本特集号に投稿された方々にお集まりいただき,「変革の先にあるコンタクトセンター」をテーマに,コンタクトセンター業界の変化の様子,変革への取り組みの活動を通して見えてきたことについて語っていただきました.
河合:デジタルプラクティスのコンタクトセンター特集として,今回は「変革の先にあるコンタクトセンター」をテーマに論文を書いていただきました.背景として,人工知能などのテクノロジーを活用することで今までできなかったことができるようになってきました.田口さんと松丸さんにはテクノロジーを使ってコンタクトセンターの価値を高める活動についての論文をまとめていただき,AIが進んだ後,顧客との関係性はどのように作るのか,顧客ロイヤルティの向上の仕方,人ならでは価値の在り方について,大貫さんと宮脇さんに論文をまとめていただきました.変革の先にあるコンタクトセンターを作り上げていくにはどのような人材を育成するのか,ということについて,宮﨑さん,寺下さんに論文をまとめていただきました.後半には,コロナ禍においてコンタクトセンターでの働き方が変わってきています.コロナ禍におけるコンタクトセンターの働き方についても意見交換をさせてください.
河合:それでは,自己紹介と今回の論文書いて新たな気づき,再確認できた重要なことついてお話しください.
田口:東京海上日動コミュニケーションズの田口です.KCS(KCSはKnowledge Center Serviceの略)というナレッジを中心としたワークフローの導入についてのお話です.現在はコロナウイルスが発生した影響もあり,コンタクトセンターがつながらない状況になっています.その状況の中,FAQやチャットbotなどのセルフサポートツールを拡充しているセンターが多く,これらのディジタルツールを活用してもらうためには,登録されているナレッジの内容が重要となるため,ナレッジについての重要性が増してきています.当社では2年前からKCSの取り組みをして,このタイミングでナレッジについての論文にまとめるのは意味があることだと思いました.今までと違った新しいナレッジの仕組みと取り組みについて理解していただければと思います.
松丸:住信SBIネット銀行(株)の松丸です.「CX創造を牽引するVOC(ボイス・オブ・カスタマー)分析機構」というタイトルで論文を書きました.ロイヤルティ醸成を目的にこれまで自社で取り組んできた内容を論文の前半で紹介し,後半ではこれからのディジタルシフトの世界で顧客体験はどうあるべきなのかをまとめました.コンタクトセンターという軸で話を進めると,どうしてもお客さまの事前期待を満たさないギャップ部分をどう埋めるかというマイナスからの改善取り組みが中心になります.しかしディジタルシフトの世界ではそれだけでは十分でなく,顧客体験として感動とか愛着といった心の部分につながることが大事であるという想いを抱いていますので,その観点から全体を通じて執筆しています.
河合:少しステージが上がってきた感じがしました.今回のテーマの「変革の先にあるコンタクトセンター」について語っていただき,どのような世界が広がるのか議論できればと思います.
大貫:外資系ソフトウェア企業に勤務する大貫です.自分自身のキャリアを振り返る論文になったと思います.コンタクトセンターとマーケティングという,異なる2つの側面からCX構築の要点をまとめることができたので,関係の業界に対して恩返しができたのかなと思いました.そしてコロナなど環境変化によって人の消費行動が変わる現在,DXとマーケティング視点とカスタマーサービスの視点を統合する必要性を改めて確認することができました.
宮脇:情報工房の宮脇です.35年くらいこの業界にいるのですが,コンタクトセンター業界の社会的地位はあまり変わってないなと思っています.多少はよくなってはきているが,経営貢献の本質を理解してもらわないといけない.今やっている関係の質を高めると結果もうまくいく,ということをコンタクトセンターに取り入れたらどういう結果になるかということを実証実験しています.僕たちがやることでブランドが上がる,業界のブランドも上がることをしていかないと10年後の僕らの未来はないと思います.
宮﨑:多摩大学大学院の宮﨑です.MBAの講座をどのような目的でやることにしたのか,中身はどのようなことかを概観し,講座開設の目標に対して実施してみて,その結果どうだったのかを考察した結果をまとめました.10年前に当学会の研究会をスタートした際に,最も関心が高かったのは「経営から見てコンタクトセンターの位置付けが低い」という問題でした. その原因を議論していくと,コンタクトセンターの現場と経営とのギャップが埋まらないこと,さらに経営についてはMBAという教育の仕組みがあるが,コンタクトセンターでは実務的な教育はあるものの,現場と経営をつなげる体系的な教育がないので,MBAにコンタクトセンターの講座を作れないかという意見が多く出たことでした.
寺下:クリエイトキャリアの寺下です.コンタクトセンターには,18年ほど携わっております.コンタクトセンターが経営に貢献するには,SV(スーパーバイザー)が要であり,SVをどのように育成するかが鍵であるように感じています.私が主催する問題解決養成塾である「SV研究会」を通して,SVを地道に育成していくことが大切であると考えています.
河合:ITの進化,新たな価値の創造について取り組まれてきた田口さん,松丸さんに話をお聞きして,意見交換をしていきます.これまでナレッジというとコンタクトセンターのベテラン社員の経験と勘とセンスに頼っていましたが,田口さんの会社ではナレッジをシステム化することでワークフローが変わり,ナレッジを中心にキャリアパスや組織を変えてきました.ナレッジを中心に業務と組織がどのように変わったかということをお話しいただきます.
田口:KCSが日本に入ってきたのは2015年頃です.KCSの話を聞いたところこれはよさそうだと思いました.コンタクトセンター業界で30年間やってきましたが,運用のワークフローは30年間まったく変わっていない.現場では毎年のように生産性向上や業務効率化を年度目標に立てて改善活動をしているが,30年間やっていると,もう大きな生産性向上や業務効率は見込めない.30年にしてKCSは今までとはまったく違う考え方で,成果が出せるのではと考えました.コンタクトセンターで集めたナレッジを資産化して企業にフィードバックしていくことが経営貢献の1つになると思っています.コンタクトセンターのナレッジが人工知能などのデータとして提供できるようになり,また,分析もコンタクトセンターが行うようになってきています.これも1つの経営貢献に当たると思います.今後, ディジタル化が進むとベースになるナレッジの重要性はますます高まることになると思います.タイミングよく早めに始められたのがよかったと思います.
河合:ナレッジの取り組みと経営貢献へのつながりのお話ありがとうございました.論文の中に,ナレッジとCRMのシステム統合の話がありました.どのような内容か教えていただけますか.
田口:コンタクトセンターはお客様がどのような質問をしてきたか,それに答えればいい.ただコンタクトセンターでは寄り添うといいながら,余計なことを話しすることがあります.最近のお客様は迅速性に敏感になっています.かけてきた質問に対してすぐに答えてあげることを,どれだけ短い時間でできるかが勝負だと思っています.いままでためていたログ情報は無駄ではないが,何を質問して,どう答えていくかが重要なことだと考え直しています.システムの統合することで無駄がなくなってきている.なんで一生懸命ログを記録するのかというと,問題を追いかけるということはあるが,オペレータが自分の回答が正しいという言い訳するためにログを残していることがあります.自分の知識で回答したことで間違っているかもしれないという恐怖心から開放されて,余裕ができてお客様の対応に集中できる.担当者が言うには自信がなくて手上げをしていたが,回答が分かっているので自信を持って回答できるようになったということでした.お客様にとって信頼できるオペレータになる,意識変化につながったと思います.
河合:松丸さんの論文でもログの残し方について記載がありました.松丸さんのところではログをタグ付けして,定性的な情報を定量化するツールを運用されました.松丸さんがどのような思いでITを活用したツールを作られたのか,経営貢献ってどういうことなのかをお話をいただきます.
松丸:経営層の関心は,自社に対するお客様の評価だと思います.お客様が何に不満なのか,何につまずいているのか,全体のどこにそれが生じているのかが把握できれば,改善に取り組めます.そこで私はVOC分析を通じて,お客様がつまずいている個所として,商品に問題があるのか,それとも顧客応対に問題があるのか,といった優良な顧客体験を阻害している個所を全体俯瞰できるチャート表示することでアラートを示す仕組みを考案しました.コンタクトセンターに寄せられるVOCをこのように活用することで経営層の関心に応えることこそが経営貢献だと考えます.2017年7月からこの仕組みを運用していますが興味深いことに毎月同じ傾向になることが判明しました.定性データを読んでいるだけでは気付きませんが,定量データにすることで,このような傾向の類似性などが客観的に把握可能となっています.
河合:ありがとうございます.松丸さんの論文を読んで面白いと思ったのは,NPSの変化に着目したこと.批判者が推奨者になったのはなぜか,分析して,お客様が大事にしていることは何か,感情を分析するようにしていることが面白いと思いました.これについてお話いただけますか.
松丸:VOCでは基本的にはネガティブな体験が多い一方,NPSは問合せ顧客ではなく全顧客に対して取っているので,推奨者の意見を聞くことで,こういういい体験があったということが伝わってきます.同じ商品に対する批判者と推奨者との体験ギャップを分析することで評価差の追究をしています.さらに年2回,定期的にNPS調査をしているので,去年まで批判者だった人が今年は推奨者に評価替えした理由も追えるんですよね.その人の性別や年代といった属性情報だけでなく,利用履歴等の状況情報にも着目して調査結果を活用しているのが分析の特徴かもしれないですね.
河合:NPSを活用している企業が多いのですが,批判者が推奨者に変わったポイントを見ていくのはあまりなかったと思います.面白い視点だと思いました.
大貫:松丸さんのお話を聞いて,まさにその通りだなあと感動しました.顧客属性自体は永久に固定されたものではなく,ライフステージの変化にともなって,お客様の属性自体が変わるということがあります.企業側が同じ対応をしていたとしても,お客様のライフスタイルが変わることで,企業の対応に対して「それはないんじゃないの」と思ったり,逆に感動したりすることもあります.それはターゲティングの世界だったりする.単純に分析だけではなく,顧客属性やペルソナへとつなげていくと背景がよく分かると思いました.
田口:当社でやっていることと松丸さんがされていることが非常に近いと思いました.当社のやり方は,顧客からの質問に対し,オペレータがナレッジを検索し,質問に対して回答する.よく使われるナレッジは,お客様の問題を示していることになります.どういう質問が多いか分析するということは,何が起こっているか分析しやすいという状況になっていて,改善することで,問い合わせは減りますし,同時にお客様の不満も減ります.松丸さんがやっている分析に近いと思います.問題があるから電話がかかってくる,その問題が何かをログと言うか,FAQが使われている数で調査をして,改善するやり方なので,根本的にあるのは,お客様の問題を改善することでお客様は電話をかけなくていいようになる.根本的には同じことをやっていると思っています.
河合:つまずき,タグ付け,FAQ,ナレッジというのはコールリーズンをどのように分解するということ同じような話かなと思いました.
河合:ITの活用,コンタクトセンターにおける顧客との関係性の作り方についてお話をいただきます.大貫さんにはDX,顧客との関係性,マーケティングについてまとめていただきました.DXにより顧客との関係性はどのように変わってきているのか,お話しいただきたいと思います.
大貫:「エフォートレスな体験」が潮流にあると考えています.ディジタル化,コロナ,そもそもCX自体がデファクトになってきている中で消費者のニーズがスマホで完結する消費プロセスやディジタル前提でコミュニケーションを取る形になってきています.鍵となるのは「エフォートレス体験」と考えています.共通することで言えばセルフ完結型のユーザエクスペリエンスだと思います.消費者の拘束時間をいかに短くするのか,簡単,便利,使いやすいという3つが企業と消費者のコミュニケーションのあらゆるタッチポイントに求められてくる.コンタクトセンターでも意識しないといけないが,チャットbotやオムニチャネルの台頭を見ると,そもそも電話をかけること自体が,消費者にとってストレスになってきたのではないでしょうか.営業やマーケティングの観点からもお客様に手間をかけさせないというのが大事になる.タッチポイントを構築する上で,ディジタル化はもはや避けて通れない状況です.今後はモバイルアプリといった顧客と企業が直接つながるチャネルを構築し,適切に運用することにIT活用は集約されると思われます.分かりやすい事例として宅急便の集荷プロセスの変化があります.集荷サービスはいろんな人が動いていまので,コミュニケーションの起点,消費者から見ると分岐のポイントがたくさんあります.集荷を受け付けて,配達員を向かわせるためには集荷受付のセンターと営業所が連携されていないといけない.伝票やワークフロー,シフト含めていろんなことを気にしないといけない.みなさんもLINEやWEBから依頼できるサービスを使われていると思います.アプリ上で集荷含めて完結できる仕組みになっています.これを実現しているのがDXというもの.集荷受付のシステムだけでなく,顧客ID,営業所との連携含めてすべてつながっている.こういうことができるようになると顧客自体がオンラインですべて完結して配達員が来てくれる.顧客にとって見ればこれがエフォートレスになっています.それを実現するためには,なぜ顧客IDが必要か,システムとデータと組織の配置の仕方,コンタクトセンターでオムニチャネルにしていくためにどういうステップを踏んでトランスフォーメーションしていくのか検討することが大事,ということをまとめました.
河合:大貫さんから見て,どのような企業でエフォートレス体験が進んでいますか?
大貫:ヤマト運輸も進んでいますが,店舗オフラインとオンラインの融合ということではマクドナルドも進化していると思います.モバイルオーダーアプリは事前に注文して,決済と注文が進み,地図を使って店まで案内され,店では受け取るだけで完結する.POSとも連携されていて非常に洗練されていると思います.
宮脇:「エフォートレス体験」はコンタクトセンターがマネジメントするという考え方ですか?どこが主管部署になるといいとお考えですか?顧客を知るという考え方をしたときにマーケティング屋ができるものではなく,戦略部門でもなく,コンタクトセンターでやるべきだということをおっしゃっていますか?
大貫:そうですね.今回の論文ではCXマネジメントでコンタクトセンターがどういう役割になるのか? ということを結びで入れています.司令塔としてコンタクトセンターが存在すべきだと思っています.顧客ID,ログ含めてタッチポイントのどの接点であっても,ある程度今何が起こっているのか? ということを察知できるのがコンタクトセンターだと考えています.どのように事業部,担当者と連携するかが鍵だと思っています.
宮脇:コンタクトセンターが経営のハブとしての位置づけが素晴らしいですね.
河合:コンタクトセンターがコールログやタッチボイントを知り尽くしていて,社内の関係部署と連携してサービスを改善する主管部署になるのはいいことですね.松丸さんの会社でもコンタクトセンター出身者がWEB関連の部署に異動して活躍するというキャリアパスのお話を聞きました. 顧客との接点について,宮脇さんからお話をいただきます.
宮脇:田口さんや松丸さんのようにITを活用して効率化を図った後に,僕たちの存在意義って何かということを突き詰めてみました.今回の論文は通信販売の1社の実証実験です.私のかかわる複数の通信販売会社では,かつてのような成長率は低下しています.競争の激化やピークアウトしていく世の中を迎えたことで,新規顧客の損益分岐を越える時期は,かつては2年だったものが,今では4年半ほどかかるようになっています.各企業の対策としては必然的に,やめていく人を止めようとCRMでのコミュニケーションを強化していく流れになります.お客様を家族のような存在にする,家族のような存在になってしまえばやめないよね,という発想です.2年前の論文では,できるだけ長く話をするほうが企業の利益に貢献できると3社のケースを書きました.今回は加えて,長く話をした人にその内容をはがきや手紙に書いてその日のうちに出す,次の日に届いて記憶に残る.さらにおまけをいくつか用意しておき,コミュニケーターの内発的動機で送ることを実施しました.今回の論文は,それを徹底的にやってみた1年の実証実験の結果です.計画的個別コミュニケーションの大量生産という言い方をCRMではするのですが,さらに徹底的にパーソナライズしたコミュニケーションを2倍ぐらい増やしました.結果,全体で単価は1.4倍,リピート率は1.2倍増え効率化して空いた時間を深いコミュニケーションに費やす,すると仲のいい楽しい関係で商売ができる人たちが増え,企業の利益に貢献する.その指標の1つのヒントが接触頻度でした.売上で三角形を作ると,上から上得意,得意客と作るのですが,今回は接触頻度で多い,普通,少ないという三角形を作ると,適切なメディアとコンテンツを情報発信した場合,接触頻度が高い人との正の相関がありました.「関係性は,接触頻度に比例して,心理的距離に反比例する」この辺に僕たちの今後の在り方というのがあると思いました.
河合:宮脇さんの話は,IT化が進んで,空いた時間にお客様との関係性を作りに行くというお話でした.コンタクトセンターにいる人たちがどのようなことをしていくのか,人の育成が大事になってきます.人の育成をテーマに,宮﨑さんがMBAコースで経営に貢献できる人材育成を目的に,2年間コンタクトセンターのMBAコースを実施して,分かったこと,現場の受け止め方,コンタクトセンター経験者でない人の捉え方などお話を伺います.
宮﨑:MBAコースを受講して欲しい人は,1つは経営を目指す人の中で顧客接点であるコンタクトセンターに興味がある人,もう1つは現場でコンタクトセンターに従事している人でどうやったらうまくいくか,さらに上を目指そうとしている人です.MBAの講義で一番効果があったのは演習です.演習は1つのセンターを題材にして,現在のセンター価値をモデルとして見える化し,その価値を高めるためにどうモデルを再定義し目標とする価値モデルヘと改革したらいいかを学習した方法論に沿ってグループでディスカッションします.現場を担当していない人からするとコンタクトセンターって何か? なかなか実感として分からない,現場の人と一緒になって議論することで現場のことが分かってきますし,現場をやってきた人からすると現場を知らない人にコンタクトセンターを説明することが難しいということがあるわけです.まず,はじめに,対象企業のビジネスモデルを書きその中でコンタクトセンターがどういう位置付けになっているかから始めると,センターの現場側の人にとっては,センターが経営にとってどんな役割を果たしているか短時間で説明ができ,センターを担当していない人も簡潔な資料で,経営にとって何が嬉しいか,理解できるようになります.このようなコラボレーションにより,現場側と現場でない経営的な見方をしている人とのGAPが埋まるのが分かりました.演習により方法論を実践的に学ぶことで,センターの現場側の人とセンターに直接かかわっていない人の間での交流を通じて,基礎的な理解が深まり,かつセンターの経営活用についての基礎的な能力が養われたように感じております.
宮脇:宮﨑さんのMBA講座のプログラムを見て,自分の部下をMBAコースに行かせることにしました.コンタクトセンターの従業員に対して門戸が開いたという感じがします.コンタクトセンターにいる人が毎週東京の会場までは行けないという物理的な問題や,学びたいのだが自分が受けてもいいのか不安を抱える人がたくさんいます.今回はオンラインで授業が受けられることはいいことだと思います.現場で不足している情報がたくさんあり,MBAコースに行くことで体系的に学ぶことができる.今回思い切って若手も含めて受けてもらうことにしました.経営層でもなく,ミドルマネジメントでもなく,SVクラスから受けたらいいと思います.
宮﨑:現場で対応している人が来ることで,現場の生々しい話が聞けるのではないかと期待していています.お客様から見た価値,経営から見た価値,従業員から見た価値とは何かということや関係がどうかということを,事例を使って学ぶことでじんわり理解できます.
河合:人材育成をテーマに寺下さんが2年前の論文にてSV研究会で何をやっているかをまとめてくれました.今回は,経験学習と言う方法を使ったSV研究会のやり方について論文をまとめてくれました.経験学習とは体験させさて,気づかせて,本人のできないことを気づかせながら成長させていくプロセスを紹介していただきます.
寺下:問題解決について,前職のヤフーのときから興味を持っていました.コンタクトセンターは問題解決を迫られ,スキルが試される部署だと思っています.一方,重要なスキルである割になかなか問題解決スキルが身に付けられないと実感していました.前職で優秀なSVはいるが問題解決ができない人が多くいました.どうやったら問題解決スキルが身に付くのかと考えていました.自分自身が行ってきた現場の立て直しや立ち上げの経験を通してこうやれば問題解決スキルが身につくのではないかと考えて作ったのがSV研究会という問題解決養成塾で,2013年から初めて7年目,今年の7月に第12期,卒業生が221人,ヤフーでは当時SVだった人の7割が課長や部長に昇進しています.その人たちが育っていった理由は何か,今回の論文でまとめました.前回の論文では,SV研究会とはどのような内容で行っているかを書きました.今回はどういう風に学ばせるといいか,どういう風に私がやっているのかということを具体的にまとめました.たとえば,よくあるのがSVはチームで成果を出すことができないという問題.つまりチームとしての問題解決ができないケースがすごく多いのです.そういう人たちに「自分は問題解決力がない」ということを気づかせるワークショップって何かを考えた.SV研究会で取り入れているペーパータワーという紙でタワーを建てさせる演習問題をすると一発でその人の問題解決力が分かってしまう.検証して200回以上やっています.SVだと何センチくらい建てられて,マネージャークラスだと何センチくらい建てられるか数値が出ています.この考え方を現場で実践していただけるとよいと思います.SV研究会では経験学習モデルを適用して,さらに進化させた形で研修をしています.
河合:寺下さんはSV研究会に参加された人たちに問題解決スキルを付けていただいています.コンタクトセンター業界に問題解決スキルを根付かせていくためにはどうしたらいいのでしょうか.
寺下:SV研究会に参加した人が,自分のセンターで根付かせていくしかないと考えています.参加した一人が努力してもなかなか現場に浸透しない.一人だけ受けているとモチベーションは高いのですが,現場で実践しようとしてもまわりがついてこないので難しいようです.参加した人が二人,三人になると,推進力が増して急にセンターが変わる,パワーアップしだすということです.学んできた人が現場で実践していくことが大事だと思います.僕からすると,このSV研究会を地道に続けるしかないと考えています.続けていくことが大事だと思っています.
河合:コロナ禍におけるコンタクトセンターの変化,ニュースタンダードについて意見交換したいと思います.コンタクトセンターにいる人からみて何が変わったか,今までの常識が非常識に変わる世界観ってなにか?
田口:コロナが始まって問題点が見えてきたと思います.センターの中でも,オペレータの出社は半分にするなどの取り組みを行っている場合には,オペレータが出社しないため当然電話がつながりにくくなりますが,コンタクトセンターがつながらないとテレビで宣伝している企業もありました.一方で,100%の出社をしていたセンターもありました.それぞれのセンターにいろいろな考え方や,理由はあると思いますが,サービスレベルを落としても従業員の出社を減らしているセンターと,そうでないセンターでは,従業員をどう扱っているのかが明確になったようにも思います.
宮脇:経営の立場から一番つらかったのは,親や家族から出社しないでと言われている社員がいたことです.エッセンシャルワークの使命感の中で出社する社員に,家族から「まだ仕事に行っているのか,この時期に出社させるなんでどんな会社なのか」と言われ,おばあちゃんから「仕事にいかんといて,私死んじゃう」,親から「そんな会社辞めてまえ」と言われたときの気持ちを思うと,私を含めリーダと業界の力不足を感じました.
宮脇:うちは小規模エージェントという立場であり,残念ながら個人情報の対策など在宅勤務が完璧にできる状態ではありません.その状態で緊急事態宣言が出されたので,何が一番大事なのか,守るのは誰からなのかということを考えました.出社できなくなると利用しているお客様を放置することになる.この大事な判断をクライアントの立場からどのように考えるか問いかけてみました.「緊急事態宣言が出ている時期なので,社員の安全を守りたい.でもお客様を大切にして問合せに答えたい.個人情報の問題がクリアできる状態ではないが在宅勤務についてどう思うか?」半分のクライアントが,「その言葉を待ってました」と緊急事態におけるお客様優先の対応方針に理解を示してくれました.
宮脇:コロナで従業員の出社体制をどうするか,クライアントに相談するとクライアントさんごとの色が見えてきますね.「こんなときだから,在宅してくれて,時間短縮していい」,「こんなときだからこそ,自宅で役立つ商品を提供したい.無理ない程度にぜひ社員に頑張ってもらいたい」と広告出す会社もある.どちらも思いは,損得ではなく,顧客にお役立ち思考です.すごく考えさせられました.
田口:セキュリティの問題を解決する方法の1つの事例として,コンタクトセンターの従業員をすべて正社員化したセンターがあります.正社員ならば,自分の会社の資産である個人情報を漏洩しようとは思わなくなる.非正規の従事者の状態では,在宅ワークの対策をしようとすると,いろんな問題が出てくるのだと思います.
宮脇:そうなんです,まずは,帰属意識や風土を大事にしないと在宅なんてできないと思いました.
河合:寺下さんが研修している立場からコンタクトセンターを見てきて,コロナによって変わってきていることはありますか?
寺下:マネジメントの仕方が変わってきています.リモートになってオペレータとの接し方が今までと同じではうまく行かないようです.リモートワークになってメンタルダウンするスタッフが多くなったように思います.なんでそうなるのか聞いてみるとコミュニケーション量が圧倒的に減ったことでメンタルで休職している人が出ているようです.リモートワークになるとコミュニケーション量を今の2倍以上に増やすことを意識しないとうまくやっていけないと思います.コールセンターのリモート対応は,事前に周到に準備できたところがうまく行っているようです.
宮脇:リモートワークは通勤緩和,通勤時間を短くするなどとてもいいところはあると思います.100%リモートワークになると業務委託と何が違うのかという話になる.情報工房で決めたのは,週に2回くらいはリモートワークでいい,金曜日は全員出社してコミュニケーションを取る,入社して2年間の育成期間はリモートワークなし,一人前になってからリモートワークを使えることにしています.いったんそのようなルールで運用していますが,これがいいかはまだ分からない.1つの弊害は,SVは育成する担当なのでずっと出社しないといけないこと.SVはリモートできないのですか? と相談を受けています.
河合:キャリアの浅い人は横ですぐに聞ける人がいるという環境が大事ですね.リモートワークになってすぐに聞けないことで成長できない.新入社員が出社していないという話を聞くと今の新人は社会人として育っていくのか心配になります.
宮脇:「電話は早く切ることが善」という考え方の人が,以前の論文を読んで,「どうも電話は長くしたほうがいいらしいで」と,考え方が変わったという効果がありました.つまり業界の中で自分がいくら言っても変わらないが,論文になることで信憑性が出て,人を変えるきっかけを作ることができるんだなと思っています.今回の論文がどれだけお役に立てるか分かりませんが,そういう思いの人にいいなお目にとまればうれしいと思います.
河合:「変革の先にあるコンタクトセンター」をテーマに,変革を進めている人たちの論文を読んで変革の先端にいる人たちがどのようなことを考え,悩み,取り組んでいるかを知ることができてよかったです.変革の先に何があるのか,妄想することができました.この論文集が,日々現場の対応に追われているコンタクトセンターの人たちにとって,少し先を見たときの状況が見えるヒントになればいいと思います.
2020年9月9日 オンラインにて
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