幕開け期の時期にサービスの価値を高めること「価値を創造するコンタクトセンタ」をテーマとして取り上げている.

コンタクトセンタを取り巻く環境の変化として,人工知能などの高度テクノロジーを活用することで,これまでできなかったことが実現できる事例が増え,ITを活用する人材の要件と組織の在り方が変化している.変革が進むコンタクトセンタ業界において,その先を見据えて「変革の先にあるコンタクトセンター」をテーマとして取り上げた.

どのような分野でITを活用できるのか,またITを活用する働き方で,どのような人材を育成するか,時代に適した組織の在り方について先行しているプラクティスを論文として取り上げた.

人工知能や高度テクノロジーの活用により新しい価値の創造

コンタクトセンタは,電話による通信手段の進歩により発展してきた職種である.電話による通信手段からメール,Webというディジタルメディア,モバイル端末を使った接点に展開し,オムニチャネル化が進んでいる.コンタクトセンタにおいてどのようにITを活用し,お客様の声を活用して業務効率化,組織運営,経営貢献するか,どのように価値を発揮するか重要である.

松丸氏(住信SBIネット銀行(株))の招待論文「CX創造を牽引するVOC分析機構 〜お客さまの望むチャネル応対による最適な顧客体験の提供〜」では,音声自動テキスト化を活用し,お客様のつまずきを可視化,経営への提示,全社を上げてサービス改善の仕組みづくりについて論述している.NPS調査データお客様の声から感動体験を分析し,批判者が推奨者に変わるロイヤルティ形成要員の分析・特定の取り組みは興味深い.ITを活用したVOC活用,経営貢献の在り方について示唆の富んだ論考である.

田口氏((株) 東京海上日動コミュニケーションズ)の招待論文「新しいナレッジマネジメントの方法論・KCSの導入と成果について」では,ナレッジを軸にワークフローの見直し,導入のプロセス,FAQコンテンツの整理方法,ワークフローの役割定義と導入成果について論述している.ナレッジ導入を検討する企業,ナレッジ再構築を検討する企業にとって,ナレッジ運用の設計方法は有用な論考である.

顧客との関係性を改善し,顧客ロイヤルティの向上

ディジタル化が進む中,顧客との接点のつくり方,タッチボイントにおける「エフォートレス体験」が顧客満足を高めていく.

大貫氏の招待論文「コンタクトセンタにおけるCXマネジメントの実践―CXの理解とディジタル化の両立―」では,CX(顧客体験)価値を高めるためのCXの可視化・評価,指標の構造化,NPS分析の方法,コンタクトセンタの機能・目的整理の全体設計および宅配事業における事例を紹介した論述である.顧客接点の問題把握ができるコンタクトセンタ部署がオムニチャネル運用設計や顧客エンゲージメントの司令塔になるための示唆に富んだ論考である.

ディジタル化が進み,自動化,お客様自身によるセルフサポート,エフォートレス体験が進むとコンタクトセンタにおける人ならではの価値が重要になる.

宮脇氏の「顧客との関係の質を高めることがコールセンタの価値となる―経営貢献するコールセンタの実証実験―」では,コンタクトセンタのオペレーターができる「関係の質」をあげるための接触方法とメディア×コンテンツの組合せについて仮説設計,実証実験を行った論述である.成熟した市場における顧客との関係維持を検討している企業において有益な論考である.顧客との対話の量を増やすと関係の質が高まるという論述は,宮脇氏が前回のディジタルプラクティス「価値を想像するコンタクトセンタ」に寄稿した「コンタクトセンタのパラダイムシフト―品質重視への転換―」を参考とされたい.

コンタクトセンタの価値を高める人材育成の仕組み

IT活用し,顧客との関係性を作れるコンタクトセンタを作り上げるための人材を育成する必要がある.顧客接点を持つコンタクトセンタを経営の視点から価値を再確認し活用する発想とビジネスモデルを理解する必要がある.

宮﨑氏(多摩大学大学院 経営情報研究科)の招待論文「コンンタクトセンタのMBA講座,経営視点からのコンタクトセンタの活用」では,サービス価値の定義,サービス価値を構成する要素,サービス価値モデルの理解を深め,演習を用いたMBA講座の進め方について論述している.顧客接点を担うコンタクトセンタの価値を再発見したい経営者やコンタクトセンタ現場の人が経営に対する存在価値を発揮するための知見が凝縮されている論考である.

コンタクトセンタでは,顧客接点の問題,サービスの問題と多くの問題が発生するが,問題解決スキルを習得しないままSV(スーパーバイザー)やオペレーターは現場で対応しているため,どのように問題を解決するのがいいか分からず苦労している状況がある.

寺下氏の招待論文「経験学習と問題解決スキル―問題解決養成塾SV研究会から見えてきた習得方法の極意―」では,コンタクトセンタにおいて必須のスキルである問題解決スキルの習得方法を経験学習の考え方をベースに発展させ,「SV研究会」という問題解決養成講座での実践の仕方についての論述である.「SV研究会」での「問題解決力の習得させる4角ステップ」については,前回のディジタルプラクティス「価値を想像するコンタクトセンタ」を参考にされたい.問題解決スキルの習得のさせ方,本人にスキル定着するための仕掛けとして知見に富んだ論考である.

今後の期待

コンタクトセンタは人工知能などの高度テクノロジーの進歩により,なくなっていく職種ではないかと言われている.ITを活用した顧客接点の見直し,ITではできない人ならではの価値について,「変革の先にあるコンタクトセンター」を見つめ直す機会になればと考える.今回,投稿された方による座談会「変革の先にあるコンタクトセンターに向けて」を巻末に掲載したので,合わせて参考とされたい.

本特集のプラクティスを共有することで,経営に貢献し,人材が成長するコンタクトセンタが多く現れ,コンタクトセンタの社会的な位置づけが高くなることを願っている.

最後に価値あるプラクティスを惜しみなくデジタルプラクティスに発表いただいた筆者の方々に敬意を評します.また,慣れない論文を完成させるまで粘り強くお付き合いいただきました編集者の方々,本特集号を出すにあたりご支援をいただきましたコンタクトセンタフォーラムのメンバの方にも感謝いたします.

この特集号を契機として,情報処理学会のコンタクトセンタフォーラムを通じて,さらに皆様と議論を深めコンタクトセンタの発展に寄与していきたいと思います.ぜひ積極的なご参加をお願いいたします.


河合 洋(非会員)kawaihiro55@gmail.com

1987年株式会社リクルートに入社,人事,経理,審査,情報セキュリティ部門を経て2006年よりCS推進室を担当.顧客ロイヤルティとVOC活用のコンサルタントとして2015年株式会社つなぐ研究所を設立し代表取締役.NPO法人顧客ロイヤルティ協会理事.

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